廃工場の闇の中、黒緑の巨躯が立っていた。
赤い複眼が、俺を捉える。その光は、港で見た時よりもさらに苛立っているようだった。
「また貴様か」
低く、唸るような声。
木野薫。あの男の姿はないが、この殺気から間違いない。
奴は、俺が再び立ち塞がったことに、明確な不快感を露わにしていた。
「邪魔をするな。貴様などに、用はない」
「用がなくても、俺にはあるんですよ」
俺は構えを取る。トリニティフォームの装甲が、夜光に鈍く輝いた。
奴が踏み込む。爆発的な加速。
右の刺突が俺の顔面を狙う。
俺は上半身を逸らし、カウンターで左の裏拳を奴の側頭部へ叩き込む。
ガギン!
重い金属音が響き、奴の首がガクンと揺れた。だが、倒れない。
奴はその反動を利用し、回し蹴りを放ってくる。
俺は腕でガードし、衝撃を受け流す。
速い。重い。
そして、俺も負けていない。
この姿になってから、奴の動きがより鮮明に見えるようになっていた。
奴の拳をいなし、俺の蹴りが奴の腹を捉える。
奴が俺の胸板を殴り、俺が奴の肩を払う。
一進一退。まさに互角の攻防だった。
廃工場に、激突の音が絶え間なく響き渡る。瓦礫が砕け、鉄骨が歪む。
だが、決定打がない。
奴もまた、俺の大剣による迎撃を懸念しているのか、致命的な隙を与えてこない。
膠着状態。
その時だった。
遠くから、風を切る音が近づいてきた。
ウウゥゥン…
サイレンだ。それも、猛スピードでこちらへ向かっている。
俺ともう1人のアギトは、一瞬だけ攻撃の手を止め、音のした方へ視線を向けた。
闇を切り裂いて、一台のパトカーが廃工場へと侵入してきたのだ。
タイヤを鳴らし、砂煙を上げて急停止する。
運転席のドアが開き、長い髪を振り乱した女性が飛び出してきた。小沢さんだ。
そして助手席からは、見慣れた革ジャンの男が姿を現す。
津上さんだ。
「くそっ、間に合ったか!」
小沢さんが叫ぶ。
津上さんは、俺ともう1人のアギトの対峙を見て取ると、その場で腰を構えた。
黄金の帯が巻き付き、風のエネルギーが収束していく。
「変身!」
津上さんの叫びと共に、閃光が走る。
黄金の戦士。
そこに現れた。
二本角が夜空を突き、複眼が力強く輝く。
「津上さん…!」
俺は思わず呟いた。
もう1人のアギトの赤い複眼が、苛立ちを増して激しく明滅する。
「貴様ら…アギトを名乗る、贋物どもが…!」
奴の殺気が膨れ上がる。
だが、これで形勢は逆転だ。
「行きましょう!」
俺は叫び、地面を蹴った。
津上さんも無言で頷き、左右に別れてもう1人のアギトへと迫る。
奴は俺の左フックを回避し、背後から迫る津上さんのキックを肘で受け止める。
だが、その隙を俺は見逃さない。