仮面ライダーアルタ   作:ボルメテウスさん

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Gの歴史

「さて、G3だったね」

 

高村教授はそう言いながら、机の端に置かれたノートパソコンをこちらへ向けた。

研究室の蛍光灯が画面に白い筋を作り、そのせいで文字が一瞬だけ読みづらくなる。けれど、教授の指がトラックパッドを滑らせるたび、資料は迷いなく次の頁へ進み、まるで“答え”へ最短距離で案内されているようだった。

 

画面に並ぶのは幾つかの資料。

図面、仕様書、運用記録らしき文章、そして――写真。

 

その中で、俺が思わず眼を向けたのは。

 

「これって、4号!」

 

声が勝手に出た。

自分でも驚くほど、喉の奥が熱くなる。

そこに写っていたのは、これまで見た青いパワードスーツとは違う。

青い鎧は、あくまで“人間が作った正義”の匂いがした。

だが画面のそれは、もっと露骨に“あの輪郭”だった。

 

角。

胸の形。

全体のバランス。

まるで4号をそのままパワードスーツにしたような代物。

 

高村教授は俺の反応を確かめるみたいに一拍置いてから、淡々と読み上げるように説明を続けた。

 

「過去に日本全国を震撼させた未確認生命体関連の事件再発に備え、警視庁が設立した未確認生命体対策班用に開発されたものである。

頭文字の『G』はGENERATIONを意味し、開発コンセプトなどが変更される度にナンバリングも都度更新されている」

 

画面の文字が、ただの情報として頭へ入ってくるはずなのに。

俺の中では、別のものが反射していた。

河川敷。雨。増水。息ができない。

水面越しに見た背中と角。腹部で揺れた小さな光。

 

「……」

 

言葉が出ない。

出るべき言葉はたくさんあるのに、喉の奥が湿って、全部が泡になる。

 

「どうかしたのかね?」

 

教授の声が俺を現実へ引き戻した。

つる子先輩がすぐ隣で、俺の沈黙を拾い上げるように言う。

 

「その、彼は過去の4号に助けて貰った事もあって、4号に凄い憧れを持っているんです」

 

先輩の言葉は、俺の空白を“説明”に変えてしまう。

助けられた。憧れている。

それは確かに嘘じゃないのに、真実の全てでもない。

俺が抱えているのは憧れだけじゃなくて、理解されないまま埋められた恐怖と、意味が消された違和感だ。

 

高村教授は、少しだけ眉を上げた。

それから軽く頷き、画面を指先で示した。

 

「そうだったのか。まぁ私から言わせれば、これらと4号を同じにしてはいけない」

 

「えっ、そうなんですか」

 

俺の声は自分のものに聞こえない。

4号の輪郭と、目の前の資料が、同じ画面の中で重なっている。

それが同じではないと言われると、安心と落胆が一緒に来た。

 

「まぁ、確かに力としては、G1は4号と同じ力を持っているが、人が扱える代物ではない。

続いてのG2も腕時計型コントローラーから命令を送ることで操作を行うシステムとなっているが、一方では搭載された人工知能の欠陥で行動中に命令を無視して暴走し、敵味方の区別なく手当たり次第に攻撃するという重大な欠点も抱えており、実際過去に暴走して甚大な被害を出した」

 

言葉が、冷たい。

研究者の言葉はいつも冷たい。

冷たいからこそ、そこに滲む熱が怖い。

 

――命令を無視して暴走。敵味方の区別なく攻撃。

それは、数日前の昼に見た青い鎧の動きと、嫌なほど重なる。

あれは暴走だったのか。

それとも“欠陥ではなく仕様”だったのか。

 

俺の背中に、薄く汗が滲んだ。

腹の奥が、わずかに回転する感覚がする。

この研究室の中で変身なんてしない。

しないのに、身体が勝手に“戦いの形”を思い出そうとしている。

 

「なっ、なんというか⋯これまでの事を聞くと、以前、見かけた時とは力があまりにも違うような」

 

口に出してから、自分が“違い”に縋っているのが分かってしまう。

同じなら怖い。

同じなら、あれは4号の延長になってしまう。

俺の憧れが汚れてしまう。

だから違っていてほしい。

 

教授は小さく息を吐いた。

呆れに似た声の温度で、けれど視線はどこか誇らしげだった。

 

「G1、G2の反省を踏まえ、より実用的なシステムとして開発されたからね。こっちは実用性重視という事だからね。全く、才能だけは本当にな」

 

“才能”。

その単語が、妙に引っかかった。

技術の話をしているはずなのに、そこに人間の影が差し込んだ気がした。

 

「知っているんですか、開発者を」

 

俺が訊くと、教授は当然のように頷いた。

それが当然であること自体が、研究の世界の繋がりを示している。

人は、知らないところで繋がっている。

だからこそ、知らないところで巻き込まれる。

 

「あぁ、今は警視庁に所属しているよ。それにしても」

 

教授の言葉が一度だけ止まる。

画面から視線を外し、俺の目を見た。

さっきの測定するような目ではなく、もっと現場寄りの目。

人の顔を見て、危険の匂いを嗅ぎ取る目。

 

「えっと、なんでしょうか」

 

喉が鳴る。

昼の研究室なのに、空気が少しだけ沈む。

黒い水面のように、静かに広がっていく。

 

「……いや、もしかしたら、君は面倒な事に巻き込まれるかもしれないな」

 

その言葉が落ちた瞬間、俺の腹の奥が冷えた。

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