最後に残った道しるべ   作:ジジイキャベツ

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【馬鹿だな】と言った場合のルートです


【馬鹿だな】と言った場合のルート
交わした約束


 

「...馬鹿だな、マミさんは」

 

佐倉さんが倒れる私を見下ろして呟いた。

 

「そんな有様で向かったところでどうしようもないだろ。決めたじゃんか、どうしようもなくなった時は隠したりするなって」

 

私の傍に膝を着き、背中にそっと手を添えてくれる。

でももう顔を動かすこともできない。佐倉さんの顔を見ることすら敵わない。

 

「...『もしワルプルギスの夜がやってくる時が来たら、一緒にこの町を守ろう』」

「...!」

 

思わず息を呑む。

覚えている。忘れるはずがない。

かつて、共に戦っていた時、何気なく交わした言葉。

 

「約束しただろ。あんたの護りたいものは、あたしの護りたいものなんだ。だから」

 

佐倉さんは、血に濡れるのも構わず、私の腕を肩に回し立ち上がるのを支えてくれた。

残った瞳を佐倉さんの方へと向ける。

 

「一緒に倒そう、あいつを」

 

笑っていた。力強く、夢見がちだったあの頃と同じ笑顔を向けてくれていた。

だから私も思わず笑った。

 

「ええ。行きましょう佐倉さん」

 

あなたがいてくれるなら、もう何も怖くなんてないから。

 

 

 

 

 

パリン、とビルのガラスが割れ、桃色の光がまどか目掛けて高速で迫る。

私が危ないと声を出す前に、光は彼女の目前にまで迫り―――弾け散った。

 

思わず小さな悲鳴を上げて尻餅を着くまどか。だが、光線が当たった訳ではないらしく、怪我もない。

つまりあの光線は弾かれた。なぜ。

 

ふわり、となにかが私たちの前に降り立った。

 

 

その姿に息を呑む。

長槍を片手に華やかな赤い衣装を身に付けた細身の人型で、頭部は蝋燭に灯された火。

ソレは確かに魔女だった。

 

(なんで...彼女がいま...!)

 

私はこの魔女を知っている。

数こそは多くないが、確かにこの目で見たことがある。

佐倉杏子が遍く全てを呪い生まれた魔女、武旦の魔女。

 

だが、巴マミの証言が正しければ彼女は既に死んでいる。魔女と化した後にここまで生き延びてきたのだろうか?

なんにせよ最悪だ。ただでさえ強力なこの魔女とワルプルギスの夜の出現が重なるなんて。

 

絶望感に苛まれる私とは対照的に、まどかは必死にこちらへ這って来て私と魔女の間に立ち、両腕を広げて私を背に庇った。

やめてまどか。私はもう時を巻き戻せない。せめて、あなたはあなたの護りたいものの為にだけ生命を使えばいい。

 

「わ、わたしが護る...わたしが...!」

 

私の懇願虚しく、まどかは契約のことすら頭の中から吹き飛ぶほどの恐怖に抗いながらも、私を助ける為に立ち続ける。

魔女はそんな彼女の想いなど知らんとばかりに、無情にも槍を振り下ろした。

まどかの背後、私の頭上にまで迫っていた使い魔に向けて。

 

「え...?」

 

 

私は思わず呆けてしまう。

この近距離で、魔女がロクに動けない一般人相手に攻撃を外すとは思えない。

まさかとは思うが、守ったというのか?魔女が、私たちを?

 

驚愕と困惑に囚われる私の頭上から影が覆いかぶさる。

もう一体の武旦の魔女―――彼女の魔法による分身―――が傍らに抱えていたソレを私たちの傍にそっと置いた。

美樹さやかだった。彼女の惨状を見て私たちは絶句する。

全身を傷だらけにして、目は充血し、手足の至る箇所がねじ曲がりへし折れていた。

それでも彼女はまだ生きていた。縋りつき泣きわめいていたまどかも、さやかの呻きと呼吸が聞こえたことで多少落ち着いたようだった。

 

下手人はこの魔女ではないだろう。魔女が犯人ならば、さやかはとうに死んでいなければおかしい。

つまり、魔女はさやかを助けたということになるが、そんなことがありえるのか?

 

だが、もしも、万が一この魔女が私たちを助けてくれたのなら...!

 

そんな不安と期待の混じった私の視線を知ってか知らずか、魔女は私に背を向けワルプルギスの夜へと向き合った。

 

魔女は無言のまま槍を召喚し、未だに笑い声をあげるワルプルギスの夜へと投擲する。

刺さった。だが、奴にはさほど効いていないのか、笑い声が途切れることもない。

間髪入れずに槍が生成され、次々に放たれていく。

刺さったのが20を超えたあたりから、ワルプルギスの夜もまた反撃に移る。

迫りくる槍を炎で一掃し、使い魔たちを魔女へ向けて放ち一斉に攻撃させる。

 

魔女はそれに対し分身で対応するも、使い魔の数は膨大だ。

魔女の槍のみでは掃討できず、数体が槍の乱舞をかいくぐり魔女へと肉薄し魔女の身体を削り取っていく。

ぐらりと魔女の身体が傾き、血のようなどろどろとしたものが溢れだした。

やられてしまう。私が息を呑んだその時だ。

 

パァン、と数度の銃声が響き、使い魔たちが弾け飛ぶ。

 

銃撃だ。私の銃じゃない。この音は―――マスケット銃の音は。

 

「巴、さん」

 

彼女の名を呼ぶも、その姿はどこにも見当たらない。

ただ、幾多ものマスケット銃だけが魔女の周囲に浮かんでいた。

まさか杏子の魔女がこの銃を操っているというのか?なぜ、どうやって?

溢れる疑問は解消されることなく、魔女とマスケット銃は次々に使い魔を消し去っていく。

その光景に、私は彼女たちの―――巴マミと佐倉杏子の背中を見ていた。

 

それはまどかも、辛うじて意識を取り戻していたさやかもそうであったようで。

気が付けば私たちは拳を握りしめていた。まるでヒーローショーに夢中になる子供のように、己の置かれている状況すら忘れて魔女たちを見守っていた。

 

...わかっている。杏子とマミが私たちを守ってくれているのではなく、ただ魔女の習性に従っているだけなのかもしれないことは。

でも、私はいまこの時だけは信じたい。彼女たちが奇跡と魔法を起こしてくれたんだと。

この残酷な現実にも希望を齎してくれたのだと。

 

「アーッハハハハハ!!」

 

迫る数多の槍や銃弾を、ワルプルギスは笑いながら轟炎で迎え撃つ。

焼き尽くされる銃弾や槍にも揺るがず、杏子たちは分身をぶつけて炎を散らし、一際巨大な槍を無防備に空いた口に目掛けて投げつけた。

高速で飛来する槍はワルプルギスの口腔を貫き、その勢いのまま巨体を地面に墜落させる。

杏子たちはワルプルギスが立ち上がる前に上空に飛び上がり、奴の手足へと槍を打ち込み固定し、柄に巻き付けられていたリボンが槍ごと手足を縛り付けることで拘束をより強固なものにした。

 

ぼとぼとと杏子の身体から液体が零れ落ち、身体が崩壊していく。

このままでは彼女の方が持ちそうにない。

だがそれに構うことなく、彼女は巨大な銃を創り出し狙いを定める。

 

―――ティロ・フィナーレ

 

幻聴か妄想か。

確かに私の耳に届いたその声は、彼女の、巴マミのものだった。

この技の名前を聞くのも随分久しぶりに思える。

だって、彼女はこの時間軸において一度も必殺技の名前を叫んでいなかったのだから。

 

そう―――巴さん、貴女はいま、この時が最高に燃えているのね。

 

そう思うと、自然と喉元が熱くなっていた。

本当に出ているかはわからない声を絞り出して、ただ我武者羅に叫んだ。

まどかもさやかも同じ気持ちのようで、女の子らしい可憐さが微塵もないくらいくしゃくしゃになった顔で、共に叫んでいた。

 

「「「いけええええええええ!!マミさん!!杏子(ちゃん)!!」」」

 

私たちの叫びが届いたのかはわからない。

 

けれど、わかるのは大砲が発射されるまでにほんの微かな空白の時間があったこと。

 

放たれた砲弾はワルプルギスの口腔に刺さっていた槍に着弾したこと。

 

そして。

 

視界一帯が真っ白な閃光に包まれる中で聞こえた、かつて彼女たちの編み出した合体技の名前。

 

 

―――ティロ・ランツィア

 

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