「はぁ、はぁ...」
彼の身体に魔力を流す。
既に血は止まっている。傷口も塞がっている。
「お願い...目を覚まして...」
なのに、彼は一向に目を覚まさない。呼吸をしない。
...当然だ。彼は既に死んでいるのだから。
側で倒れているモモちゃんとお母さんを見比べる。
よく見ると、顔や身体の至るところに怪我を負っている。
先のモモちゃんの言葉がよぎる。
きっと、どんな目に遭っても耐えてきたのだろう。
きっと、それでも未来を信じていたのだろう。
「...ごめんなさい」
私に泣く資格などない。
「ごめんなさい...ごめんなさい...」
それでも、謝罪の言葉と零れ落ちてしまう。
どれほどの時が経っただろう。1分か10分か1時間か...
涙は枯れ、頭も冷静さを取り戻していく。
私は、全てを奪ってしまった
謝罪も償いも、なんの意味もない。
ならば、私にできることはひとつだけ。
ガチャリ、と扉が開いた。
「マミ...さん...?」
「お帰りなさい、佐倉さん」
罪は、私が全て引き受ける。
――――――――――――――
佐倉さんから受けた傷を引きずりながら、私は教会からの帰り道を歩く。
「マミ、どうして杏子に真実を話さなかったんだい?」
心底不思議そうに首を傾げるキュゥべえに、私は確かな苛立ちと怒りを覚える。同時に、己に対する嫌悪感も。
「君は自分の身と彼女の妹を守った。ただそれだけじゃないか」
真実はひとつだけでいい。
「...言えるわけ、ないじゃない」
私は、自分の人生を捧げてまで力になろうとした佐倉さんの大切な人を
「彼女のお父さんが、家族を殺そうとしたなんて」
この手で殺したんだ。
――――――――――――――
魔法がうまく使えない。
魔女をリボンで拘束しても、すぐに解かれてしまう。
マスケット銃の威力も、明らかに弱弱しい。
なんとか倒せたものの、これでは次の闘いではどうなるかわからない。
「厄介なことになったね、マミ。魔法の調子が悪いんだろう?」
「...どうして?」
「君の願いは『生きる』ことだったね。おそらく君は潜在意識でその願いを拒絶しつつあるのだろう。魔法少女に与えられる魔法の属性は、叶えた願いの内容に直結しているからね」
「このままでは、いずれ魔法自体が使えなくなってしまう。そうなれば、今後の戦いは相当不利になるだろうね」
「...なによ、それ」
なにをしてるんだろう、私。
お父さんとお母さんを見捨てた癖して、のうのうと生き延びて。
魔女や使い魔を倒すことを使命に置き換えて、生きる言い訳まで作って。
挙句の果てに、大切な人の大好きな人を殺したくせに。
―――自分すら、満足に守れないなんて。
雪が降っている。
もう何度目かの魔女を倒した帰り道。私は、雪の中に埋もれている。
雪は、傷ついた私の身体から容赦なく体温を奪っていく。
眠い。疲れた。休みたい。
もう、何をする気も起きない。
このまま死ぬのなら、悪くないかもね。
そんなことを思いながら、私は眠りについた。
「...見つけたよ」
―――雪が、止んだ気がした。