仮面ライダーアルタ   作:ボルメテウスさん

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第12話

風が、屋上の端で折れ曲がっていた。

排気口の影が長く伸びる。視線を上げた瞬間、黒い影が梁の上を滑った。

 

高い。……届かない。

 

踏み込む。靴底が鳴る。次の瞬間、頭上から風圧が落ちてきた。腕を上げるより先に、床に細い裂け目が走る。

かすっただけだ。それなのに、呼吸が乱れる。

 

「……ちっ」

 

上へ逃げる。いや、逃げてるんじゃない。

測られてる。

 

影は一定の高さを保ったまま旋回する。距離を詰めさせない。近づけば離れる。離れれば、ゆっくり降りてくる。

 

俺の間合いを、なぞるみたいに。

 

「……くそ、なんで降りてこない」

 

足を止めた瞬間、背中の方から小さな声がした。

 

「あのアンノウンは一定に動いて、こちらを観察しています。だから近づいてくる順番があるはずです!」

 

振り向くと、ダクトの影の向こうで、つる先輩がしゃがみ込んでいた。切抜帳を押さえたまま、視線だけが鋭い。

 

観察。順番。

 

言われて、初めて気づく。

同じ軌道。同じ高さ。攻撃の角度も、ほとんど変わらない。

 

……選ばれてる。

 

次の瞬間、影が降りてきた。

踏み込む。けど、わずかに届かない。

空を切る音だけが耳に残る。

 

焦りが、喉の奥で引っかかる。

 

「結城君、無理に追わないでください!」

 

分かってる。分かってるけど――

 

守れない距離がある。

それが、腹の奥を冷やす。

 

ベルトが震えた。

 

最初は気のせいかと思った。違う。

冷たい空気が、装甲の隙間から滲み出す。呼吸が白くなる。

 

足元に霜が走る。音が消える。

 

「……何だ、これ」

 

梁の上の影が、止まった。

初めて、動きを止めてこっちを見ている。

 

ベルトから光が伸びた。

冷たい粒子が固まり、長い柄の形を作る。自然と手が伸びる。

 

握った瞬間、体の感覚が少しだけ遠くなる。

斬るためじゃない。触れればいい。そんな考えが、勝手に浮かぶ。

 

肩から氷が広がる。右側に重さ。視界の端に白い外套みたいな影が揺れる。

 

つる先輩が息を呑む音が聞こえた。

 

「……結城君」

 

返事をする余裕がない。

視線を上げると、バットロードが屋上の縁に降り立っていた。

 

初めて、同じ高さ。

 

風が止まる。

 

握った武器の先から、霜が落ちた。

一歩、踏み出す。床に白い線が走る。

 

向こうも動かない。

観測してる。さっきまでと同じだ。

 

けど、違う。

今は――距離が近い。

 

心臓が速い。焦りは消えてない。

むしろ、静かになりすぎて怖い。

 

「……来いよ」

 

小さく呟く。

影の頭が、わずかに傾いた。

 

その瞬間、右肩の氷が軋む。

装甲の奥で、何かが噛み合う音。

 

俺自身も、まだ分かってない。

けど、確実に変わった。

 

一歩。もう一歩。

 

冷気が屋上をなぞる。

 

――そこで、時間が止まったみたいに静まる。




見出し:
未確認生命体第6号 高所連続殺害事件 “青の4号”初確認か

日付/地域:
数年前/都内沿岸部〜高架エリア

本文(100〜200字):
警察資料によれば、未確認生命体第6号と呼ばれた存在による連続事件では、高所からの襲撃や滑空に近い移動が確認されている。被害者の多くは夜間に単独行動中で、現場には大きな外傷が残らない例もあったという。終盤、現場付近で「通常とは異なる青い姿の4号」が出現したという証言が複数残されているが、公式な発表は限られている。

つる子の注釈:

未確認第6号=蝙蝠型。
夜行性。高所移動。吸収系。

今回の事件と一致点が多い。
ただし行動目的が違う可能性。

注目点は“青の4号”。
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