異誕少女ノ魔女裁判   作:異誕少女ノ魔女裁判制作チーム

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※この作品は魔法少女ノ魔女裁判をリスペクトして作られています。
 原作の内容とは一切関係ありません。


1-2「眼帯少女と無表情な奴隷」

 

 その場で動けずしばらく固まっていたが、レイが言葉を発したことで我に返る。

 

「みんな、少し良いか。魔女図鑑を見てみると、12時から15時までは自由時間となっている。15時になったら監房に戻らなければならないらしい」

 

 レイは、スマホの画面を向けてそれを指さした。

 

「そして今はちょうど12時、自由時間だ。既に何人かこの場から去ったようだが、他のみんなも自由に行動してもらって構わない」

 

 そう言われて辺りを見回すと、確かに数人が居なくなっていることに気付いた。

 今ここに残っているのは、私、イト、レイ、ニーナ、アヤフミ、シルベ、クオレ、ペティ、テミ、ユリの10人。

 ウメ、ルナ、ユウノ、リチは既にいなかった。

 

「じゃあアタシは、とりあえず食堂と厨房に行って、どんな食料があるのかチェックしてくるぜ」

 

 ペティがレイにそう宣言した。

 

「分かった。……1人でやるつもりか?」

「ああ、そうだけど……」

「……1人では大変だろうから、私も手伝おう」

「そいつは助かるが……いいのか?」

「ああ。問題ない」

「ありがとな!」

 

 私はどうしようか。自分でもスマホを取り出し、魔女図鑑を開く。

 地図を見てみると、この屋敷はどうやら2階建てで、地下1階もあるらしい。

 今、私たちが居るのは1階のラウンジだ。地下1階には、私たちが先程目覚めた監房がある。

 

「八重沢さん」

 

 地図を見ていると、隣に居たイトが声をかけてきた。彼女もさっきまで魔女図鑑を見ていたようで、手にスマホを持っている。

 

「なんですか?」

「地図を見ると、この屋敷にはいろいろな場所があるみたいで……えっと、だから一緒に探索しない?」

 

 確かに、ここがどんな場所なのか知っておいた方がいいかもしれない。それに、今は1人で行動するのが心細かったため、この申し出はありがたかった。

 

「そう、っすね。確かに、どんな部屋があるのか見ておきたいかも……」

「良かった。じゃあ……まずはもう一度、監房を見ておくのはどうかな」

 

 イトはスマホの地図の監房を指さした。

 それならば、地下から上に向かって探索していくのがいいだろう。

 

「それがいいかも。……あの、レイさん! 私たち、ちょっと探索してくるっす!」

「分かった。もしよければ、後で手に入れた情報を共有してくれると助かる」

「分かりました」

 

 そう言ってラウンジの出口へ向かおうとすると、後ろから声をかけられた。

 

「ワタシも同行してもよろしいでしょうか」

 

 驚き振り返ると、クオレが立っていた。

 改めて近くで見ると背が高い。感情の見えない表情も相まって少し怖い。額に冷や汗がにじんできた。

 

「も、もちろん良いっすけど……。イトさんも良いですかね?」

 

 思わず目を逸らし、イトに話を振る。

 

「ぼくも大丈夫だよ。純霓(しげつ)さん……で合ってるよね? 何か気になる場所とかある?」

「なるべくすべての場所を見ておきたいです。現状をいち早く把握することは戦場の基本ですから」

「せ、戦場ってそんな大袈裟な……」

 

 急に物騒なことを言ってきた。思わずツッコんでしまう。

 

(そういえば奴隷として軍で戦ってたとか言っていたような……)

 

「特に見ておきたい場所といえば……医務室でしょうか。ケガ人が出た際にいち早く動けるようにするべきです」

 

 イトのスマホを覗き込みながら、「ここです」とクオレが指をさした場所は、1階だった。

そこは後で行ってみることにしよう。

 

「うーん、お姉さんは娯楽室に行ってみようかなー。2人も一緒にどう?」

 

 少し遠くからニーナの声が聞こえてきた。どうやら、シルベとアヤフミを誘っているようだ。

 

(娯楽室か……時間があれば行ってみようかな)

 

 その様子を横目に、私、イト、クオレの3人はラウンジを後にした。

 

***

 

「まさに牢屋って感じっすね……」

 

 ラウンジを出た私たちは、予定通り地下の監房へと向かった。

 先程目覚めた時に一度は見ているため、どんな場所か分かってはいた。が、それでもこの不気味さには慣れないだろうという予感がした。

 

「こんなところで寝泊まりするのは、ちょっと居心地が悪そうだね……」

 

 イトは私の言葉に同意を示す。

 改めて見ると、監房はやはり薄暗い。そして壁は硬く、分厚そうだ。

 

「そうでしょうか。寝床はこのくらいであれば十分だと思いますが」

 

 クオレは当たり前のように言った。私がおかしいのだろうか。

 

「え、そ、そうすか……?」

「監房は狭いしベッドも硬いし割と最悪じゃない……?」

 

 イトは私と同じ感覚のようだ。良かった。

 首を傾げるクオレの表情は変わらないが、頭上にハテナが浮かんでいるように見えた。一体、どんな環境で今まで暮らしてきたのだろうか。

 

 そんなことを考えていると、監房の1つから布を擦るような音が聞こえた。その監房に目を向けると、人影のようなものが見える。

 

「あれ、誰か居るみたいっすよ」

「ほんとだ。誰だろう」

 

 気になった私たちは、人影がある監房に向かって歩いていく。

 その監房を覗いてみると、布を被って震えている少女、ユウノが座り込んでいた。

 

「あ、あの……」

 

 とりあえず声をかけてみると、ユウノはびくっと肩を震わせて「あえっ!?」っと声を漏らした。

 逆に私も驚いてしまう。思わず身体を引いてしまった。

 

「あっえ、あっ、えっと、なな何かご用でしょうか……?」

 

(も、ものすごくテンパってる……大丈夫かな……?)

 

「えっと、特に用があるわけじゃないんですけど。監房を見にきたら人影があったので、気になって……」

「そうだ、ぼくたちは今、屋敷を探索してるんだけど、良かったら君もどうかな……?」

 

 ユウノは私とイトを見て逡巡(しゅんじゅん)しているようだったが、私たちの背後を見上げた途端、顔を青くして再び布を被ってしまった。

 

「え、ちょっ――」

「――お、お言葉は嬉しいのですがっ! 私は、大丈夫なのでっ……!」

 

 急に怯えたようにさらに小さくなってしまったが、どうしたのだろうか。

 ユウノの視線を追って後ろを振り返ると――

 

「……」

 

――無表情でユウノをじっと見下ろすクオレの姿があった。

 

(ああ、なるほど……)

 

 納得した。そういえば、私も先程怯んでしまったのを思い出した。

 それにユウノは座り込んでいる。余計にクオレの背が高く見えたはずだ。

 

「ユウノ様、どうされましたか? 顔色が優れないようですが――」

「――い、一旦離れようか、純霓さん、八重沢さん」

 

 イトが咄嗟にクオレの手を引いて私の方を見た。私はすぐにその意図を察した。

 

「そ、そうっすね。……ユウノさん、すんません! 私たちはこれで!」

「いえ、ユウノ様が――」

 

 これ以上居ると、さらにユウノが怖がってしまいそうだったので、クオレを引っ張ってその場を離れることにした。

 

***

 

「……もしかして、ワタシはユウノ様に何かしてしまったのでしょうか」

 

 監房を出て、階段の前まで移動したところでひと息ついていると、クオレが口を開いた。

相変わらずの無表情だが、肩を落として申し訳なさそうにしていた。

 

(最初は私も怖がっちゃったけど、きっと根は悪い人じゃないんだろうな)

 

「いや、クオレさんは悪くないっすよ。なんていうか……相性が悪かったというか……」

「相性?」

「うーん……とにかく、気にしなくて大丈夫ってことっすよ!」

 

 どう説明して良いのかが分からず、曖昧な返答になってしまった。

 

「そうですか。分かりました」

 

 だがクオレは一応は納得してくれたようだ。少し胸をなで下ろす。

 

「地下1階には他に懲罰房と焼却炉があるけど……どうしようか」

 

 階段の前で立ち止まると、イトがそう問いかけた。地図によれば、この奥にあったはずだ。

 

(懲罰房……響きだけで怖い……。あんまり見たくはないな……)

 

「……時間も限られてますし、あまり世話になる場所でもないですから。また今度でも良いのではないでしょうか」

 

 クオレはそう提案した。

 もしかすると、私の様子を察してくれたのだろうか。

 

「……そうだね。あまり見ても気分の良い場所じゃなさそうだし……それじゃあ今度は、1階の食堂に行くのはどうかな?」

「いいかもっすね! 食堂なら毎日行くだろうし……」

「ワタシも賛成です」

 

 イトの提案に私とクオレは賛成し、階段を登りだした。

 

***

 

 食堂に着いて辺りを見てみるが長机と椅子ばかりで、簡素な部屋という印象だ。暖炉と小さなロウソクが部屋を申し訳程度に照らしている。

 そこでふと、赤いテーブルクロスが目に留まる。これが少し寂しい雰囲気を豪華にしているのかもしれない。

 

「結構高そうな布だよね」

「え、分かるんすか?」

「そういうわけじゃないけど……ほら、手触りとか」

 

 そう言って布を触るイトを真似して、テーブルクロスを撫でてみる。すると、隣でクオレも真似して触り始め、表面を撫でたかと思いきやそれを捲りあげてみたりしている。

 

「……よく分かりません」

「あはは……」

 

 そんな机たちを眺めていると、奥の厨房の方で物音や話し声が聞こえた。

 他に見るものも無かった私たちは、厨房の方へ行ってみることにした。

 厨房を覗いてみると、先程『食料をチェックする』と言っていたペティとレイが居ることに気付いた。

 

「……設備も本格的と言うか、(まき)を使う窯なんかもあるな」

 

 呟きながらペティは流しで水を出してみたり、コンロの火を点けてみたりしている。

 

「こっちの戸棚は……珈琲豆とか、紅茶葉とかか」

「……紅茶葉?」

 

 レイは、ペティの言葉に反応して聞き返した。

 

「ん? ああ、ここの戸棚にあったから、紅茶を淹れられそうだぜ」

 

 そう言って、ペティは棚の方を指さす。

 

「ティーセットとかならあっちの棚に入ってたぞ。……別に、アタシ専用の場所ってわけじゃねえから自由に使っていいんじゃねえか?」

「それは、良いな」

 

 レイは少し笑みを浮かべている。紅茶が好きなのだろうか。

 なんとなく声をかけずにいると、向こうがこちらに気付いた。

 

「……っと、スミレにイトに、クオレじゃねえか。探索はもう終わったのか?」

「あ、いえ。地下の探索が終わったので、次は1階の探索をしようかと」

「うん。ここは毎日来るところだろうし、とりあえず寄ってみたんだ」

「なるほどな」

 

 すると私たちに気付いたのか、紅茶葉を見ていたレイがこちらに歩いてきた。

 

「地下の牢屋はどうだった? ……と言っても、新しい発見は無さそうだが」

「そうっすね……壁や床はボロボロだし、ベッドも硬そうだし、狭いし……。正直、住み心地は悪そうでした」

「そうか。……まあ、私たちは囚人としてこの屋敷に閉じ込められているわけだから、当たり前といえば当たり前か」

 

 レイは眉を潜めながら話す。どこか諦めた様子で、今にもため息が聞こえてきそうだ。

 

「……そんなことを考えてても気分が落ち込むだけだぜ! アタシが美味い飯を作ってやるから、元気出せよ!」

 

 ペティがレイの背中を叩いて笑う。

『美味い飯』と聞いて、この牢屋敷生活に少しだけ楽しみができた気がした。

 

「何か手伝うことはないでしょうか」

 

 そんなことを考えていると、クオレが口を開いた。

 確かに、衣食住の食を全部1人に任せきりなのは気が引ける。

 

「私たちで良ければ、何か手伝うっすよ」

「いや、大体何があるかは調べ終わったから、大丈夫だぜ」

 

 先に手伝ってから、地下の探索に行った方が良かったかもしれない。

 私は少し申し訳ない気持ちになった。

 

「じゃあ、料理をする時の手伝いでも……」

「それも大丈夫だ。気にすんな!」

 

 イトも手伝いを申し出たが、断られてしまった。爽やかに断られただけに食い下がることもできないようで、しょんぼりしている。

 その様子を見たペティは、少し慌てた様子になる。

 

「あ、いや、迷惑とかじゃなくてだな。本当に1人で十分なんだ。全然負担じゃないから、本当に」

「14人分も作るのは、かなり大変じゃないか……?」

 

 レイが当然の疑問を口にした。それについては私も同じことを思っていたところだ。その話に頭を上下に大きく振って同意する。

 

「全然! ……あ、そうか。アタシの魔法について説明した方がいいか」

 

(魔法……ツカイマが言っていた……)

 

 私にそんな力はないが、やはり他の人にはあるのだろうか。

 

「アタシの魔法は【料理】。料理を作る時だけ、力や素早さが上がったり、適切なレシピが頭に浮かんできたり。後、一部の工程を物凄い時間短縮できたり。……そんなところかな。まあ、アタシも今日までこれが『魔法』と呼ぶなんて知らなかったけどな!」

「なるほど……だから、14人分作るのもそこまで苦ではないと」

 

 なかなかイメージができないが、とにかく素早く料理を作れるということだろうか。

 

「そういうこと。……うーん、見せた方が早いかもな。試しに何か作ってみるから、見といてくれ」

 

 そしてペティは冷蔵庫や棚などから材料を持ってきて、そのまま料理を始めた。

 

「えっ……!?」

 

 ペティは玉ねぎをまな板の上に置いたかと思うと、目にも止まらぬ早さでトトトトトトと切り始めた。

 予想しなかった動きに思わず驚きで目を丸くしてしまう。あまりの手捌(てさば)きに圧倒され、厨房に居る他の少女たちも固まっている。

 そんな中、ペティは鍋に切り終えた具材を入れて、スープのようなものを作っていた。

 気付けばたったの1分も経たないうちにそれは完成した。

 

「はい完成。簡単なオニオンスープだ。お腹にはそんなにたまらないはずだから、そこら辺は気にしなくていいぜ」

 

 ペティから小さなカップを渡される。

 

(……とても良い匂いがする)

 

 湯気を立てる黄金色のスープはすごく美味しそうだ。

 本人は『簡単な』と言っていたが、この短時間で4人分のスープを作ってしまうなんて、魔法でなければ説明がつかない。

 

「さっそく、味見してみてもいいっすか……?」

「どうぞどうぞ」

 

 勧められるまま、とりあえず一口掬ってみる。

 息を吹き、少し冷まして口に含んだ瞬間、玉ねぎのほのかな甘みとスープの温かさが全身に染み渡った。まるで何時間も煮込んだようなうま味を感じられる。

 

「お、美味しい……!!」

「おいしい……! あったかい……」

「! おいしいです」

「これは……! 美味しいな」

 

 全員が口々に感想を述べる。作るのが早いのもそうだが、味もとてつもなく美味しかった。

 

「ちょっと夕食が楽しみかも」

「ですね……!!」

「へへ、喜んでもらえてよかったぜ」

 

 声が弾む私たちの反応を見て、ペティも嬉しそうにしている。

 

(料理ができる人ってカッコいいな……)

 

 そんなことを思った。というか、口調で忘れかけていたが、ペティは顔も整っていて可愛らしい。

 可愛くて料理もできるとなると、すごくモテそうだ。

 それで気付いてしまったが、ここに集められた少女たちは皆顔が整っている気がする。魔法が使える少女は皆美人になるのだろうか。アニメとかに出てくる魔法少女って皆可愛いし。

 魔法少女。いつ知ったのか、見たのかは分からないが、知識としては記憶に残っているらしい。

 しかし私は魔法が使えない。

 

(いや、これ以上考えるのはやめておこう……)

 

「そういえば、自分の分は作らなかったのか?」

 

 ペティが4人分しか作っていなかったことに気付いたのか、レイがそう尋ねた。

 

「いや、アタシは別にいい。どうせ後で食べるしな」

「まあ、そうか」

 

 いつの間にかスープを全部飲んでしまっていたことに気付いた。本当に美味しかった。

 ペティにお礼を言いながら食器を返す。

「いつでも作ってやるから、腹減ったら言えよ」と言いながら、ペティは食器を持って奥へ行ってしまった。

 

 それを見送った私たちは探索を再開しに行こうと思ったが、レイについて気になることがあったので聞くことにした。

 その間、イトとクオレには先に行っておいてと伝えた。

 

「そういえば、レイさんも魔法が使えたりするんすか? 気になっちゃって……」

 

 レイは振り返り、少し考える素振りをして答えた。

 

「……分かった、教えよう。おそらくあの力のことだろう」

 

(あ、意外とすんなり教えてくれるんだ……)

 

「私の魔法は【切断】だ。あらゆるものを断ち切ることができる」

 

 言われて、レイの腰に提げてある刀に視線が行く。

 それに気付いたのか、レイは困ったように笑う。

 

「ああ、違うんだ。この刀は魔法とは関係ないんだ。……いや、『関係ない』は嘘になるのか……?」

「……えっと?」

 

 どういうことかよく分からず、思わず聞き返してしまう。

 

「すまない、少し説明が難しいな……。実際に見せてあげられれば良いんだが、私の魔法は『月が出ている時』にしか使えないんだ」

「そうなんすか?」

「ああ。それに……」

 

 レイは、視線を逸らして少し迷うような素振りを見せる。

 

「……それに、この魔法はできることなら使いたくないんだ」

「ふむ……」

「悪いが理由は言えない。とにかく、何かを断ち切る魔法だと理解してくれ」

「……分かりました」

 

(そうだよね。ペティさんはすんなり教えてくれたけど、プライベートを探り過ぎるのはあまり良くないかも……)

 

 少し気まずくなっていると、食堂の入口の方から声がした。

 

「八重沢さーん!」

「はーい! 今行きまーす!」

 

 ちょうどいいタイミングでイトが声をかけてくれた。

 

「それでは探索の続きに行ってくるっすね。レイさん、また後で」

「ああ。気をつけて」

「お、もう行くのか? 夕食楽しみにしててくれよ」

「はい!」

 

 横から顔を出したペティに手を振り、イトたちのもとへ移動した。

 

「次はどこに行きますかね……?」

 

 食堂を出て、廊下に立っていた私たちは、次に行く場所を考え始めた。

 時刻は12時45分。15時まではまだまだ時間がある。

 

「うーん、あ、ぼくちょっと中庭に行きたいかも。外の空気を吸いたいし」

「いいっすね! そうしましょうよ」

「ワタシも異論はありません」

 

***

 

「空気が美味しい……」

 

 中庭に着いて辺りを見回してみる。

 全体に植物の緑が広がっており、真ん中には大きな噴水があった。水は出ておらず、ただ溜めてあるだけのようだ。

 そんな景色を見つつ、牢屋敷に来てから初めての外の空気を吸い、少し気分が良くなった。

 

「やっぱり、外の空気は良いね……」

 

 そんな話をしていると、噴水の裏の方から声が聞こえてきた。

 

「――なら、監房にでも籠っていたらいいじゃないですか」

「……私に何か用?」

「あなたに用などありません。視界に入るのも嫌なので、さっさと消えてくれませんか?」

 

 何か問題でもあったのだろうか。誰かが言い争っているようだ。

 少し近付いて横から見てみると、言い争っていたのはウメとルナだった。

 

【挿絵表示】

 

「めんどくさいから嫌。それに、消える理由もないから」

「はぁ……ちゃんと言わなきゃ分からないですか? あなたの存在が不快だから、ここから消えろと言ってるんですよ」

「なら、自分から立ち去ればいい。それくらい普通にできるでしょ」

 

(ど、どうしよう……すっごいバチバチしてる……)

 

 どうすべきか迷って隣を見ると、いつの間にかそこに居たはずのイトの姿がなかった。

 

「何があったかは分からないけれど、ぼくとしては喧嘩しているのは見過ごせない。詳しい話を聞かせてくれないかな?」

 

 声がして振り向くと、イトが前に出て仲裁に入っていた。

 毅然(きぜん)とした態度で振る舞うイトに、2人は口を閉じる。

 

(イトさんはすごいな……私なら絶対無理だ……)

 

 私は尊敬の念を抱いた。

 

「チッ……うるさいですね。もういいです」

 

 イトの言葉に対し、ルナは舌打ちをして面倒くさそうに去っていった。

 

「はぁ……飽きた。冬川さんもどこかに行ったし、もういいよね?」

「あ、うん……でも、なるべく喧嘩はしないでね……」

 

 ウメも、ため息をつきながらどこかへ行ってしまった。

 そういえば、自己紹介の時もあまり関わらないで欲しいと言っていた。1人で居るのが好きなのかもしれない。

 

「素早い対応、お見事ですイト様」

「あはは……ありがとう、でいいのかな」

 

 2人が居なくなったのを見て飛び出したクオレに、イトは少し困ったように手を振った。

 私も後をついて合流する。それを見てイトはようやく少し警戒を解いたのかため息をついた。

 

「……ぼくたちも、もう行こうか」

「そうっすね……次は……」

 

 私たち以外は誰もいないが、なんだか居心地が悪くなってしまったため、早々に中庭を立ち去ることにした。次に行く場所を決めるために、スマホを取り出す。

 

「ここから近いのは……医務室とか? クオレさんが見に行きたいって言ってましたよね」

「はい。ぜひ見ておきたいです」

「よし、じゃあ行きますかね」

 

***

 

「へ〜……ベランダもあるんすね」

 

 医務室には、いくつかの戸棚や引き出しがあり、ベッドが2台ある。洗面台もあり、試験管やビーカーがあること以外は学校の保健室に近い。消毒液の匂いが鼻を(かす)める。

 そして奥には扉があり、扉の横の窓からは外の景色が見える。やけにカラフルだなと目を凝らすと、どうやら向こうには花畑が広がっているようだ。

 

「あの花畑、今度見に行きたいかも」

 

 イトが窓の方を指さす。それに私も頷く。

 

「ワタシは戸棚と引き出しに何があるか確認しますので、終わるまで少々お待ち下さい」

「あ、私も一応何があるか見ておきたいので、横から見ていても良いっすか?」

「ぼくも一応……」

「分かりました。もしケガ人が出た際、ワタシが動けないときはお願いします」

「りょ、了解っす……」

 

(そんな状況にならないと良いな……)

 

 頷く私たちを見て背を向けたクオレはまず戸棚を開け、何があるか調べ始めた。

 

「ここにあるのは胃薬や漢方薬。こっちにあるのは栄養ドリンクやビタミン剤のようですね。こちらは――」

 

 そう言いながら、慣れた手つきでテキパキとチェックしていく。

 その様子を見ながら、ふと、イトとクオレの魔法は何なのか聞いてなかったことを思い出した。

 

「そういえば、おふたりの魔法って何なんですか?」

 

 そう聞くと、先にクオレが答えてくれた。

 

「……ワタシの魔法は、【自身の血を自由に操れる魔法】です」

「血を……操る……?」

「そうですね。例えば――」

 

 言いながら、クオレは腰のポケットから小瓶を取り出した。中には赤い液体が入っている。

 

(もしかして、それが血なのかな……)

 

「この瓶にはワタシの血が入っています。そして、このように……」

 

 私の疑問に答えるように、クオレは言いながら瓶の蓋を外す。すると、それはすぐに起こった。

 

「血が、浮いてる……」

 

 赤い水玉がシャボン玉のように瓶から吹き出ている。ゆっくりとクオレの周りを囲むように、それは宙を泳いでいた。

 

「浮かせるだけでなく、硬化させたり、飛ばしたりすることもできます。以前は武器として使っていました」

 

 言いながら、クオレは水玉の1つを小さな石ころのように固めて床に落としたり、飛ばして天井に赤いシミを作ったりしてみせた。

 あまりに非現実的な現象を見せられて言葉が出ない。数度まばたきをするのが限界だった。

 そんな私の反応を見て十分伝わったと判断したのか、クオレは赤い液体たちを小瓶に戻した。

 そこでようやく自分の口が開いたままになっていたことに気付き、慌てて口を閉じた。間抜けな顔をしていたかもしれない。込み上げてくる恥ずかしさが、これが現実だと教えてくれているようだった。

 

「……もちろん、皆様に危害を加えるつもりはありませんので、ご安心ください」

「はい、それは心配してないっす」

 

 まだ会って間もないが、理由もなく他人に危害を加える人物ではないように思える。

 もしもクオレがそんな人だとしたら、他人を気遣うことなんてしないだろう。

 

「イトさんはどんな魔法を使えるんすか?」

 

 次に、イトの魔法についても聞いてみた。

 ……が、その言葉に少し顔を青ざめたような、気まずそうな表情になってイトはようやく口を開けた。

 

「……ぼくのは……ごめん。多分、言っても信じてもらえないかもしれないから……言えない……」

 

 目を逸らしながら言う姿に、ハッとして慌てて首を振る。

 

「だ、大丈夫っすよ! ……と言うかそうですよね。プライバシーに踏み込んじゃうようなものですし……。こちらこそ急に聞いてしまってすみません……」

「ううん……ただ、言葉でも……実際に見せても理解し辛いものだと思うから……」

「そ、そうっすか……」

 

 その後、互いが沈黙している時間が続いていたが、気付けばクオレが薬品の中のチェックを終えていたらしく、声をかけてくれた。

 

「スミレ様、イト様、確認を終えましたが、もう別の場所を探索しに行きますか?」

「あ、そうっすね。イトさんもそれでいいっすか?」

「う、うん……えーっと、次はどこに行こうか」

 

 微妙に気まずい空気を引きずったまま、話題を次の探索場所に移した。

 

「シャワールームも近くにあるけど……見るのはシャワー浴びる時でいいかも」

「なら次は、2階の娯楽室とかどうっすか?」

 

 ラウンジでは、数人が『娯楽室に行く』と言っていたはずだ。ついでに何か話が聞けるかもしれない。

 そう思い提案すると、イトが頷いた。

 

「いいかも。あ、ホールも近くにあるみたいだし、そっちも見ておこうか」

「分かりました」

 

***

 

 私たちは階段を登り、まずはホールに入ってみた。

 ホール内はだだっ広く、端にはテーブルや椅子が重ねて置いてあり、中央天井にはシャンデリアがあった。

 シャンデリアには複数のロウソクが灯っており、なぜか炎がキラキラしているように見える。

 

「なんかあのシャンデリアの炎、キラキラしてるっすね」

「本当だ。綺麗……魔法みたいだね」

「その通りだ」

「「うわぁ!!」」

 

 シャンデリアを見ていると、後ろから急に声をかけられた。

 振り返ると、ツカイマが扉付近で浮遊していた。

 

(う、浮いてる……? ……って、そうじゃなくて)

 

「あ、あの……その通りって、ど、どういうことっすか……?」

 

 動揺して、声がどもってしまった。

 

「あのシャンデリアの炎は、魔法の炎なんだよ。消すことはできない炎さ」

「へ、へえ……」

 

(妙に親切に教えてくれるな……)

 

「えっと、ツカイマ……さんは、どうしてここに?」

 

 イトがツカイマに質問する。

 

「今はちょっと暇でよォ〜。オマエらが何してんのか見にきたんだ」

 

 妙に馴れ馴れしい態度に、私はどうしたらいいのか分からなくなる。

 しばらく私たちが沈黙していると、

 

「……つまんね。別のとこ行くわ〜」

 

 ツカイマはあくびをしながらそう言い、扉から出ていった。

 

「なんだったんだろう……」

「さあ……」

 

 私たちは互いに顔を見合わせた。イトはなんとも言えない表情をしていた。

 

「……あれ、クオレさんはどこに?」

 

 ふと、いつの間にかクオレが側から居なくなっていることに気付く。

 辺りを見回すと、クオレは端に置いてある椅子をコンコンと叩いていた。

 

「クオレさん? 何してるんすか?」

 

 私とイトは、クオレに近付いて聞いてみる。

 

「……この椅子、非常に堅牢な造りになっているようで、座面だけ外せば盾になりそうだと思いまして。私は盾を使いませんが」

「え、えぇ……?」

「ど、独特な発想だね……?」

 

 私とイトは困惑した。

 しかし本人は大真面目に言っているのだろう。とても真剣な表情をしている。

 

「そろそろ行こうか……?」

 

 イトが提案する。私も、ここで気になるものはもうなかったので、首を縦に振って同意した。

 

「ワタシも同意します」

 

 クオレも立ち上がり頷いたので、次は娯楽室に行くことにした。

 

 

 

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