牢屋敷に来て初めての裁判が終わり、魔女は無事処刑された。
ここに来てからたった数日しか経っていないのに、少女が2人もいなくなった。
時刻は12時半、昼食の時間だ。ペティは元気のない皆に気を遣ったのか、軽めの食事を作ってくれた。
「……」
いつもならペティの料理は本当に美味しくてホッとするのに、今日は、口に入れた瞬間、味がまったくしない。見た目はトーストのようだが、まるで硬いスポンジを噛んでいるようだった。
喉を通るたびに気持ち悪さが広がる。それでも無理やり飲み込んで、なんとか全て胃に押し込む。
私は席を立ち、食堂を出た。
今日はもう、何もする気力が湧かなかった。
***
気付けば、私は監房に戻っていた。普段はこの薄暗い部屋の空気が息苦しくて、すぐに外へ出たくなるのに、今はそれが心地よかった。
誰にも会わずにいられる。誰にも何も聞かれずにいられる。
フラフラとした足取りでベッドに近付き、そのまま倒れ込むように横になった。
『ごめんごめんっ……だって八重沢さんすごい顔に出るんだもん。ジョーカーの位置バレバレだよ』
「っ……」
ふいに、イトとババ抜きをした時の言葉がフラッシュバックする。昨日までは、上のベッドにイトが居たのだ。
そのことを考え出すと、次から次へと思い出が蘇ってくる。
しかし、それもすぐに終わる。イトと出会ってからほんの数日しか経っていないのだから当然だ。
これから、もっとたくさんの思い出を作れたかもしれないのに。
もっと一緒に笑って、もっと話して、もっと……。
だが、その未来はニーナによって奪われた。
処刑の時、ニーナはここに居ない誰かと話していた。死ぬ前に、想い人の幻覚でも見ていたのだろうか。
――彼女の過去に何があったのかは分からないし、知りたくもない。仮に分かったとしても、それで同情して許せるほど、私は人ができていない。
憎い。
私は、ニーナのことを許せそうになかった。
視界がぼやけ、滲んでいく。
涙が、止まらなかった。
いつの間にか、私は医務室の前に立っていた。
「イトさーん、大丈夫ですかー?」
自分の口が、勝手に動く。
「中で……物音がしませんね」
クオレが呟く。
「寝てるとか……?」
もう居ないはずのニーナの声が聞こえる。
「イトさーん、入りますねー?」
私の口がまた勝手に動き、手も勝手にドアノブにかかる。この後起きることは知っていた。
(や、やめて。やめ――)
ゆっくりとノブを回し、扉を押す。
扉の、その先に――
――赤く染まったイトがいた。
「スミレ、さん……助けて……よ」
首から血を流しながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。目線が動き、私を捉える。
「痛い……痛いよ……」
イトは首から血を流しながら、こちらに近付いてくる。
(あ、あぁ……ぁぁあああああ――――!)
「スミレ、さんは……ぼくの友達、なんだよね……? それなら、助けてよ……」
(これは夢これは夢これは夢――――)
「スミレさ――――」
「――――っ!!」
息が詰まるような感覚で目が覚めた。
監房はまだ真っ暗だ。スマホを見ると、時刻は朝4時を指していた。夢だった。布団の中で体を丸め、震えを抑えようとする。
あの後、眠ってしまったのだろうか。随分と長く眠っていたようだが、眠れた感じはまったくしなかった。
夢の中のイトの声が、耳にこびり付いて離れない。
『スミレさんは……ぼくの友達、なんだよね……? それなら、助けてよ……』
実際には、あの時にイトは死んでいて、声なんて出していなかった。
『あの時、医務室を離れず一緒にいたら』とか、『ニーナの殺意に気付けていたら』とか、意味のないことを考えてしまった結果、こういう夢を見たのだろう。
監房の薄い毛布を頭から被り、歯を食いしばる。
涙が頬を伝って、布団を濡らす。もう二度と、イトの声は聞けない。
あと2時間、この狭い部屋で1人で耐えなければならない。壁に背中をつけて、膝を抱える。
冷たいコンクリートの感触が、これが現実であることを突きつけてくる。
息を吸うたびに、喉が焼ける。
「……うぐっ……ひぐっ……」
声にならない嗚咽が漏れる。
看守が巡回してくるかもしれないのに、嗚咽を殺すこともできない。
(もう、誰かがいなくなっちゃうのが怖い……。イトさんがいなくなって、次は誰だろう……? ペティさん? クオレさん? レイさん? それとも……私?)
頭を振って、そんな考えを追い払おうとする。
でも、ダメだ。
一度考え始めたら、もう止まらない。 毛布の中で身体を縮こまらせ、震えながら朝を待つ。
――4時27分。
――4時48分。
――5時31分。
――5時54分。
――6時。
ようやく、起床の時間になった。私は顔を上げ、涙でぐしゃぐしゃになった顔を袖で乱暴に拭う。
(行かなきゃ)
1人で監房に居たら、また夢を見てしまいそうで怖い。震える足で立ち上がり、ドアに向かう。
鍵が外れる音がして、扉が開く。私は食堂に向かって歩き始めた。
***
朝食はほとんど喉を通らなかった。
食べようとしても、何も味がしないのだ。それどころか、あんなに美味しかったものがもはや美味しくないと感じる。
――ピロン
食堂から出て廊下を歩いていると、スマホから通知音が鳴る。スマホを取り出すと、ツカイマからの連絡が来ていた。
『初の裁判おつかれ! 気持ちのいい朝だな(^^)』
「……」
途中まで見たところで、見るのをやめようかと一瞬考えたが、一応最後まで目を通しておくことにした。
『今日はちょっとばかり話があるから、8時にラウンジへ来い。遅れたら懲罰房行きだぜ』
(連絡ってなんだろう)
スマホの時計を見ると、今は6時50分だった。まだ8時までは時間がある。
監房に戻ったら、またイトのことを思い出してしまうかもしれない。
でも、今は誰とも会いたくない。
(……監房に戻ろうかな)
仕方なく、誰とも会わなそうな監房で時間を潰すことにした。
***
「――10、11、12……っと、全員時間通りに集まったみたいだな」
ラウンジに、12人の少女が集まる。明るい表情をしている者は1人もいない。
「……それで、何の用だ」
レイが尋ねる。
「まあまあ、そう慌てるなよ。ちゃんと説明するからさ」
ツカイマはそう言いながら四角い何かを取り出す。カセットテープだろうか。
「オマエらには、今からこのビデオを見てもらう」
「は、はあ……」
レイは困惑した表情で声を漏らす。私を含め、他の少女たちも困惑している様子だ。
「魔女候補の囚人であるオマエらを更生するためのビデオ、その名も【魔女更生ビデオ】だ。
オマエらが見殺しにした囚人がどんなヤツだったのか。それをここで振り返ってもらうってワケ。
まー、内容はビデオを見れば分かるさ。もう嫌ってぐらいにはな」
なんとも曖昧な説明だが、私たちに選択肢は無いのだろう。
ツカイマはビデオデッキにカセットテープをセットし、準備を始めた。
「あーそれと、このビデオを見終わったらそこにある紙とペンを使って感想文を書いて、隣の箱に提出してくれ。適当に書いたらダメだぞ?」
ツカイマが尻尾で示した場所に目を向ける。そこには確かに紙とペンがあった。多分、人数分あると思う。全員書けということだろう。
(何が始まるんだろう……)
「じゃ、さっそく始めるぜ〜」
準備ができたのか、ツカイマがラウンジの明かりを消し、ビデオを再生した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
――――ぼくは、祝福を受けて生まれた。
初めてそれを教えられたのは、10歳の誕生日だった。ぼくの生まれた家系では、右目の色が違う子は幸福の象徴とされているらしく、実際にぼくの右目は両親、それからぼくの左目とも違う色を持っていた。
なんでそれを誕生日に教えられたのかは分からなかったが、今までの生活でもしっかり両親から愛情を注がれていた自覚はあったからか、その時は特に悪い気はしなかった。
でも、その日を境に僕の目に映る景色に変化が起きた。
右目に変なものが映るようになった。
線だ……糸のようにも見える白く細いそれは、最初は目にゴミでも入っているのかにも思えた。
目を洗ってみたり目薬を挿したりしてみたが、それでもそれは消えなかった。
最初は両親だけかと思ったが、学校に行く道中や学校の内外、至るところで至る人の体から出ていて、とてつもなく不気味だったのを覚えている。
見えるだけで触れることもできないそれが怖くて両親に相談したこともあった、でも……
「子供は多感な生き物だからな……そういうこともあるのだろう、怖がる必要は無い」
「そうよ、言いつけを守っていればそんなものも気にならなくなるし、不幸になることも無いわ」
子供の戯《たわむ》れだと思われてしまったのか信じてもらえなかった。
それからは、両親の言いつけもありただ見えるだけだって思い、気にしないように努めた。
それでも、どのような場所でも人と会えば見えてしまうそれから根本的に逃れることはできずにいた。
ある日の学校の帰り道でも、それから目を 逸らすようにして友達との他愛無い会話に相槌を打っていた。
(早く家に着かないかな……)
そんなことを考えていると、前方からやけに急いでいる様子でこちらへ歩いてきていた1人の男性に目が留まった。
――――赤だ。赤色の線が、その人の体から出ていた。
その色が何を意味しているのかは分からなかったが、初めて違う色の線を見てなんだか胸騒ぎがしていた。まるで、今から良くないことが起きるとでも言うように……
「それで〜……ってイトちゃん、話聞いてる?」
「……ぇ、あ……ごめん、なんだったっけ」
「も〜! ちゃんと聞いてよ」
いつの間にか相槌を打つことも忘れてしまっていたらしく、友達に平謝りしながら再び友達の話の輪に入る。
(色が違うからって、別に嫌なことが起きると決まった訳ではないし……)
さっきの感覚も糸も一旦忘れようと、友達の話に耳を傾けようとした矢先に、後方から響くクラクションの音に思わず後ろを振り向いた。
先程赤い糸が体から出ていた男性が尻餅をついており、そしてその前には車が停止していた。
尻餅をついた男性は車の中から文句を言ってきている人に頭を下げつつ立ち上がり、打ちどころが少し悪かったからか腰をさすりながら、また歩き出していた。
その様子を見てようやく理解することができた。
ぼくの右目は、その人の行く先を、その人がどうなるのかをやんわりと教えてくれるものだった。白い線は何も示さず、赤い線は悪い結果を示し、黄色い線は良い結果を示すものだった。
今まで何が起きるのか分からない不気味な線だったそれが、何が起きるのか分かるようになった。それ以上に――
(ぼくだけが、誰かが不幸になることを防げるんだ)
その考えが浮かんでしまって、どうするべきか判断するのは容易だった。
それからというもの、赤い線が見えるたびにその人の行動を変えようと話しかけては、不幸になることを防ごうとした。
話しかけて、それで行動を変えてくれる人もいたが……それはあくまで普段から関わっていた友達や大人ぐらい……特に友達からは『魔法みたいですごい!』とか言われたこともあった。
でも、まったく関わりのなかった人からは一切信じてもらえなかった。それどころか、繰り返しているうちに、ぼくが話しかけた人は不幸になるといううわさが出回るようになった。
友達だった子も、親身になってくれてた大人もぼくを煙たがって、話を聞いてくれなくなってしまった。
(違うのに……ぼくは……正しいことをしているだけなのに……どうして……)
いつの間にか、ぼくは不幸を呼ぶ【魔女】なんだと言われるようになってしまった。
そして、それが両親の耳に入るのも遅くなく……
「っ……! な、なんで……」
「聞いたぞ……街中うわさで持ち切りだそうだ、お前が外に出ると、みんなに迷惑をかけることになる」
ある日、家に帰ったら父から突然ぶたれながらそう言われた。手には拘束具を持っていた。
「……なんで、そんなこと言うの……? ぼくは、みんなを助けたくて……」
「助ける……? 冗談じゃない……町の人にいらないことを吹き込んで、不幸を招いていることがか!?」
「違……ひっ……」
声を震わせながらも、必死に訴えようとするが既に父も取り付く島もないような感じで、ぼくは腕を掴まれて物置へと引きずられていった。
「お前がやることが、みんなを不幸にする! お前は間違っている!」
一言一言、釘を打ちこむような父の言葉が、深く刺さっていく。
信じていた、愛してくれていたはずの人からの言葉に、心が砕けそうになる。
左手に、足に拘束具を付けられ、身動きが取れないようにされてしまう。
父が何をしようとしていたのかは容易に想像がついた。
物置は決して広くはない、生きていくための最低限のものすらない。
(どうしよう……どうしよう、どうしよう……! このままじゃ……)
死、その一文字が脳裏に浮かんだ。
信じたくはなかった、愛してくれていた人がそんなことまでする訳がないと思いたかった。
(嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
どうすれば良いか分からず、もう一方の足にも拘束具を付けようとしている父を見ながらまだ自由の利いた右手を動かそうとしたら、冷たい何かに手が当たった。
何とかしないと……その一心だった。
ガッガッガッガッ――
それを掴み一心不乱に振り上げては振り下ろし、それを繰り返す。
初めの方は何か止めろと言うような声が耳に届いていたが、命の危機を感じていたぼくはそれを気にする余裕はなかった。
グチャッグチャッグチャッグチャッ――
繰り返していると、次第に湿度を持った音に変化していって、耳に届いていた声もいつの間にか止んでいた。
肩で息をしながら、ゆっくりと顔を上げると愛してくれていた人だったものが目の前に転がっていた。
それからの事はあまり覚えてない……と言うよりかは、考えないようにしていた。
未成年だったのもあってぼくは施設に送られた。それも、住んでいたところから可能な限り離れた場所の施設に。
ぼくに嫌な思いをさせないためか、ぼくの存在をもう思い出したくないからなのか、母の真意は分からなかったがほとんど連絡が途絶えてしまった。
ぼくにとって知っている子も罵ってくる大人も居なかったから、その時はもうそれだけで十分だった。
(疲れたな……)
もう、話をして説得することは諦めよう。もし、助けを必要とする人がいたとしても、最低限必要なことをするだけで良い、深入りはしない。それが一番互いのためになる。
(ぼくの話を聞いてくれる人なんて、どこにも……)
「……イトさんが同室で良かったっす」
だから、そう言われた時はなんて返せば良いか分からなかった。
施設で健康診断を受けた後、気付いたらなぜか牢のような場所へ連れてこられていて、そこで出会った八重沢スミレと言う少女。
最初はあまり関わらないようにと思っていたのだが、出会って早々彼女の体から赤い糸が出たのを目の前で見てしまい咄嗟に話しかけてしまい、それから心配で目が離せなくなって……同じ部屋だからと理由をつけて共に行動しているうちに、いつの間にか……
――いつの間にか絆されてしまっていた。
(深入りしないって決めたはずなのにな……)
また裏切られてしまうかもしれないのに、彼女やここに来てから知り合った子たちと一緒にいると、そうじゃないかもと勘違いしてしまいそうになる。
「そんなことないですって! 私、本当に助かってるんすよ!」
手も握られて、彼女の言葉がじわじわと身体の奥まで浸透してくる。
信じても良いかもと思ってしまう。それと同時に懐疑的にもなる。
あの日の光景がフラッシュバックする、ぼくは人⬛︎しで、彼女はそんなぼくにもやさしく接してくれる暖かい子。
ぼくなんかが、こんな子と一緒に居て良いのか……? もし、何かのはずみで彼女にも手をかける事になったら……?
絶対にありえないと言い切りたいのに、脳に染み付いた記憶が思考を揺さぶってくる。
(だから深入りしないって決めたのに……だからもう期待なんてしたくなかったのに……)
そんな思考が揺らぐ中で、決定的な出来事が起きてしまった。
看守への攻撃、それをしようとするレイから飛び出た赤い糸。
それを防ぐために飛び出したことで、最悪は回避できたものの、当然看守を庇ったように見えたため非難を受けてしまった。
(理解してるつもりだったけど、辛いな……)
できるだけ考えたくなかったが、揺らいでいた心の中に僅かにできた黒い淀みがそれを許さなかった。
(結局こうなるのなら……やっぱり……)
「……でも、私は勝手に碧上さんのこと、友達って思ってるんです。
だから、友達を信じるのは当たり前……っていうか……」
頭に雷が落ちてきた、そんな表現が正しいんだと思う。あんなことして、周りから見れば怪しいって思うはずなのに、なのに……
(なんで、こんなにも……)
あまりにもまっすぐで、暖かくて、痛くて、絆されて、苦しくて……
スミレの言葉に嘘偽りなど、これっぽっちも感じなかった。紛れもない本心なんだと理解することができた。
処置が終わってスミレが去った後に天井を見つめながら、ぼんやりと考えていた。
(もう、誰も傷つけさせない、死なせない……例え嫌われてしまったとしても、スミレさんがいるのなら……ぼく、は……)
新たな決意を胸に、沈みかけていた意識にそのまま身を任せた。
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――画面は真っ黒になり、ビデオは終了した。
静寂が落ちる。たった数秒の沈黙なのに、やけに長く感じた。
ビデオの内容が誰の話かなんて、途中からもう分かっていた。
これは、イトの過去だ。私と会う前の、牢屋敷に来る前の記憶。
「…………そん、な」
私は、かろうじて声を出す。自分の声が、思った以上にか細かった。
胸の奥が焼けつくように痛い。呼吸が浅い。世界が遠い。
イトが私たちをいつも助けようとしていたのは知っていた。
(でもイトさんが、こんなにも苦しんでいたなんて)
笑って、私の話を聞いて、気を遣ってくれて……その裏で、あんな過去を背負っていたなんて。
そんなイトが、殺されて良いはずがない。今まで苦しみ続けてきたなら、これからは幸せにならないと釣り合いが取れない。
「……スミレ、これって……」
ペティが声を震わせながら私を見る。目が合った瞬間、彼女は視線を落とした。
「あーいや……悪い……」
「……」
再び訪れた沈黙をツカイマが破る。
「……これが、オマエらが見殺しにしたヤツの正体だ。ま、さっきも言ったとは思うが、感想文を書いたらテーブルの上にでも出しといてくれ」
「見殺しにした? あのピンク頭が勝手に殺しただけですよね。私を含めるのはやめてください」
不満げなルナをツカイマは尻尾で指した。
「オマエもこんな可哀そうなやつをみすみす殺させた1人なんだぞ!」
叫ぶツカイマにテミがおずおずと手を挙げる。
「更生ビデオって言いましたが……一体、何を更生しろと――」
「――あーうるさいうるさい! とにかくオマエらは今すぐ懺悔しろ! いいな!」
ツカイマはまくし立てるように言い残し、ラウンジから出ていった。扉が閉まる音が、やけに大きく響く。
「更生ビデオと言っても……何を書けばいいんでしょうか? 」
「うーん……そもそも、これを見て【更生】って、どう更生すれば良いのでしょうか……」
テミとユリが疑問を述べていた。
「よくわかんないけど、とにかくこのビデオを見た感想を書けば良いんだよね?」
呟いたウメの横には、悔しそうに拳を握っているレイがいた。彼女は深呼吸をして、口を開く。
「……そうだ。とにかく今は、言われた通りに感想文とやらを書くしかない。書かないとまた、看守に何をされるか分からないからな」
その声に促されるように、私は机に置かれた紙とペンを手に取った。紙の白さが、やけに眩しい。
ペン先が震えて、インクがにじむ。
(書かなきゃ……でも……)
胸が締め付けられる。文字を書くたびに、感情が逆流してくるようで、何度も呼吸が乱れた。それでも、どうにか書く。
「……八重沢スミレ、もうやめた方が良い」
書き続けていると、レイが声をかけてきた。顔を上げると、ラウンジにはもうほとんど人がいなかった。
提出を終えた皆は、足早に部屋を出て行ったようだ。
「でも、まだ終わってな――」
「それだけの文量があれば、ツカイマにとやかく言われることはないだろう。それよりも、その……見てられない」
「……迷惑をかけて、ごめんなさい……」
「あ、いや、そういう意味では――」
レイが何かを言っているが、私は感想文を書くのをやめ、提出箱に入れる。
(……戻ろう。監房に)
私は、重い体を引きずるようにして歩き出した。
<スミレの感想文>
気持ちの整理がつかない。どうしてイトさんが死ななくちゃいけなかったのか、本当に分からない。
イトさんは優しくて、私にも、他の子にも気を配っていた。看守を庇った時だって、自分のことなんて考えずレイさんを守ろうとしていた。
周りからどう見られるかなんて分かっているはずなのに、それでも他人を優先してしまう人だった。
そんな優しいイトさんが死んで良いはずがない。
ニーナさんを許せない。でも、ニーナさんはもういない。許したところで、何かが変わる訳でもない。
この気持ちをどこにぶつければ良いのか分からない。
私がもっとイトさんのことを分かっていたら。
ニーナさんに説明できていたら。
誤解を解けていたら。
何か変わっていたのかもしれない。
私はどうすればよかったんだろう。
何もできなかった自分が嫌だ。
こんなことになるくらいなら、いっそ私も
<ユウノの感想文>
関わりは浅かったはずなのに、映像を見てから心に残るものがありました。
彼女が抱えていたものは、自分には想像もできないほど大きく、深いものだったのだと思います。
その苦しみが少しでも癒えて、今は静かに安らげていることを願っています。