魔王──言うなればそれは、魔物や角付きの頂きに座する者である。
或いは、あらゆる魔法をその手に収めた怪物なのかもしれない。
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アレから400年が過ぎ去った。
その間、私とゼーリエは共にあの日の術に関しての共同研究を行って来た。だが結果として、時間逆行は全て失敗に終わった。想像でも不可能。魔法式での再現も一切できなかった。
内臓の破損に関しては、ランダム性と指定性の両方を製作する事ができた。こちらに関してはそう難しいものではなかった。
だが何も得られなかった訳ではない。時間逆行に関する研究を進めている中で、私は《未来を見通す魔法》を作り出すことが出来た。
とは言え確定した未来ではなく、可能性のある数億通りの未来を見れるだけだ。その中でひとつを選び、また見通した数億通りの中から選ぶ。この繰り返しで未来を選ぶことが出来る。
ただ残念な事に、酷い頭痛・吐き気・目眩そして膨大な魔力を消費してしまう。実用にはまだまだ程遠い代物だ。
それから、他にも面白いことがここ100年ほど多発している。ずっと前に噂で流れていた魔王という存在が、噂だけではなくなったようだ。
遥か北側…最北の地にて強大な力を有する角付きが、魔物や角付きを率いて人類と戦争を始めた。
全ての角付きが従っている訳では無いが、圧倒的な魔力と強力な魔法を有する角付きに対して、人類は数少ない魔法使いと強靭な肉体を持つ戦士だけだ。はっきり言って、魔王軍の方が圧倒的に優勢だ。
「…はてさて、全くもってどうなる事やら」
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大陸中部のとある街に、一体の角付きが襲撃を仕掛けていた。街を炎の魔の手に燃え盛り、街を護る兵士は大半が死に絶え転がっていた。数少ない魔法使いたちですら手に負えず、力無く倒れ伏している。
「弱い。人間とはこの程度か」
角付きは悠然とした足取りで街を練り歩き、住民を殺していく。
兵士が立ち塞がる…殺される。
戦士が斧を振るう…殺される。
母と父が子を守る…殺される。
青年が勇敢に立ち向かう…殺される。
逃げ惑う人間が為す術なく…殺される。
「…つまらんな」
──ん〜、ちょっと来るのが遅れたかな?
喧騒と静寂が矛盾に入り交じる中に、軽妙な声でひとり呟く女が歩いていた。
「…?」
淡い水色の長い髪、切り揃えられた前髪、青いマントを羽織った女の左腰には、二振りの剣が携えられていた。
「誰だ貴様は…なんて言いそうな顔してるね」
「気味の悪い人間だ」
角付きが軽く手を挙げて、指先を軽く落とす。
「《
瞬間…女の周囲に空間が歪むほどの重力が──「…ごほっ」。
角付きが視線を胸部に下ろす。そこには、血の滴る鈍色の刃が突き出ていた。ボタボタと止めどなく血が流れる。
「悪いけど、私とあなた達は生きてる時間が違うんだ」
「くそ」
角付きが振り返る勢いで腕を横薙ぎに振り払えば、横に超重力が発生し建物や地面もろとも木っ端微塵に吹き飛ばす。
「すごいね。もしかして噂に聞く四天王?」
青髪の女はいつの間にか離れた建物の屋根の上に立っていた。
「…四天王でなければ何か問題か?」
「ううん。全然」
一言二言と交わし終えた瞬間──「ちっ、人間側にも化け物がいたか」
そう呟いたと同時に、ゴトン…と角付きの首が地面に落ちた。そのまま魔力となって崩れ去った。
青髪の女は破壊された街と、地面に横たわる住民に歩み寄り手を添える。
「…ごめんね。来るのが遅れて」
「あ、あの…貴女様は…?」
角付きに殺されずに生き延びた住民のひとりが、青髪の女に問いかける。それに続いて、ぞろぞろと住民が集まってきた。
「……」
青髪の女は剣を鞘に収めると、自信満々に胸を張って満面の笑みを浮かべて名乗った。
「私の名前はフェルリーア!魔王をぶっ倒してあなた達を光に導く───ヒーローだよ!」
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角付きに襲撃された街ザイテは、死者を弔った後建物や道路の修復そして炊き出しを始めていた。角付きを討伐した女…フェルリーアは、領主の館に招待され感謝の意を示されていた。
「此度は貴殿のおかげで助かった。心より感謝する」
領主は深々と頭を下げて、感謝の言葉を伝えた。
「ちょ、頭下げないでくださいよ!領主に頭下げられたら困るんですけど?!」
フェルリーアは頭を下げる領主を前に、手をバタバタと動かしながら慌てふためいた。
領主は軽い笑みを浮かべて、フェルリーアに向き直る。その笑みには、憔悴と悲しみの色が見え隠れしていた。
「…さぁ、椅子に掛けてくれ」
「は、はい!」
フェルリーアは差し向けられた手の先にあるソファーに、姿勢よく座った。腰に携えていた剣は、ソファーの肘置きに立てかけてある。
うわ〜すご。
置いてる家具とか全部高級品なんだけど…さっきカッコ付けて名乗ったはいいけどけど、私数日前に旅始めたばっかの田舎者だから礼儀作法とか全然分からない…。
「そう畏まらないでくれ。救世主たる貴女はもっと堂々としても良いものだ」
「あ、はっ…うん分かった!」
フェルリーアは内心ヤケクソになり、普段通りの喋り方に無理やり戻した。
「え、えっとそのぉ…私ちっちゃい村の僻地の田舎者だから、礼儀とか分からない…よ?」
「はっはっはっ。構わないさ。さて、フェルリーア殿にはこちらを受け取って頂きたい」
そう言うと、領主は執事に手招きをした。執事の手には麻袋の袋があり、フェルリーアへと渡す。麻袋からはジャラリと金属同士が擦れ合う音が鳴り、中を見てみれば数十枚の金貨が入っていた。
「……」
フェルリーアは見た事もない大金を前に、完全に脳がショートしていた。
「それはこの街を救ってくれた礼だ。貴女が来てくれなければ、今頃住民と私はあの化け物に殺されていたからね」
「っ…も、貰えないよこんな大金!」
ソファーからバッと立ち上がり、勢いよくテーブルに金貨の入った麻袋を置いた。
「わ、私の手には余るし!第一街の復興にもお金掛かるじゃん!」
「それに関しては問題は無い。それは私の財布から出したものだ。街の財政には手を付けていないから、復興資金に問題はないさ」
領主は穏やかな面持ちと声色で説得するように言葉を連ねて、フェルリーアに返させようとしなかった。フェルリーアはどうしたらいいのか分からず混乱したが、領主の空気を読み取ってソファーに座る。
そしてフェルリーアは、軽く微笑んで金貨を受け取った。
「…ありがとう、領主様。これは大事に使わせてもらうね」
「…こちらこそありがとう。さて、腹は空いていないか?この街は料理が盛んなんだ。沢山食べてくれ」
「ほんと?!ちょうどお腹すいてたんだよね〜」
フェルリーアはその日、沢山食べて沢山寝たのだった。
そして次の日、フェルリーアは街の復興を手伝っていた。重たいレンガや角材を易々と運んで、住民の負担を和らげていた。
「ふぅ…」
フェルリーアは近くの木箱に腰を下ろして、軽く休息を取っていた。
すると──。
「あ!ヒーローさまだ!」
無邪気な幼げな女の子の声が、フェルリーアの耳に届いた。フェルリーアはそれに気付き、少女に笑顔を向けるとガッツポーズをとって見せた。すると少女は嬉しそうにキャッキャと喜んでくれた。
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フェルリーアが街に来てから一ヶ月が経過した。破壊された城壁は完全に修復され、建物や道路は大方の修復が完了した。
死んで行った者たちの埋葬と弔いも終わり、負傷した住民や兵士も問題なく動けるようになった。
そして街は、少しの活気を取り戻していた。それに伴い、フェルリーアは次の街に向かうことを決めたのだった。
「〜〜♪」
大通りに面した宿屋の一室で、フェルリーアは鼻歌を歌いながら荷物を纏めていた。
「よし!準備万端!」
剣を腰に携え出発の準備を整え終わったフェルリーアは、宿の一階に降りてお世話になったお礼を言おうとした…が、カウンターには誰も居なかった。
「あれ?いつもならいるんだけどな〜…買い出しかな?」
フェルリーアは不思議に思いながらも、誰も居ないカウンターに頭を下げて『お世話になりました』と言って、宿の扉を開けた。
それと同時に──ドォン!ドォンドォン!ドドドォォオン!と沢山の花火が打ち上げられ、ラッパが響き渡り街のシンボルが描かれた旗が無数に掲げられていた。
大通りの端や建物の屋根の上には住民が感謝の言葉を叫んで、兵士たちは剣を掲げる。
「……なにこれ」
「フェルリーア殿」
大通りに一歩出たフェルリーアに、横から領主が声を掛けた。
「そろそろ出発すると思った故、少々大袈裟ながら壮行式をさせて貰う事にした。改めてフェルリーア殿。魔物の討伐のみならず、一ヶ月間にも及ぶ復興の手伝い深く感謝する。我々ザイテの住民一同は、貴女が無事旅を終えることを祈っている」
領主が深く頭を下げて、強く力の籠った声色で『ありがとう』と伝えた。
それに続いて、住民達も『ありがとう!』『フェルリーア様お元気で!』『本当にありがとう!また来てくれよ!』『ヒーローさままたね!』と様々な多くの言葉が飛び交ってくる。
「……はは、まさかこんなに感謝されるとはね〜」
フェルリーアは軽く俯くと、バッとマントを靡かせて胸を張った。
「必ず魔王倒して遊びに来るから!みんな元気で!ちゃんと生きててよね!」
そう宣言するように叫ぶと、フェルリーアは北に向かう門に足を進める。
その時──。
『ホォォォォォ…ウゥゥゥン…キュルルルル……』
と、世界に轟くような鯨の鳴き声が響き渡った。その場の全員が空に目を向ければ、そこには空を泳ぐ無数の生き物と、それを先導するように泳ぐ巨大な鯨の姿があった。
「あはっ…すご!空鯨の祝福付きとか、最高の始まり方って感じじゃん!よ〜し!頑張るぞ〜!」
そうして、フェルリーアと言う一人のヒーローの始まりは多くの者たちの感謝の言葉と、空を泳ぐ鯨の祝音と共に幕を開けたのであった。
いきなり展開ですがここから森の外の話を動かしていきます。