大剣を構えた俺の隣に、灼熱を纏った紅蓮の戦士が並ぶ。
言葉はない。 視線を交わす必要すらなかった。 ただ、互いの呼吸が揃った瞬間、俺たちは同時に動き出していた。
「せいッ!」
津上さんの裂帛の気合いと共に、彼の手に灼熱の薙刀、薙刀が顕現する。
それを、まるで己の四肢のように振るい、鯨のアンノウンの側面へと斬り込んでいく。
ギャリィン!
溶岩のような刃が、青銀色の装甲を抉り、火花を散らす。 アンノウンが不快そうに巨体をよじり、その長大な得物を津上さんに振るおうとした。
「そこです」
俺は、その一瞬の隙を見逃さなかった。 身の丈ほどの大剣を盾のように正面に構え、一気に踏み込む。 鯨のアンノウンの一撃が、こちらの意図を読んだかのように、大剣の腹へと叩きつけられた。
ドガァァン!
耳をつんざく衝撃音。 腕がちぎれそうな重圧が全身を駆け抜ける。 だが、俺は歯を食いしばり、アビスの要領でその衝撃を両足から地面へと逃がした。 足元のコンクリートが粉々に砕け散る。 俺は一歩も退かない。 これが俺の役目だ。 俺が受けている間に、津上さんが動く。
「はあああっ!」
再び津上さんの薙刀が唸り、アンノウンの背中を深く斬り裂く。 鯨の巨体が、明確な苦痛の反応を示して仰け反った。 冷徹な捕食者だったそいつの動きに、焦りと苛立ちが混ざり始める。 津上さんの猛攻と、決して崩れない俺の防御壁。 二つの異なる戦法が、巨大な鯨を確実に追い詰めていく。
津上さんの薙刀が、唸りを上げて弧を描く。 俺の大剣がその長大な得物を受け止め、弾き返す。 俺たちの連携は、まるで何年も前から組んでいたかのように噛み合っていた。 鯨のアンノウンの銀色の装甲には、無数の傷が刻まれ、その動きは明らかに鈍っている。 押している。 そう確信した瞬間だった。
奴の動きが、ぴたりと止まった。
まるで深海に沈むように、その場の空気が静寂に変わる。 鯨のアンノウンは、傷ついた巨体をゆっくりと起こし、俺と、そして隣の津上さんを、順番に見下ろした。 その複眼に宿るのは、もはや獲物を見る捕食者の色ではない。 何かを理解し、呑み込もうとする、深い観察者の光だ。
「……そうか」
低く、地の底から響くような声が、廃墟に染み渡る。 俺は、大剣を構えたまま、ごくりと唾を飲み込んだ。
「アギトとは、限りなく進化する者」
奴の視線が、灼熱を纏う津上さんへと向けられる。 バーニングフォーム。 その姿は、まさしく無限の進化の過程そのものだ。
「そして、古の力もまた、進化するのか」
今度はその漆黒の複眼が、俺を射抜く。 トリニティフォーム。 アマダムの欠片とアギトの力。 二つが混ざり合った異形の進化。 その事実を奴は今、確かに理解したのだ。 俺の背筋を冷たいものが走り抜ける。 観察されている。 記録されている。 この力の在り方が、奴の中で辞書化されていくような、底知れぬ恐怖。
そして、言葉を終えた鯨のアンノウンの巨体が、まるで水面に溶けるように、その場から掻き消えた。 あとに残るは、静寂と倒れた二人の呼吸だけ。