石段を駆け上がった瞬間、空気の重さが変わった。
境内の灯りが揺れ、社殿の前で二つの影がぶつかり合っている。アギト。その向こうに、青い蛇のような身体をしたアンノウンと、鞭を振るう細身のアンノウン。名前は分からない。ただ、アンノウンだと身体が告げていた。
胸の奥がざらつく。
あのアギトに弾かれた時の衝撃が蘇る。敵なのか、味方なのか。判断が追いつかないまま、足だけが一歩前へ出た。
「……つる先輩、ここで」
背後に小さく頷く気配。
次の瞬間、鞭が空気を裂いた。細身のアンノウンの腕から伸びたそれが、アギトの死角へ吸い込まれていく。身体が先に動いた。
武器を振り上げ、軌道をずらす。
乾いた音が夜に散った。鞭は石畳を打ち、細い亀裂を残す。手首に鈍い衝撃が走り、呼吸が浅くなる。
アギトが振り向いた。
目が合う。言葉はない。けれど、以前見た揺らぎが少ない。視線がまっすぐで、空気の押し返し方が違う。迷いが消えたような、でもどこか遠い感じ。
青い蛇の指出しアンノウンが地面を滑るように距離を詰める。
細身のアンノウンは鞭を弧にして間合いを測っている。二方向からの圧。背中に、黄金の気配が寄った。
いつの間にか、背中合わせの形になっていた。
視線は合わせない。ただ呼吸だけが揃う。拳が風を切り、こちらの肩越しに衝撃が走る。自分は鞭の線を断ち、近づかせない。斬るためじゃない。触れて、動きを鈍らせるために振るう。
「……動き、一定です」
思わず声が漏れる。
すぐに言い直す。
「……あのアンノウン、同じ間隔で観察してます。近づく順番、決めてるはずです」
背中の気配は応えない。
それでも、次の一撃の角度が変わった。拳が鋭く前へ出て、青い蛇のアンノウンを避けさせる。砂利が跳ね、灯籠の火が揺れる。
鞭のアンノウンが焦れたように円を描く。
武器の先で引っ掛け、軌道を外す。触れた瞬間、動きがわずかに鈍る。確信はない。ただ、手応えが変わった。
息が荒い。
不慣れな武器が手の中で重く感じる。それでも、以前より当てやすい。けれど――このまま戦い続けていいのか、不安が胸の底に残る。
アギトが一歩前へ出る。
背中の熱が離れ、空気が一気に前へ流れた。自分は半歩下がり、鞭のアンノウンとの距離を保つ。決めるのはあの背中だと、身体が理解している。
境内の奥で衝撃音が弾けた。
光が揺れ、影が大きく跳ねる。息を整えながら、視線を上げる。アギトは振り返らない。けれど、さっきよりも遠く感じない。
夜の風が頬を撫でた。
敵か味方か。答えはまだ出ない。ただ、今は同じ方向を向いている――そんな感覚だけが残っていた。