やはり俺の学園都市生活はまちがっている。   作:鴇。

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禁書新刊読みましたかー?

相変わらずハイペースな刊行で、内容もかまちーっぽくて大好きですよ!



殺す覚悟。

第20話

 

 

 

 善か悪か、そう問われれば誰もが善を答え、求める。俺も然りそう答えるだろう。だがそれは理想論である。

 地球上の生命が自分だけだとしたらきっと最善、最良を選び取り続けられる。しかし、この世界はそうではない。 誰かが求めるならそれに『応えたくなる』のだ。自分以外の最善のために尽くす。

 そう、人間は他人同士相容れない正義を持ち、似た願望をもとうとも、手段や嗜好は全くの同一とはいかないのだ。

 それは他人との堕としあいでしかなく、協力なんて尊ばれるものではない。自分が手に入れる。その一点に尽きる。

 その点ぼっちは究極的に一人きりであり、個人のために身を尽くせる。自分のための行動であり、それは自分にとって最大限の正義なのだ。

 

 そのはずだと、思っていた。

 

 

 

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 残り時間およそ3時間、神裂とステイルに告げられた。

 とりあえず3時間、その間は悪あがきができる。

 上条は必死だった。関わらないほうがいい。と最初は言っていたが、材木座は既に引く気などなく。根負けした上条が全てを説明してくれた。

 その内容の重さを省みてなお、材木座はインデックスを『開放』してやりたいと言った。

 

 インデックスが今陥っている状況。それは完全記憶能力に関するものだ。記憶の85%つまり魔道書の記憶がインデックスの記憶容量を圧迫している。その結果残りの15%を使い切る前に魔道書に関する記憶以外『全て』を消す。

 つまり、インデックスは本質的に

 ――殺される。

 そして、既に何度か殺されている。そしてあの二人、神裂火織とステイルは元同僚、親友だったらしい。彼らも、自身の目の前でインデックスを殺されてきたのだろう。

 

「やっぱりか……」

「知ってたのか?」

 焦りからか敬語が外れている。いやそもそも最初にあった時も、二度目だって違和感しかない敬語だった。きっとこっちが本当なのだろう。

「いや、知ってたってか、違和感みたいなものがな」

 

「それなら話は早い。インデックスを助ける方法はないか?」

 

「……今んところは無い。だが後三時間、善処する」

 

 これがほんとにあてなんてないんだよなー。まじで、魔術とかが関わっている以上、軽率な動きもできない。

 

「あぁ、別にそれでも構わない。ほんとに助かる」

 

 そう言って上条は駆け出す。何かあてがあるのだろうか。

 

「なぁはちまん、おかしいと思わぬか?」

「何がだよ」

「ふ……ふふふ……アーハッハッハッ! 貴様とあろうものがまだ気づかんとはな、片腹痛いわ!」

 

 え、なんでこいつこんなにめんどくさいの。ついに頭おかしくなったのかな?いやもともとおかしいとは思ってたけど、ここまでとはなー、うざ……虫酸ダッシュ。

 

 しかし、材木座は何かを確信しているようだ。

 材木座はその事実をうざく、ただうざく開陳する。

「ふふ……それはな、『15%』がたった1年の命か?」

「な……?」

「もっと言えば、完全記憶能力をもつ人間や、記憶力グランドマスター、さらには天才は早死にするということになる」

 

「まさか………………」

 

「そんな話、聞いたことがあるか?」

 

 ポケットの中のケータイを取り出し雪ノ下にかける。

 コールが鳴り響き、長く待たず雪ノ下は出た。

 

「雪ノ下、聞きたいことがある」

 

「……なにかしら、今忙しいのだけれど」

「インデックスに関することだ。人間が何十万冊と完全に記憶したりしたら。それ以外をを消さなきゃ生きていけないってことはあるか?」

「そんなのあるわけないじゃない。どれだけ記憶を溜め込んでもそんなことは絶対にないわ」

 

「そうか……ならいい」

 返事を待たず電話を切る。

 

 まさか、材木座が役に立つとは思っていなかった。しかし、材木座が言った事は全て事実であり、おそらく、記憶容量のオーバーで死ぬことは『まずない』

 だとすれば、誰かが嘘をついている……? いや、誰もが真実を口にしているならば、単純明快な答えがある。

 

 彼らのもと締め、教会がインデックスを――飼い殺している。

 

 

 

 一年ごとに記憶を消すことで協会にたてつく理由などを消し、飼っていたのだろう。インデックスはあくまで道具だったのだ。

 原典を記憶させるにはハイスペックな、つまり完全記憶する素材が必要になる。しかしその素材には人間性が宿っていた。ただそれだけの話。その人間の部分を何度も何度も、消し続けることで道具としての役割を保ち続けた。

 

 ならばいまインデックスを苦しめているものは。

 インデックスに『首輪』をハメているものは。

 インデックス自身の近くにある。もっといえば、おそらくそれは脳の近く。

 

「あー、そう言えば上条の連絡先聞いてなかったな」

 

「突然どうした馬鹿みたいな声で」

 馬鹿だと? お前がそれを言ったらブーメランにしかならんぞ。

 

「いや、インデックスの記憶のこと分かったから連絡しようと思ってもできねえし、だから材木座行って来てくんね?」

 

「いや、わし? 別にはちまんでもいいのでは……」

 

「いや、お前に頼んだ」

 

「はちまんのほうがはやくないか……?」

 

 怪訝な顔をした材木座だったがさっき上条の走っていった方へ向かう。

 

 見えなく、なったな。

 上条が戻ってきて、それから手を考えて、インデックスを助け出そうとするのは、難しいと思う。

 いや、上条の右手しか今回の件は解決に導けないだろう。インデックスのどこかに隠されているだろう『首輪』とも言える魔術。それを破壊できるのは上条だけだ。

 玄関には魔術師が二人待ち構えている。

 一人にさせてくれの一言で一人でインデックスと対面出来る可能性はかなり低い。

 そして何より、材木座はともかく、上条は優しい。あいつはこの作戦を提案したら、きっと、自分が傷つく方をえらぶ。

 だから、言い訳を作ってやる。インデックスを優先して助けなければいけない理由を。

 勝つ必要は無い。時間を稼げればそれでいい。

 

 いや、むしろ勝つ訳には行かない。『最悪のケース』に備えるべきだ。

 

 

 

 

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「えーっと、結局?」

 

「だーかーらー! 話聞け言うておろうが!!」

 

 材木座が怒鳴り散らすが悪いのは上条ではない。当然材木座が悪い。あまり知らない人間だからこそか、おおっぴらに中二病発言をし、一般人には理解不能な言語を利用していた。

 上条は上条で理解しようと努力したが3分で限界だった。さっきまで頑張ったが……まぁ時間の無駄だった。

 

「いや、待てよ……? そうしたら完全記憶能力者は早死するんじゃねえか!?」

 

 なぜこんな簡単なことも伝わらないかと言うと、全知全能がなんたらとか、ロックミュージシャンは17歳で、とか中二の中でもあらゆるジャンルへとキャラが飛んで話がまとまっていないからである。

 

「いや、それもいうたんだがな……」

 

 萎えている材木座を放っておいて上条は小萌に電話する。

 

「巻き込むのは悪いけど……」

 

 爆発音が聞こえた。

 ほぼ同時に高架下の空気の揺れに似た衝撃を浴びた。

 

「今の……小萌先生んちじゃねえか?」

 

 

「? なんの話だ?」

 

「は? 何ふざけてんだよ、聞こえないわけない」

 あんな爆発音。普通は聞こえ……

 

 聞こえないわけない?

 いや、ある。

 

 人払い。

 もしそうだとしたら……

 人払いをし無ければならない。それはつまり魔術が関係しているという証拠!

 

「材木座先輩! 急いで戻りましょう!」

 

「今更先輩呼びとか……」

 

 走り出す上条と全力で走る猪のごとく二人はインデックスの下へ走る。

 

 

 

 

 

 

「上条ちゃーん? 今の声上条ちゃんですよねー? なにかありましたかー?」

 

 公衆電話の受話器は落ちたままで気の抜けた声を繰り返していた。

 

 

 

 

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「はぁはぁ……」

 

 痛い。3発くらいガチなのもらってるがそんなことも言ってられない。今は……

「話を聞く気は無いのか?」

「……話すことは話したでしょう。それは今また記憶を消してから考えます」

 記憶しすぎて死ぬ。

 そんなことは無いと、ちゃんと話てからの結果がこれだ。分かっていたことだが、人というのは頑固だ。

 

「じゃぁお前達はもう一度その手でインデックスを殺すのか? この一年を生かす方法があるかもしれないのに。だというのに、お前はインデックスを殺すんだな?」

 

 一瞬歯噛みしたようだが、すぐに持ち直す。押すならここしかない。

「今までは協会の意志で『仕方なく』殺してきたかもしれない。でも今度こそは『自分自身の意思で』殺すんだ。今までとは訳が違う。その罪は一生負い続けなきゃらなない」

 

 神裂の掌底や刀の柄、人間とは思えない速度の足払いなどことごとくと『死なない』ように加減された力で繰り出される。

 それをギリギリで交わしながら、いや、相手がかわせるようにしてくれているところに潜り込む。

 負け戦だということくらい理解している。だがまだチャンスがある。聞く気があるから全力で屠りに来ない。

 正直助かる。時間稼ぎにはもってこいだ。

 神裂の攻撃を払いつつ考える。

 

 今さっき俺が言った事は理想論だ。自分でも分かっている。ここで相手が引く理由などない。

 冷静な判断をするならば、嘘かもしれない俺たちを信じるよりも、とりあえずもう一度記憶を消してから方法を模索するべきだ。でも、今は普通の状態じゃない。興奮している。今なら判断が鈍るかもしれない。

「もう一度聞くぞ。殺すのか?」

 鞘で腹を突こうとした状態で神裂が止まる。

 

「……そうですね……確かに今ならまだ助かるかもしれない。でも、貴方の話を聞いた瞬間から私たちはかつてから殺さなくていいはずの彼女を殺し続けていたことになります。その事実から逃げるつもりは……ない」

 

 これは、まずい。

 神裂火織の目の色が変わった。

 全力か、何割の力か知らないが、死なない。だが人間がよけられる速度ではない速度で鞘の先端が迫り来る。

 

「え?」

 

 神裂がとぼけた顔をする。いや、それは俺も同じだ。

 

「よけれた……?」

 

 だが、偶然だったのかそのまま横に薙いだ鞘は腹に埋まった。

 

「がはっ……!!」

 

 3mほど浮いた後地面に2度叩きつけられる。いってぇ……クソ、追い討ちしないだけ人間性は出来てるんだろうけどよ……いや甘さか?

 だが立ち上がった瞬間その考えは消えた。

 は……

 

「は、まじか……ほんとに人間かよ……」

 

 神裂は10mほど離れた位置にいた。背後には高いブロック塀がある。3m位の高さの所に血痕があった。

 

「超ハードモードじゃねえか……」

 ちなみに俺の人生はメタナイトを凌駕する。

 

 だがその10mさえ神裂からすれば大した距離では無かった。

 懐に飛び込んで来ては、すぐさま拳を放つ。

 間一髪それをかわしながら意味もない距離を取る。

 

「ステイル! お前はどうなんだ!」

 

 俺と神裂の戦いを傍観している男に言う。

 

「そんなこと言われるまでもなくわかっているよ。むしろ、この一年間魔術師に追われ続ける恐怖しか無かったんだ。助けてやるべきだとおもうけどね?」

 

「それは、言い訳じゃないのか? お前たちが追いかけ続けていた、苦しめ続けていた。その事実を忘れて欲しいための。違うか?」

 

「だとしたらなんだ、そうだとしてもそれは僕たちが背負う罪だ。君に言われる筋合いは無いよ」

 

 完全に二人は『殺す』覚悟が出来ている。もう、手は無い。

 仕方ないか……休戦の手は無いが……時間稼ぎの手はまだある。

 

「じゃあ、こういうのは見たことあるか?」

 

「多重影分身の術! てな!」

 

 100に近く分裂した俺はステイルに狙いを定めてなだれ込む。

 

 前回の神裂との戦闘で気づいた事があった。

 俺の分身体がダメージを受けたら、俺自身にもダメージを喰らう。それだけでなく、俺自身の認識すら危ぶむ。

 つまり、分身体がそのまま俺のスペックを持つ。

 知能や、運動能力、思考理論、それだけでなく、視界も増える。そこから得た情報を統合し続ける事さえできる。

 しかしデメリットとも言える部分がある。手で仰いでも風は起きにくいし、殴っても大した衝撃にならない。

 つまり……どれだけ俺を増やしても、増やした分だけ『結果』は霧散し、分散する。五体作れば五分の一に。同じようにダメージも。一体が死ねば他四人に四等分のダメージが伝播する。

 しかし、手数は増える。攪乱にはもってこいだ。

 

「確かに初めてだが……イノケンティウス!!」

 

 ステイルは何かを書かれた紙をあたりにばらまいた。

 

「神裂、僕にやらせてもらおう」

「構いませんが……」

「安心しろ、人払いは済ませてある」

 

 不敵な笑みを浮かべるステイルは俺に向き直り一言言った。

 

「死ぬ覚悟は、できたかい?」

 

 殺す覚悟は出来ている。ステイルはそう言いたいのだ。誰に言われずとも、今までステイルは自分の意志で、仕方なくとも、自分のせいでインデックスを『殺してきた』知っている。何度も覚悟してきていた。

 俺の説教はステイルの耳には茶化しにしか聞こえない。

 

 ならばと、俺も呼応する。

 

「それは俺のセリフだ」

 

 

 

 

 

 ただ言ってみたかっただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イノケンティウスは炎の巨体を持つ。大きさゆえにある程度範囲攻撃ができる。

つまり、この分身では相性が悪い。100体全員が大なり小なりやけどを負ったら、次統合する時に全身くまなく大やけどする事になる。

 

 それは避けたい。

 

 イノケンティウスが腕を振るう。

 100近い自分を一気に戻し、3体に減らす。

 イノケンティウスの腕は空をきり、地面を砕き、燃やした。

 その衝撃は想像以上で熱波が周囲を襲い、爆発音が鳴り響く。

 熱波は3体のうち1体がバリアを張って防いだ。

 

 

「つまらないね、なぜ減らしたんだ?」

 

「多けりゃいいってわけでもねえんだよ」

 

「そうかい、もうそろそろ時間だ。終わらせよう」

 

「こっちのセリフだって言ってんだろ」

「そうはさせません」

 どこからか神裂が食い気味に答えた。

 まずいと思ったが遅かった。

 ボキッ! と骨の折れる音が響いた。

「がァ……ッ! っはぁ……ゴホッ!」

 ステイルと対峙している二人の『俺』がどちらも吐血する。

 一瞬で引っ込めたのがアダになった。

 ステイルの背後に忍び込ませていたもう一人でケリをつける予定だったが、神裂も同じ手を食らっている。同僚のステイルの背後を気にしていたのだろう。

 刀で脇腹から胸骨あたりを打たれ、冗談のようにホームランされた。

直撃前に引っ込めようとして、間に合わず、ダメージがそのまま二人に返ってき、その結果、どちらもが胸骨を骨折した。

 

「……なるほど、そう言う事か」

 哀れみを含んだ笑みを浮かべながら言う。

 かなりまずい。胸骨を骨折して呼吸がしづらいうえに、炎に対する攻撃方法なんて持っていない。

 形をなす非固体モンスターとか、正直無敵にしか見えない。認識の誤差をどれだけ使ったって存在そのものを消すことはできないし、ましてや、この熱量に対して、ましてや魔術から生まれている炎だ。果たして水なんてものが効くのか。

 対処法が見えないままイノケンティウスが再び動き出す。

 

 

 動くこともままならないからガードを張る。俺の認識が炎と自分の周りの空間を断絶する。だがどこまで持つかも分からない。集中力と想像力が俺の力の根源なのだ。それにも限界があるし、神裂が加勢にきたらそれこそ終わりだ。

 時間稼ぎに徹していたのが仇になった。体力が限界だ。

 

 そして、

 再び轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは……インデックス!?」

 

 轟音の元は月詠の家。屋根を突き破り、光は周辺を覆った。

 

 

 間に合った……

 まだ、終わってはいないが、少なくとも『自分の役目』は終わった。異常な緊張状態から解き放たれ、俺の口から安堵の息が漏れる。

 『最悪のケース』それは、インデックスが原典を使う場合。そうなったとき、戦力は多い方がいい。だから俺は時間稼ぎに徹して、相手を無傷のまま生還させた。

 

「あそこには上条がいる、多分インデックスが魔術を使っている」

 

「彼女は魔術が使えないはずです!!」

 

「へえ、そりゃ知らねえけど、上条があんな光の渦を出すようなやつにも見えねえし、材木座は材木座だ。そうなればインデックスしかいない」

 言いながら塀に肩を預けながら腰を落とす。というか緊張が解けたせいか全身の疲労が限界まで来ていた。

 疲れた……引きこもりにはかなりきつい。

 

「ですが……」

 

「今しかねえんじゃねえの? インデックスを生かしてやれるのは」

 

 

 長く思案し神裂は頷き、軽く会釈をしてから人間とは思えない速度で飛び去る。ステイルもそれに続く。が、こちらは人間的な速度だった。

 

 

 ……帰るか。

 いや、別に、めんどくさいとかじゃなくてさ? 俺が行ったって、神裂やステイル、上条が勝てないなら俺も勝てないだろうし、行く意味もないかなと思うんですよ。

 材木座は、まぁ、死ぬかもしれないけど、別にストーリーに支障は無いだろうから大丈夫だ。

 

 

「いいと思うわよ」

 

「うげ……雪ノ下」

 

 騒ぎを聞きつけたのだろうか、人払いに入れるということを忘れていた。

 

「それにしてもゴミ……じゃない、比企谷君、増えるのね」

 

「見てたのかよ、助けろよ、炎と相性いいだろ」

 

「死にそうになったら流石に助けるつもりだったのよ?」

 

「あ、そう……」

 

 

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 雪ノ下に、肩を貸してもらいながら寮まで帰った。

 小萌先生の家を過ぎて少しした頃に甲高い音が鳴ったような気がしたが、無視した。

 

 

 暗い夜道で会話こそ無かったが雪ノ下は珍しく俺のペースに合わせてくれていた。こうして歩いていると雪ノ下でも怪我人相手には流石に優しいことがわかる。もう夜だというのにシャンプーの匂いが残っているような気がするし、髪の毛は光の無い夜道でさえ艶が見て取れる。長いまつげを持つ目ははっきりとしているし、端整な顔立ちはそれだけで信頼感を感じてしまう程だ。

 

 部屋につくと鍵が開いていた。

 急いで駆けつけたのか、慌てて閉め忘れたのだろう。

 

「? ……締め忘れたかしら……?」

 

 首を傾げながら雪ノ下は部屋の中に入る。

 

 出てきた。

 

「いや、入れよ、何してんの」

 

「ごめんなさい、ちょっとコンビニに行ってくるから」

 

 涼しい笑顔を浮かべて早歩きで去っていく。

 

「なんだあいつ……」

 

 なかなか久しぶりに感じる部屋の中に入る。実際は半日程しか空けていないが、非日常と日常の差はそれほどまでにあるのだ。

 部屋を漂う夕食の匂いが鼻をくすぐる。

 

 わずかに混じる体臭がいいハーモニーを……体臭……?

 

「はちまーん!!」

 

「死ね!!」

 

 

 

 




では、次回はエピローグ!

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