仮面ライダーアルタ   作:ボルメテウスさん

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もう1人のアギト

つる子先輩の仮説を聞いて、しばらく俺たちは黙り込んでいた。

 

窓の外はすっかり暗くなり、図書館の蛍光灯だけが俺たちの周囲を照らしている。閉館時間を過ぎているのに、司書の人も声をかけてこない。こういう時に限って、妙に気を遣われている気がする。

 

「アギトになる可能性を持つ人間を、芽の段階で摘んでいる…か」

 

俺は自分の掌を見つめながら、ぽつりと呟いた。この手に宿った力は、果たして俺自身のものなのか。それとも、アマダムの欠片に寄生された結果に過ぎないのか。

 

「結城くん、あなたはどうしたいんです?」

 

つる子先輩が、静かに問いかけてくる。彼女はこういう時、決して答えを急かさない。ただ、俺の言葉を待ってくれる。

 

「俺は…」

 

言いかけた時だった。

 

ぞわり。

 

背筋を這い上がる、冷たい感覚。アンノウンの気配。遠い。まだ遠いが、確実に何かが動いている。変身していなくても、この感覚だけは研ぎ澄まされていた。

 

「…すみません、先輩。また後で」

 

「え、結城くん?」

 

俺は立ち上がり、椅子に掛けていたジャケットを手に取る。つる子先輩が何か言おうとするのを遮って、俺は軽く頭を下げた。

 

「説明は後で聞きます。今は、行かないと」

 

「…わかりました。でも、無茶はしないでくださいまし」

 

彼女のその言葉に、俺は小さく笑って頷き、図書館を飛び出した。

 

夜風が冷たい。駐輪場に停めてあるバイクに跨がり、エンジンをかける。ヘルメットを被る間も惜しくて、俺はそのままアクセルを捻った。

 

感覚を頼りに走る。街灯の光が途切れ途切れに流れていく。住宅街を抜け、国道に出て、やがて潮の匂いが強くなってきた。

 

港だ。

 

コンテナが積み上げられた無機質な風景。昼間は作業員で賑わうこの場所も、夜になれば人気はない。クレーンのシルエットが、闇の中で巨大な骸骨のように浮かび上がっている。

 

俺はバイクを停め、ヘルメットを外した。

 

物陰に身を潛めながら、気配の中心へと近づく。波の音に混じって、何かがぶつかり合う鈍い音が聞こえてきた。

 

コンテナの影から、そっと顔を出す。

 

「…誰だ」

 

俺は思わず声を漏らした。

 

月光を背に受けて立つ、一つの影。人間の形をしているが、明らかに普通の人間ではない。

 

だが、俺の知っている津上さんのアギトとは違う。もっと鋭利で、どこか冷たい印象のフォルム。それに、津上さんなら、俺は気配でわかる。これは、別人だ。

 

「もう一人、アギトがいる…?」

 

港の潮風が、錆びた鉄の匂いを運んでくる。

 

コンテナの隙間から覗いた先にいたのは、見たことのないアギトだった。

 

黒と深緑。生物的な装甲が全身を覆い、背中からは橙色の翅のような器官がマフラーのように伸びている。頭部の角は金色に輝き、巨大な赤い複眼が闇の中で不気味に光っていた。

 

「…誰だ」

 

俺は声を潛めて呟く。津上さんじゃない。芦原さんでもない。氷川さんのG3-Xでもなければ、無論俺のアルタでもない。

 

そのアギトの前には、二体のアンノウンが立っていた。見たことのない形状。亀に似ているが、甲羅の代わりに無数の棘が生えている。

 

アンノウンが動いた。鋭い爪を振りかざし、そのアギトへと襲いかかる。

 

しかし、次の瞬間だった。

 

そのアギトは、最小限の動きで敵の攻撃を受け流すと、無駄のない拳を叩き込んだ。一撃。ただの一撃で、アンノウンの一体が爆散する。

 

「…っ」

 

俺は息を呑んだ。強い。明らかに、これまでのアンノウンとは格が違う戦い方だ。そしてもう一体も、蹴り一閃で仕留めてしまう。無駄な動きが一切ない。まるで戦うことだけを目的に生まれたような、研ぎ澄まされた殺意。

 

アンノウンが消滅した後、そのアギトはゆっくりと辺りを見回した。そして、俺の隠れているコンテナの方向で、その動きが止まる。

 

まずい、気づかれたか。

 

俺はベルトに手を伸ばそうとして、しかしその手を止めた。あのアギトの複眼が、じっと俺を見ている。値踏みするような、あるいは排除すべき対象かどうかを判断するような、冷たい視線。

 

ぞくり、と背筋に悪寒が走る。

 

あのアギトから感じるのは、アンノウンとは違う種類の危険だ。津上さんや芦原さんから感じるものとも違う。もっと根源的な、他者を許容しない排他的な意志のようなもの。

 

「…退け」

 

低く響く声。それは、人間の言葉というより、獣の唸り声に近かった。

 

そのアギトは、俺にそう言い放つと、背中の翅を翻して跳躍する。クレーンの影に消え、気配もすぐに遠ざかっていった。

 

俺は、しばらくその場から動けなかった。

 

「今のは…一体」

 

津上さんのアギトとも、芦原さんのギルスとも違う。あれは、もっと別の何かだ。俺と同じように、力を使いながら人間から遠ざかっているのか。それとも、最初から人間であることを捨てているのか。

 

どちらにせよ、あのアギトは危険だ。理屈じゃなく、本能がそう叫んでいる。

 

俺は携帯を取り出し、つる子先輩の番号を呼び出した。これは報告しておかないと、まずい。

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