仮面ライダーアルタ   作:ボルメテウスさん

115 / 118
約束の為に

「先輩、行ってきます」

 

「ええ。来春、国立国会図書館で」

 

つる子先輩の声は静かだった。無事を祈る言葉ではなく、続ける約束を残してくれた。それが今の俺には何より重い。

 

「エクリプスの危険が残っていることは、分かっていますよね」

 

「はい。一人で抱え込みません。津上さんたちと役割を分けて戦います」

 

「なら、いいです。お気をつけて」

 

短いやり取り。だが、それで十分だった。俺は研究室を出た。戻る場所はある。続ける未来はある。それを確かめてから、戦いへ向かう。

 

山間部へ向かう国道をバイクで走らせた。風が冷たい。だが、以前のように腹の奥が軋むことはない。一か月の平穏で取り戻した身体は、確かに応えてくれている。息は切れない。手の震えもない。

 

だが、腹の底にはまだあの感覚が沈んでいる。日食。冷たい水底。エクリプスの記憶。回復した身体と、制御できる力は別だ。使えば届くかもしれない。だが、使った後に誰がいるか分からない。だから使わない。今の俺にできる力で戦う。

 

待ち合わせ場所に着くと、三人が既にいた。津上さん、芦原さん、氷川さん。全員が表情を引き締めている。

 

「結城くん、来たね」

 

「はい。場所は特定できました」

 

「氷川さんから聞いた。東の山間部か」

 

津上さんの目が、東の山並みを見つめている。

 

「ああ。気配が強くなっている」

 

四人で歩き出した。国道を外れ、山道へ入る。舗装された道が終わり、砂利道になり、やがて獣道になる。人の気配が消えていく。鳥の声も止んだ。風だけが木々の間を吹き抜けていく。

 

俺の足取りは軽い。だが、腹の奥でアマダムの欠片が脈動を強めていく。近づいている。津上さんも感じているはずだ。彼の歩みが少しずつ速くなっている。

 

道が開けた。削り出された岩場と土が混じる広場。そこに、二つの影が立っていた。

 

風のエル。

 

鷹を思わせる鋭角の装甲。背中の翼が夜風に微かに揺れている。あいつだ。一か月前、人を透明にして消した。あの瞬間の逃げ遅れた人の顔が、まだ脳裏に残っている。

 

そしてその奥に、もう一つ。

 

地のエル。

 

風のエルよりも更に重い気配。大地そのものを身体に纏ったような、岩と土の質量を持つ巨体。全身を覆う装甲は暗褐色で、その表面には亀裂のような模様が走っている。

 

「お前か」

 

風のエルが俺を見た。あの時と同じ冷徹な複眼。

 

「一か月前、言ったはずだ。終わりは近づくと」

 

「ああ。『やり直す為にアダムとなる』。あの言葉の意味を聞きたい」

 

「意味など必要ない。人間は終わる。新たな始まりの為に」

 

風のエルはそれ以上語らなかった。弓を構える。交渉の余地はない。奴らにとって、今の人間は消すべき旧い世界にすぎない。俺たちの約束も、未来も、全部含めて。

 

芦原さんが前に出た。

 

「風のエルは俺がやる。あいつの動きは知ってる」

 

芦原さんの声は一か月前よりも硬かった。だが迷いはない。

 

「僕もG3-Xで援護します」

 

氷川さんが並んだ。GX-05を構える。二人の背中が、風のエルへ向く。

 

津上さんが地のエルへ向き直った。俺も隣に立つ。

 

「結城くん」

 

「はい」

 

「俺たちはあっちだ」

 

「分かってます」

 

短い声掛け。それだけで十分だった。

 

芦原さんが変身した。金色の光が弾け、エクシードギルスの装甲が現れる。氷川さんのG3-Xも装着完了。装備のロック音が夜気に響く。

 

津上さんが変身した。アンクポイントが黄金の光を放ち、アギトの角が夜空を突く。

 

俺は腹に手を当てた。エクリプスではなく、アビス。深い青の光が俺の身体を包む。黒い装甲。後方へ流れる二本角。深海の色。

 

変身完了。

 

四つの戦士の姿が、二体のエルと対峙する。

 

前方で、アギトとアルタが地のエルを見据える。側方で、ギルスが前衛に立ち、G3-Xが射線を確保して風のエルを牽制する。二組の攻撃経路が重ならない距離。

 

風のエルが弓を上げた。地のエルも岩の拳を構える。

 

俺は津上さんの立ち位置を確認した。隣にいる。同じ方向を見ている。

 

戻る場所はある。続ける約束はある。

 

俺は足に力を込め、津上さんと呼吸を合わせる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。