「……っ」
直感で分かった。
さっきまで相手にしていたアンノウンとは、明らかに違う。
黄金。
夜の工場の中で、その色は異質だった。
月光を反射する輪郭、均整の取れた体躯。
そして――どこかで見覚えのある、戦うためだけに研ぎ澄まされた立ち姿。
まるで、
四号を思わせる存在。
考える暇はなかった。
黄金の影が、一歩踏み込む。
空気が鳴り、拳が迫る。
速い。
重い。
反射的に、両腕を交差させて受け止めた。
「ぐっ……!」
衝撃が、骨を叩く。
腕の内側から、痺れが一気に広がる。
脚に力を込める。
踏ん張る。
だが、完全には止められない。
後方へ、押し出されるように下がる。
コンクリートを削りながら、靴底が滑る。
——殺しきれない。
そう理解した瞬間、
身体を捻り、衝撃を逃がす方向へ力を流した。
次の瞬間、
身体が宙を舞った。
吹き飛ばされた。
だが、致命的なダメージではない。
空中で、体勢を整える。
腰を軸に、身体を回転させる。
着地。
膝を折り、衝撃を吸収する。
腕の痺れは残っているが、動ける。
——逃がせた。
それができた理由は、分かっている。
腰のベルト。
そこから、断続的に流れ込んでくる情報。
戦い方。
身体の使い方。
受け流し、殺し、立て直すための“記憶”。
「……これは、一体……何が……」
背後から、機械越しに聞こえる声。
四号。
——いや、彼自身だ。
戸惑いを隠せない声色。
自分が知らない“戦場”に立たされている困惑。
その声に反応するように、
黄金の影が、彼へと視線を向けた。
次に来たのは、さっきのような一撃じゃない。
軽い。
速い。
間断のない連撃。
拳。
肘。
蹴り。
「なっ……!ぐっ……がぁぁ!!」
四号の身体が、耐えきれずに弾かれる。
一発一発は致命じゃない。
だが、確実に体力を削る打ち方。
近くのフェンスに叩きつけられ、
金属音と共に身体が崩れ落ちる。
——まずい。
このままでは。
理解するより先に、身体が動いた。
走る。
距離を詰める。
二人の間へ、割り込む。
次の拳を、真正面から受け止める。
「ぐっ……! はぁ……!」
衝撃が、また腕に走る。
だが、今度は逃がさない。
踏み込み、腰を落とす。
力を分散させる。
背後で、かすれた声が聞こえた。
「……守って……くれたのか……」
返事をする暇はなかった。
次の瞬間、
彼の身体から力が抜ける気配。
——気絶。
その重みを、背中で感じる。
だが、立ち止まれない。
目の前の存在は、
遺跡で戦ったアンノウンよりも、
豹のアンノウンよりも――遥かに強い。
「くっ……!」
息を整えながら、構える。
こうして、なんとか戦えている理由。
それは、未だ正体の分からない“記憶”だけ。
互いに拳を打ち合う。
蹴りが交錯する。
火花が散り、
空気が震える。
やがて、距離が開いた。
——変わった。
相手の気配が、一段階、深く沈む。
あれは。
さっき、俺が放った蹴りと同じ。
必殺の構え。
俺も、すぐに構える。
死ぬかもしれない。
それでも、逃げない。
身体を低くし、
重心を定め、
次に来る一撃に備える。
けれど――
「……はっ」
黄金の影が、動きを止めた。
自分の手を見る。
何かを確かめるように。
戸惑い。
混乱。
次の瞬間、
後退。
距離を取り、
そのまま夜の闇へ溶けるように去っていった。
「…………」
何が起きたのか、分からない。
まるで、
自分の意思で戦っていないような挙動。
試していたのか。
確かめていたのか。
答えは、残されなかった。
遠くで、サイレンの音。
近づいてくる。
確実に。
このままでは、
警察に見つかる。
俺は、すぐに振り返り、走り出す。
「つる先輩! 大丈夫ですか!」
物陰から、顔を出したつる先輩が頷く。
「えぇ。それより、早くこの場を離れますよ!」
「はい!」
言葉を交わすのは、それだけ。
すぐにバイクへ向かい、跨る。
エンジンが唸りを上げる。
次の瞬間、
俺たちは夜の工場を後にした。
背後で、サイレンが鳴り続けている。
分からないことだらけだ。
だが、一つだけ、確かなことがある。
——この戦いは、
まだ、始まったばかりだ。
見出し:
工場地帯で不可解な騒乱 未確認出現か、正体不明の介入者も
日付/地域:
2001年○月○日深夜 東京都湾岸部・工業地帯
本文(〜200字):
深夜、工場地帯にて正体不明の騒乱が発生し、通報を受け警察が出動した。現場では大型の獣に似た影が複数目撃されたとの証言があり、一部では未確認生命体の関与が疑われている。また、現場付近では未確認とも警察装備とも異なる存在が確認されたという情報もあり、詳細は現在も調査中。現場には激しい衝突の痕跡が残されていたが、関係者の姿は発見されていない。
つる子の注釈:
複数の“型”が同時に現れている。
未確認だけでは説明がつかない。
特に「介入者」の証言が曖昧なのが気になる。彼以外の存在の、特にあの黄金の4号に似た存在が気になる。
見間違いではなく、分類できない存在がいた可能性。
——これは、偶発的な事件じゃない。