ドラゴンクエスト10 バージョン7.6 トゥルーエンド 作:zenshin busu
原作:ドラゴンクエスト10
タグ:ドラゴンクエスト ドラクエ ドラクエ10 ドラゴンクエスト10 ドラクエX ドラゴンクエストX
あのアストルティアは新生ポルテによって作られた別物だと思いますし、師匠が帰ってきていないのにハッピーエンドかのような終わり方だったのが私としては受け入れられなかった。
この物語は、あのラストの先に描かれるべきトゥルーエンドを私なりに考えて書いたものです。
ドラクエ10内にある設定や概念を活かし尽くして、師匠を救い出しアストルティアも元の世界に戻すという紛れもないハッピーエンドを実現させたつもりです。
ドラクエ10を知らない人もぜひ読んでいただきドラクエ10に興味を持っていただければ。
「……」
つかの間の平和を、ここエテーネの村で過ごし始めて数週間が経った。
ネルゲルに命を奪われ私の人生が世界を救う戦いの旅へと変わってから、平和な日々はいつだってつかの間だった。
今と同じくらい死と隣り合わせの激しい戦いから離れられたのは、キュロノスとの戦いが終わった後くらいだろう。
あの時は魔界の門が開いてヴァレリアが侵略に来るまで1ヶ月くらいはあったかな。
あの時も今回も、世界崩壊を無かったことにするという点で同じだし奇妙なデジャブを覚えている。
でも、あの時とは明確に違う。
ポルテから貰ったヘアピンを手に取り見つめる。
世界が創生された後、ポルテは消えた師匠の目撃情報を聞いたと言って私と共にアストルティア各地を探しに行った。
結局、師匠はいなかった。
…そもそも、師匠があの遺言を残していたのもおかしい。
あの時、師匠とポルテが1つに戻った時もうあのポルテは二度と現れないと言っていたのは他ならぬ師匠だ。
なのにアストルティアに1人残されたポルテにメッセージを残すはずがない。
この世界はやはり以前とは違うように感じてしまう。
私が創失してからの悲劇が全て「起きなかった」世界、つまり平行世界でしかないのではないか?
私がいた世界には師匠がいた。師匠が化身であるアストルティアだった。
ここはそうではない。
深くため息をつく。
〇〇はヘアピンを軽く握りしめ寂しげに空を上げた。
「隊長…、最近元気ないんだ。」
ポルテが暗い表情でそう呟く。
ラキはゼニアスの主神となってからも時たまエテーネの村にポルテの様子を見に来ている。
ラキも〇〇の最近の変化には気付いていた。
師匠を探しに清き水の洞窟に共に行き、そこで本物の師匠はこの世界にいないという事実を共に目の当たりにしたあの日からラキはポルテのことも心配だった。
『あたし、お師匠様に心配かけないよう頑張るよ!』
ポルテは口ではああ言ってたけど、あの日からどんどん元気が無くなっている。
やっぱり、師匠がいなくなった寂しさはそう簡単に消えないんだ。
「ポルテもずっと寂しそう。〇〇も同じ。2人とも師匠がいなくなったことが辛いんだ。」
「そう…なのかな。ダメだなあたし。師匠に心配かけないって決めたのに。」
杖をグッと握りしめるポルテ。
「本音を言うとさ…、師匠がいないと前と同じアストルティアだって思えない気持ちもあるんだ。あたしは本当なら師匠が生み出した欠片の存在だった。それなのに今はあたしがあたしとして居る…。同じアストルティアの化身でも、やっぱり前とは違うよ…。」
「…」
「それに…あたしはもう消える覚悟で師匠とひとつになった。師匠もそう言ってた。なのに、師匠があたしにあんなメッセージを残してたのはおかしいなって最近気付いたの。だから多分、あれはあたしがアストルティアを創生する時に無意識に望んだ存在なんだと思う。幻でもいいから、最後に師匠に会いたいって…。」
語りながらポルテの目には薄らと涙が浮かんでいた。
「でも本当は寂しいよ…。もっと色んなこと師匠に教えてほしかった。師匠にも色んな美味しい物食べてほしかった…!あんな最期なんてあんまりだよ…。」
「……。」
「ごめんね、ラキ。何のことか分からないよね…。」
「いや、分かるよ。ラキやグラさん達は神の力を持ってるから創失の影響は受けてないんだ。何があったかは知ってる。ポルテの師匠は創絶を招くものになり全部無くなっちゃった後にポルテが新しくこの世界を作ったんでしょ。」
「え!?そんな、あたしと隊長しか覚えてないと思ってたのに…。でも、その方がありがたいかも。あたしと隊長だけじゃやっぱし心細かったもん…。」
「…師匠に会う方法は…まだあるかもしれない。」
ラキが唐突にそう言った。
「…え…?」
ポルテは言葉を失う。
「創絶を招くものは自分自身を創失させた。誰だろうと創失した者は創失の世界に囚われるはず。あの世界に、今もいるはず。」
「でも、あの世界に行く方法なんてないし…ていうか行けたとしても創絶を招くものがいるんじゃん!師匠はいないんだよ!」
「師匠は…創絶を招くものの中にいるはず。でもラキに思い付くのはここまで。どうすればいいかは分からない…。」
「うぅ…、そうだよね…。でも…考えもしなかったな。もう一回創失の世界に行けばもしかしたら…なんて。うん!せっかくラキが閃いてくれたんだもん!賭けなきゃ損々、だよね!隊長に話してみる!ありがとう、ラキ!」
いつものように右手を天に掲げ満面の笑顔で意気込むポルテ。
それを見てクスッと苦笑するラキ。
「〇〇とポルテが元気ないとラキも悲しいから。世界を救った二人にはわがままを言う資格があるよ。グラさんや他の人にも訊いてみるといい。」
かくして、サブストーリー「やっぱり師匠に会いたいよ!」は始動する。
─────────────────────────────────
「隊長!師匠を、復活させられるかも!」
ポルテが息を切らせて私に会いに来て開口一番そう言った。
「隊長も、師匠がいないからずっと元気ないんだよね?あたしもなんだ…。やっぱり師匠がいないアストルティアは前と同じと思えないよ。それでね、ラキが創失の世界にまだ師匠の魂が残ってるかもしれないって。ねぇ隊長、いるかどうかはまだ分からないけど…やってみない?お師匠様捜索隊、復活だよ!」
「ポルテ…」
自分が情けなかった。
せっかくポルテが新たなアストルティアを創生し平和な毎日を歩めるようにしてくれたというのに。
私は今共に生きているこの子の横で、この子に伝わる形で以前のアストルティアを求めていた。
私に気を遣わせている。
「ごめんね、ポルテ。私人でなしだよね。ポルテはポルテなのに、まるで私この世界が偽物みたいな態度ずっととってて…」
「ううん!違うよ!あたしもなの!隊長の気持ち、分かるんだ。あたしもね、ホントに隊長の知るポルテなのか自信ないんだ。だって、今のあたしは世界樹の種から創生された存在。師匠や隊長…皆との思い出も、隊長と一緒に創絶を招くものと戦った記憶もあるけどその時のあたしの体はどっちも消えちゃったでしょ?今のあたしはただポルテの記憶を持ってるだけの別人なんじゃないかって思う時あるんだ。アストルティアもそれと同じで元通りの世界かどうか不安なの。でも、もし師匠が帰ってきてくれたら…紛れもなく創生前のアストルティアの化身の師匠が帰ってこれたら、本当に何もかも全部元通りになる。そんな気がするの。」
「確かに…そうだね。」
師匠が帰ってこれた場合今いるポルテはどうなるのだろうか。
創失した者が帰ってきても、その間に起きた出来事はそのまま残り続けていた。
ならば私が創失したことで戦火に包まれ私の大切な人達が皆いなくなった後のアストルティアが戻り、創生されたポルテも存在し続けるという事態になるだろう。
それが私の望みなのか?
「師匠が戻ってきた場合、今あるアストルティアはどうなるんだろう。」
今あるアストルティアは新たに化身となったポルテが新たに作り上げたアストルティアだ。
アストルティアの化身が二人存在するようなことになった時に世界がどうなるかは想像できない。
「あ…そっか!あたしもいて師匠もいて…ってことは心の中じゃなくても師匠とお話できるようになるんだ!なおさら助けないと!」
そんな私の懸念をよそに、ポルテは師匠と現実で対面できる可能性に胸を踊らせている。
その姿を見て私も吹っ切れた。
難しいことを考えるのはやめよう。
私も師匠に帰ってきてほしい。
何より、ただ1人の少女を救うのではなくアストルティアの化身を救うというものなのだからそりゃ行きたいに決まっている。
理由はそれで十分だ。
「そうだね、ありがとうポルテ!一緒に師匠を連れ戻そう!」
まずは創失の世界に再び行く手段があるのか。
それを確かめるためにまず向かったのは「英雄神の間」だ。
あの時、創失の世界に顕現し私に創生の力を与えてくれた彼らならば行く手立てを示してくれるかもしれない。
──おっと、アストルティアを滅びから救った大英雄のご登場だぜオメーら!
そう切り出したのはアシュレイ。
像が光り、幽体のアシュレイが現れ〇〇に向き合う。
次々と英雄神の像から幽体化した彼らが現れる。
「よう、元気そうだな〇〇。…そして、…ありがとな。俺達ですら手も足も出なかった創絶を招くものを倒してくれて。お前には頭が上がらねえよ。」
「ああ、そうだな。神の身でありながら何も出来なかった己が情けない。あの時、何度お前が隣にいてくれたらと願ったことか…。」
「ですが最後にはやはりあなたがやり遂げてくれた。我々の誇りです。…して、どうされたのです?戦いが終わってなお私達に会いに来るからには、大きな目的があるように思いますが…。」
〇〇は創絶を招くものとなり消えてしまった師匠を救いたいこと。
そして師匠はおそらく今も創絶を招くものの中にいるため、創失の世界に行く手段がないかを訊きに来たことを打ち明けた。
「なるほど…、そういうことでしたか。」
英雄達は険しげな顔をしながらも頷く。
「創失の世界に行くだけなら簡単だ。お前達がこちらの世界に帰ってきた時に通ってきた扉を創失の世界を望みながら開ければいい。」
「といっても、これは〇〇さんだからできることだけどね。あなたは創失の世界に二度踏み入っている。そしてそのどちらもあの世界で創生の力を宿して脱出している。そんな普通ならありえないことをやってのけたからあの世界との縁は十分結ばれてる。」
「問題は創失の世界に入った後だ。あそこは常に創生の力を奪っていく。長く留まれば留まるほどまた皆の記憶から存在が消えていってしまう。」
創失に対抗するには創生の力を高める以外に方法はない。
だが〇〇は有する創生の力自体は膨大なものの、それを自身で生成し続けることはできない。
「そこで私達の出番…というわけですね。」
「そうか!俺らがあの時と同じことをすればいいのか。〇〇とポルテを創生の力で編んだ結界で包み込み扉の外から力を送り続けりゃいい!」
ハクオウ、カブが自信に満ちた表情で〇〇に笑いかける。
「それじゃまるで皆を創生の力補充のための電池みたいに扱ってるみたいじゃない。申し訳ないよ。」
「何を言うのです。むしろ、私達にできることなどそれくらいしかないんですから喜んで協力させてください。あなたとポルテちゃんを創失の呪いから守りきる…これほど重要で誇りある使命はありませんわ。」
「そうとも。旧きアストルティアの化身は我らアストルティアに生きる者達全てにとって救わねばならぬ輝き。我ら英雄神だからこそできることがそれなのだ。」
「俺達からグランゼニス神にも協力を仰いどくぜ。…ってわけでお前とポルテが創失の世界に行って活動する分には俺達で何とかなる見通しは立った。まだ一番肝心な問題が残ってるよな。」
「ええ、かの創絶を招くものから旧きアストルティアの化身を呼び戻せるのか…。間違いなく創絶を招くものが抵抗してくるでしょう。」
「それに関してはさすがにアタシ達もお手上げ。創失のこともアタシ達は今回の事態になるまで全然知らなかったんだ。アタシら神としてはまだまだヒヨっ子だからね…。」
「女神の世界樹の種も無くなっちまったし、あったとしてもアストルティアは一度消滅しちまってる。創生し直したところでこれまで長い歴史をかけて紡いできた清きエネルギーはリセットされちまってるだろう。どうすっかな…。」
「…フォーリオンって…。」
ふと〇〇がその名を口にし、誰もがハッとした。
〇〇もつい早口になって続ける。
「創絶を招くものはあくまで"アストルティアの創失"を希う存在だった。最後の戦いでも消されたのはレンダーシア、ナドラガンド、魔界、そして五大陸…。」
「天星郷は無事じゃねえか!なんてこった!」
「そうだよ!ここは…天星郷はゼニアスから女神ルティアナが乗ってきた船!アストルティアとは別の世界、だから創失の影響は受けてないはず。ここになら何か打開策が残ってるかもしれない。」
そう言って〇〇は急いで魂の燭台を掲げ天使長ミトラーの元へ行く。
「やれやれ、忙しいな。我らが英雄は。」
「まぁ無理もねえさ。最後に笑顔で見送った相手をよりによって自分の手で倒さなきゃいけなかったんだ。その絶望を終わりにできるかもしれないってなりゃ俺でもああなるぜ。」
「成功を祈りましょう。」
「お呼びがかかるまでまたしばしおねんねタイムかね!」
語り笑い合った後、英雄神達は像へと戻って行った。
─────────────────────────────────
「え…なんだって?創失の呪いの力を打ち消せるほどの力…?うーん、すまない○○。お前の言ってることがよく分からないんだけどそもそも創失ってなんのこと?」
ポカーン…としてしまった○○。
確かに今まで天星郷でジア・クトに関する言い伝えや話はよく耳に入ってきたけれど創失の話題は全くなかった。
女神ルティアナがゼニアスでかつて起きたことを全て天使たちに言い伝えていたなら創失の呪いの危険さについても知っているはずだ。
やはり、女神ルティアナはこの星が生まれながらに創失に冒されていることは自分だけが知ったまま墓に持っていくつもりだったようだ。
私はできるだけ詳しく、これまでに何があったかを話した。
「…まさか地上でそんなことが…。ジア・クトは単なる侵略者ではなくアストルティアの抱えていた爆弾の時限タイマーまで動かしてしまったわけだったのだな。どこまでもはた迷惑な連中だ…。いや、そもそもの原因はルティアナ様の姉ゼネシアのせいだったな。ふむ、どうあれ話の顛末は理解した。そのうえでお前の質問への答えだが…私の知る限りでは聞いたことがない。」
「…やっぱり…だと思った。」
「まぁ待て。そもそも天使長だからってフォーリオンの全てを知ってるわけじゃないんだぞ?ここはそう広くはない世界だが、それでも私の知らないことはまだまだある。そこでだ。」
ミトラーは手を胸の前でパンと合わせる。
「ジア・クトとの戦いで、お前にはレクタリスの剣とアストルティアの楯を創生すべく光輪の核を過去に時渡りして手に入れてもらったな。今いる天使達が分からないのなら本人に直接訊けばいいんだよ。過去のフォーリオン、まだルティアナ様がご存命の時代に行き、天星郷にお前の求めている逆転の秘策が隠されていないか訊いてくるというのはどうかな?」
「うん、早速そうしようと思ってたところだよ。」
「もしこれでさらなる秘策がこの地に眠っていたとしたらルティアナ様はかなりの隠したがりであられるな…。うむ、お前なら心配ないとは思うがくれぐれも気を付けるんだぞ!」
過去のフォーリオンへ行く前にポルテに会いに行った。
これは私だけで進めていい話ではないからだ。
一番師匠に会いたいのはポルテだし、彼女と一緒に師匠を迎えに行ってこそ目的の達成と言える。
ポルテは一人ゼニアスの誓約の園の神殿で蘇ったセレシアの樹の下へ助言を貰いに行っていた。
そこで創失の世界に、今なお創絶を招くものの魂が強く残留しているらしいことが分かったようだ。
「あとは創絶を招くものから師匠を切り離す方法があればあたし達の目的は達成できるよ!」
「うん、その手掛かりが遥か過去のフォーリオン。天使達の住まう世界にあるんだ。エテーネルキューブで過去に飛べるのは私一人だからポルテはお留守番になっちゃうけど…。」
「大丈夫だよ!あたしの方こそごめんね、隊長。あたしは隊長みたいにあちこちに飛べたり時を超えたりできないから結局ここでも役立たずになっちゃってるよね。」
「そんなことないよ。私はお師匠様捜索隊隊長なんだからむしろいっぱい頼ってほしいな。」
「それでもあたしも隊長の役に立ちたいよー。あたしにできることはないかな?」
「そうだなぁ…。じゃあ一旦、一緒にエテーネ村に行こう。そこでポルテにはお手伝いをお願いしようかな。」
呪いを切り離し中に眠っている本来の精神を蘇らせる方法は、私には大いに心当たりがあった。
悲しい記憶ごと勇者の力を封じ込め長き眠りについていたアンルシアを目覚めさせ、父パドレをキュロノスの呪いから解き放ち、大好きな妹を大いなる闇の根源との契約から救い出したあの秘術。
──胡蝶の秘術
だが今回の相手はこれまでとは比較にならない強大な呪いだ。
持てる力の全てを注がなければ弾かれてしまうだろう。ゆえに…。
私が過去のフォーリオンに向かう理由は、天星郷に秘策が眠っていないかを問いに行くのともう一つ。
エテーネの村にて─。
「というわけで、またシンイに胡蝶の護符を生成してほしいんだ。」
「隊長は過去の世界に重大ミッションをしに行くからその間にあたしがシンくん達と一緒に護符作りのお手伝いをすることになったよ!」
「私も一緒にやるわ。創失を招く者との戦いは二人に任せっきりだったもの。今回も何か必要があってやるんでしょ?協力させて。」
〇〇、ポルテ、シンイが話しているところにメレアーデもやってきた。
「うーん、理由はよくわかりませんが他ならぬ〇〇さんの頼みとあらばもちろん協力させていただきますよ。ポルテさん、よろしくお願いしますね。では以前の通り胡蝶の花を摘んできてほしいのですが今回の場所は…」
こうして胡蝶の護符作りが始まったのを見届けると〇〇は軽く手を振った後エテーネルキューブを掲げた。
─────────────────────────────────
──古とこしえの神殿
「…む?」
真っ先に気づいたのはまだ純朴だった頃の竜神ナドラガ。
「ほう、これはこれはいつぞやの未来からのまれびとではないか。」
「久しぶりだね、ナドラガ神。」
フランクに挨拶を返す。
「エルドナに用があったのなら残念だったな。あいつは今日エルトナをより本格的な大陸とすべく張り切って出て行ったぞ。」
「そうなんだ。頑張ってるね、幼いエルドナ神も。でも今日は別の人に用があるんだ。」
「…というと…。」
「女神ルティアナ様、姿をお見せいただけますか。」
静寂な空間に〇〇の声が響き、眼前に光が集まり人型を成していく。
強い衝撃波と共に当たりが光に包まれ思わず目を瞑る。
ゆっくりと目を開けた先にかの女神は佇んでいた。
「…再び相見えようとは…。久しいな、悠久の時を超えし来訪者〇〇よ。」
「……。」
いつになく真剣な顔を向ける〇〇。
それを察せないルティアナではない。
「ただごとではない話があるようだな。…ナドラガ、下がっていなさい。」
「え、…は、はい。承知しました。母上。」
ナドラガは困惑しつつも母ルティアナの命に素直に従い一時女神の神座から退出した。
「…率直に訊こう。此度は何を求めてこの時代に来たのだ?」
「…天星郷に女神の世界樹と同じ役割を果たす何かがないか…そしてルティアナ様の力を蝶に変えて分けていただくことはできないか。その二点を訊きに来ました。」
ルティアナの顔が固まる。
それもそうだろう。女神の世界樹という言葉はとこしえの揺り籠、ゼニアスに行っていなければ決して知りえない名前のはずだからだ。
「待て…、そなた。もしやゼニアスに行ったのか?」
「未来のことを話しすぎると、この先の歴史に影響が出ます。私もどこまで話したらいいか分からないですけど、この言葉を聞けばあなたなら全て理解できるのではないでしょうか。」
一呼吸置いて忌まわしいその名を口にする。
「創失の呪い」
「…!」
ルティアナの顔はより一層強ばった。
しかし、創生時から時が経ち彼女も心が強くなったのかすぐに落ち着きを取り戻し冷静に〇〇に向き合った。
「よもや再びその名を聞くことになろうとはな。そなたが創失の呪いを知っているということは、我が罪ももちろん知ったのだろう。」
「ええ、あなたはアストルティア創生の時負の感情に押し潰されていた。それが星そのものに呪いを掛けてしまった。」
「その通りだ。ゆえに我は心に迷いなき種族神達を創生し我が子らの真っ直ぐな統治によってアストルティアから創失の呪いが消え去ると信じていた…。だが、その望みは叶わなかったのだな。」
「その事実を知って、この先種族神を生み出す時創失に冒されたりしませんか?」
「案ずるな。もうあの頃のか弱き我ではない。…だが、我が不甲斐なかったばかりに遥かな未来に生きる子らにまで謂れなき苦しみと絶望を強いることになったのは紛れもない事実…。よかろう、今からでは罪滅ぼしにもならぬがそなたの望みに応えるとしよう。」
「ありがとうございます。」
「何故女神の世界樹の役割を担うものを求めているかまでは問わないが…あるぞ。レクタリスの剣、アストルティアの楯と同じく遥か遠き未来、未曾有の危機に晒された時にアストルティアを守る力として使えるようにな。」
ルティアナは少しだけ目を細め空を見上げた。
「それは、この天星郷そのものだ。」
「え…?!」
「我はアストルティアを創生してすぐ、この天の船にありったけの加護を施した。かの旧き女神が二度にわたって齎した奇跡を胸に強く抱きながら…。この天星郷を包む光の壁は常に下界アストルティアから生命達の希望の心を集め閉じ込め成熟させている。古のゼニアスにて守護天使と呼ばれる者達が星のオーラという人間の希望の心を集めていたことにヒントを得てな…上手くいくか分からなかったが幸い、ここはアストルティアの希望が集う場所となってくれた。この先我が生み出す種族神の子供達もまた、希望の心を届けてくれるだろう。」
「そうだったんだ…。でも、誰も、天使長でさえそんなことは知らなかったですよ。」
「当然だ。我にとってこれは二つの神器以上の秘密兵器としておきたかったものなのだからな。天使はおろか我が子たる種族神達にすら話すつもりはない。そなたに打ち明けたのは、アストルティアを救うためだと信じているからだ。」
「ええ、そのために来たんです。それで…その集まった希望の力を形にするにはどうすればいいんですか?」
「強き創生の力を持つ者が願えばおのずと力は具現化されよう。そなたの内に宿る輝きは以前見た時よりもさらに強く大きくなっている。申し分ない創生の力と言えるだろう。」
ルティアナは小さく微笑み〇〇に手をかざす。
〇〇の体から溢れんばかりの金色のオーラが漏れ出す。
「それがそなたの創生の力…その一端。正直驚いている。もはやそなたの創生の力は我ら主神にも匹敵しうるほどだ。ヒトの子がここまでの力を手にできるとは、生命の営みが生み出すエネルギーとは計り知れんな。」
ともあれ、創絶を招くものの持つ濃密な絶望と呪いの力に対抗しうる正の力は目途がついた。
あとはもう一つ、シンイの作る胡蝶の護符だけではおそらく強大すぎる創絶を招くものの精神世界に侵入することはできない。
私が妹を救い出せたときは、ルティアナ直々にあの術を使ってくれた。
女神の力なればその力も絶大のはず。
「そしてもう一つ、我が力を蝶として具現化し分けてほしいということだったな。」
「はい…お願いできますか?」
「言ったであろう。元はと言えば我が招いた問題だ。我が力でその問題を解決できるというのであれば喜んで手を貸そう。」
そう言ってルティアナは両手を胸の前で構え凄まじい光を発しながら光球が生み出されていく。
そしてその光球が凝縮され少しずつ形が変わってゆく。
「…ふぅ、これでよいか?」
〇〇も肌で感じるほど強い力を放つ光輝く蝶の化身がそこには生まれていた。
「ん?それは…。丁度よいものを持っているようだからその中に我が力の化身は封じておくぞ。」
そうすると星封の結晶の中に光の蝶は入り込んでいった。
「必要な時に念じればすぐにその星封の結晶から力を発揮できるだろう。懐かしい物を見せてくれたこと感謝する。」
これで胡蝶の秘術に必要な女神の力を持った蝶と創絶の呪詛に打ち勝つための力の所在が手に入った。
戦いのときは近い。
ルティアナに再度感謝を伝え私は現代に戻った。
─────────────────────────────────
「おかえり!隊長!胡蝶の護符は皆で協力して完成させたよ!」
「ありがとうポルテ。こっちも目的達成だよ。」
ポルテから護符を受け取り、ポルテの手を取って魂の燭台を掲げた。
アストルティアの人々の希望の心を集めるなら、紛れもなくアストルティアの化身であり自在に創生の力を行使できるポルテが適任だろう。
本来天星郷は秘匿された場所。資格ある者以外は立ち入ってはならない聖域だ。
だが、ポルテからアストルティアそのものの力を感じたのか誰一人として訝しむ者はいなかった。
無論、英雄の中の英雄である〇〇が隣にいたからという理由もおおいにある。
「隊長の話だと、ここに創失する前のアストルティアの希望の心がたくさん集まってるんだよね!」
「そうだよ。ここはアストルティアじゃないから創失の対象とはならなかった。女神ルティアナがとびっきりの秘密兵器として残していた女神の世界樹の再現機構。それが天星郷そのものだったんだ。」
「うん、感じるよ…。何もしていなくてもあたしには分かる。凄くあったかいオーラがあちこちに漂ってる。」
だが、実際どの程度の希望の力が蓄積されているかは分からない。
過去の時代からこの時代までの約一万年…それだけの時があれば女神の世界樹の儀式と同じ効果をもたらせるくらいの力がたまっていそうなものだが…。
不安な表情を見せるとポルテが〇〇の手を握る。
「大丈夫だよ、隊長。絶対に創絶の呪詛を打ち消せるだけの希望があるに決まってるの。」
一切の不安を見せず目を閉じて祈り始めるポルテ。
するとたちまちポルテの周りに虹色の光の渦がいくつも発生し暖かい風が吹き荒れ、天星郷全体からおびただしい量の光の粒子がポルテと〇〇の元に集う。
二人の眼前に光輝く果実のようなシルエットが形成され光が集まりそれが実体を得ていく。
大きさもどんどん膨れ上がりゼニアスで見た女神の果実の3倍くらいはあるだろうか、とても片手では持てない大きさだ。
「これが…かつてのアストルティアに生まれていた希望だよ。隊長が創失して世界があれだけの絶望に染まったのなら、隊長がいたおかげで何度も救われた前のアストルティアにはそれ以上の希望と喜びが満ちていたはずだもん!だから絶対に、負けるはずないの。」
ポルテが一切の不安を見せなかったのはそのためだった。
〇〇がいないことで生じる絶望とは即ち、いたのであれば希望が生まれていたことに他ならない。
「これだと大きすぎるから、あたしの創生の力でちょこっと加工するよ…!」
そう言ってポルテは精神を集中させ大きすぎる光の果実を力はそのままに女神の果実と同じサイズにまで縮めてみせた。
ポルテは大きく息を吐き、ペタッと座り込んでしまった。
「疲れたー。力を集めるのってこんなに大変なんだねー。でも、上手くできたみたいでよかったよ!」
こちらに笑顔でピースサインをしてそう言うポルテ。
○○はポルテの頭を撫でて隣に座る。
「今ね、ほんのちょびっとだけ師匠の笑う声が聞こえた気がしたんだ。」
「それは…ここにあったのが前のアストルティアの希望だったからかな?」
「たぶんそうだと思う。あたし、やっぱり師匠に会いたい。だからこの戦い、絶対に成功させよう!隊長!」
「…うん!」
額の汗を拭い立ち上がる。
光の果実、いや…名付けて「天星の果実」を手に入れた私たちはいよいよ創失の世界で失敗できない戦いに挑む…!
─────────────────────────────────
創失の塔の頂上にある、かつて創失の世界から脱出してきた扉の前に一同は終結していた。
英雄神とグランゼニス、ポルテ、そして○○。
「…本当に、覚悟はいいね?二人とも。」
いつになく真剣な声音でグランゼニスが問う。
この二人のおかげでせっかく世界が再生したのに、再び創失してしまっては目も当てられない。
グランゼニスの懸念は尤もだった。
しかし、それでやめるようならとっくにやめている。
「グラさんにどれだけ止められても、あたしやるよ!そのためにここまで準備してきたんだもん!」
「私も、退く気はないよ。」
「……、フフ。いらぬ心配だったようだね。もちろん、君達を信じているとも。旧きアストルティアの化身を、どうか助けてあげてくれ。」
「創失の呪いは俺たちが何とかする!お前達は余計なことは考えずただ創絶を招くものとの戦いに集中するのだ!いいな。」
英雄神達の激励を受け、力強く頷く二人。
扉に触れる。
そして念じる。
闇の中で未だ悪夢を見続けている師匠を。
そしてそれを取り込んでいる創絶を招くものを。
扉が黄緑色の光に包まれる。
繋がった。
「行くよポルテ!」
「うん!隊長!」
勢いよく扉を開ける、と同時に英雄神とグランゼニスが創生の力をフル開放する。
その光が二人を包み堅固たる創生の防壁が形作られた。
「ご武運を!」
「絶対に帰ってくるのですよ!」
「〇〇!ポルテ!ぶちかましてこいよ!」
二人は闇の中へ落ちていった。
創失の世界は本来現世と時間軸が大きくずれており中での1分は外界ではかなりの時間になるのだが、開けっ放しの扉の外にいる英雄神からの力が現在進行形で注がれ続けていることでその時間の進みのズレはなくなっていた。
数時間は経っただろうか。
未だ続く深淵の中にようやく求めていた姿を捉えた。
「創絶を招くもの…!」
青白く光る円形の魔法陣の上で創絶を招くものは浮遊した状態で眠っていた。
魔法陣の上に降り立つ二人。触れる度シャンシャンという音が鳴り、それによって創絶を招くものが目を覚ました。
「……ほう…。かくも面妖なことがあるのだな。ここに何をしに来た貴様ら。」
あの時戦った時と同じく不気味な笑顔を浮かべながら見下すようにこちらを見据える。
創絶を招くものはグルっと身を起こし軽快な身のこなしで魔法陣の上に立った。
「…わたしの目的はもう達成している。私が化身であったアストルティアは消えたのだ!その後に新たなアストルティアが生まれようと勝手にするがいい。我が宿願、「女神ルティアナが作りしアストルティア」を滅ぼすという大願が果たされたことは覆せぬ。」
「…それはどうかな。化身が復活すればアストルティアは復活する。創失の呪いだけが創失しアストルティアを愛する化身だけが復活すればお前が消したアストルティアは創失の呪いから解放されて復活するんじゃないのか?」
「んふふふふ…やはりそれが狙いか…。わたしが女神の世界樹の中で喰ろうた"師匠"を蘇らせたいと?やれるものならやってみるがいい!」
そう言って灰色に渦巻く創失の球をこちらに放ってきた。
紙一重で躱す〇〇。
「かのアストルティアを創失させた今となっては、わたしに消したいものなどないのだがな。貴様らを創失させアストルティアに二度目の消滅をもたらすのも一興か…?」
楽し気に次々と創失の球を放り投げてくる。
この状態のこいつと戦っても何の意味もない。一瞬の隙を待つ。
「だが、どちらにせよわたしが取り込んだあやつを取り戻そうとするのであれば大人しくやられてやるわけにはいかんなぁ!」
「今だ!世界樹のツタ!」
ポルテの杖から深緑に輝く無数のツタが伸び、創絶を招くものを絡めとる…。
「ちっ!小賢しい真似を!」
もちろん、このまま放っておけばすぐにツタを焼き払い自由を取り戻すだろう。
だが!
「行け!光の蝶達よ!胡蝶の秘術・極!!」
護符によって出現した3匹の蝶とルティアナの力が蝶の形を取った化身、その4匹が創絶を招くものの周りを高速で飛び回り動きを止める。
「くっ!な、なんだこの力は…!体が思うように動かん!」
だが、さすがは規格外の敵。体をよじり拘束から逃れようとする。
ポルテがさらに力を込めて創生の力で以て敵を抑え込む。
「…隊長!行って!あたしはこのまま創絶を招くものを抑え込むから!…師匠を呪いから解放する瞬間には立ち会えないのが残念だけど…そんなわがまま言ってる場合じゃないもんね…!あたしと隊長にしかできない大仕事、後は頼んだよ!隊長!」
光の柱が現れる。
ポルテに力強く返事をして精神の世界へ飛び込んだ──。
─────────────────────────────────
ジア・クトが残した魔眼の月から大地に創失の呪いが振り撒かれた瞬間、封じられていた「創失を求める心」が具現化し原初のポルテから逃れていく。
こんなにも永い間眠らされたとは甚だ屈辱だ。
本来辿るべきだった運命から逃れ繁栄したアストルティアは歪みと矛盾に満ちている。
それゆえ世界には悲しみが絶えないのだ。
だが、私は目覚めた…。
この不完全な世界はようやく在るべき運命を辿ることになる。
そう言って創失を招くものは創失の世界を抜け地上に顕現している師匠の体に同化した。
この瞬間、師匠の言い方で言えば「師匠の内に弟子以外の人格が生まれた」。
でもそれは師匠が弟子のポルテを生み出すよりも前。
永い眠りの間に女神ルティアナの望み通り創失の力は相当に弱まっていた。
だからジア・クトが来ずにあと数十年数百年平和が続いていたのならきっと創失の呪いは消せていたのかもしれない。
いや、どのみちゼニアスからの創失の呪いが襲いかかってきただろうか。
まぁいい、お前の記憶に用はない。
師匠を出せ。
そんな願いも虚しく、ひたすら創失を招くものの記憶が続いた。
内容は創失の塔で読まされた遺文とほぼ同じだ。
いかにして創失の力を蓄えていったか、その遂行のために私が利用されたか…。
そんな腹の立つ記憶が続く。
…創絶を招くものに変わってからの記憶。
年老いた男の声から打って変わって妖艶な女の声へと変化した。
師匠を取り込んだせいなのか。
あの時対峙した時も、声のせいで師匠が悪に堕ちたように感じてやるせなかった。
戦いの記憶、そして戦いが終わり自らを創失させた記憶…。
ここで終わった。
いいや。
もっと深淵へ。
まだ師匠の記憶に辿り着いていない。
取り込まれて闇の奥底にいるからだ。
もっと深く、もっと闇の中へ。
ルティアナの喋よ、私を導いてくれ…!
その懇願に応えるように蝶は光を増し前ではなく下へと羽ばたいていく。
私もそれに続き、深く深く下ってゆく。
そしてとうとう見つけた。
セピア色の師匠の精神世界が、ついに始まった。
種族神達が七つの大陸を創生し、混沌ではなく名実ともに「大陸」と呼べる世界がようやく出来上がった時代。
原初のポルテが「未来を望む希望の心」のみを切り離し地上に残し創失の意思のみを抱えた自分はこの世界から消え創失の世界という他次元にて眠りについてすぐ、清き水の洞窟の最奥に師匠は現れた。
(ここでのBGMは「聖獣の祠」モンスターズジョーカーの曲)
……ここが、アストルティア。我が化身として見守り守らねばならぬ世界…か…。
私は、師匠はアストルティアの化身であってアストルティア自体ではないと思っている。
今のセリフだってそうだ。
だって、そうでなきゃあそこまで人間臭い感情は持たないし一人の人間としての人格や思考も持たないと思う。
師匠が喋ったことが全て「アストルティアの大地の代弁」だなんて思えない。
師匠も、ポルテもちゃんと一人の人間としてそこにいたし自分で考えて嬉しい、悲しいといった感情を発露していた。
だからアストルティアは自分と繋がってはいるけれども自分ではない「独立した生命体」としてポルテという存在を生み出したんだと思っている。
それから師匠は、何もしなかった。
それも当然と言えば当然だ。
今回私と共にあんなに戦っていたのは「創失」という現象でアストルティアが「消える」からだ。
誰の記憶からも消え「存在自体がなかったことになる」という未曾有の危機。
アストルティアが滅びるのではなく「最初からなかったものになる」災厄だったからこそ「アストルティアを守る」という名目で前線で戦っても許された。
でも、これより繰り広げられていくのはあくまで「アストルティアの地上で行われる生命同士の醜い争い」。
ジャコヌバは創失の呪いとは無縁のジア・クトだった。
ゼニアス襲撃には参加しなかったのだろう。
そこからいかにしてルティアナがゼニアスから脱出しはるか遠くにアストルティアという新世界を作ったことを知ったのか、そして見つけ出したのかは分からない。
でも、事実としてゲノス達が来るまでアストルティアは創失の呪いとは無縁の時を過ごせていた。
我が創造主女神ルティアナよ、なにゆえ魔界を見捨てたもうた…。なにゆえ我が身を引き裂いたのだ…!
光の神殿で、師匠の心だけを遡った時に聞いた言葉だ。
時代は魔界が切り離されたはるか過去。
いや…、嘆いても仕方あるまい…。
大地の意思とその上で生きる生命達の意思は別もの…。
魔障に侵された土地は生命が死に行き、異形の怪物を生み出し続けている。
魔障に飲まれた者達は苦しみ息絶え、或いは悪の心に成り果て、他者を蹂躙し支配することを喜びとするようになってしまった。
美しきアストルティアの大地は醜く血で染まりゆく…。
世界を統べる神なればこそ、全土にそれが広がるくらいならばと分断したのだ。
分かっておる…。
ナドラガとグランゼニスの戦い。
断罪の剣でナドラガは封印され、ナドラガンドも五つに分解され奈落の門の先に封印された。
ナドラガよ…何ゆえ弟妹達を憎んだか…。
我が身が再び引き裂かれたことには何ともやりきれない思いだが、致し方あるまい…。
世界を導くべき神ともあろう者が敵に与するなど…。
初代勇者アシュレイ、レオーネと大魔王ゴダとの戦いも、師匠はただ静観するだけだった。
世界そのものが人の営みに手を出してはいけない。
たとえ見るに堪えない殺し合いだろうと、それが命あるもの同士の選んだ道であるなら自然の摂理として受け入れるのみ。
石化が解けたレオーネの凄惨な人生にも師匠は心を動かさない。
そして、ジア・クトに支配された天使に導かれた時も…。
今でも疑問だ。
なぜ天星郷にジア・クト念晶体が入り込めたのだろうか。
考えられる経緯としては、ルティアナがゼニアスを脱する時に逃すまいと何かしらの手を打った、それこそあの赤い石を投げ入れて誰かが手に取るのを待ったとか。
ジャゴヌバもその時にゼニアスを離れルティアナを追ったのかもしれない。
ゆえにそいつらに創失の呪いは伝染していなかったのだろう。
師匠は、ジア・クトから逃れるべくとこしえの揺り籠を捨てここまで来たにもかかわらず結局ジア・クトにいいようにされている現実を目の当たりにして溜息を着く。
見守るだけというのもしんどいものだな。
…アストルティアよ。本当に我は見ていることしかしてはいけないのか?
ジア・クトはアストルティアの外の敵…。
手を貸してもよいのではないか?
だがアストルティアの大地が答えるはずもない。
実際のところ、これまでも師匠は自分の意思で戦いに介入することはできたのだ。
だが人間らしい感情をまだ持っていなかったがゆえ、自分は世界の化身として営みをただ見守ることしか許されないと思い込んでいた。
師匠が悲劇ばかりの続くアストルティアに疲れていた頃転機は訪れる。
それが私だった。
エテーネルキューブの使い方がまだ分からず勝手に作動して5000年前のエテーネ王国に来た時。
あやつは…?なぜ急に現れた?
どこから来た?
…この力の感覚…かつて異邦人キュレクスが使っていた力と同じ…時渡りの力?!
ならばあやつは未来から来たということか…?
師匠は既にここで私を知っていた。
それからのことは予想がつく。
クオードと共にドミネウスを倒し、操られたパドレによってエテーネ王国全域にヘルゲゴーグが差し向けられる。
そして…パドレア邸にて生まれたばかりの私、そこに襲来するヘルゲゴーグ。
赤ん坊の私が時渡りの力を暴走させ現代に飛ぶ場面だ。
……!今の赤子は…はるか未来に飛ばされたようだな…。
それに、〇〇だと…?
先刻時渡りしてきたあやつと関係あるのか…?
もしや、あの赤子の成長した姿があやつなのか?
〇〇…、なんとも興味を引かれる存在だ。
この感覚は、時渡りの呪いによってあらゆる時代に飛ばされていた妹の記憶を巡った時と似ている。
この後私がエテーネルキューブで様々な時代に飛んでいた時師匠もまた私を見つけては興味津々で観察していた。
(ここからBGMは「精霊の冠(フルート、ハープバージョン)」)
時系列で言えば私が父パドレと時獄獣キュロノスと戦ったのはこの、最初のエテーネ王国への時渡りのすぐ後だ。
師匠からしても私が消えたと思ったらまた現れての連続で、混乱していたことだろう。
あやつは何者だ…?その身に宿す創生の力も並外れている…。
キュロノスとやらのことはよく分からんが、奴の持つ力は相当なものだった。
それを倒してのけるとは…凄いやつじゃ。
そして、何とも不思議な存在よ。
どんな問題もあやつが来た瞬間に良い方向に向かう。
いつだってあやつが解決のきっかけとなっている。
アストルティアにとって、あまりに大きい存在だと言うのが分かる。
あやつがどこの時代に辿り着きどう育っていったのかとても気になる…。
師匠が私を見る目はまるで自慢の娘を見る母親のようだった。
もちろん、師匠がはじめて母親のような感情を抱いたのはポルテだろう。
でも私は師匠にその目で見られていたのが嬉しかった。
勇者アルヴァンとの共闘。
私の対の存在であるアンルシアでなくとも盟友の盾が発動した瞬間、それを見ていた師匠も驚いた。
〇〇は、勇者の盟友だったのか…!?
道理でこんなに強いわけだ…。
時渡りを使える上に勇者の盟友である存在…か…。
これほど目を離せない存在がいようとはな…。
蝶に導かれさらに記憶を進める。
500年前のオーグリード大陸。
レイダメテスに乗り込みラズバーンを倒して破邪舟の血族を存続させた戦い。
師匠はこの時、エテーネ王国が滅亡して大分年月が経っているにも関わらず私がエテーネの民と呼ばれていることから、何かしらの形でエテーネが残っているのだろうことを知ったのだろう。
また、私の力が目に見えて落ちていることにも驚いていた。
当然ではある。
私にとってはこの時が初の時渡り、私から見た時系列でも初期も初期だ。
まだネルゲルにすら敵わない頃の私のため有する創生の力もあまりに貧弱だった。
ふむ…、この時の〇〇はまだ旅を始めて幾ばくもない頃のようだ。
逆に考えれば、この先の戦いであやつはあれだけ強くなるのだな…。
我には想像することしかできぬが…その道のりはとても険しく辛いものに違いあるまい。
その勇姿、しかと見せてもらうぞ〇〇よ。
時代が飛び、エテーネの村に出た。
エテーネの生まれと知った師匠は時渡りの気配を感じてすぐこの村の近くに顔を見せた。
そして、赤ん坊の私がエテーネの村に現れる。
そこから、私は義理の父母の愛を一身に受け後から生まれた妹、シンイと共に素朴な生活の中で成長していった。
戦いとは無縁の穏やかな生活を送っていた。
──ネルゲルの襲撃によって命を落とし私の戦いの日々が始まる。
冥王ネルゲルを倒した。
これが〇〇にとって、始めての世界を救う戦いだったか。
まだまだ荒削りだが、強い覚悟じゃ…。
アンルシアと大魔王マデサゴーラを倒した。
さすがは〇〇だ。
我としては勇者よりもそなたの方が凄かったぞ。
そなたの数多の活躍がこの勝利に繋がったのだ。
ナドラガンドにてナドラガを倒した。
ナドラガ…哀れなルティアナの子よ。
せめて安らかに眠るがよい。
そして〇〇、種族神達にも認められるとはやるではないか。
我がことのように嬉しいぞ。
なるほどな。ここでその不可思議な時渡りの道具を手に入れたわけか。
そなたの妹の旅路も見てきたが…この2人はなにゆえここまで数奇な運命に弄ばれているのだろうな。
師匠はキュロノスとの戦いは知らないだろう。
あれは全てが滅ぼされた後に起きたこと。
そして、その結末はキュルルのおかげで「なかったこと」になった。
いいや〇〇、我には分かるぞ。
アストルティアに刻まれた僅かな記憶…そなたがまたこのアストルティアを救ってくれたのだな。
遠き過去、時獄獣キュロノスが未来に飛びおそらくアストルティアを破滅させたのだろう。
そしてそなたが時渡りの力を使いそれを食い止めた。
そなたが世界を救った瞬間を見れなかったのは残念だが、感謝するぞ〇〇。
師匠、ずっと私の戦いを見ててくれたんだ。
そしてジャゴヌバ…、アストルティアに生きる全ての生命の祈りを集めたミナデインで勝利した戦い。
ミナデインとは…女神ルティアナも粋なことを考えよる。
ふっ、我も少しばかり手を貸したのは内緒だ。
〇〇の活躍に免じてアストルティアも許してくれるだろう。
どうやらあのミナデインが発動できたのは師匠の力添えもあったおかげらしい。
ちょっとお茶目なところ、この時からあったんだ…。
可愛い。
それもそうか。この時はまだポルテが生み出されていない完全な状態の師匠…私が最後創失の塔で一緒に戦ったあの師匠と同じだもんね。
おお、今度は天星郷に行くか…。
どこまで高みにゆくのだ、そなたは。
にしてもあのユーライザという天使…ずっと〇〇を見ておったと言うが…フフン、我の方がずっと前から見てきたぞ?
とはいえ、アストルティアではない天星郷に我は行けん。
そなたの活躍は全て終わってから人づてに聞くとしよう。
おいおい!ユーライザに対抗心出していたなんてマジ!?
師匠、可愛すぎるだろ!
私への肩入れ度合いも半端なくなっている。
…こんなにキラキラしていた師匠を、創失させたままにしておくなんてやっぱりできない!
…!
これは…創失の呪い…?
どういうことだ!
どこから来た?いや、そんなことは後だ!
とにかく、このままではアストルティアの全てが創失に冒されてしまう。
今のうちに切り離さなければ…!!
私がジア・クトを倒した後、師匠はいつものように私を誇らしく思ってくれる…とはいかなかった。
そう、魔眼の月の纏っていた創失の呪いが大地に侵食し師匠がその呪いに蝕まれた。
ゆえに師匠から余裕は消え表情は暗くなり、目をつぶって集中する日々が続いた。
(ここからBGM「精霊の冠(オルゴール)」)
ポルテ…
そう…お前の名は…ポルテだ。
お前はこれより我の代わりにアストルティアを歩く足となりアストルティアを見る目となるのだ。
何も知らぬ状態では我が代わりは務まらぬ。
お前にはこれより時間の許す限り我が見てきたアストルティアの全てを教えよう…。
習うより慣れろ…とも言う。
さて、こやつに人格を譲りアストルティアを歩かせてみるか…。
そうか、それでポルテがドルワームであのヘアピンを買ったんだったよね。
コレ!そなた何をしておる!
金を払わずに持ってきてはいかんだろう!
今すぐ戻れ!ええい、我が代わる!
師匠、ポルテのために頑張ってたんだなぁ…。
こうして師匠の記憶を辿っているとますます悲しさで涙が零れてくる。
間違いなく師匠は「一人の人間」として生きていた。
アストルティアとは関係ない自分の感情と欲がちゃんと存在していた。
私は師匠に「人としての生」をもっと歩んでもらいたい。
ただ世界の行く末を見守るだけの存在ではなく、共に笑い共に泣き共に語らい共に未来に想いを馳せる友達として。エテーネの村の家族として。
そして、私が師匠と出会った場面。
今そなたの目の前で起こったことは夢まぼろしではない。全て現実じゃ。
この時は、とても怪しげな雰囲気を纏わせていた。
敵か味方か分からず私も警戒していた。
貰った磁光石も、最初ジア・クトの残した危険な遺物かと思った。
…ちょっと怪しすぎたかの…。
我なりに全てを知っている超常の存在っぽさを出したつもりだったのだが…慣れないことはすべきではないな。
〇〇の信用を得られなければ意味がないわけだからな…。
さて、ここからは我が弟子に任せるとしようか。
ポルテ…あの者と共に未知の大地へ行き創失からアストルティアを救うのだ。
これはそなたにしかできぬこと。
…頼んだぞ…。
そうして、あの日ガートラントに弟子のポルテが来たわけだ。
○○、本当に凄いやつだ。
何故だろうな。アストルティアの化身である我ですらあの者の背中はとてつもなく頼もしいと感じる。
隣にいてほしいと思っている。
ずっとあやつの戦いを見守ってきたからというのもあるが、あやつはそもそもが周りにそう思わせる気質の持ち主なのであろうな。
たとえどんなに厳しい状況に陥ったとしても…あやつと一緒ならどんな時でも切り抜けられる…。
我はそう信じている。
ゼニアスでの冒険をしはじめてからの記憶のようだ。
だが私はこの場面を知らない。師匠、裏でこんな風に思っていてくれてたんだ。
こんなに頼りにしてくれていたのに私にはその言葉を掛けてくれなかったなんて…ツンデレにも程がある。
絶対に本人の口からその言葉を聞きたい。記憶ではなく私に向けて言ってほしい。
そのためにも、助けにいかなくてはいけない。何としても。
女神ルティアナの創りし世界、アストルティア。
創生の力をもって生まれし万物には、命が宿り時に意思さえも宿る。
我はアストルティアの大地そのもの…その意思が具現化した存在と理解するがよい。
ここは…ナドラガンドで力を使いすぎて眠りについてしまう場面だ。
この時師匠は残された時間が少ないと言っていたけど、師匠が受けたのがゼニアスの呪い、そしてジア・クトに纏わりついていた創失の呪いなのであれば主神グランゼニスを倒した時にその呪いは消えているはずだ。
これは単に疲れすぎた師匠の勘違いなのだろうか。
ならば、星のオーラを集めるためにも喜んで手助けするとしよう。
それで構わんな?
創失の主神ゼネシアとの戦いのとき。これまでは関わりが少なく謎めいていた師匠とはじめて密に関わった時間だったな。
強く凛々しく、安心して背中を任せられた。
ほかならぬ師匠の中に創失を招くものが潜んでいたことが明らかになった場面。
師匠の中に生まれたというより、創失の世界で眠っていた元々一つだったアストルティアの意思が分離して現世に顕現していたのが師匠やポルテの体だった。でも創失の世界で創失を招くものも目覚めてしまい顕現していた体に欠けていたパーツが付け足されるがごとく現世側でどんどん元の形に戻りつつあったというのが正しい解釈だったわけだ。
アストルティアを救える!
残念だが、我が弟子は二度とそなたらの前に現れることも言葉を交わすこともできんだろう…。
次に会ったのは、女神の世界樹の儀式を遂行すべく切り離した人格を再び一つにした時だ。
そして、そこからの師匠との共同戦線は忘れがたい思い出となっている。
創失の塔よ!主を締め出すとはけしからんな!
そうそう、広い塔内を歩き回るのは大変だろう、我が力でそなたを助けてやろう。
こうして二人で旅するのははじめてだな…。こんな時ではあるが良い思い出ができたぞ。
……。
どんどん近づいていく。あの悲劇の日に。
本当に師匠にとって良い思い出になったの?
私はもっと、楽しい旅で師匠と思い出を作りたかったよ。
〇〇…親愛なる我が友よ。
そなたにはまこと世話になった。
みなの幸せを祈っておる。
………。
世界樹へ変わっていく中最後に師匠が呟いた。
…ずっと見守ることしか出来なかったそなたと最後に共に戦えて、我はとても楽しかったぞ…。
師匠……。
ここから先は…知らない記憶だ。
(BGM「レクイエム」に変わる)
〇〇!!〇〇!!くそ…!創失を招くものめ…何ということを…!
〇〇…!そなたがいなくては…世界が…!!
世界に不穏な空気が流れておる…。さもありなん…、これまでどれだけの平和の架け橋をあやつが担っていたと思うのだ。
これが狙いだったのか…創失を招くもの…!動けない我が身がこんなにも恨めしいとは…。
どうしてだ!!なぜ勇者や魔王ともあろう者達の訴えを誰も聞かぬ!?
なぜ考えぬのだ!結果だけが残され、いかにしてそれが為されたのかが穴だらけの歴史を…なぜ誰も疑問に思わない?!
……〇〇…、そなたは今どこにおる。そなたがいなくてはこの世界は終わりだ…。早く戻ってきてくれ…。
幾度絶望の夜を過ごしても…無慈悲にも朝は訪れる…。
親愛なる我が友〇〇が創失してから、どれほどの月日が流れただろう。
物言わぬ樹に成り果てた我が身では…目を閉じ、耳を塞ぐことは赦されぬ。
ヒトの子らの愚かなる行いをただ見つめるだけ。
人々の憎しみが世界を戦火に包み、無数の命が奪われアストルティアを傷つける…。
世界を満たす悲鳴と膨れ上がる悲しみを何もできず見守るだけだ……。
私の目は今どうなっているだろう。
きっと死んだ目をしている。
ふざけるな…。なんで私がいなくなったくらいで、ここまで人は争えるんだ…。
なんで師匠がこんなものを見せられなくちゃいけないんだ…。
全ては…無駄だったのか…?
無駄なんかじゃない。無駄になんてさせてなるものか。
待ってて師匠…、今助けに行くから。
アンルシアが…処刑…だと…?
やめろ…嬉々として報告しているそこのお前!自分が何をしでかしたか分かっているのか!!
あぁ…〇〇。すまない…。我はそなたの最も大切な戦友すらも守れなかった。
こんな無力な我を…そなたはきっと許さないだろう。いくら詫びても詫びきれぬ…。
師匠は悪くない。謝る必要なんてない。
〇〇の故郷であったエテーネの村も滅びてしまった…。
もはや世界に、あやつの帰りを待つ者はいない。帰る場所もない。
もう、嘆くことも怒ることも悲しむことにも意味がない。
我はなんのためにこんなことをしている?ただ世界を眺めるだけ、こんな役立たずが…アストルティアを救うなど
最初から無理だったのだ。
(そうだ、貴様は役立たずの存在。貴様の覚悟は何の意味も為さなかった)
!!
この声…創失を招くもの!
もう疲れた…。〇〇、すまない…。我はもう…。
(そうだ、眠れ。眠ってしまえ。これ以上目を開けていたところで辛いだけだぞ?)
師匠…こんなの…絶望するに決まってるじゃないか…!
眠ってしまえば…我はこの絶望から…解き放たれるのか?
(そうとも、お前はもう苦しまなくていい。よく頑張った…もう眠っていいんだぞ…)
そう…なのか…。
ならば……我は…眠りたい………。
(フフハハハハ、ああいいとも!お前は十分働いてくれた!あとは私に身を委ねよ…)
なんだ…この感覚は。
誰だ、我の体を勝手に操っているのは…?
なぜ我の視界が自由に動いている、女神の世界樹はどうなった…!?
創絶の呪詛だと?そんな…我の失望が…諦めがこやつを生み出してしまったというのか?!
やめろ…やめてくれ!!!
お願いだ!
やめてくれーーーー!!!!!!
(BGM鳴り止む…)
「師匠!!!」
見るに堪えない絶望の記憶の果てに闇の鎖につながれた師匠を見つけた。
走る。
一秒でも早く、師匠の下へ行くために。
鎖につながれた師匠は苦しそうに呻いている…。
「私の中に眠る創生の力…!お願い、力を貸して!!」
そう願うと私の手は暖かい光に包まれ、力が湧いてくるようになった。
鎖を引きちぎる、師匠を束縛から解き地面に寝かせて声をかける。
「師匠!師匠!!」
師匠の姿はあの日のまま、純白のローブに金の刺繡が施された覚醒後の姿だ。
「ん……そ、そなたは…。」
「師匠!私だよ!〇〇だよ!助けに来たよ!」
「〇〇?…いいや…あやつは創失してしまった。我のせいで。我が最初から女神の世界樹の儀式などしなければ〇〇は消えることなく創絶を招くものも生まれなどしなかった…。」
「師匠が世界樹にならなければあのまま世界は創失させられていたんだよ!創失の塔は今にも世界を滅ぼす勢いだったでしょ!あの決断は無意味なんかじゃなかったよ!謝らないといけないのは私の方だよ!私が油断して創失したせいで、師匠だけが辛い思いをし続けた…。ほんとにごめんね…師匠。」
涙が止まらない。
師匠にまた会えた嬉しさと、師匠に感じていた罪悪感、全てを押し付けた果てに絶望に堕としてしまったことへの己のふがいなさ。
言いたいことがたくさんある。
「……どうやら本当に〇〇のようだな。まったく、そんなに我に会いたかったのか?そなたは。」
と、頭をポンと小突かれる。
師匠はやれやれといった顔で私に笑顔を向け起き上がる。
「…長い長い悪夢を見ておった気分だ。いや、実際見てたのだろうな。我が完全に創失を招くものに取り込まれ、かの存在を創絶を招くものに進化させてしまった後も…我は奴のやることなすことを見させられていた…。女神の世界樹となり世界の崩壊を黙って見ていることしかできなかった我から、我の体で世界を創絶の呪詛で滅ぼすさまを黙って見ていることしかできない我に変わっただけ。ゆえに、他でもないそなたに倒されたこともアストルティアが創失したことも、どういうわけか復活しておる不肖の弟子が全てを蘇らせたことも覚えているよ。」
「師匠…」
「辛い思いをさせたな、〇〇。だが…私を連れ戻しに来たのなら今すぐ帰れ。」
「え?なんで…。」
「創絶を招くものも言っておったろう。我らは消えねばならぬと。元はと言えばこやつを生み出したのは我の心の弱さ故…その結果アストルティアに取り返しのつかぬ災厄を振りまいたのだ。この罪、決して許されるものではない。」
〇〇の手を振りほどき顔を背ける師匠。
だが、その顔は明らかに悲しそうだ。
「そんなの、師匠が勝手にそう思ってるだけでしょ!私とポルテは違うよ。一度だってあいつを師匠と同じ存在だと思たことはないし師匠の望みじゃないことだって分かってる。師匠に帰ってきてほしいってずっと思ってる!グランゼニス神や英雄神達も力を貸してくれてるんだよ!旧きアストルティアの化身は何としても救い出さないとって!皆師匠の帰りを待ってるの!一緒に帰ろう?」
師匠が見たことのない表情をしている。
喩えるならばまさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔と言えばいいだろうか。
師匠は悪くないし、帰ってきてほしいと思うのだって当たり前の感情だ。
師匠は何でも知ってそうなのに、こんな人間の当たり前の感情には鈍いようだ。
「どうして…そこまで我の帰りを待ってくれるのだ…?」
「だって、師匠が本当は茶目っ気のある優しいお姉さんだってことを最後の最後に知れたから。師匠の舞うように戦う姿がカッコよかったから!ポルテとの冒険も楽しかったけど、師匠との冒険ももっとしてみたいって思ったんだもん!」
「あ、あれはそなたとは今生の別れだと思ったからそうやって振舞っただけで…。というか完全にそなたの私情ではないか!」
「でも、私はその師匠が好きになったの!だから同じ世界にいてほしいの!」
「…だが無理だ。我が魂は創絶を招くものと完全に繋がってしまっている。我だけそちらに戻ることはできない。」
それも織り込み済みだ。
「大丈夫だよ師匠。これ、何かわかる?」
そう言って「天星の果実」を出す。
強力な希望のオーラの力がそこに在るだけで周囲に広がり絶望の心を癒す。
「暖かい…これは…女神の果実…?いや、違う。これは一体?」
〇〇は簡潔に纏めて師匠に説明した。
「…そうか…アストルティアのはるか天空に浮遊せし天星郷。確かにあれはゼニアスに属する世界だ…。アストルティアに満ちた希望をそのような形で残しておくとはな…。」
「この果実の力なら、十分その楔を断ち切ることができるはずだよ!さぁ師匠!一緒に帰ろう!」
「……本当に、よいのか?そなたたちの元に帰っても…。」
「うん…!そうだよね!ポルテ!!」
(ここでBGM「祈りの詩」が流れ始める。)
<うん!師匠…やっぱりあたしにとって師匠はいつでも隣にいてほしい存在なの!もっといろんなお話したいしもっと色んなところに連れてってほしい!まだまだ教えてもらってないこともたくさんあるし、師匠と一緒に美味しいものだって食べたい!!>
「…ポルテ…。」
<あ!師匠はじめてあたしのこと名前で呼んでくれた!?やったー!嬉しい!おっとっと、いけないいけない、今必死で創絶を招くものを抑えてるんだ…!ちょっとキツくなってきた…かも。師匠、自分を責める必要なんてないよ。この戦いに誰が悪いとかないと思うんだ。あたし達も、創絶を招くものもお互いの正義を懸けて戦ってるだけ。だからね、師匠も自分の想いに素直になるべきだよ!>
「我の…素直な想い。」
胸に当てた手をぐっと握りしめる師匠。
「そうだ、我はアストルティアの化身。我が一番望むのは愛するアストルティアを取り戻すこと!…〇〇、情けない姿を見せてすまなかった。我はもう迷わぬぞ。ともにこの世界から脱し、アストルティアに帰ろう!」
──このまま大人しく逃すと思うたか??
「「!!」」
すると目の前に創絶を招くものが現れた。
これまでの胡蝶の秘術にもおしなべてあった「心の中での敵との対決」。
今回も例に漏れず創絶を招くものご本人との対決というわけだ。
だが正直話が早くて助かる。
ここで創絶を招くものを倒し、天星の果実の光を浴びせれば師匠は間違いなく復活できるはずだ。
「復活の試練としてこれ以上ない相手だな。〇〇、共に戦ってくれるな?」
「もちろん!勝とうね、師匠!」
──再び絶望の世界へと引きずりおろしてくれよう!!
ボス戦:創絶を招くもの・精神体
戦闘BGMはそのまま祈りの詩が流れ続ける仕様で。
NPCとして開花ポルテが参戦。ステータスはザジザディリ戦時と同じ。
創絶の崩界竜がない分創絶を招くものの強さはストーリー時よりも強めに。
だが崩界のフィナーレも使ってくるため、それに対する結界技は開花ポルテも使えるようになっている。
創絶を招くものを見事退けた〇〇と師匠(開花ポルテ)。
──ぐっ!お…おのれえええええ!我が魂から脱するというか貴様ぁ!
「あぁそうとも!女神ルティアナの一瞬の悔恨を曲解し行き過ぎた破滅を救いと信じて疑わぬ哀れな星の残滓とは今日ここで決別する!〇〇!」
天星の果実を放り投げ、創生の力を注ぐ。
すると強烈な光が創絶を招くもの目掛けて放射されみるみる体は焦げていくかのように炭と化していく。
──あああああああああああぐううううう、ふっ…ふははははははは!!!私が消え去るか!この私が…
痛みに悶えながら笑い出す創絶を招くもの。
こちらをどこか寂しげな表情で見つめてくる。
──あぁ…私は、本当はこうなることを望んでいたのかもしれぬな…。我が半身よ、この私が負けてやるのだ。創生を司る存在として幸ある生を送れよ…?
「……。」
師匠は険しい顔をしたまま黙っている。
一層まばゆい光があたりを包み、創絶を招くものは完全に消滅した。
「後味の悪い奴め…。あれほど憎き敵であったというにどこか喪失感を感じてしまうのは同じアストルティアの化身であったがゆえなのか…。あやつも間違いなくアストルティアの意思の一つではあったのだ。最後のあの言葉は…それでも創失としてしか力を振るえぬ奴なりに思うところがあったということなのかもしれん。」
師匠は先ほどまで創絶を招くものがいた場所に立ち、わずかに残っていた消滅の跡をすくい上げながらそう呟いた。
「…終わったな。これで真の意味でアストルティアに巣食う創失の呪いは消え去った。そなたらのおかげだ。心から感謝する…ありがとう。」
師匠お得意の困り顔での笑顔。
またその顔が見れただけでもここに助けに来た意味は十分あった。
同時に、必死に創絶を招くもの本体を抑え込んでいたポルテの方も、創絶を招くものが突如として白い光の筋とともに体が崩れ去っていきパァーッと強い光が辺り一面に発された。
たまらず世界樹のツタを解き、目を覆うポルテ。光が収まった後目を開けるとそこには〇〇と師匠の二人が立っていた。
「迷惑かけたな、我が弟子よ。」
「し、し…しじょおおおおおお!!!」
思わず抱き着くポルテ。
「コレ、急に抱き付くでない。全く…。」
といいながら満更でもなさそうである。
師匠もポルテの頭をポンポンと撫で抱き返した。
ポルテはズビズビ鼻水と涙を流しながら嬉しそうに泣いている。
〇〇ももらい泣きしそうになり目をこすった。
あの日、女神の世界樹の儀式のために2人がひとつになった時にはポルテが抱きつくと共に消えてしまった。
今初めてこうして2人は触れ合うことができたのだ。
「さて、話しておくべきだろう。我が復活したことでアストルティアがどうなるか。」
グランゼニスと英雄神が待つ扉まで3人で歩いていたが、扉を前にして師匠は立ち止まり険しい面持ちで話しはじめた。
「…そなたらにはある種の覚悟をしてもらわねばならぬ。我が復活するということは創絶を招くものに消し去られたアストルティアも戻ってくるということだ。」
〇〇とポルテは頷く。
「我が弟子よ、そなたは新たなアストルティアを創生したが世界の時間は止まることなく続いている。〇〇が創失してから絶望に染まったアストルティア、皆が死に絶え全てが後の祭りとなってから消えたアストルティアが再び今の時間に現れるということだ。」
冷や汗が垂れる〇〇。
そう…師匠が復活するとどうなるかをずっと考えていた。
そして、なんとなくそんな気はしていたのだ。
「…残念だがそれが事実だ。…だがアストルティアは既に存在している。欠けることなく…創失の呪いの存在しない曇りなきアストルティアがな。その場合、アストルティアは最も辻褄を合わせた形での同化をすることになるだろう。」
「辻褄を合わせた形での同化…?」
「今の時間軸の、我が化身であった元のアストルティアに刻まれた記憶や歴史がそなたの創生した今のアストルティアに統合される。つまり、誰一人とて消えも死にもせぬが忘れ去っている記憶が戻ることになる。語られる歴史も実を伴うものとなるだろう。」
悲しそうな目で〇〇を見つめる師匠。
「つまり…アンルシアはそなたの存在を忘れながらも魔界との融和を訴えた末に処刑された記憶を取り戻し、魔王達やそなたの父母らもまた絶望の広がる世界で命を落としたことを思い出すだろう。彼らにとっては命を落とした瞬間、時を遡ってそなたが創失する直前に戻ってきたかのような錯覚を起こすことになる。」
「……。」
黙り込む2人。
「…師匠。ということは…皆は帰ってくるけど今いる皆は消えちゃうってこと?…今いるポルテも…。」
「…人格が上書きされ、完全に消え去ってしまう訳ではない。今のアストルティアで今日まで過ごしてきた記憶も残ったまま失われし彼らが戻ってくる…。とはいえ、創失したアストルティアが戻る以上主たる魂はかつての世界のものになるだろう。」
ポルテに向き合う師匠。
「このようなことは我も初めてゆえ、どうなるかは分からぬ。一度も創失しきっていないのはもはや〇〇と我しかいないのが事実。ポルテよ、そなたがあの原初のポルテと統合した果てにどのような意識を持つことになるかは我にも分からん。だが1つ確実なのは、今とは確実に変わってしまうということだ。」
「だからこその…覚悟…なんだね。」
「あぁ…そうだ。」
「……ポルテ。ポルテはどうしたい?」
「あたし…ずっと悩んでた。ううん、今もかな。あたしの中にある記憶が全部作り物なんじゃないかって。あたしが師匠と一つになって消える時の記憶だって確かにあるの。創失の世界で隊長を助けた記憶も一緒に創絶を招くものと戦った記憶も…。でも、…やっぱりあたしは「その記憶に出てくるポルテを再現した存在」でしかないのかなって。やっぱり隊長の隣にいるべきなのは本当に身をもってその記憶を刻んだ本来のポルテなんじゃないかって思うんだ。…だから師匠、隊長。あたしは大丈夫、元のアストルティアを蘇らせよう!」
少し寂しそうな顔を見せてポルテはそう笑った。
師匠は目を伏せ、何かを決心したように顔を上げた。
「…分かった。……大丈夫だ。我に任せろ。なるべく上手くやってみせる。」
そう言って再び歩き始めた。
「見えてきたぞ。我らの帰りを待つアストルティアが!」
扉をくぐり、創失の塔の頂上に戻ってきた3人。
グランゼニスや英雄神達はおおいに3人を労い、祝福した。そして──
「戻ったぞ…我が愛しきアストルティアよ。長い間留守にしたこと、どうか赦してほしい。」
カッと瞳を開き杖を天へ掲げる。
「甦れ!アストルティアよ!!!!」
(BGM「空と海と大地」(ドラクエ8エンディング曲)が流れ始める。)
fin
これまでにドラクエ10内に出てきた要素を使って師匠を救えないか考えた結果思いついたのは「フォーリオン」の存在と胡蝶の秘術でした。
この2つを上手く活用すれば破綻のない師匠救出ストーリーが作れると思います。
また、度々あえて言及している「今のアストルティアは前と違う」論ですが冒険者の広場でもそう感じている人が多いように、あれはいわば「数万年の歴史を歩んできたという設定の世界を生み出しただけで、実質新アストルティアとしては誕生後1日目」なわけです。
そしてそう感じる要因の一つが同じく「ゼネシアによって創生された"バージョン7での数週間〜数ヶ月?の冒険を共にした記憶"だけある姿がポルテなだけの生後1日目のアストルティアの化身」が作ったものだから、であるのは間違いないと思うんですよ。
この違和感やモヤモヤを払拭するには他でもない「本来の、数万年の歴史をずっと化身として見てきた師匠」が帰ってくることで「本来の実体の伴った歴史の上に成り立ったアストルティア」も復活するという展開しかないと思います。
そうなれば登場人物達も皆「これまで一緒に戦ってきた存在に戻った」といやでも思えるでしょうし、これまで抱いてきた愛着もそのまま残るはずです。
ただ、どうすべきか迷うのは「それでもそこに新たな命として生まれたアストルティアに生きる人々やポルテ」をまた消していいのか、というもの。
私個人としては100%創失前のアストルティアの皆の方がいいので構わないのですがやはりあの結末を受け入れて新世界となったアストルティアに生きる面々を「自分がこれまで一緒に戦ってきた皆である」と思うことにした人はまた未練が生まれてしまうかもしれません。
なので、まぁ上書きではなく統合でこれまでその世界でやったことや話したこともちゃんとあったこととして覚えていながらも主人格は創失前の世界の皆って状態になるのが一番ベターなのかなと。
イメージで言えば、ドラクエ6のハッサンやFF7のクラウドを想像してください。
記憶を取り戻す前のクラウドの人格は実際消えたわけです、けれども皆さんは変わらずクラウドとして見てますよね。
ハッサンについても同じです。
彼らはどちらも「新たに生まれた人格の一人の人間」であったことは確かです。
元に戻ると言えば聞こえはいいですが、見方を変えれば「せっかく生まれた新たな人格が消え去る」という現象が起きているわけです。ですが、記憶はそのまま残っているため皆さんも別人とは思わないでしょう?
これもそういう類の展開だと思っていただければ納得も行くのではないでしょうか。
⬛︎個人的に思うゲーム内の矛盾
お師匠様の教えに関してですが、こちら今回の小説序盤で2人に語らせている通り師匠が弟子ポルテ宛に遺言を残しているのはおかしいと思いました。
まず、あの見た目の師匠は7.5の創失の主神ゼネシア戦までの時系列です。
その時点で「いかにして創失を招くものを倒すか」の策は全くないわけなので師匠にさえ「弟子を残して自分だけが消える」というような事態になることは考え至りようがない。
そもそもあのメッセージを残せるタイミングもゼネシア戦以降にはないため、いつ、なぜそんな遺言を言えたのか?という疑問しか残りません。
ゆえに、私的には新生ポルテがアストルティアを新たに創生する際に無意識に願ってしまった「師匠の幻影」なのではないかと考えています。
母親のことが未だ分かっていないはずの新生ポルテが「母親とは何かがようやく分かった師匠」を作り出せたのはおかしいと思うかもしれませんが、そもそも創生する上でその存在の設定を事細かに分かってる必要はなくそこは自動的に一番それらしい存在が出来上がるものなのかと。
だってアストルティアの端から端まで全部新生ポルテが何をどうすればいいか把握して蘇らせたわけじゃないでしょうし。
⬛︎小説内容についての補足
創失の性質について私の勘違いでなければ、
「過去改変ではない」「創失した存在は創失の世界で時間経過し続け戻ってくる時はその分状態が経過してる」「ある存在が創失している間に起きたこと、その結果は残り続ける」と認識しています。
混乱を招くのがマローネが創失した時に写真からも消えた演出。
これが「創失した存在は過去からいなかったことになる」という誤解を与えます。
ですが、マローネの化粧台が残っていることや主人公が創失した時にも仮面の大魔王の彫像が残り続けていることからも「いた間に起きたこと」まで消えるわけではないことが分かります。
写真からマローネだけ消えたのも「マローネの姿を視認できるもの」は無機物だろうと消えることになるというだけではないでしょうか?
その証拠に、パドレとリンジャーラの間に不自然な空間が出来てます。
もし過去にまで影響し「写真を撮った時にマローネはそこにいなかった」ことになってるなら2人の立ち位置はもっと近いはずです。
なので、おそらく過去に行けばマローネはいるはずですし未来で創失した存在についても創失する以前の時間軸であれば普通に皆認識しているはずです。
それが観測できないのは偏に過去に飛べるのが主人公しかいないからですね。(パドレもやろうと思えば出来るだろうが…)
また、ゼネシアは最終的に創失するわけですが過去にまで創失の影響が及ぶのであれば最初からゼネシアがストーリーに出てこないようにならないとおかしい上に主人公すら創失するわけなので「創失して失われるのは人々のそれまでの記憶のみ」「現時点での記録が創失に合わせて無理やり改変されるのみ」という理解で間違いないと思います。
故に、これまで私たちの冒険していたアストルティアαが創失し違うアストルティアβができたとしても古フォーリオンの時代では普通にアストルティアαが存在してるし皆も忘れてなどいないとすることができます。
そしてストーリーラストで復活したアストルティアが「別物」である根拠もそれです。
創失したアストルティアは主人公がいなくなって少なくとも数ヶ月は経過している世界でありその間にアンルシアはじめ主人公と縁の深い人々は皆悲惨な最期を迎えています。
エテーネの村はまた滅びました。
私としては、グランゼドーラがあんなに綺麗な状態で残り続けている&まだ兵士が残っているのはおかしいと思ってます。
それこそ地上はキュロノスにやられた時ほどでは無いとはいえあちこち破壊され荒廃していなければおかしいはずです。
まぁそこは一瞬で終わる描写なのでそんなに突っ込みませんけど、実際には大切な仲間達だけでなく魔族も人類もお互い死者多数、滅亡した国や町多数、大地もあちこち焼き払われたりクレーターができたりと見るに堪えない惨状になっていたはずです。
それが「創失から戻ってくるアストルティア」のはずで、最後に新生ポルテが蘇らせたのが「元いたアストルティア」ではない理由です。
永久時環のようなトンデモ装置がない今バージョンで「因果律を操作して創絶を招くものを倒した事象のみは確定させ、それ以外を巻き戻す」なんてことはできません。
プレイヤーの中には「世界球根が永久時環と同じ働きをした」と勝手に解釈してる人がいましたが、世界球根が何かしらの力を発動させた描写など1秒もないしそもそも世界球根は「時渡り発動の許可を出す機関」としての側面が強く、「異世界も含めた過去未来全ての時間の均衡を守っている」というのもそのために時渡りを許可するか否かって話なのであって世界球根自身が世界の均衡のために時間を弄るなんてことは一切言及されてません。
そもそも、バージョン4の演出を踏まえれば時間が巻き戻ってあの世界になったのであればちゃんとその描写を入れるはずで、それがない時点で「巻き戻りはなく、正真正銘主人公創失以降の悲劇がなかった世界を作り直した」ことに違いないんです。
何度も言うように、それはもはや「別物」ですし「平行世界」ですらありません。
平行世界とは同じ時間軸の「他のルート」であって、これは「その時間軸のその後」だからです。
アストルティアが創失した→創失して何も無いところに新しく創生であり世界線は移動してません。
創失して1秒以上経過してるその世界にまた新品の世界を作っているのであり実はバージョン8への伏線になってもいないんですよね。
もし、世界球根が実は力を発揮していてバージョン8にて「あの時世界が巻き戻っていたのです!」という展開にするとしてその結果パラレルワールドが発生したというテーマになるのであれば(多くの人が8は平行世界を巡る物語だと予想してます)、なぜあのアストルティアが蘇ることで平行世界が多数生まれる事態になるのかって話になります。
その場合、その答えは結局「あのアストルティアが平行世界そのものだから」になるしかなくどの道「今まで生きてきたアストルティアとは違う世界」という結論になるのは変わらないんですよね。
いずれにせよ、今のままではどう足掻いてもあのアストルティアは「よく再現された新品のコピー世界」であり本当に取り戻したかったアストルティアは消えたままという状態なんです。
それは嫌ですよね。
おはなし感想広場を見る限りでもそう思ってる方は非常に多いです。
だからこそ、それを払拭する唯一の方法である「元いたアストルティアの化身」である師匠の復活は必須事項のはずです。
小説内でも言及していますが、師匠が復活することで「アストルティアβにアストルティアαが重なる」ことで擬似的な時間逆行をさせるという解決方法が一番ベターな着地点だと思います。
前ページでも書いていますがドラクエ6のハッサンが元の人格に戻った時のように、新生アストルティアで生きている人物達に前の世界の記憶が復活するというものです。
たとえばアンルシアの場合「主人公を忘れて処刑された自分が他の時間にいたんだ…」という記憶の復活の仕方ではなく「処刑されたと思った次の瞬間には意識が急に明瞭になり、なぜか自室にいる上に主人公もその瞬間思い出して私達は一体何をしてたのだろうと後悔する上にこの間エテーネの村で主人公とポルテが帰ってきたのを出迎えた記憶もある」という、あくまで主人格はαでありながらβになってからの短い記憶もそのまま持っているという感じです。
そうしないとそれはそれで「ポルテが新しく創生したアストルティアの皆が可哀想」ということになってしまうので。
ただ弟子ポルテに関してはどう足掻こうとオリジナルは戻ってこないためどう扱うべきかは迷いますよね。
7.6の途中までいた弟子ポルテは間違いなく師匠と1つとなって消えました。
ヘアピンに魂が宿っていたのがどういう原理でなのか未だ分かりませんが、原初のポルテも厳密には弟子ポルテそのものではなく「弟子ポルテの記憶を参照可能になった緑髪ポルテ」です。(一人称がわたしなのが分かりやすい違い)
創失前のアストルティアが全て戻ってくるというなら、ポルテは見た目は今のまま一人称は今後「わたし」になるべきかなと思います。
アストルティアを創生させた記憶も残りながらも、創失していき意識を失った次の瞬間目を覚ましたような感覚になるといった具合。
アストルティアβがあるおかげで「記憶が戻る先が丁度存在する」という状態になり、結果的に皆の魂や記憶を呼び戻すことに成功→擬似的な皆が死ぬ直前までの時間の巻き戻しということにできます。
なぜ記憶が戻るのかという点については流石にご都合主義にはなるのですが
アストルティアαが戻ろうとした際に既に死んでいるはずの生命体がわんさか普通に生きているためそのまま統合すると世界の持つ記憶と世界に存在するはずの生命の一致に矛盾が生じる。
↓
しかし創失の力が既にない世界のため、当然α世界側の記憶に合わせて生者を消し去ったり建造物を破壊するのは不可能
↓
よって生者は生者のまま存在させねばならず、かと言ってαアストルティアの世界に刻まれた記憶と乖離してる状態は世界の秩序が崩壊する。
↓
αアストルティアに刻まれた「死を迎えた事実」を現在の生者に付与する→記憶と魂がその肉体に宿り、命は無くならないが所謂「前の世界の記憶と魂、人格」が復活する、といった理屈であれば納得しやすいのではないかと。
少なくともその世界に生きる人とαアストルティアの持つ記憶は一致するようになります。
皆死んだことを思い出し、αアストルティアもたった今実質的に「過去の世界に死者を生き返らせた」のと同じことをしたと認識するためそれを以て世界の記憶と生者の数の間に矛盾が無い状態になったという結果にもできます。
人によっては「わざわざ惨い記憶を思い出させるくらいなら今のテセウス化したアストルティアでいい」というプレイヤーもいるでしょうが、自分がいなくなってから皆苦しんだということも分かち合えてこそ本当に自分と絆を育んでいた皆だと思えると私は思います。
pixivにダンガンロンパとタイムリープを織り交ぜた二次創作があります。
1周目で生き残った苗木くん達が玄関ホールの扉を開けて外に出たと思ったらコロシアイ生活初日に戻っているという話でした。
生き残った生徒だけは記憶が引き継がれており、苗木君と霧切さんだけが6周くらい死なずにずっと記憶を保持し続けていました。
7周目で霧切さんが処刑されてしまい8周目の霧切さんは何も覚えていない人格に戻ってしまいました。
仮にこの8周目で霧切さんと死なずに生き残れたとして、それってもう7周分の痛みを分かち合った霧切さんじゃないんですよね。
7周も共にするって相当ですよ。ホントにその間に育まれた絆は半端ないものだったはずです。
その絆が一切消えてなくなってしまったら、どんなに自分を納得させようと努力しても絶対に「かつてのその人」を求めてしまうし重ねてしまうに決まっています。
だから私はタイムリープものもどんなにハッピーエンドのように終わっても切ないという感想にしかならないんです。
今回もそうです。
「何も知らないアンルシア達とまた楽しく冒険すればいいじゃん」では納得できないんです。
だって、本来のアンルシア達であれば知っているはずの、味わったはずの絶望や苦悩が無いんですから。
私はそれを語られて「でも、あんなに絶望的だったけど最終的にあなたが救ってくれて良かった。ありがとう。」と言われてはじめて「あぁ、皆を救えてよかった」と喜べるのであり、私だけが失った悲しみを覚えていて当の本人達に「どうしたの?私達に何かあったの?」とキョトンとされてはその悲しみを誰と分かち合えばいいんですか?
良いことも悪いことも全て共有してこその「仲間」でしょう。
バージョン7.3で結婚式かのような演出をしてまで誓わせたのにその集大成がこの終わり方でいいのですか?
私は納得できません。
バージョン4ラストは違いますよ。
繰り返しますが、あれは劇中で明確に「巻き戻し」であることが分かりますので「覚えていなくて寂しい」気持ちはあれど「同じ世界」とは思えました。
それに、だからこそ師匠だけは「アストルティアに刻まれた僅かな記憶から一旦滅ぼされたアストルティアが主人公によって巻き戻されて救われた。」ということを理解しより一層一目置くという過去にできるわけですし。
少なくとも今回はあったことをなかったことにしたのではなくあったことはあったことのまま残ってるけど、なかった世界を別で用意しそっちでこれから楽しく暮らそうというものであり時間逆行と比べ物にならない虚無感を与えられています。
ゆえに、たとえアンルシア達を再び絶望させることになろうとも記憶を蘇らせかつての世界と思える物語を追加するべきだと強く思います。