俺と津上さんの呼吸が、驚くほど噛み合っていた。
言葉など必要ない。
津上さんが右へステップを踏めば、俺は自然と左へ流れる。彼が正面から拳を打ち込めば、俺はその背後から重い蹴りを叩き込む。
二対一。数的優位だけでなく、全く異なる性質の力が渦を巻き、謎のアギトを圧倒していく。
「ぐっ…!」
謎のアギトが苛立ちの声を漏らす。
奴の反応速度を上回る連携。津上さんの鋭い突きを腕で防げば、今度は俺の重い盾打ちが脇腹を襲う。防御のリズムを崩された奴の姿勢が、ついに崩れた。
「今です!」
俺の叫びに、津上さんが応える。
彼の頭部にあるクロスホーンが、力強く展開した。
同時に、俺の全身にもトリニティのエネルギーが集中していく。
右脚に地の重圧、左脚に風の加速、そして全身に水の波動。
アンクポイントが激しく輝き、全身の力を右足へと収束させる。
俺たちは同時に地を蹴った。
跳躍。
津上さんは右足を、俺は右足を、それぞれに極限まで高めたエネルギーを宿して宙を舞う。
謎のアギトは迎撃しようと構えたが、二方向からの同時攻撃には対応しきれない。
津上さんのキックが、奴の左肩を捉えた。
そして、その衝撃でできた隙間へ、俺の蹴りが叩き込まれる。
ドォォォォン!!
凄まじい衝撃波が廃工場を震わせた。
三位一体の力と、大地の力が交差し、爆発的な光となって弾けた。
謎のアギトの巨体が、砕石のように後方へと吹き飛ぶ。
鉄骨をなぎ倒し、コンクリートの壁を突き破って、奴は廃工場の外へと転がり出ていた。
俺と津上さんは着地し、瓦礫の向こうへと視線を向ける。
煙が立ち込める中、黒緑の巨躯がゆっくりと立ち上がった。
予想以上にタフだ。だが、無傷というわけではない。装甲のあちこちに亀裂が走り、動きに明らかな支障が出ていた。
だが、奴はこちらを睨みつけることはしなかった。
その赤い複眼は、自身の身体へと向けられている。
まるで、体内で暴れる何かに耐えるかのように、奴は自分の腕を抱え込んでいた。
「…くっ…」
苦悶の声。
外部からのダメージだけではない。何か別の、内側からの崩壊に近い痛みを感じているようだった。
奴はふらつきながらも、俺たちへ背を向けた。
追撃しようと身じろぎした俺を、津上さんが手で制する。
「待て」
短い言葉に、俺は足を止めた。
謎のアギトは、一度も振り返ることなく、夜の闇へと溶けるように消えていった。
ただ、重い足音だけが、遠ざかっていく。
俺たちは並んだまま、その背中を見送った。
変身が解け、生身の身体に戻ると、激しい疲労感がどっと押し寄せてくる。
隣の津上さんもまた、肩で息をしていた。
「…助かりました、津上さん」
「ああ。あいつ、強かったな。でも…」
津上さんは、謎のアギトが消えた方向を案じるように見つめていた。
「俺たちで止めないと。あのまま暴れられたら、本当に誰かが死ぬ」
俺は頷いた。
あのアギトが抱えていた痛みの正体は分からない。
けれど、それが爆発する前に止めなければならない。それは、俺たちにしかできないことだ。
夜風が、汗ばんだ肌を冷やしていく。
戦いは終わっていない。だが、一人じゃない。そう思うだけで、この暗闇も少しだけ明るく感じられた。