異誕少女ノ魔女裁判   作:異誕少女ノ魔女裁判制作チーム

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1-7「広がる血の海」

 

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「…………え?」

 

 息が、止まる。

 体が、硬直する。

 心臓の鼓動だけが、やけに煩く聴こえる。

 

 ベッドの横。 少し俯いたイトが、壁にもたれかかっていた。彼女の細い首が、大きく裂けている。

 赤黒く鈍い色彩が、首を、喉を塗りつぶしている。

 

 消毒液と、鉄と、様々な薬品。それが混じったような臭いがして、気持ち悪い。

 

「イト……さん?」

 

 声が、掠れる。うまく言葉が出てこない。

 

 イトの目は、半開きだった。

 瞳は焦点を失い、光のないその瞳は虚空を見つめていた。

 唇が、僅かに開いている。その僅かに開いた口から、血が垂れている。

 

「……嘘」

 

 膝から、崩れ落ちる。

 

「イトさん、イトさん、イトさん――」

 

 這うようにして近付く。血の海に、膝が沈む。

 冷たい。

 イトの腕に触れる。

 まだ、温もりがある。

 でも、脈が感じられない。

 

 ――さっきまで、笑っていた。

 

 『スミレさん』って、呼んでくれた。

 

 『ありがとう』って、言ってくれた。

 

 なのに。

 

「なんで……なんで……」

 

 涙が、頬を伝う。

 通った跡が、手に落ちる雫が、熱く感じる。

 それが余計に、イトの血の冷たさを感じさせる。

 

 手を、伸ばす。

 指先が、震える。

 首の傷を、押さえてみる。

 無駄だって、分かってる。

 血はもう、流れていない。

 ただ、手が赤黒く染まっただけだった。

 

「助けて……誰か……! 誰かイトさんを、助けてくださいよ……!」

 

 振り返る。

 ニーナが、凍りついている。

 クオレが、目を見開いている。

 

「そ、そうっす……! クオレさんなら……!」

 

 クオレは今朝、イトの傷を治してくれた。

 それなら――

 

「それは……できません」

「どうして――」

「――もう、手遅れです」

 

 胸が、裂けるように痛い。

 息が、できない。

 視界が、赤色に染まる。

 

 ――これが、死。

 

 私の、友達の、死。

 

「――ぁぁああああああっ!!!」

 

 私の叫びは、医務室の壁に吸い込まれていく。

 返事は、もう来ない。永遠に。

 

 分かってはいるが、受け入れられない。

 

「――! ――――!」

 

 声にならない声で叫びながら、私はイトの体を必死に揺する。

 

「――様! スミレ様!」

 

 後ろから止められても、やめなかった。

 

 でも、無駄。

 すべてが、無駄。

 力なくイトは揺られるだけ。

 

 先程まで感じられた僅かな温もりさえ、手の中から消えていく。

 冷たく固くなっていくイトの体が、深い首元の傷口が、まざまざと死を突き付ける。

 

 これが現実だと、変えようのない事実だと、ようやく気付く。

 

 絶望が、波のように押し寄せる。

 

 思わずイトから手を離す。

 すると体が引っ張られた。

 

「もう、やめてください、スミレ様」

 

 クオレが後ろから私を抱きかかえるようにして、イトから私を引き離したようだ。

 手を伸ばすことももう叶わない。

 力なく座り込む。

 

「なんですか騒がしい……は?」

「なに……これ……何が、あったの……」

 

 遠くから、2人分の声が聞こえる。

 

 振り返ると、ルナとウメが入口に立っていた。

 2人とも、イトの方を見て固まっている。

 

 視線を追うようにイトの方へ視線を動かすと、視界の端にニーナの姿が映った。

 

(ニーナさん……何を、して……)

 

 ニーナとクオレが何か話をしている。

 

「これ……イトちゃんのスマホなんだけど、画面にヒビが入っているわ……」

「……本当ですね。何かこの状況と関係しているのでしょうか」

 

(そんなこと……どうでもいい……)

 

 そんなことが分かったところで、イトが死んだ事実は変わらない。今は何も考えられなかった。

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、すぐに他の人たちも医務室に集まってきたようだ。少し騒がしい。各々がイトを見て驚愕(きょうがく)を口にする。

 だが今は、それすらも遠い場所の出来事のように感じられる。

 誰かが私に話しかけているのか、近くで声がする。でも聞き取れない。もう何も聞きたくなかった。

 

――ブーー

 

――ピロン♪

 

 各々のスマホから通知音が鳴り、皆一斉にスマホを取り出す。

 

「スミレさん……」

 

 何かが目の前に差し出される。動けない私のために誰かが通知の内容を見せてくれるらしい。少し顔を上げると、そこには心配そうな顔をしたアヤフミが居た。

 目が合うとアヤフミはぎこちなく微笑んだ。

 私は何も言えなかった。

 画面に目を戻して、文面に目を通す。

 

『今、報せが入ったぜ。あーあ、やっぱり起こっちまったなあ〜殺人事件。心中お察ししますってヤツだ、ガハハ。 ……まあそれはともかく、全員ラウンジに来い。来ないヤツは看守の鎌で首チョンパな!』

 

 それはツカイマからのメッセージだった。

 遠くで「クソっ……」と誰かの声が聞こえる。確かにツカイマのニヤけ面が目に浮かぶ文字列ではあるが、もはやそんなこともどうでもよく感じる。

 

「ひゃっ――――⁉︎」

 

 誰かの悲鳴に、医務室の入口に視線が集まる。振り返るとそこには看守が立っていた。

 いつもならその姿に怯えるところだが、今はイトが死んでしまったことで頭がいっぱいだった。何も感じられない。体は動かない。

 

「行こう――」

 

 だが、ここにずっと居たら看守に殺される。

 それはこの場に居る皆の総意だった。

 誰かの掛け声を皮切りに、1人、また1人と医務室から出ていく。

 

 私は重い体を引きずりながらも、なんとか少女たちの後に続いた。

 

 ふと、自分の手を見る。

 私の手は、イトの血で真っ赤に染まっていた。

 

 

***

 

 

 ラウンジには、私を含め13人の少女が集まっていた。もちろん、イトは居ない。

 誰も口を開かず、重苦しい空気がこの空間を支配している。

 

 だがそんな状況もどこか遠い場所の出来事のようにすら感じる。

 胸の痛みに耐えるので精一杯だった。あの赤い光景が脳裏に焼き付いて離れない。

 

「――、――――」

「……」

「――い、――おい! スミレ!」

 

「ひっ……⁉︎ ……あ、ペ、ペティ……さん」

 

 反射的に顔を上げると、心配そうな顔をしたペティが目に映る。

 

「あ、驚かせてすまん……。その、大丈夫か……?」

「は……い……。大丈、夫……す……」

「……」

 

 まともに喋ることができない。なんとか笑おうとするも顔が引きつってダメだった。

 ペティの顔が曇る。辛そうに、悔しそうに歯嚙みしているようだ。

 

(そう、だ……ペティさんも、イトさんとは仲が良かった……。私だけ泣いてたら、ダメだ)

 

 私は、無理やり深呼吸をして、心を落ち着かせようとする。

 

(……痛っ)

 

 すると鋭い痛みが手のひらと膝の辺りに走る。

 見ると、それぞれに細かいガラスの破片が刺さっていた。

 気付けなかったが、イトに近付いた時には傷ついていたのだろう。

 

「……全員、集まったみたいだな」

 

 ラウンジの静寂を破ったのはツカイマだった。風が吹くようにふっと現れたツカイマに、全員の視線が集まる。

 

「言ったろ? いずれ殺人事件が起こるって。笑えたぜ、『殺人事件なんて起こるはず無い』なんて、能天気に過ごしてたオマエらの姿はよ」

「笑えた……?」

 

 私はツカイマの言葉に、怒りを覚える。

 人が死んで、こんな状況で、笑える訳がない。

 拳に、力が入るのが分かる。

 

「人が、イトさんが死んだのに……何が笑えるって言うんすか!!!」

 

 気付けば叫んでいた。

 声に出すとどんどんと怒りがこみあげてくる。

 精一杯、ツカイマを睨んだ。

 

「おーこわっ……。……んで、何が笑えるかって? ハッ……何もかもが笑えるね。面白すぎて、死ぬかと思ったぜ!」

「――っ!!!」

 

 私は怒りで飛び出しそうになる。

 

「テメェ! ふざけんじゃねえ‼」

 

 だが、それより先にペティがツカイマに向かって走り出していた。

 思わず足が止まる。

 

「――! ペティ、やめろ! 今はダメだ‼」

 

 素早く反応したレイがペティの腕を掴んだ。

 

「離せ! アイツは許しちゃダメだ!!!」

「今は冷静になるんだ! 私もキミと同じ気持ちだ! だが、今はとにかく、落ち着いてくれ……」

 

 ペティは、今まで見たことのないような怒りの表情でツカイマを睨んでいる。

 それを見た私は、いくらか冷静さを取り戻していた。

 

(……看守も居るんだ。ツカイマには手出しできない……)

 

「……くだらないですね。そこのクソ猫を殺したとて、それに意味があるとでも?」

 

 壁にもたれかかっていたルナがため息交じりにボソッと呟く。

 ツカイマはそれを鼻で笑った。

 

「……そうだぜ。今オレっちを殺したトコロで何も変わらない」

 

 やれやれと首を振ったツカイマは尻尾を私たちに向ける。

 

「それに、怒りの矛先を間違えるなよ? アイツを殺した犯人は、オマエらの中に居るんだからな」

 

「……っ」

 

「……」

「……」

 

 私は思わず、周りの少女たちを見た。

 少女たちの視線が交錯する。

 考えていることは同じらしい。

 

(この中に……イトさんを殺した犯人が……)

 

 信じられない。だが、それが事実だ。現にイトは死んだのだから。

 

「じゃあ説明するぜ。初日に言った【魔女裁判】について、もう一度詳しくな」

 

 ツカイマは、皆の視線を集めるように前に躍り出た。

 

「これから一定時間の捜査を行った後、魔女裁判を開廷する。そこでオマエらは話し合いを行い、ここに居る囚人の中から【誰が魔女か】を投票で指名してくれ。そしたらソイツを処刑してやる。……とはいえ、魔女はそう簡単には死なない。だからまあ、この中に隠れてる魔女さんは、惨たらしく殺されるのを覚悟するんだな」

 

 何が楽しいのか、ツカイマはケラケラと笑っている。

 

「ちなみに、誰も魔女を指名しなかったら全員処刑だから。そこんトコよろしくー」

 

(全員……処刑……)

 

「聞いてねぇぞ!」

「今言ったんだから当たり前だよな」

「ふざけやがって……」

 

 叫ぶペティを庇うようにレイが前に出る。

 

「そのルール追加には、ちゃんと意味があるんだろうな」

「ハッ……その頭で少しは考えたらどうだ? オレっちはオマエらから魔女だけを排除してやるチャンスをやってるんだ。それを放棄するってなら、当然オマエらを野放しにはできねぇよな」

 

 ツカイマは(あざけ)るように鼻を鳴らす。

 

「忘れたならもう一度言っておいてやる。オマエらは囚人なんだよ。ここで暮らせているコトをありがたく思えよ」

 

 レイは何も言えなくなったのか一歩下がった。

 それを見たツカイマは満足そうに頷くと、壁の時計に目を向けた。

 

「今は……10時か。う〜ん、昼飯前には終わらせてえよな〜。オマエらもその方が良いよな? ……ってなワケで、捜査時間は今から1時間。11時までってコトで」

「い、1時間!? そんなのいくらなんでも短すぎるよ……!」

 

 シルベが抗議の意を示す。私も同意見だった。

 ラウンジがざわついている。

 

「はいはいお静かに。文句は受け付けてませーん。……とにかく、死にたくなかったら、必死に捜査して魔女を特定すれば良いんだよ」

 

 ツカイマが『死にたくなかったら』と言った途端に空気がまた緊張したのを感じた。

 もう文句を言う人は誰も居ない。

 

「……あーそれと、捜査中は死体に触るのはNGな。現場保存は捜査の基本だぜ。――ってなワケで、捜査頑張ってネ~! 1時間後、遅れるなよ~」

 

 そう言って、ツカイマはどこかへ消えていった。

 ラウンジは、沈黙に支配されている。

 

(……今は周りの様子を伺っている時間なんて無い。犯人を見つけなきゃ……)

 

 私はラウンジを出ていこうとした。

 

「待ってくれ」

 

 しかし、レイに止められる。

 

「……なんですか」

 

「捜査を始める前に、少し言っておきたいことがある。証拠隠滅や偽装を防ぐため、2人1組で捜査をすることにしないか? ……奇数だから1つだけ3人の組はできるが」

 

 もっともな意見だ。そこまで考えが及んでいなかった。

 

「呆れました。仲良しごっこなら他所でやってください。私は寝ます」

 

 ルナはあくびをしながら、一足先にラウンジを出て行こうとする。

 

「あら♡ 自由気ままなところも、可愛いわね♡ ……でも、あなたが犯人だったら、1人の間に色々偽装ができそうだけれど?」

 

 ニーナが声を掛けると、ルナはため息をつき、振り返らずに答えた。

 

「はあ……私は事件の時、中庭にいたんですよ? 犯人になりようがないです」

「まあ、それはそうね」

 

 ルナは捜査をする気が無いらしい。

 誰もそれ以上声をかけないのを確認するや否や、ルナはラウンジを出て行った。

 

「……アイツは放っておこうぜ。時間もねえんだし……」

 

 ペティがため息をつく。それにレイが頷いた。

 

「同感だ。だがこれで丁度、偶数になった。先程言った通り、2人1組で捜査をすることにしよう。問題無いな?」

 

 否定する人は居ない。

 

 私は、医務室を捜査したかった。あの時は気が動転していてよく見れていなかったため、もう一度詳しく調査したい。

 

 各々が話し合い、一緒に行く人が決まっていく。私はどうしようか。

 

「……スミレ様はどちらに行かれるのですか?」

 

 考え込んでいると、クオレが声をかけてきた。

 

「私は……医務室に行こうかと思ってるところっす」

「でしたらワタシも同行してよろしいでしょうか。医務室には気になる箇所があったので」

「クオレさん……ありがとうございます」

 

 表情は変わらないが、声色から、私を心配してくれているのが分かって苦しくなった。

 とはいえ、この申し出はありがたい。

 私はクオレと一緒に捜査することになった。

 

 

***

 

 

 医務室の扉を開き、再度赤い空間と対面する。

 

「……」

 

 なんとか吐き気をこらえ、現場をよく観察する。

 イトは、壁にもたれかかったまま息絶えていた。首には、鋭利なもので刺されたような大きな傷がある。

 それ以外にも、小さなガラス片が数箇所に刺さっていた。人為的なものとは思えない刺さり方に見える。

 

「……辛いと思いますが、証拠として写真を撮っておいた方が良いかもしれません」

「そう……っすね」

 

 私は、震えながらスマホを構え、現場を撮影する。念のため、医務室全体も撮っておく。

 

【挿絵表示】

 

 部屋の端には、ニーナが今朝持ってきていた朝食の紙袋が置かれており、蛇口の近くには血で汚れたタオルが干されていた。イトが、レイに切られた傷口を押さえるのに使ったものだろう。

 

 イトの周りには、大小様々なガラス片が散らばっていた。近くにある引き出しの上を見ると、置いていたはずのビタミン剤が消えている。

 

(ビタミン剤の瓶が、床に落ちて割れた……?)

 

 中庭で聞いた音を思い出す。あれは、この音だったのだろうか。

 

(それにしては……。……それに、何か違和感が……)

 

 ガラス片を観察していると、クオレがそっと横に並んでイトの方を指さした。

 

「イト様の右手のすぐ横に、大きなガラス片があります。大きさ的に、このガラス片が凶器ではないでしょうか」

「……ホントっすね」

 

 あまりイトを見ないようにしていたのもあって、見逃すところだった。

 床に転がる一際目立つガラス片を写真に収める。

 ガラス片の(ふち)と先端には血が付いていた。

 

「そして、イト様の手の平には傷がついています。……これを握って自分で喉を刺し、自殺した……とも考えられるのでしょうか」

「そんな……ありえないっすよ。だって、最後に会った時はあんなに笑顔だったのに」

「……ワタシも、自殺をしようと考えているようには見えませんでした。ですが、様々な可能性を考えておく必要はあると思います」

「……」

 

 私が黙っていると、クオレは医務室内の別の場所を捜査し始めた。

 念のため、イトの手の部分をアップにして写真を撮る。言われてみれば、ガラスで切れたような傷に見える。あまり考えたくない可能性だが、否定もできない。

 

 私は立ち上がって、イトが寝ていたベッドの方に目をやる。

 すると、ベッドのシーツにも血痕があるのを見つけた。

 

(ということは、ベッドの上で殺された……? もしくは自殺した後、床に転がったとか……)

 

「……? 紙……?」

 

 めくられたかけ布団の上に、小さな長方形の紙が置いてあるのを見つける。

 それを拾いあげると、そこには文章が書いてあった。

 

『八重沢さん、ごめんなさい』

 

「――!? イトさんのメモ……?」

 

 そこには、私宛のメッセージが残されていた。

 しかし、何か文体に違和感がある気がする。

 

(これも撮っておこう……)

 

「スミレ様」

 

 その時、背後からクオレに呼びかけられる。私が振り返ると、クオレは薬品棚を確認したらしく、そこを指さした。

 

「ここにあったはずの瓶の本数が少し足りません」

「ああいや、私がイトさんにビタミン剤を1本渡したんすよ。そのせいだと思うんすけど……」

「そうだったのですね。しかし、なくなったのは1本だけではありません。【複数】無くなっているのです。……もしかすると、事件に何か関係しているかもしれません」

「なる……ほど……」

 

 何に関係しているのかは分からないが、覚えておこう。手がかりは、多ければ多いほど良いはずだ。

 スマホのメモ機能で記録を残しておく。

 

 もう一度イトの方を見る。ベッドと引き出しの間で眠るイトの姿が目に映る。奥歯に自然と力が入る。

 そこでふと、引き出しの上に置いてあるものが目に留まる。

 

『これ……イトちゃんのスマホ、画面にヒビが入っているわ……』

 

 ニーナが言っていたスマホのことだ。

 少なくとも、イトさんと連絡先を交換した時は、綺麗な画面だったはずだ。

 

(犯人は、誤ってスマホを落とした……?)

 

 真相は分からないが、これも覚えておこう。

 引き出しの上に置いてあるヒビが入ったスマホを写真に収める。

 

 その後も医務室の中を捜査したが、他に有益な情報は無かった。

 捜査中、度々他の少女たちも医務室を出入りしていたが、皆の表情は暗かった。会話も無いまま、時間が過ぎていく。

 

「スミレ様、もうすぐ裁判が始まる時間です」

「え、もうそんな時間っすか」

 

 スマホで時間を確認すると、時刻は10時55分だった。

 捜査ができる時間は11時まで。そろそろ切り上げなくてはならない。

 時間が無かったため、他の場所は捜査できなかった。裁判の時に他の少女の話を聞かなければならない。

 

「行きましょう」

「……はい」 

 

 私たちは、重い足取りで裁判所へと向かった。

 

 




《証拠品》
・死体写真(イトの変わり果てた姿。【喉元を掻き切られた傷口】と、イトの手元に転がる【血の付いたガラス片】が特徴的。イトの右手は切れて出血している)
・散らばったガラス片(イトの近くには大小様々なガラス片が転がっていた)
・イトのスマホ(画面にヒビが入っている)
・遺体付近にあった手紙(『八重沢さん、ごめんなさい』と書かれた紙。イトの遺書のつもりだろうか)
・医務室の写真(争った痕跡は無い。ニーナがイトのために持ってきた朝食の紙袋が置かれている。蛇口の近くには【血で汚れたタオル】が干されている。イトがレイに切られた傷口を押さえるのに使った物だろう)
・棚に保管された薬品(医務室の棚に保管されている様々な種類の薬品たち。誰でも取り出せるようになっていた。クオレが見たところ、数本の薬品が無くなっているらしい。そのうちの1本は私がイトにあげた【ビタミン剤の瓶】だ)

証拠品は以上だ! ぜひ推理してみてくれよな!
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