やはり俺の学園都市生活はまちがっている。   作:鴇。

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長く更新していませんでしたね。受験に対してゆっくりめに準備しているところです。一応進学校でして……
読者の皆さんは何の話をしていたかすら覚えていないかも知れません。僕も覚えていません。(おい)
今回の話では最後の方に伏線的なのを張っていますが、適当に書いたので(おい)回収しないかも知れませんが、ちょっと推察してみると面白いかもしれません。多分回収します。


諦めは麻薬のようなもの

第28話

 

 概略は簡単な話だった。

 

 本来は軍事利用するために作られた御坂美琴というLEVEL5のクローン。いわゆる量産型能力者(レディオノイズ)計画。

 しかしそのスペックはオリジナルの1%にも満たず使い物にならないという事で1度計画は中止された。

 

 だが、絶対能力進化(レベル6シフト)計画という計画が持ち上がり、それには当然第1位である一方通行が中心に据えらる。

 

 それは少年ジ〇ンプのように、山篭りして修行とかそういったものではなく。ミサカを2万体2万通りの戦場で殺害することで達成する。

 

「2万体ピッタリ? そんな訳ねぇだろ」

 

 RPGですら経験値の端数はあってないことが多いというのに。

 

「その辺はアレですよ、最初に私が言った、関わらなくても計画が頓挫する理由の一つですね」

 

「それの事なんだが、なんで頓挫するって分かってるんだ?」

 

「まあ、単純な話、採算が合ってないんですよ」

 

 LEVEL6にどれほどの魅力があるのか分からないが、採算度外視というのは有り得ないと思う。

 

「いえ、採算が合わないのはこれからです」

 

「どういう事だ?」

 

「計画が半分まで来た今、この計画を知り、準備をして、動きつつある人間は意外といます。裏表合わせて、ですけどね」

 

 へへっ、と少し笑う。

 彼女もその1人だという事なのだろう。

 

「まぁつまりですね、その抗争によって動く額とか、優しい人が研究所を潰したりで、上から回ってくる金があるとはいえ、その全てを捌くだけの資金はどこにも存在しないんですよ」

 

 おかしい……希望のある話だが、それだけにおかしい。

 

「そんな訳ないだろ、そんなの上だって見越してるはずだろ」

 少なくともアレイスターはそんな馬鹿ではないはずだ。

 

「そうです、だからこそこの計画は頓挫するべくして頓挫する。しかもクローンを一万残して、さらにそれは、上が本当に望んだ形だと言うこと」

 

「まさか……目的が分からん」

 

「そこは私にも何とも言えませんね、第3位をクローンの実験体として選んだ理由もその辺りにあると踏んでます」

 

 大体検討のついてるようなことを言う。

 

「それを踏まえたうえで尋ねます」

 

 一色が深刻な顔で俺を見つめてくる。

 

「先輩が動くことで、想定されていた盤面が崩れる恐れがあります。それはつまり、残り一万のミサカを殺すということにも繋がりかねません」

 

 間が、あった。

 

「それでも、いいですか?」

 

 ……いい。そう答えることができるはずが無い。だが……

 

「それが嘘だったら」

 

「は?」

 

 一色は驚いたような顔をする。

 

「そろそろこの計画が頓挫する。それにしたって確率論だ」

 

「確かにそうですが……」

 

「だったら、俺は……引かせてもらう」

 

 

「あれ?」

 

 一色が驚いたような声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________________________________

 

 悩まなかったわけじゃないが、一色曰く、ほぼ100%この計画は頓挫するのだ。しかも割とすぐにらしい。

 だったら俺がしゃしゃり出てヒーローごっこするのは邪魔なだけだ。

 

「いや、まさかあの流れで手を引くって……どんだけヘタレですか」

 

「うっせぇ、確実な方を選んだほうがいいだろ」

 

「でも本当にそれで良かったんですか?」

 

「それがいいって言ったのはお前だろ」

 

 違う、これは責任転嫁だ。

 

「今日、目の前で人が殺されるのを見て、何も思わなかったんですか?」

 

 頭の中から赤く染まった記憶がフラッシュバックする。だがそれを押し殺して平然を装う。

 

「そもそも邪魔するって言ったって、何をしたらいいかも分からん。クローンに会う確率だって高いわけじゃない」

 

 言い訳だった。手を引かなければ一色に手伝ってもらって研究所の位置だって教えてもらえたかもしれない。そうすれば能力を使って侵入することも簡単だったはずだ。それでも自分の力を信じることは出来なかった。

 

 簡単に言えば、逃げた。

 

「クズですね……」

 

 反論の余地は無い。

 

「じゃあ、また目の前であんな事があったらどうするんですか?」

 

「流石に、無視は出来ない。かも……しれない……でもない……かも?」

 

「クズですね」

 

 さっきよりハッキリと言われる。

 

「でも、それが正解ですよ、きっと……死にますからね」

 

 一色はフォローするような声音だった。口だけの言葉でも、逃げた自分を正当化できて、少しだけありがたかった。

 

 ……そんなことを思えるほど、クズじゃない。

 

 ……でも、今日この瞬間に他人の命を無視出来てしまうほどにはクズだった。

 

「……期待外れでした」

 

「え?」

 

 俺に聞こえるか聞こえないかギリギリの声だった。ともすれば雑踏にかき消されかねないほどの小さな囁きだったが、確実に耳に届いた。

 

 期待外れだった、と。

 

 計算なのか、そうでないのか、定かではないがその言葉は俺の心を確実に炙った。

 しかし、そんな俺の優柔不断さをあざ笑うように一色はケロッとした顔で挨拶をする。

 

「では、また遊びましょうね」

 

 

 一色はそのまま小走りに人ごみに紛れていった。ものの数秒で一色は見えなくなり、気持ち悪い何かを抱いて俺も帰路につく。

 

 最後に一色が言った言葉を言い聞かせるように反芻した。

 期待外れ。

 

 言い聞かせるように言った言葉の数々が全て後悔に変わり、心に深く突き刺さる。

 今もミサカ達は死ぬことが分かっていて逃げずに一方通行に立ち向かっている。

 だったら俺は……どうするべきなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は……

 

 

 

 

「……ッキ…………」

 

 

 

 

 俺は……

 

 

 

 

 

「ヒ……キー……ー!!」

 

 

 

「ヒッキーーーー!!」

 

「あ? 俺は引きこもりじゃねぇよ、こうして外に出てんだろ」

 

「やっと返事してくれたぁ〜! なんか暗い顔してる人今いたから、もしかしてって思ったんだー!」

 

「いや、その判別の仕方はやめてくんない? 俺そんなに暗かった?」

 

「かなり暗かったけど、さっきの子いろはちゃんでしょ?」

 

 そういえば一色も同じ高校だった。それでも面識があるというのも驚きだが女子なら校内全員と仲良くしないといけないのかもしれない。

 

「あぁ、ちょっとそこで会ってな」

 

「……もしかして、彼女……?」

 

「そう見えたんならその目はくり抜いたほうがいい」

 

「だ、だよねー!!」

 

 だよねー!!ってなんだ、目をくり抜いた方がいいことについてなら冗談だからマジにしないで欲しい。

 彼女じゃないことに対してならそれはそれで失礼だろ、彼女いないだけで何でこんなバカにされなきゃダメなん? 罪なの? 童貞非リアはギルティなの? でも純潔なのよ? その価値、プライスレス☆

 

「で、何の用だよ、それだけ? だとしたら俺の戦闘力(コミュ力)を高く見積りすぎたな」

 

 あれ、なんか涙が……

 

「ヒッキー戦闘力低そうだもんねー」

 

「お、おう……で、何の用?」

 

「さっきからそれしか言ってないじゃん……」

 

「早く帰りたいんだけど、で、何の用?」

 

「むー! もういいし!「分かった、じゃあな」待って待って待って!」

 

 こいつ馬鹿だ。どのあたりがって、いちいちの仕草がアホらしい。一色と違ってあざとさが感じられないのは天然物だからだろう。あと服の裾つかまないで下さい、上目遣いもやめてください。ちょっとかわいいとか思っちゃうじゃん。

 

「別に用事があるわけじゃないけど……見かけたから声かけようかなーって、ダメだった?」

 

「ダメです」

 

 男子相手にそんなことしたら、大抵の男子は勘違いして地獄を見る事になる。今のうちに芽を摘んで置かなければならない。

 

「あのな、外出において重要なことを教えてやろう」

 

「え? 突然何の話……?」

 

「まず一つ目、出ない」

 

「出ないの?! 外出してないじゃんそれ!」

 

「まぁ聞け、次、二つ目は、昼時を避ける。理由としては単純で、同じ学校のヤツとでくわす確率をできるだけ避けるため、」

 

「えー……それはちょっと」

 

「ぼっちには死活問題なんだよ」

 

「ふーん……でも私とかゆきのんとかいるからぼっちじゃないじゃん!」

 

「いつから俺とお前が友達になったと錯覚していた?」

 

「ひどっ!? じゃあ今から友達ってことで!」

 

「えっ、お、おう」

 

 正面から言われたら断る理由もないというか、恥ずかしいんだけど、何これ罰ゲーム? あ、はーいはーい、分かっちゃいましたー。罰ゲームだったんですね、これ。

 

「罰ゲームかイジメなら俺に気を使うことは無いぞ」

 

「ヒッキーどんな性格してるの……」

 

 実際ある話だ。友達の家にお誕生日会に呼ばれたと思ったらプレゼント交換会なんてあって、知らされていない俺はその親からも白い目で見られたりするのだ。

 

「んな事言われてもな」

 

 きっと変わらない。変えたくない。

 

「うん、変わらないかもね」

 

 由比ヶ浜は知ったような口調で言う。

 考えていたことをそのまま言われたから少しドキッとした。これが恋……

 

「前にゆきのんと話した時から変わろうと頑張ってるんだけど、あんまり変われないってか、変わったんだけど何も変わらないというか……」

 

 しかし話の内容は自分の事だったようだ。

 前に雪ノ下と話した時といえば、人に合わせすぎという話の事だろうか。

 

「は? なんかの哲学か?」

 

「えっと、なんて言うのかな、勇気出して私は変わったつもりなんだけど、あんまり結果に出ないというか……」

 

 あぁ……そういう。

 

「それはな、お前が悪いんじゃない。世界が悪いんだ」

 

「……ちょっと感動しかけたけどよく考えたら何の解決にもなってないよね!?」

 

「解決させる気なんて無いからな」

 

 解消はする。諦めというのは鎮痛剤であり、睡眠薬のようなものでもある。麻薬のような。

 

「ひどっ!?」

 

 本日2度目のひどっ!? も1度目と変わらないくらい直球だった。

 

「まぁでも、ヒッキーなりに励ましだと思っとく!」

 

「お、おう」

 

 俺はこいつの事がちょっと苦手なのかもしれない。

 由比ヶ浜は純粋で、全部受け入れてしまう。自分や雪ノ下と比べるとそれが顕著で、雪ノ下とは違った魅力を感じる。

 

「よし! じゃあ次はヒッキーの番!」

 

「……は?」

 

「ヒッキーもなんか悩み事あるんでしょ?」

 

 走馬灯のように頭の中をミサカの記憶が駆け巡る。

 

「なんで……」

 

「うーん、なんとなくだけど、いつもだけどいつもより暗い気がする」

 

「……気のせいだろ」

 

「気のせいじゃない。話して」

 

 なぜか突然由比ヶ浜は声を少し低くして、ハッキリと、毅然とした態度をとった。

 話すべきか話すべきではないかは明白だった。

 

「例えばな、ネズミのクローンが実験に2万必要だとするだろ?」

 

「うん」

 

「その2万匹は確実に実験で死ぬけど、確実に人の世のためになる」

 

 『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着く者』が確実に人の世のためになるかは定かではないが、しかし、人間の、少なくとも学園都市の悲願ではあるのだろう。

 

「由比ヶ浜、お前ならその2万匹のネズミを、助けようと思うか?」

 

「…………」

 

 ただ沈黙があった。由比ヶ浜はきっと、その質問に対してだけの答えを出そうとしているわけではないのだろう。俺の言葉の裏を、事情を推察して、その上でどう答えるべきか悩んでいる。

 

 そう悩む人間だというだけで、答えは分かったようなものだ。少なくともこの由比ヶ浜は、助けたいと望むのだろう。

 それが自らの手でか、誰かに頼ってかは分からない。

 

「いや、やっぱいい、ちなみに俺は、仕方ないと思う」

 

「……でも」

 

「でも、でもやっぱり仕方ないんだ」

 

 自分に言い聞かせるように言う。

 どうせすぐに計画は頓挫するんだ。一色か誰かが邪魔をして、一方通行のレベルアップ計画は終了する。

 邪魔しない方がスムーズに進む。

 

「じゃあな、変な話して悪かった」

 

「ヒッキー……」

 

 

 由比ヶ浜から目を背ける。

 振り返る事はなく、振り返ってしまったら、戻れなくなるような気がしていた。

 

 無罪不徳安寧の道を俺は選んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________________________________

 

 

「期待はずれでした」

 

「そうか、それは仕方ないが、ある意味想定以上ともいえる結果だったんじゃないか?」

 

「能力の暴走の時のデータの採取について……ですか?」

 

「そのデータ自体よりも、暴走した理由……それはどう考えても『優しさ』だった。だったら彼は必ず盤面に戻ってくる」

 

「『また』シスターズが殺されるところを見せつけるんですか?」

 

「いや、違う」

 

「だったらどうするんですかー……私これでも本当に先輩に関わって欲しくないんですよ?」

 

「あぁ、分かっている、『向こう側』の君達がシンパシーを感じることくらい、科学的な事実はなくても分かる」

 

「? 何の話か分かりませんけど、先生がそういう時って割と科学的根拠ありますよね……」

 

「まぁそうかもしれないな。でも今回の根拠は体験によるものだ」

 

「はぁ……よく分かりませんね、ってか知的なキャラ演じさせられましたけど、次普通に会うときちょっと恥ずかしくないですか」

 

「いい演技だった」

 

「まぁ別に何でもいいですけど、このあとどうするんですか?」

 

「準備は出来たよ、これが10000から10100までの場所と時刻だ」

 

「はーい、まぁ一応監視しときまーす、じゃあお疲れ様でしたー」

 

 

「……何この私のキャラ、しんどい」

 




最後の二人、一色と……一体誰なんだ!?

ではまた、4月までには投稿したい所存。

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