ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜   作:茶坊主(ぽんぽん)

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スタートライン3

シンボリルドルフ

「榊原トレーナー?

トレセン学園のトレーナーのあなたが何故…

説明してもらおうか。」

 

皇帝の声は静かだが、

その一言だけで場の空気が張り詰める。

 

---

榊原

「説明するほどのことじゃない。」

 

その言い方は、

まるで自分の罪を軽く扱うようで、

しかし同時に、逃げる気配が一切なかった。

 

榊原

「俺はベテランの類に数えられるが、最近は低迷している。

 後輩達の方が輝かしい成績を残していることに焦っていた。

 本来であれば、喜ぶべきことを喜べないようになっていたんだ。」

 

観客席がざわつく。

 

榊原

「冴えない中年で終わりたくなかった。

 ただそれだけだ。」

 

その言葉は、

あまりにも人間的で、

あまりにも弱くて、

そして――

あまりにも正直だった。

 

シンボリルドルフ

「……ただそれだけ。」

 

その声には怒りよりも、

失望よりも、

“理解できない”という戸惑いが混ざっていた。

 

皇帝は、

ウマ娘の未来を背負う者として、

この状況をどう受け止めればいいのか分からない――

そんな表情だった。

 

---

その時だった。

 

観客の一人が叫んだ。

 

「自分のためにウマ娘を悪役に仕立てあげたのかよ!!?」

 

その声が火種となり、

一瞬で炎が広がる。

 

「最低だ!!」

「ふざけんな!!」

「ウマ娘を利用したのか!!」

「責任取れ!!」

「恥を知れ!!」

 

罵声が、

怒号が、

嵐のように榊原へと降り注ぐ。

 

榊原は――

逃げなかった。

 

ただ、

その全てを正面から受け止めていた。

 

(やめろ……やめてくれ……)

 

胸が締めつけられる。

 

榊原さんは悪くない。

俺が望んだんだ。

俺が走りたかったんだ。

俺が逃げたかったんだ。

俺が……俺が全部……

 

でも、

声が出ない。

 

帽子のつばが視界を隠し、

俺はただ震える拳を握りしめることしかできなかった。

 

(俺のせいだ……

 全部……俺のせいだ……)

 

---

 

エルコンドルパサー

「もう十分デース!!」

 

その一喝は、

怒号の嵐を一瞬で吹き飛ばした。

 

会場が凍りつく。

風の音すら止まったような静寂。

 

---

 

エルコンドルパサー

「誰か個人的に、この人達に恨みがある人!!

 手を挙げるデース!!」

 

観客

「……え?」

「どういう……?」

「恨み……?」

 

エルコンドルパサーは胸を張り、

勝者の余裕と怪鳥の威圧を混ぜた声で続ける。

 

エルコンドルパサー

「その人の代わりに、ワタシがここで、

 コイツらをやっつけてやりマース!!!」

 

観客

「ええええええええ!?!?」

 

エル

「いないんデスかー!!!

 いないなら、勝手に罵声を浴びせるのは卑怯デース!!

 ワタシは、そういうの……大嫌いデース!!」

 

---会場の空気が変わる

 

罵声を浴びせていた観客たちが、

一斉に口をつぐむ。

 

「……いや、別に恨みとかは……」

「そういうつもりじゃ……」

「なんか……すみません……?」

 

ざわざわと、

怒りがしぼんでいく。

 

エルコンドルパサーの言葉は、

ただの威嚇ではなかった。

 

“勝者としての矜持”

“走りで戦った者への敬意”

“敗者を守る強さ”

 

その全てが込められていた。

 

--

 

(エルコンドルパサー……)

 

胸が熱くなる。

 

勝った相手が、

俺を守っている。

 

俺のためじゃない。

榊原さんのためでもない。

 

“走った者同士の誇り”

それだけで、

エルコンドルパサーは観客全員を黙らせた。

 

(……強いな)

 

勝った者の強さ。

ヒーローの強さ。

怪鳥の強さ。

 

そして――

俺にはまだ届かない強さ。

 

エルコンドルパサーは、

ほんの指先で俺の背中を押した。

 

強くもなく、弱くもなく。

突き放すようで――

でも、確かに“思いやり”があった。

 

エルコンドルパサー

「……もう行っていいデス。

 ここから先は、ワタシが引き受けマス。」

 

その声は小さかったが、

勝者としての誇りと、

走り合った者への敬意が滲んでいた。

 

俺は、ただ頷くしかなかった。

 

「……榊原さん、行こう。」

 

震える声だった。

でも、その言葉には迷いがなかった。

 

榊原は一瞬だけ驚いたように目を見開き、

すぐにいつもの無愛想な顔に戻る。

 

榊原

「……ああ。」

 

その手は大きくて、

温かくて、

そして――

どこか震えていた。

 

俺はその手をしっかりと握り返す。

 

---

レース場の出口へ向かう。

観客のざわめきが背中に刺さる。

 

でも、

俺は振り返らなかった。

 

振り返ったら、

きっと立ち止まってしまうから。

 

榊原の手を引き、

俺たちはゆっくりと歩き出す。

 

一歩、また一歩。

 

敗者の歩みでも、

逃亡者の歩みでもない。

 

これは――

自分の足で選んだ道を進む者の歩みだった。

 

ゼロ

「榊原さん……負けました。

 俺……全部出し切ったつもりです。」

 

榊原は、しばらく黙っていた。

その沈黙が、逆に優しかった。

 

榊原

「俺もだ。

 しかし負けた。

 結果は結果だ。」

 

その言葉は冷たくも厳しくもなく、

ただ事実を受け止める強さがあった。

 

---

 

ゼロ

「俺たち……どうなるんでしょうね。」

 

榊原

「今は何も考えるな。

 ゼロバンゲートとして走りきった。

 その事を誇りに思えばいい。」

 

その声は、

敗者を慰めるためのものじゃなかった。

 

“走った者”に向けた、

まっすぐな敬意だった。

 

---

 

ゼロ

「でも……でも……俺、悔しくて……

 本当に悔しくて……うぅ……うっ……うっ……」

 

涙が止まらなかった。

勝ちたかった。

逃げ切りたかった。

榊原さんを守りたかった。

全部、全部叶わなかった。

 

その悔しさが、

胸の奥で暴れていた。

 

---

 

榊原

「悔しいか。」

 

その問いは、

まるで“覚悟を問う儀式”のようだった。

 

ゼロ

「……悔しいです……

 悔しくて……どうしようもない……」

 

榊原は、

ゆっくりと俺の肩に手を置いた。

 

榊原

「そう思うなら――

 今ここがお前の“スタート地点”だ。」

 

その言葉は、

敗者に向けた慰めじゃない。

 

“走り続ける者”に向けた、

新しい号砲だった。

 

End




これでゼロの物語は終了です。

最後は直線で切り落としたように、
物語は未完成なまま結末を迎えましたが、
それでいいんです。
覆面が剥がされ、ゼロバンゲートは退治されました。
しかし、覆面の中の少年の物語は続いているんです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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