自他共に認めるクズが同僚と言い合いをしながら、とあるものを創るお話。
『──下がれ、俺だけで十分だ』
身体に無数の傷を付けた剣士の男が魔物の大群を前に大剣を構え、長らく生死を共にした仲間達を敵から離させる。
仲間達は十人十色の説得で男に逃げるよう伝えるが、男は聞く耳を持たない。
男は勿論、仲間達も察していた。全員が全力で眼前の魔物の大群にかかったとこで、勝ち目なんて存在しないことに。
──男は自分を犠牲に仲間達を守ろうとしているのだ。
己の体裁を守ろうと強い言葉で仲間を突き放す男に、仲間の内の一人が絞り出した苦い声で彼に問い掛けた。
『……お前だけで、勝てるのか?』
勝てる訳なんて無い。だが、男は獰猛な様子で叫んだ。
『当たり前だ!!さっさと行け!木偶の坊共!!』
『……っ、──あぁ!』
そうして男を置いて仲間達は町へと駆けていく。
獣の雄叫びとそれに負けぬ猛々しい男の声を背に、仲間達は必死に足を動かした。
◇◆◇
「うわ〜、良い……!!良いわ、これ」
私は最近同僚から勧められたアニメを観て、仕事中にも関わらず感極まっていた。
王道中のド王道の展開だというのに、これ程までに胸を締め付けられるものなのか。
「こりゃ『一期は布石』って言うよなぁ。正直一期が微妙だったから離脱しようと思ったけど、諦めなくて良かった〜。しつこく念を押された甲斐があった」
関係性オタクとしては最高の展開だった。敵対から始まった仲間達との関係が、最後は命に代えて守るべき関係になるだなんて。
こんな展開、思い付いたとしてもこれだけ自然に心情の変化を表現出来るだなんて、人間が考えたとは思えないクオリティだ。
「良いなぁ、私もこのアニメみたいに未知の世界を冒険してみたいよ。はぁ〜〜……」
溜め息を吐いてぐでっと机に伸びてみる。すると、視界の端に頭の下敷きになった、随分と前から見ないフリをしてきた図案が見えてしまった。
図案が出来てるなら創れば良いのにっていつも同僚に言われるけど、完璧主義な私には無理な話だ。
正直、この図案は上司に急かされて、取り組んでる風に見せる為に描いたものだから、雑な部分が多く到底納得出来るものじゃない。
簡単には出来ないし、やる気も出ないし。
「どうしたの?死んだ水生生物みたいな顔してるけど」
「おわぁっ……!?びっくりした……」
突然、視界に美形の顔面が映り込んできた。
そのお陰……と言っていいのか、飛んで上半身を起こした。
目の前に現れたのは、件のアニメを布教してきた同僚だった。
「今日も可愛いね、48点」
「勿論、50点満点だよね?」
「100点満点に決まってるでしょ。50から上は二次元だから、48点は相当高いよ」
「なんにも嬉しくないんだけど。さっさとその喧しいお口を閉じてくれないかな?」
流石我が同僚。いつもよりも磨きのかかった失礼さに感心二割、苛つき八割。
けれど、さっきまで抱いていた己の責任である怠慢からの不愉快さが、他人の責任である無礼からの不愉快にすり替わったお陰で心なしか気分が落ち着いた気がする。
他人の責任にするって楽で良いなぁー。
「……クズ仲間としての助言だけど、言葉や態度に出さなかったら何を思っても良いっていうその考えは辞めた方が良いと思うよ」
「アンタみたいに言葉や態度に出す方が最悪だと思うけど」
「へへっ、照れるなぁ〜」
「お前の口を引き千切ってやろうか」
「千切っても良いけど、優しくしてね」
何言っても駄目だ、コイツは。
関わる度に毎回毎回思うけど、どうして私はこんなヤツとツルんでるんだろ。
「似た者同士だからだと思う。好きなものも嫌いなものも殆ど一緒でしょ?おバカさんな人達から時偶同一人物と間違えられるくらいには」
「勝手に心読まないで。それ以上余計な事したら暴れるよ?」
私はギロリと同僚を睨み付けてやると、ソイツは腕を組んでうんうんと頷いた。
「そうそう、そうやってどんどん態度に出していこう。脳内悪口陰湿女から口でか露悪女にアップグレード」
「ダウングレードだろ、口でか露悪女め」
「へへっ、照れるなぁ~」
「後で口引き千切り刑な」
純粋な赤面顔を見せてくる同僚を無視し、私は掌を大きく開き図面のシワを伸ばした。
それを同僚が覗き込み、どうやろうとも減ってくれない減らず口を叩いた。
「あれ、それまだ終わってないの?結構前に頼まれてたやつだよね」
「だから上司に急かされてんの。でもこんな不恰好な状態で創れないからもう少し整えないと。あー時間が掛かる掛かる」
「私は秒で創ったけどね。あれからもう結構時間経つけど、何とか動いてるよ。創ってないより雑でも創った方が賢明じゃない?」
「滅多にない正論がここで飛んでくるとは……仲間はいないのか、絶望」
「え?私仲間じゃなかったんだ。これでクズも卒業かぁ」
「性格の話してないからね、仕事の話だからね、全然それでイラついたりしないからね。安心して、お前は立派なクズだ」
「へへっ、てれ──」
「口引き千切り刑、実行」
堪忍袋の尾が切れた私はガバリと立ち上がり、同僚の口角を鷲掴みし思い切り外へと引っ張った。
ブチッ、ベチッ、と皮膚が引き千切れる音が幾つか鳴るが私は容赦なく力を込める。
「
皮膚が裂かれながらも同僚はニヘラに笑って言う。
その様子が余計にムカついてきて、私は口の引き千切りを止めた。
「も~、痛いじゃんかぁ」
同僚は血塗れになった口角をペチペチと何度か叩いて、自分で自身の口角を摘まみ元あるべき位置へとぐっと寄せた。
なんかアニメの表現みたいだな。
「あ、そうだ。それ良いじゃん」
口角の位置を正し、血を止めて完治させた同僚が不意に私を指差した。
『それ』って……また心を読んだなコイツ。
「アニメ布教したでしょ、どうせハマったでしょ」
「どうせハマりましたけど」
「そのアニメの要素をその図面に組み込んじゃえば良いんだよ」
「あー……」
案外名案かもしれない。
私みたいなクズは好きなことじゃないとやる気が出ない。
なら、この仕事に趣味を組み込んでしまえば……?
私は椅子に座り、再び図面に向き直る。
ペンを持ち、書き込まれた内容を確認し、新たに書き込む。
「ここにこうして……で、これはこうしたら矛盾はなくなって循環されて……」
私の頭にあるのは、さっき見ていたアニメ。
本当はあまり良くないことなんだけど……あのアニメを再現しよう。
上を見ることにしか興味がない上司が、あのアニメを知ってる訳ないからバレないでしょ。
「設計は良いと思うけど、これ規模大きくなり過ぎてない?元々使おうとしてたスペースに入れられない気がするけど」
「それはそう。じゃあ……他のスペース探そ。それくらいなら上司も怒んないでしょ。むしろ、この大傑作を誇りに思って昇格の為のアピールにでも使ってしまうことでしょう」
「よっ、自己愛だけは言葉と態度に出る女っ」
「お黙りなさい、口でか露悪女殿」
口で同僚をあしらいながら、私は目を閉じ丁度良いスペースを探す。
すると、大発見!
「丁度空いてるスペースあんじゃーん、見てよ」
図面を丸めて握り、私は空に指で円を作る。そこにふっと息を吹き掛け円を広げて、私と同僚をくぐらせた。
場所は大きく変わり、私と同僚がいるのは丁度良いスペースだ。
「ほう……なーんもないね」
「ここが、丁度良い
私は無意識に満面の笑みになる。
「何だか最高傑作が出来そうな予感。図面を温めてから約百年、久し振りに
「頑張れー、クズ神ー」
暴言吐かれても今は全然気にならない。
持ってきた図面を広げて、想像を膨らます。
──そして、創造する。
目の前の
そして暫くすれば、それは出来上がる。
「ねぇクズ神2。この世界の名前付けて良いよ、ただし上司に怒られない名前で」
上機嫌になって思わず私はそう言ってしまった。
そして、後悔した。
「じゃあ二次創作星」
同僚がそういうと、惑星の表面に神々にしか見れない文字で『二次創作星』とデカデカと刻まれた。
「は!?こんなんやったら取り消せないじゃん!?なにやってんの!?」
上司にこんなの見られたら一撃で潰される……!
「いや、新たな取り組みだって言えば良いんだよ。あのアニメのファンの人間をこの二次創作星に転生させて遊んでみる、っていう新たな取り組み」
「無茶があるでしょ、流石にそれは……」
「案外受け入れられるかもよ?最近世界創造もマンネリ化してるから」
「えぇ……?いやでも……うーん……」
でもこれしか道がなさそうなんだよなぁ……。
……適当に言い訳用意するしかないか。
「言い訳の神なんだからそれくらいは簡単でしょ」
「だから勝手に心読むなって、手抜きの神め」
へらへら笑う同僚。首をもぎ切ってやりたくなる。
いや、やったろかな。別に首取れたくらいで神だから死なんし。
「流石に拒否させてもらうよ」
また心を読まれた。
「そうやってイラついてる顔も可愛いね、44点」
「点数下がってんじゃんか!!」
それから、二次創作星に見守られながらボコスカと殴り会う我々クズ神。
……後に、二次元世界転生という大ブームが神々の中で勃発するとも知らずに。