「あら、お帰りなさい佐倉さん」
血に塗れた身体のまま。
けれどマミさんの声は、いつも通りだった。
高すぎもせず、低すぎもせず、あたしの名前を呼ぶときの、あの声。
なのに、どこかで噛み合っていない気がした。
録音を少しだけずらして再生したみたいな、そんな違和感。
でもその顔だけは。
本当に普段と変わらない、あたしに向けてくれる笑顔そのもので。
そんな、小学生の頃に書いたような、色合いも背景もチグハグな落書きみたいな絵面から、あたしは目を離すことができなかった。
「ね、ねえ...嘘でしょ?」
そうだ。こんなの、なにかの間違いに決まっている。
まるでマミさんが、みんなを...したなんて。
あたしの口元は、こんな時なのにマミさんに釣られるようにひくひくと釣り上がりかけていた。
「ん?ああ、これね...」
きっと、倒れているみんなの治療をしてくれたから、マミさんは血塗れなんだろう。
もう、父さんってば、どんなおっちょこちょいしたのさ。
包丁で指切った?それとも、転んで頭をぶつけた?
まあ確かに最近は酒呑みだったからそういうこともあるよ。
いい機会だからしばらくお酒は控えなよ?
そんで、ちゃんと母さんとモモに謝っておくこと。特にモモなんて泣いちゃったんじゃないか?お父さんが死んじゃうよーって大袈裟にさ。
いや、謝るのは二人だけじゃない。マミさんにもだ。いくら魔法少女服だからってさ、女の子に血を被せるなんてそりゃないよ。魔法少女の服ってクリーニング代いるのかな?
そう、父さんに言ってやりたかったのに、なぜだか身体が冷え切ったように固まり、言葉が詰まって声が出ない。
代わりに、鼓動の音が中から響いてくる。
バクン、バクン、と嫌なほどに波打ち、固まった身体を微かに揺らし続ける。
「酷いのよ、この人。私たち魔法少女を魔女だって罵るんだもの。あなたなんて、この人のために祈ったようなものなのにね」
ふーっ、とこれ見よがしに溜め息を吐くマミさん。
ああ、そうか。マミさんは父さんを説得してくれたんだ。やっぱりすごいな、マミさんは。
あたしなんて何を言っても信じてもらえなかったのに。ちょっと妬いちゃうくらいだよ。
教会の娘なのにダメだよねこんなんじゃ。マミさんならもっと
「何度説明しても聞いてくれないからね、もう面倒になっちゃって」
そういう時もあるよね。あたしだって、モモがワガママ言って言う事聞かない時は軽いゲンコツくらいはしたもん。
だからさ、謝らなくていいよマミさ
「つい、殺しちゃったの」