最後に残った道しるべ   作:ジジイキャベツ

3 / 30
分岐点

―――――――――――

 

魔法少女として戦い終えたあとの反省会はいつものことだ。ただ、今回ばかりは勝手が違う。

 

「佐倉さん、具合が悪いの?近頃顔色が優れないみたいだけど」

 

今回の主役は魔女との闘いではなく、あたしだった。

 

「そう?平気だよ」

 

「...何かあったんじゃないの?」

 

「...マミさんはさ、魔法少女になったのが原因で仲の良かった人と衝突したことってある?」

 

「...衝突とは違うけど、すれ違いなら多いかも。私たち、戦いの毎日だから遊ぶ時間もないでしょう?魔法少女のことを普通の人に相談できるはずもないし、クラスの子との係りも疎遠になってきていると思う。けど、今の生き方に後悔はないわ。仲間だってできたしね」

 

「...マミさん、前に言ってたよね。『誰かが魔女に憑りつかれて死んでしまったら、きっと悲しむ人がいる』って」

 

「ええ」

 

「でもさ、あたしたちが憑りつかれた人の命を救ったとして、それが必ずしも喜ばれる結果になるとは言えないんじゃないかな」

 

「どういうこと?」

 

「たとえばさ、魔女の呪いでくるった人が、おかしな行動で自殺しようとしているところを、偶然身近な人に見られていたらどうなると思う?たとえ自殺を免れても、身近な人はその人を普通の目で見ることはできるのかな。

もし喜ばれない結果になるんだとしたら、誰にも気づかれずに魔女に殺されて悲しまれるのと、気付かれたことで大切な人に避けられ続けて生き続けるの、どっちがマシなんだろう」

 

「結局みんなが嫌な思いをするのなら、最初からあたしは人助けなんてするべきじゃなかったのかな?」

 

「もしかして、あなた...」

 

「そうじゃないんだ。たとえ話だよ」

 

「ただ、マミさんが誰にも魔法少女のことを話せないように、魔女の存在を知らない人達にこっちの事情を理解させるのは難しいのかなってさ...」

 

「...確かに、私たちのしていることを全て正しいと言い切るのは難しいかもしれないわ。でも、起こり得る結果を否定して、最初から救うべきじゃないという考えには賛成できないわ」

 

「......」

 

「...無理はしないでね。私でよければいつでも相談にのるから」

 

「...うん」

 

マミさんはそれきり、あたしの事情を追求しようとはしなかった。

正直に言えばかなり助かってる。だって、こんなことマミさんに言えるわけが無いし、あたしが言わなければマミさんにも迷惑をかけることもないのだから。

 

回想録②

 

*************************************

 

 

...聞いて、父さん

 

今日もね、あたしは魔女を倒したんだよ。自殺しそうになってた人を一人救ったんだ

 

父さんがなくしたかった世の中の不幸や悲しみの芽を、あたしたち魔法少女は着実に摘んでいるんだ

 

これって、悪いことじゃないよね?

 

...あたしね、父さんの話いまでも好きだよ。だから、みんなが父さんに耳を傾けてくれたとき凄く嬉しかった

 

なによりさ、世の中の不幸に悲しみ続けた父さんの幸せそうな顔が見られたから。あたしは...

 

「全部お前が生み出した幻想じゃないか」

 

 

 

 

 

「私の下を訪れた者たちはみな信仰のためなどではなく、ただ魔女の力に惑わされ惹きつけられただけの哀れな人々だ」

 

「そうして惑わした人々をお前は手にかけるつもりだったのだろう?」

 

違う。

 

「あれは悪魔と交わした契約の生贄だったのだろう?教会の娘があろうことか悪魔に魂を売るなどと...」

 

あたしはそんなものなんかじゃない

 

「お前は最初から、私の話など聞く耳も持たれなくて当然の、誰の救いにもならない世迷言だと...そう思ってたんだろう?」

 

信じてよ父さん。

 

「ああ、全くその通りだ。私に世の中を救う力がないから、悪魔になど付け入る隙を与えてしまったんだ。お前が悪いんじゃない。全て私の責任なんだ...」

 

あたしは、魔女なんかじゃないんだ!

 

「なにが違うと言うんだ?」

 

「お前の力さえあれば、世の中の不幸や苦しみを着実に摘める?そんな当てつけがましい言い訳を聞かせるくらいなら、いっそ無力な父親だと罵ってしまえばいい!」

 

「今のお前がやっていることはなんだ?父親などいなくとも世の中は救えるのだと、信仰を踏みにじり、人を惑わし嘲り笑う悪魔の所業ではないか」

 

 

 

 

「それすらの自覚もなく嬉々として語るお前の姿を...魔女と呼ばずに何と呼ぶんだ」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

母さん...どうしたの、その怪我...

 

「あ、あはは。ちょっとドジしちゃって」

 

「大した傷じゃないから大丈夫よ。だから心配しないで」

 

...父さんなの?

 

「ッ!」

 

あたしのせいだ...

 

「違うわ、杏子」

 

父さんは悪くないんだ、あたしが...

 

「誰も悪くない。父さんも杏子も、みんなのためにってずっと頑張っていただけだもの」

 

「大丈夫よ。今を乗り越えれば、すぐに前みたいに戻れるから」

 

......

 

 

 

―――――――――――――――

 

「お姉ちゃん...今日もいっちゃうの?」

 

モモ。あたしがいない間、父さんと母さんを頼んだよ

 

「...今度はいつ帰ってくるの?」

 

...父さんは、あたしが家にいない時は大人しいんだ。だから

 

「やだよ...どこにもいかないで。わたし、我慢するから。絶対に泣かないから...だから!」

 

...ごめん、モモ

 

 

――――――――――――――――

 

 

「今日はまた随分と戦ったね」

 

...まだだ。こんなものじゃ足りない。

 

「そうは言っても、これ以上の戦いは命に関わることになるよ」

 

それでいいんだ。命がけで戦ってれば、父さんだっていつか信じてくれる。

 

「せめて、マミと一緒に戦えばいいじゃないか」

 

マミさんには迷惑をかけられない。こいつは、あたしの責任なんだ。

 

「なにを怯えているんだい?」

 

うるさい...いまはあんたの顔なんて見たくない!どっかにいけ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしは、臆病者だった。

 

次第に家にいる時間も少なくなり、マミさんと一緒に闘うこともなくなった。

 

壊れてしまった父さんに魔女と罵られるのが怖くて。

 

マミさんや母さんとモモも、今は優しくても、いつかは見捨てるんじゃないかって怯えて。

 

誰とも向き合おうとしなかった。

 

傷つくのが怖くて、ずっと逃げていた。

 

もし、父さんともっと真正面から向き合っていれば。

 

もし、マミさんを本当に信頼できていれば。

 

もし、家族を守ることから目を背けていなければ。

 

きっと、こんなことにはならなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「ただいま...!?」

 

久しぶりに家に帰ってきて気がついたのは、鼻孔をつく匂いだった。

 

その匂いは、普段から戦い続けているあたしにもなじみ深い、血の臭いだ

 

そして、その原因となるものが、床に倒れていた。

 

血だまりに沈んでいるのは、父さんと母さんとモモだった。

 

「なんで...?」

 

わかりたくない。嘘だと思いたい。

 

でも、充満する血の匂いがこれは現実だとあたしに訴えかけている。

 

 

 

 

「なんでなの...マミさん」

 

あたしの家族の赤色の中に、黄色の魔法少女が一人立っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。