『予定時刻となりました。囚人のみなさんは裁判所へお集まりください』
もう3回目になる、無機質な定型文のお知らせ。
きっとこれを見慣れるなんてことは無いだろう。
(もう一度、証拠品を確認しておこう)
《証拠品》
・死体写真(叢雲レイの遺体写真。外傷は見当たらず、その表情は安らかだ。厨房で発見した時、既に冷たくなっていた)
・クリームの付いたフォーク(レイの近くに落ちていたフォーク。先端にはクリームの跡がある)
・ゴミ箱のケーキ(なぜか皿ごと捨てられていたケーキだったもの。潰れて原型は無い。一部が変色している)
・机の深い切り傷(レイの近くの机にあった真新しい傷。包丁で切ったにしては深い)
・レイのスマホ(可愛いケーキの写真が表示されていた。カメラで撮った後、そのままにされていた。昨晩撮られたものだ)
(何度考えても、あの最悪な真相へ向かってしまう……)
「スミレさん。……顔色、かなり悪そうだけれど、大丈夫ですか?」
前を歩いていたアヤフミが、こちらの様子に気づいて心配そうに声をかけてきた。
「え? そんなにヤバそうだったっすか?」
「うん。今にも倒れちゃいそう、見てるこっちが怖くなるくらい」
「そんなに……。でも、大丈夫っす。ありがとうございます」
一方、別の所でも心配の声が上がっていた。聞こえてきたのはシルベの声だ。
「ペティさんが……。ねえ、ツカイマ。裁判の欠席とかできないの?」
ツカイマが『何言ってんだ?コイツ』と言わんばかりの視線を向ける。
「別に休んでも良いが、欠席裁判で問答無用で魔女にされても文句言うなよ?」
「大丈夫だ。欠席なんてしない。この裁判だけは絶対に」
ペティは顔色を悪くしながらも、力強い眼差しで裁判所に入っていった。
「そうだよね……今回の被害者は……」
シルベはそこまで言って首を振る。
「さあ、僕たちも行こう」
シルベに続いて、全員裁判所へと入っていった。
***
全員が決められた席に着いた。
いよいよ3回目の裁判が始まろうとしている。
先程まで顔色が悪かったペティも、いくらか持ち直したようだ。
中央に躍り出たツカイマは周りを見渡して、私たちを嘲笑うように鼻を鳴らした。
「『もう殺人事件なんか起こさせない』とか言ってたヤツは誰だったか。またここに来ちまったみたいだが」
その言葉に、思わずツカイマを睨みつける。
ツカイマはそんな眼差しにもお構いなしに言葉を続けた。
「さて、もう3回目でわざわざ言う必要も無さそうだが、それでも念のため言っておかないとな。オマエらにはこれから1時間の話し合いをして、【誰が魔女か?】を決めてもらう。その後、オマエらの中で処刑する【魔女】を1人選んでもらう。必ず1人を選ぶように」
「一応、聞いて良いかな」
その声に全員の視線がシルベに集まる。
「【魔女が居ない】場合も、誰かを選ばないといけないのかな?」
ツカイマはそれを聞いて小さく鼻を鳴らした。
「魔女図鑑読んでねぇのか? その時は、別ルールが適用されるぜ」
「分かったよ。ありがとう」
(【魔女が居ない】……そういう場合も、あるのかな)
それ以上、声をあげる人は居なかった。
「……言いたいコトは無さそうだな。それじゃ、魔女裁判を開廷する!」
始まりの鐘の音が鳴り響き、緊張が走る。
3回目の裁判。やることは変わらない。
話し合いの中で【魔女】を特定し、真実を明らかにする。
(だけど、本当に【真実を明らかにすること】が最良なのかな……。私は、どうすれば良いんだろう?)
考えもまとまらないまま、魔女裁判の幕が開けた。
-審問開始-
スミレ (……沈黙が重い。誰とも目が合わない)
スミレ (魔女は特定しなくちゃいけない。けど、このままいっそ、始まらなければ……)
スミレ (…………レイさんが居れば、そんなこと……)
シルベ 「……いつもなら、レイさんが進行役になってたけど……。今回は僕がやるよ。流れは見て覚えてるからね」
スミレ (シルベさん……)
シルベ 「今までの流れに
シルベ 「殺害されたのは……叢雲レイさん。現場は厨房の奥の方だったね。そして、死体発見時刻は朝の7時過ぎくらい。第一発見者はアヤフミさん。ここまでは良い?」
アヤフミ「間違いないです。厨房に入って奥の方に行ったら、レイさんが座っているのが見えて……」
ペティ 「……だな。その直後にアヤフミの悲鳴を聞いたアタシとスミレが駆け付けた」
スミレ 「はい。ペティさんと一緒に居たんで発見はほぼ同時、ということになるっす」
ルナ 「そもそも、メシマズさんが第一発見者なのがおかしいと思うんですが。普通なら料理バカが最初になるのでは?」
アヤフミ「メシマズさん……」
ウメ 「…………」
ペティ 「ああいや……寝坊しちゃったんだよ。慌てて監房から出たところでスミレと会って、そのまま一緒に厨房へ向かったんだ」
アヤフミ「私も食堂へ来て、ペティさんの姿が無かったから、もしかしてまだ体調が優れないのかと思いまして。なら朝食は代わりに私が作ろうと厨房に入ったんです」
ルナ 「無いとは思いますが、そこのメシマズさんがその場で殺して悲鳴をあげて、第一発見者を装った……という可能性は?」
シルベ 「そうだね。可能性を潰していく意味でも、一応は聞いておこうとは思う。……どうかな、アヤフミさん」
アヤフミ「そ、そんなこと、できるわけないじゃないですか! 確かに最初に見つけたのは私だけれど、後から入ってきた2人と、1分も差は無かったはずですよ!」
>賛成:【レイの死体】
スミレ 「仮にそうだとしても、レイさんの体に触れた時、とても【冷たかった】っす……。死んだ直後なら、もっと温かいと思うんです」
ルナ 「【死んでから時間が経っている】ということですか」
スミレ 「だから、アヤフミさんがその場で殺したとは考えにくいと思うっす」
シルベ 「ありがとう。さっきも言ったけど可能性を潰していく為の質問なんだ。疑ってるわけじゃない。だから皆も協力して欲しいな」
リチ 「レイちゃんなら昨日の夜に会ってちょっとお話ししたよ~? すぐに帰っちゃったからその後のことは知らないかなぁ……」
ユリ 「そ、それなら犯行時刻は、昨日の夜から今朝にかけて、ということになるんでしょうか……?」
ウメ 「実際は私たちには監房に居なきゃいけない時間があるから、犯行時刻はかなり絞られてくるんじゃないかな」
ルナ 「犯行時刻が昨日の夜以降なら、そこの料理バカは委員長さんのことを見ていないのですか? 同室なら、会っているでしょう」
ペティ 「いやそれがな……。昨日、ケーキの試作をしてたのは知ってるよな? 片付けが終わった後、よっぽど疲れていたのか、そのまま監房に戻ってベッドに飛び込んで寝ちゃったみたいでな……実は、レイの姿は見てねぇのよ」
ウメ 「……桂さんが1人で監房に入っていくところは見た。フラフラしてたから声をかけたけど、返事も曖昧だったかな」
ルナ 「それなら、今朝はどうだったんです? 朝起きたら挨拶くらいするでしょう」
ペティ 「それもそうなんだが、朝起きた時にはもう【ベッドには居なかった】んだ。今までもレイが先に起きて外に運動しに行ってた……なんてことがあったからさ。今日もそうなのかなと思って、特に気にも留めてなかったんだ」
>賛成:レイは既に居なかった
スミレ 「さっきも言ったんですけど、私が部屋を出たところでペティさんに会って、一緒に食堂に向かった……って感じっすね。レイさんには会ってないんです」
ルナ 「はぁ……使えませんね。少しは特定に繋がるかと思ったんですけど……」
ペティ 「時間も大事だけど、死因は分かってんのかよ? アタシは自分の監房しか調べてねえから、その辺りが全く分からねえんだ」
シルベ 「僕とスミレさんで調べた限りだけど、【外傷は全く見当たらなかった】んだ。まるで椅子に座ったまま寝ちゃってそのまま……息を引き取ったみたいに、安らかな表情だったよ」
ルナ 「そんなことは聞いてませんよ? 死因も凶器も分からないんですか?」
アヤフミ「死因が分からないとなると、色々な可能性が考えられますね……」
ウメ 「うん? ……ってことは、殺人じゃない可能性もあるの?」
ユリ 「た、例えば、レイさんは実は病気を患っていて、【心臓麻痺で亡くなった】……とか」
ルナ 「それは根拠の無い妄想ですね。何か証拠があるんですか?」
ユリ 「うぅ……」
シルベ 「証拠になりそうなものといえば……すぐ側に【フォーク】が落ちていて、机の足には【真新しい切れ込み】があったんだ。この辺りが怪しいんじゃないかな」
ルナ 「先にそれを言ってください」
ウメ 「なら、それで刺したとか?」
リチ 「うーん、それは無いと思うけどなぁ~。フォークにはクリームが付いてるし……」
ルナ 「はぁ……そこのおしゃべり妖怪の言う通りですね。まだ血を洗い流した可能性がありますが、クリームが残ってるなら、それも無いでしょう。……と言うか、さっき【外傷は無い】って言ってましたよね? 話を聞けないんですか、デカマフラーさん?」
>賛成:【クリームの付いたフォーク】
スミレ 「そう、外傷は無かったんすよ。だからフォークは凶器じゃない……」
ウメ 「……なら、凶器はどこに行ったの?」
シルベ 「一応聞いておくけど、【消した】わけじゃないよね、テミさん?」
テミ 「えっ……なんでまた……私が……」
ユリ 「わっ⁉︎ て、テミさん、消えないで! 反論してください!」
>偽証:【真新しい切れ込み】→【争った形跡】
スミレ 「……切れ込みは結構大きかったので、誰かと争った形跡とか……なんすかね」
シルベ 「そうかなぁ。レイさんの足元に一箇所だけ、なんて不自然だし……。……そもそも、こんな切れ込みを入れられるものは見つかってないよ」
スミレ 「まあ……そうっすよね……」
リチ 「うーん……もしかしたら死んじゃったの、これのせいなんじゃないかな~? ね、スミレちゃん」
スミレ (……ここで誤魔化すのも変だよね。証拠を出そう)
>提示:【変色したケーキの残骸】
ルナ 「……なんです? このゴミは」
ウメ 「うわ……」
リチ 「ゴミ箱の中にあったらしいんだけど……この変なケーキが気になってたんだよね~」
スミレ (…………)
リチ 「フォークに付いてたクリームも、これかもしれないもんね」
スミレ 「……っ」
スミレ (いや……否定してもしかたない。今は見守ろう……)
シルベ 「そうか、フォークで刺したのはレイさんじゃなくて、ケーキの可能性があったのか」
ウメ 「じゃあ、フォークは普通に使ったってことなんだね」
ペティ 「レイはケーキを食べて死んだ……ってことか」
アヤフミ「そう言えば……探索している時に、スミレさんからケーキの画像を見せてもらったんです」
スミレ 「これっすね」
>提示:【レイのスマホの写真】
アヤフミ「そっちは変色していない綺麗なケーキだけれど……。落としたとか腐ったとかじゃ、こんな色にはなりませんよね」
シルベ 「そう言えば、そんな感じの色、どこかで見た気がするな……」
ペティ 「いや、アタシはこんなの作ってないからな!?」
ウメ 「まだ何も言ってないでしょ……」
ユリ 「こ、こんな色のケーキ……もし食べたなら、ただじゃ済まない……ですよね」
シルベ 「そうかも。……他に死因も思いつかないし、このケーキが死因と仮定して話を進めてみようか」
ルナ 「現状その可能性が一番大きい、というだけですが、まぁ良いでしょう」
ユリ 「そ、その……気になったことを言って良いですか?」
シルベ 「もちろんどうぞ。今はなんでも良いから情報が欲しいんだ」
ユリ 「はい。では……その、レイさんのスマホに入っていたケーキの写真と、ゴミ箱のケーキの写真なんですけど……どちらも知らないケーキなんです」
ウメ 「うん? どういうこと?」
ユリ 「ペティさんがケーキの試食会を、2回ほど開いたと思うんですけど……。1回目はイチゴのショートケーキ、2回目はチョコケーキだったんです」
アヤフミ「そう言えば……確かに、イチゴでもチョコでもないですね。うーん、ブドウですかね? どっちにしても試食会では出ていない新しいケーキ、ということですよね」
ウメ 「ブドウ……? そうは見えないけど、色に引っ張られてない……?」
ユリ 「これにどんな意味があるのかは分からないですけど……」
シルベ 「思い出したけど、何日か前からペティさんにお菓子作りを教えてもらっていたよね。僕も居たし、レイさんも一緒だった」
ペティ 「ああ。簡単なお茶菓子としてクッキーと……ちょっと特別な日みたいな時に作れるケーキのレシピなんかも、あのノートに書いていたな」
アヤフミ「うん。私も一緒に教えてもらいましたね」
シルベ 「だとしたら、このケーキはレイさん自身が用意したもの……と、考えられないかな?」
ペティ 「ちょっと待てよ。確かに厨房は誰でも使えるようにはなっているが、そうなると……」
スミレ 「…………」
スミレ (……いや、まさか)
ルナ 「可能性としては、否定できませんね」
ウメ 「……でも、叢雲さんがケーキを自分で用意したのなら、いつ作ったの? そんな短時間でできるような物じゃないでしょ」
リチ 「元から作ってあって、それを冷蔵庫に入れておいたのかな……?」
ユリ 「あの……それは無いと思います。試食会の後に冷蔵庫を開ける機会があったんですけど、予備のケーキみたいなのは無かったはずです」
ルナ 「見落としてた……なんてオチじゃありませんよね?」
シルベ 「僕も見てるから間違いないよ。僕の記憶は絶対だ」
ルナ 「なら、そもそも写真の綺麗なケーキが、昨日の夜に作られたという証拠はあるんですか? 前に撮った写真が、たまたま表示されていただけかも知れませんよね?」
シルベ 「それも無いよ。レイさんのスマホに写ってた写真は昨日の夜撮られたものだよ」
スミレ 「写真の情報を見ると、そう書いてたんすよ。だから、それは間違いないっす」
ウメ 「……だとしたら、試食会の後から寝る時間までの短い間にケーキを作ったことになるけど」
シルベ 「例え、レイさんにケーキ作りの才能があったとしても、そんな短期間で写真のケーキが作れるとは考えにくい」
シルベ 「でも、1人だけ……そんな神業を可能にできる人が居る」
シルベ 「そうだよね、【桂ペティ】さん……!」
ペティ 「待て待て! アタシはそんなケーキ作った覚えはねぇぞ!」
シルベ 「だけど、実際ケーキは新しく作られているんだよ。それも、普通じゃあり得ないくらい短い時間で。……そんな芸当ができるのは【料理】の魔法を持つペティさん、あなただけなんだ」
>偽証:【ゴミ箱のケーキ】→【放置されたケーキ】
スミレ 「ちょっと待つっす! ユリさんは冷蔵庫の中しか見て無いんすよね? だとしたら外に保管してあったかもしれないじゃないですか!」
リチ 「それって溶けちゃったりしないの~? 冷蔵庫なら魔法がかけてあって、ずっと保存しておけるって聞いたけど……」
スミレ 「うっ……だけど……」
シルベ 「仮にレイさんが外に保管していたとして、そのケーキはいつ作れるのかな? 夕食を作って、試食会をして……レイさんにはとても時間があったとは思えないな」
スミレ 「ぐっ……」
ルナ 「重要なのはやったかどうかではなく、できたかどうかなんです。さっきも言った通り、あのケーキを用意できたのはそこの料理バカ、ただ1人なんですよ」
ペティ 「だが、本当にこんなケーキを作った覚えはねぇんだ」
アヤフミ「だとしたら考えられるのは……。なぜか記憶が無くなってるか、分かりやすいのは……ペティさんが【嘘】を言っているということですよね」
ペティ 「アヤフミまで……アタシを疑うのか……?」
アヤフミ「いや……そんなつもりじゃ……」
シルベ 「……ちょっと良いかな。ようやく思い出したんだ」
スミレ 「な、なんすか?」
シルベ 「あのゴミ箱のケーキの色だよ。どこかで見た気がしたんだけど、やっと分かったんだ」
ルナ 「勿体ぶってないで、早く言ったらどうです?」
シルベ 「そうだね。……話をもう一度振り返るけど、レイさんはケーキを食べて死んだ。そういう話だったよね、テミさん?」
テミ 「えっ⁉︎ あ、はい、そう……です」
シルベ 「ただのケーキを食べても死ぬわけないよね。皆、アレルギーが無いって確認済みだし」
ペティ 「ああ。この屋敷に来てすぐ確認した。料理人として最初に知っておくべき情報だったから……。……おい、シルベ。アンタ、何が言いてぇんだ?」
シルベ 「決まってる。あのケーキには毒が入っていたんだよ」
ペティ 「なっ……」
シルベ 「ペティさんも気付いてたんじゃないかな。あのケーキの色はやっぱり異常だよ。まるで【毒】でも入ってるみたいだ」
スミレ 「そ、そんな! ペティさん! 違いますよね……!」
ペティ 「…………っ」
ルナ 「だんまりですか?」
ペティ 「……アタシの料理人としての経験から言わせれば、あのケーキには毒……もしくはそれに近い物が入っている……と、断言できる」
スミレ 「ペティさん……」
シルベ 「そうだよね。だから……レイさんは【毒入りのケーキ】を食べて死んだ。これが僕が提示する、一番自然で、最もあり得る可能性だよ」
ペティ 「……」
リチ 「私もそう思うな~。あんな気持ち悪い色、普通じゃないもん……」
ユリ 「毒……だとしたらやっぱり【医務室に置いてある薬瓶】のどれか、なのでしょうか」
ウメ 「純霓さんが居れば、何がなくなったかすぐに分かりそうだけど……」
ルナ 「何を言ってるんです? あの奴隷軍人はもう死んだじゃないですか」
スミレ 「……ッ」
ルナ 「なんです……? 本当のことでしょう」
アヤフミ「……実は、たまに医務室の薬の棚は見ていたんです。それで、事件の後にも見に行ったけれど、誰かが棚を開けて取り出したような形跡は無かったんです」
アヤフミ「そもそも、傷薬や風邪薬などはラベルが書いてあるから分かるけれど、毒があったとしても、どれがなんの薬瓶か、素人目には【見分けがつかない】と思います」
ユリ 「た、確かにそうですね。分からないものを触る勇気は、私にはありません……」
ペティ 「だとしたら、その毒はどこにある? 医務室に置いてある物じゃなければ、どこから毒を調達したんだよ」
ユリ 「そ……それについては、私が証言できる……と、思います」
ペティ 「ユリ!?」
シルベ 「……聞かせてくれるかな?」
ユリ 「はい……。数日前、図書室でペティさんを見かけて、珍しいな……と思って話しかけたんです。そしたら『誕生会で作る何か特別な料理のヒントとか無いかなーってね』と言っていました」
ペティ 「……確かに、特別な日に特別な料理を、と思って図書室に行った」
ユリ 「そして、その時にまた【植物図鑑】を借りたいと言われたんです。何日かしたら元の場所に返してあったので、もう使わないのかなと思っていたのですが……」
ペティ 「返したのは昨日だったかな。散歩ついでに図書室へ行って返したな」
ユリ 「そして先程……調査の為にその本を開いたのですが、本には癖がついていて、ペティさんが読んでいたと思われるページがすぐ開きました。その本もここに持って来ています」
ペティ 「…………」
ユリ 「開いたページには、森に生えているキノコの詳細が載っていました。その中には、いくつか【毒キノコの情報】も載っていて……」
シルベ 「もしかしてその中に、見た目がフワフワのパンのような物も無かったかな?」
ユリ 「ちょっと待ってください……。あった……確かに、パンみたいなキノコがありますね」
シルベ 「やっぱりそうか。……この間、クオレさんたちと狩りに出かけた時に僕は見たんだ。食べようとした森に生えていたキノコが、ちょうど【ゴミ箱のケーキ】のように変色していくのをね」
アヤフミ「シルベさん、森のキノコを食べようとしたんですか……?」
シルベ 「うん。美味しそうだなって思って。……もちろん、クオレさんに止められたけどね。あはは」
テミ 「笑いごとじゃありません……」
シルベ 「まあそのおかげで、手に持っていたキノコがどんどんと変色していく様子を見ることができたんだけどね。あれから色々あったから、思い出すのに随分かかっちゃったよ」
ルナ 「つまり、あのゴミケーキと森の毒キノコの特徴が一致している。だからあのケーキには毒キノコと同じ毒が含まれている。……そう言いたいんですね、
シルベ 「……え⁉︎ もしかして僕のこと? まいったな、これでも僕は女の子なんだけど……」
ユリ 「ひ、否定するのは、そこじゃないと思います……」
ウメ 「……桂さんの魔法ならできるんじゃない? 毒キノコから毒の成分を取り出して、違和感なく料理に混ぜる。そんな魔法みたいなことが」
アヤフミ「あ……そう言えば、ここに来たばかりの頃、料理するところを見学させてもらったことがあるのですが、サラダに使う玉ねぎの辛み成分をあっという間に抜くところを見せてもらったんです。【成分の抜き取り】という意味なら、【毒の抽出】もできるのではないでしょうか」
シルベ 「その辛み成分とやらはどこ行っちゃったのかな?」
アヤフミ「さあ……。おそらくは水に流れていってしまったのだと思います。普通のやり方でも、水に漬けてしばらく置いておくものですから」
ペティ 「【毒の抽出】……できるか、できないかで言えば……同じやり方でできる……と思う」
スミレ 「ペティさん……!」
ペティ 「だけど、そんな毒の入った料理を作るなんて、料理人としての
スミレ 「そ、そうですよ! ペティさんが毒入り料理なんて作る訳が……作る訳が無いじゃないですか……!」
ルナ 「いい加減にしてください。本人が『できる』と証言したんです。矜持だかなんだか知りませんけど……。重要なのはやったかどうかではなく、できたかどうか。既にお伝えしているはずですが」
スミレ 「ぐっ……」
シルベ 「凶器は毒入りのケーキ。死因は毒キノコの毒。これが今のところ、一番可能性がありそうだね」
テミ 「あの……ケーキに毒が入っていたとして、レイさんはどうしてそれを食べたのでしょうか……?」
ルナ 「は? そんなの無理やり食べさせたか、騙して食べさせたか。その二択では?」
シルベ 「……無理やりでも、騙してでも、どっちにしても疑問が残るんだ」
ルナ 「はぁ……ちょっと言ってる意味が分かりませんね」
シルベ 「無理やりだとしたら、レイさん相手にそんなことができる人、この中に居るかな?」
ペティ 「いや無理だろ。……クオレくらいじゃないか、そんなことができそうなのは」
ユリ 「私なら、指一本でやられちゃいそうです……」
リチ 「テミちゃんなら姿を消して後ろから……なんて無理だよね~」
テミ 「……え? 無理、無理ですから! 姿は消せても気配までは消せないので気付かれます!」
シルベ 「そして、騙して食べさせた場合、犯人なら証拠隠滅を図るよね。けど、ケーキは雑にゴミ箱に放り込まれて、食べた時に使ったであろうフォークも、その辺に無造作に落ちていただけだった」
ルナ 「証拠隠滅を忘れてたなんてマヌケは、さすがに無いですよね」
ウメ 「あるいは証拠隠滅する時間が無かった、とか」
シルベ 「……一応、その2つの疑問を解決できる答えはある……んだけど。まあ、あり得ないよねと思っていたんだ」
アヤフミ「まだ『あり得ないか』を議論していませんし、話してみてくれませんか? 可能性は潰しておく方が良いんでしょう?」
リチ 「聞かせて欲しいな~……」
シルベ 「……。分かったよ……」
スミレ (無理やり食べさせた訳でもない。騙して食べさせた訳でもない。でも、レイさんはケーキを食べて死んだ)
スミレ (なら、どうやってレイさんにケーキを食べさせたのか。……そんな方法があるのかな)
シルベ 「僕の思いついた答え。それは……レイさん自身が毒を用意して【自殺】した」
ペティ 「な……!」
シルベ 「それなら、争いの形跡が無いのも分かるし、証拠隠滅の必要が無いのも分かる」
スミレ (そうか……! 『食べさせた』とばかり考えていたけど、『自分から食べた』可能性もあるのか……!)
ペティ 「……ふざけんな! それだけは絶対にねぇ!!!」
スミレ 「ペティさん……?」
アヤフミ「ちょっとペティさん落ち着いて。シルベさんだって、その可能性は無いと思っていての発言ですからね」
ペティ 「……悪い……レイが自殺だなんて考えたくもなかったんでな……」
ルナ 「先程の話と組み合わせると、料理バカがキノコから毒を作り、もしくはキノコ本体を委員長が手に入れてケーキに混ぜて食べた。あまりにも滑稽じゃないですか」
ペティ 「ちょっと待て! まだアタシが毒を用意したとは決まってねえだろ」
ルナ 「……そうでしたね。ですが、いくらそれは無いと叫んだところで時間の無駄ですよ。なにせ否定する証拠も無ければ、根拠も無いのですから」
ペティ 「ルナ……オマエ!」
ルナ 「事実でしょう? 可能性を潰すなら、確実にやっていかないと。感情でどうこうできる問題では無いんですよ」
ペティ 「くっ……」
スミレ 「ペティさんには悪いっすけど……【他殺】だけじゃなく【自殺】の可能性もあるとみて議論する方が良さそうっすね」
シルベ 「さて、他にもこんなもの見つけたよとか、確認したいこととかは無いかな?」
テミ 「その……今回は、皆さんの【アリバイ】を確認しないんですか?」
シルベ 「あっ……一番基本的なことを忘れるなんて……」
アヤフミ「それなら、どの時間から確認しましょうか」
ウメ 「やっぱり、叢雲さんを昨日の夜に見たって言ってた、茅島さんの話から聞くのが良さそうかな」
リチ 「うん、分かった……」
リチ 「昨日の夜にペティちゃんのケーキの試食会があったでしょ~? それが終わって部屋に帰る途中でレイちゃんに会ったの……。少しお話して『おやすみー』て言って別れたから、それが9時くらいかな~?」
ペティ 「じゃ次はその試食会についてだな。試食会が終わったのが8時半くらいだったかな。参加してたのはレイ、テミ、ユリ、リチ、アヤフミの5人。……ああ、途中でルナが来て少しつまんですぐ出て行ったくらいか」
アヤフミ「私たちで一緒に監房に帰ろうとしたんだけれど、途中でリチさんがレイさんを見つけて、走って行っちゃったので『おやすみなさい』と声だけかけて後の3人で一緒に帰りました」
ユリ 「3人で戻ってきて、部屋の前でアヤフミさんと別れて、あとは消灯までテミさんと一緒に監房に居ました」
テミ 「はい、その通りです」
ペティ 「少し戻ってアタシだけど、試食会の後に片付けやら翌日……今日のことだな、の準備やらしてて、監房に戻ったのが消灯前だったかな。さっきも話していたがウメに見られてるな」
ウメ 「私は屋敷内を散歩してた。9時前には戻ってきてあとは監房で休んでたかな。消灯前に……その、野暮用で監房から出て……5分くらいだったと思う。私が帰ってきたところにちょうど桂さんも帰ってきて話しかけた。そんなところかな」
シルベ 「僕とスミレさんはずっと娯楽室でおしゃべりしていたね。試食会は前回参加したから、今回は遠慮しておいた。9時半くらいには一緒に監房に帰って、あとはずっとそこに居たかな」
スミレ 「シルベさんの言う通りっす。食堂から娯楽室、監房に戻るまでずっと一緒だったっす」
ルナ 「私も屋敷内を散歩してましたね。幸いなことに、そこのデカマフラーとは1回も鉢合わせませんでした。それから9時前には監房に戻り、暇つぶしをしていました。おしゃべり妖怪もそのくらいに戻ってきて以降、部屋からは出ていませんね」
シルベ 「これで全員かな? 困ったね、全員アリバイがあるみたいだ。それぞれお互いにアリバイを証明できる関係にあるね」
ルナ 「…………いや、1人だけ証明できてない時間帯がある人が居ますね」
スミレ 「えっ?」
リチ 「そんな人いた~?」
ルナ 「1人だけ、殺人を実行できるだけのまとまった空白時間を作れる人がいるんですよ。……あなたです、料理バカさん」
ペティ 「なっ……!」
アヤフミ「ちょっと待ってください。ペティさんはずっと厨房にいましたし、それをウメさんが証明してくれてるでしょう?」
ルナ 「試食会が終わって解散して、片付けをして監房に帰った。そう言ってましたよね?」
ペティ 「あ、ああ……」
ルナ 「そこのデカマフラーが見たのは監房に帰った姿だけです。なので、片付け中の様子を確認してる人がいないんですよ」
ウメ 「……!」
ルナ 「それに、忘れたんですか? 委員長さんは厨房の奥で発見されたんです。料理バカさんにその時その気が無くても、委員長さんが厨房に来て、何らかの理由で突発的に殺してしまったとしたら。そう考えれば、辻褄が合うと思いませんか?」
>反論:犯行時刻
スミレ 「ちょっと待つっす! なんか夜に犯行が行われたことが決まっちゃってるみたいっすけど、朝一に犯行が行われた可能性も……」
ウメ 「……死体発見時に触ったら【冷たかった】とか言ってなかった? そもそも死体ってどれくらいで冷たくなるものなの?」
ルナ 「無知な方のために教えておきますが、概ね1時間に1度程度しか下がりません」
シルベ 「仮に朝に監房の鍵が開いて即座に殺害したとしても、発見まで1時間しか無いね。それなら触っても【冷たい】とは感じないかも」
ウメ 「待って。『遺体が冷たいから時間が経っている。だから朝に犯行は不可能』と言いたいんだよね?」
アヤフミ「ウメさん……どうしたの?」
ウメ 「……【大きな冷蔵庫】。そこに入れれば、犯行時刻を誤認させることもできると思うけど」
テミ 「そうですね……。冷蔵庫ではありませんが、そのようなトリックを使ったミステリー小説を読んだことがあります」
シルベ 「うーん……でもそれはちょっと無理なんじゃないかな。冷蔵庫の中身は【ギッシリ詰まっていた】から、人が入れるような隙間は無いはずだよ」
シルベ 「それに、中身を出してスペースを確保したとしても、殺して冷蔵庫の中身を取り出し、遺体を入れてしばらくしてからまた元に戻す、なんて時間はどうやっても確保できないと思うな」
ウメ 「そう……」
アヤフミ「確かに、今の時点ではペティさんにアリバイが無さそうだけど、今までの裁判でも何かしらの方法で崩れてきました。だから、まだペティさんを犯人扱いするのは早いと思いませんか……?」
ペティ 「アヤフミ……ありがとう」
ルナ 「……確かにそうですね。ですが、現状はアリバイも無い上に毒を用意できた。まだ【自殺】の可能性が消えていないとは言え、容疑者であることに変わりありません」
ペティ 「くっ……」
スミレ 「そ、それなら動機! 動機はあるんですか!? レイさんとペティさんは誰から見ても仲の良い2人でした。そんな2人の間に殺人の動機なんてあるとは思えないっす!」
シルベ 「確かに、2人が殺し合うなんてとても想像がつかないことだと思う。だけど実際に殺人が起きている。2人の間に何かあった可能性があると考えるのは間違いではないと思うな」
ウメ 「例えば……魔女因子による殺人衝動。何かが原因で桂さんが叢雲さんに対して強い殺人衝動を持ったとしても、不思議ではないよ」
アヤフミ「もしかして……ペティさん、あの時すでに殺人衝動に吞まれかけていたんじゃないかな……」
シルベ 「アヤフミさん、何かあったのかな?」
アヤフミ「レイさんと一緒に、ペティさんのお見舞いに行ったことがあったんです」
スミレ 「サンドイッチを持っていった時でしたっけ? レイさんとアヤフミさんで監房に向かったところは見てるっす」
アヤフミ「お見舞いが終わって厨房に戻る途中で、レイさんが何かが割れる音に気付いて監房にまた戻ったんです。私も後を追いかけたら、ペティさんがカップを割っちゃってて……」
ルナ 「それと殺人衝動にどんな関係が?」
アヤフミ「その時ペティさんは『手を滑らせて落としちゃった』みたいなことを言っていたんですが、飛び散り方がちょっと不自然だったと言うか……あまりにも遠くに飛び散りすぎていたんです。レイさんがそれに気付いていたかは分かりませんが」
シルベ 「落としただけではそこまで遠くには飛び散らない。もっと大きな力がかからないと……ってことかな?」
アヤフミ「はい……だからあれは落としたんじゃなく、【床に叩きつけた】のではないかと……」
リチ 「ペティちゃん、大丈夫……?」
ルナ 「はぁ、決まったようなものですね。素直に認めてはいかがです?」
ペティ 「ぐっ…………認めるよ。昨日、確かにアタシはおかしかった。何日か前から、なぜかイライラすることもあった。だけど、衝動が起こったとしても寝て次の日になれば治まっていた。今朝も起きた時には、昨日のイライラが綺麗さっぱり無くなっていた」
スミレ 「ペティさん!」
ペティ 「今もそんな衝動は起きていない。そうだ、だからアタシが殺人衝動に呑まれてレイを殺しただなんてあり得ない!」
ルナ 「……昨日、委員長さんを殺害したことによって、殺人衝動を消化できたのだとしたら?」
ペティ 「…………え……? そんな……? そんなこと…………いや……うそだろ?」
スミレ 「ペ、ペティさんは犯人なんかじゃないっす! 誰だってイライラしたり、急に収まったりすることなんてあるじゃないっすか!」
ルナ 「まーた横のオマケがうるさいですね。自分のことでも無いのに、何を必死になっているのやら……」
アヤフミ「……ペティさんを庇いたい一心で、もう考えが上手くまとまってないのかもしれませんね……」
ルナ 「はぁ……仕方ないですね、徹底的に論破しないといけませんか。まったく、バカの相手は疲れますね」
スミレ 「……っ」
ルナ 「ではもう一度聞きますが、今までは寝てイライラが収まる程度だったのに、今朝起きたときは綺麗さっぱり無くなっていたんですよね? 偶然、委員長が死んだ次の日にそうなったと、そう言うんですか?」
スミレ 「そうっす! 偶然、たまたまそうなった可能性もあります!」
ルナ 「くっだらない。根拠を示してください。【偶然】や【たまたま】で話をされても困ります」
ウメ 「それに普通は、【衝動】が消えたなら、それを【満たした】と考えると思うけど」
ルナ 「たまにはまともなことも言うんですね、デカマフラーさん。そう、実際に委員長さんが【死んでいる】こと、そしてそこの料理バカが【遅刻】するほどぐっすり眠れていたこと、それは【衝動を満たした】と考えるのがもっともらしいと思いますが」
ペティ 「……」
ルナ 「例えば、ケーキを【無理やり食べさせる】でもして殺すとか」
スミレ 「いや、その毒入りケーキを無理やり食べさせるのは無理っすよ! あんな変色してるケーキを見たら、レイさんは食べようとなんてしないはずっす!」
シルベ 「それは違うよ!」
スミレ 「……っ」
シルベ 「変色していたのは今朝僕たちがゴミ箱のケーキを見つけた時だったはずだよ。それに、レイさんのスマホにある食べる前のケーキの写真の色は普通だった。これだったら、食べてしまっても不自然じゃない」
スミレ 「ぐ……! で、でも、そのケーキの写真が今朝私たちが見たケーキじゃなかったって可能性も……」
シルベ 「無いよ、あの写真が撮られたのは昨晩で間違いない。一緒に確認したよね?」
ルナ 「そもそも、あのケーキがゴミ箱に入ってから8時間以上経ってるはずです。それだけ時間が経ってあの色になったと考えるのが自然でしょう。少し考えれば分かることです」
スミレ 「そ、それだって可能性の話で……!」
スミレ (ダメだ。まだ……まだ反論しなきゃ……!)
スミレ 「そんなこと無いんです! ペティさんは犯人なんかじゃない! 絶対に犯人なんかじゃない! これは誰かの陰謀なんだ! ペティさんに罪をなすり付けるための……そうだ! キノコ!」
シルベ 「あのキノコがどうかしたのかい?」
スミレ 「例のキノコの毒が使われたなら、キノコの存在を知っていたシルベさんにも犯行はできましたよね!」
ルナ 「言ってることが支離滅裂になってきてますね」
シルベ 「確かに、あのキノコが生えている場所を知っているのは、この中では僕とペティさんの2人だけだよ。もちろん他の人が偶然発見した可能性もあるけど……これが毒キノコだという情報は2人だけしか知らないはずだ」
ユリ 「私も今さっき知ったばかりですから……」
シルベ 「つまり、ペティさんでないのなら、もう1人のキノコの存在を知る人物、つまり僕が犯人だと告発しているという意味になるけど良いのかな?」
スミレ 「あ……いや……えっと……」
ユリ 「……すみません。このキノコが使われたという前提で話をするのでしたら……やはりペティさんが犯人なのではないかと思います」
ウメ 「どういうこと?」
ユリ 「先程、ペティさんの【魔法】で毒を抽出できる……という話が出たと思います。ですが、シルベさんは当然そのような【魔法】を持っていません……」
シルベ 「……そうだね。僕の魔法は【瞬間記憶】だ」
ユリ 「で、ですから、ペティさんにしかキノコから毒を抽出できないはずです……」
スミレ 「っ……! で、でも、キノコを細かく切って混ぜるとか……!」
テミ 「あ、あの……シルベさんにはアリバイがあります」
シルベ 「僕はスミレさんと応接室で話してたよね。だからそもそも僕にケーキを作る時間は無い。それはスミレさんが一番よく知っているはずだよ」
スミレ 「っ…………」
ペティ 「スミレ……もういい……。記憶には無いが、アタシがレイを殺したんだろう……」
スミレ 「ペティさん……!」
ペティ 「今朝起きた時、妙に晴れ晴れしい気分だった。それがルナの言う通り、レイを殺したことによるものだったとしたら納得がいく。そうじゃなくても、ここまでの証拠や証言なんかがそれを裏付けている」
スミレ 「嫌です! 私は認めません! 絶対に何か見落としていることがあるんです! 真犯人は絶対にどこかに――」
ペティ 「もういいって言ってるだろ!! そこまで言うなら……この中でアタシが犯人ではない証拠、もしくは他に犯人がいる証拠を出せる人は居るか?」
アヤフミ「……無い……ですね」
ペティ 「……もういいんだ……スミレ、庇ってくれてありがとう。だけどこれ以上は……」
スミレ 「…………うぅ…………イヤだぁ……」
ペティ 「料理の腕を、人を傷付ける用途に使っちまった……。もう、料理人としてこれ以上は生きていけない。料理人は廃業なんだよ……アタシは……アタシがレイを……毒を……」
リチ 「ペティちゃん……」
ユリ 「うぅ……」
ペティ 「……ツカイマ、聞こえてるか? 犯人であり、魔女なのはこのアタシだ。だからもう投票を始めてくれ」
ツカイマ「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン ! オレっち、ツカイマ!」
アヤフミ「……」
シルベ 「……」
ツカイマ「……っと。にしたって、随分と潔いな。毎回こんなだと余計な手間がかからなくて助かるんだがな……。それじゃ、早速投票タイムと行こうじゃないか。手元のスマホで――」
シルベ 「――まだだ! まだ投票の時間には早い!」
ペティ 「シルベ……? どういうことだ? 犯人はアタシという話で決着付いたじゃねえか!」
シルベ 「犯人として自白してくれたのはありがたいけど、最後に1つだけ、まだ解明できてない謎が残っている。それ次第ではペティさん、君を助けられるかもしれない」
ツカイマ「ハァ? オマエ何言ってんだ?」
シルベ 「みんな、魔女図鑑のルールに書いてあったことを思い出して欲しい。ペティさんを救うにはこれしかないんだ」
ツカイマ「……ほーん……なるほどねぇ。分かっているだろうが、オレっちを納得させなきゃダメだぜ? ま、せいぜい頑張ってくれや。結論が出たらまた呼んでくれ」
ペティ 「お、おい! ツカイマ!!!」
ルナ 「はぁ……それで、解明できていない謎ってなんですか?」
シルベ 「ああうん。先の議論の中でも出てきたことなんだけど……レイさんは、どうして毒入りケーキを食べたのかな?」
ルナ 「ですから【自殺】の可能性が……って、まさか」
ウメ 「……その話はまだ、決着がついてない」
アヤフミ「【他殺】か、【自殺】か。確かにまだ決まってなかったですけれど……」
スミレ 「そういうことっすか! レイさんが【自殺】だったことを証明できれば、犯人は居ないとしてペティさんは助かるっす!」
シルベ 「【魔女は居なかった】のか確かめるために、もう一度、その話をしようよ!」
ペティ 「…………」
シルベ 「まずはおさらいをしよう。ペティさんが魔法で毒入りケーキを作った。それを結果的にレイさんが食べて死んだ」
スミレ 「結局その後、【どうやって食べたか】がうやむやになって、次の議題に移っちゃったんすよね」
ルナ 「それは分かりましたが、本当に【自殺】と言えるんですか? あの委員長がそこの料理バカのケーキを疑いも無く食べたなら、それは【騙して毒を食べさせた】のと何も変わりませんが」
アヤフミ「騙して……なんて、そんな……」
ユリ 「……そ、それは、【食べさせた】なら、【他殺】……ですよね」
シルベ 「僕はそうは思わない。レイさんを騙すなんて、とてもじゃないけど無理だと思うな」
ウメ 「何が言いたいの?」
シルベ 「僕が言いたいのは、毒入りケーキを作ってしまうほど殺人衝動に呑まれかけているペティさんに、レイさんが気付けない訳が無いんじゃないか。ということなんだ」
テミ 「レイさんは、いつも皆さんのことをよく見ていましたから……」
アヤフミ「そう言えば……ペティさんの異変にも、いち早く気付いていました。コップを割った時も、すぐに気付いていましたし……」
シルベ 「もし殺人衝動に気付いているなら、騙して食べさせたという線も消える。なら残っているのは【毒が入っていることを承知の上で食べた】ということなんだ」
ペティ 「……っ!」
リチ 「え~? そんなことをする必要……あるのかな?」
ウメ 「……桂さんは【殺人衝動】に呑まれるほど、【魔女化】が進んでた」
ウメ 「だから……『桂さんの殺人衝動を、他の誰かに向けてしまう前に叢雲さんが受け止めた』と解釈できる……そういうこと?」
アヤフミ「もしも、レイさんがひとりでそう決めたなら……」
ユリ 「……【自分の意思で死を選んだ】なら……それは【自殺】と、言えるのではないでしょうか……」
ルナ 「ふんっ……それが唐変木さんの主張という訳ですか。……分かりました」
シルベ 「ツカイマ! この理屈なら通るはずだ!」
ツカイマ「ほーん、まあ良いぜ。ただし、忘れちゃいないと思うが、【全会一致】が条件だからな」
ツカイマ「誰にも投票しないで時間切れまで待てば【棄権】したことにする。そして、全員が【棄権】すれば、【魔女は居なかった】と認めてやる」
スミレ 「了解っす」
ツカイマ「それじゃ改めて、投票の時間だ。魔女だと思うヤツに投票しろ。魔女は居ないと思うなら、そのまま待って【棄権】しろ」
―審問中断―