水瀬拓海は敬愛する祖父を喪い途方に暮れている大学生。
そんな彼に残されたのは祖父との思い出と形見のペンダント
祖父曰く海の女神様からの貰い物らしいが拓海は信じていない。
祖父を喪って初めての週末、海を訪れた拓海の前に突如異形が姿を見せる。その時形見のペンダントが輝き始めて…。

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オリーブドラブ先生のウルトラマンカイナを見て書きたくなりました。
皆様も是非見てみて下さい。(今作品との関係はありません)


青の巨人

1999年、2度の世界大戦を経た20世紀の終わり眼前に見え始めた頃。それは世界の終わりの大予言に大規模な電子機器のシステム障害への懸念…新しい時代への漠然とした不安、恐怖が人々を覆っていた時代でもあった。そんな7月のある日、世界は1つの報告書に大きな衝撃を受ける。

 

この世界には地球外生命が人間に擬態し生きている可能性が極めて高く今後、異星人が地球に敵意を持って襲来し得る可能性も否定出来ない。

この様な書き出しから始まった国際宇宙研究の権威団体が記した報告書は当時世界を席巻していた世界の終わりの大予言の中に出てくる恐怖の大王の名を冠して「アンゴルモアレポート」と呼ばれた。この様な突飛な文書をまともに取り合う有識者は極めて少なく、メディアもその存在を報じなかった。しかしその直後、日本の近海で大型の地球外生命体、所謂怪獣が襲来し日本全体に混乱をもたらした事でこの文書は世界中に広く知られることとなった。

幸いにしてその怪獣は、同じく飛来した別の人型の大型地球外生命体によって撃退された。その生命体が青い姿をしていたためか、人々はその人型地球外生命体を「青の巨人」と呼んだ。

 

その一件以降、怪獣は世界には現れず青の巨人もまた姿を表すことはなく14年の時が過ぎた。世界は戦争も未曾有の天災にも見舞われることなく平穏な時が流れ2013年の春を迎えていた。

 

ーーーーーー

 

祖父が死んだ。

大学に入学し始めての週末に飛び込んで来た凶報に水瀬拓海は電車に飛び乗った。拓海にとって祖父の重光は幼少の頃から敬愛の対象だった。長期休みになれば家に泊まっては遊び、学び、時々怒られた。思春期になっても関係に亀裂が入ることなく、両親に言いにくくなった素直な気持ちも重光と2人きりになれば自然と打ち明けることが出来た。進路のこと、家族のことや恋愛に至るまで悩みを打ち明ける拓海に重光は愛ある説法を説いたあと、決まって拓海は拓海の生き方をすれば良いだわ、それが一番良いに決まっとる。俺は応援してるでな。そう言って微笑んだ。重光お気に入りの黒いサングラスから覗く優しい瞳が拓海は大好きだった。

 

重光の体調が悪くなったのは1年前、秋から冬に季節が変わり始めた頃だ。海辺の町で1人暮らしの中、家で転倒し病院に搬送された。拓海も家族と一緒に血相を変えて病室に行くとバツの悪そうな顔で照れ笑いを浮かべながら、おう来たかと軽口を叩く祖父に苦笑したが、思いの外身体は弱り切っていたようで、退院間際のMRI検査で末期の大腸ガンが見つかり余命宣告を受けた。

 

母親から聞いた話だがその時重光は怒るでも悲しむでもなく、この年でまだこれだけ生きれるだけ儲けもんだわと笑っていたらしい。

拓海は祖父の豪胆さに驚き、もしかしたら余命を越えてまだまだ長生きしてくれるのではと勝手な希望を胸に抱いた。

 

しかし現実は非情なもので病魔は静かにしかし確実に重光を蝕んでいった。海が好きな色黒で屈強だった祖父は日を追うごとにやつれていく。これが他人であるならいくらか受け流すことができるかもしれない。しかし相手は自分が一番敬愛する人物だ。弱っていく姿を受け流すことなど拓海には出来なかった。見る拷問だとすら思えた日々が2ヶ月が過ぎようとしていた頃、見舞いに来た拓海に重光はベット横の引き出しを開けるように言った。

そこには青い石に鎖がつけられたペンダントが入っていて拓海は何かの記念品なのと聞くと重光は悪ガキのような屈託のない笑顔でと10年くらい前に海の女神様から貰っただわと言った。

 

こんな時でも冗談を言えるのかと半ば呆れながら曖昧に微笑んでいるとこれを拓海にやると言い始めた。拓海にはこの石が価値のあるものにはとても思えなかったが、ここで断れば不孝者になる気がして内心不承不承ではあったがこれを頂戴することにした。

これで拓海も海の女神様に会えるだわと重光は言ったが拓海には年寄りの与太話にしか聞こえなかった。

 

「俺も死んだら海に帰るだけだで。」

 

やめてくれ。そんなこと言われないでくれ。

たったそれだけの言葉が口から出てこない。

口に出してしまえば本当に居なくなってしまう、現実を受け入れなければならなくなる気がして拓海は唇を噛んで俯くしか出来なかった。

 

最後に顔を合わせたのは10日前の雨降る昼下がり、少しくらい病室のベットに息をするのも苦しそうなほど苦悶な様相な重光を見て拓海は逃げ出そうとするのを必死に堪えた。

ここで逃げてはいけない、逃げれば一生後悔すると自分に言い聞かせた。目を背けるな。泣くな。笑え。

 

「ごめん…オレ…オレ…。」

 

嗚咽が混じり言葉が続かない。口を開けば涙が溢れ止まらない。小さい頃から面倒をかけてしまったことへの懺悔も感謝も、生きていて欲しいという無茶な甘えの言葉すら出てこない。同行していた母の啜り泣く音が後ろから聞こえる。病院の喧騒も窓から差す僅かな木漏れ日もどこか遠くのことの様だ。空虚さは時に音を霞ませる。

 

その様子を見ていたのか、重光は拓海の左手を握った。精一杯の力で握られたその手は痩せこけシワが目立っていたが力強さが感じられた。何かを伝えようとしている。拓海は本能的に床に膝をつき目線を重光に合わせた。

 

「が ん ば れ」

 

息も絶え絶えの中、命を吐き出す様に一文字一文字区切りながら発せられた言葉に拓海は何も返すことが出来ず、慟哭だけが病室に響き続けていた。

 

頑張るってなんだっけ。頑張って何をしたら良いんだっけ。オレわからない。わからないよじいちゃん。

 

泣き腫らした眼で呆然と車窓を眺めている拓海を尻目に特急電車は決められた道を駆けて行く。

世界からも取り残された気持ちがした。

 

ーーーーーー

 

葬儀から一週間。学友と味気ない食事を食べ、どこか別世界の話のようで耳に入ってこない講義を聞き流し、時間や体裁に縛れ動かされる。そんな拓海の日常は糸が絡みついたマリオネットの様な窮屈であり退屈だった。

 

少しずつ長くなってきた夕暮れ時を横目に下宿先の最寄駅行きの電車に乗る。周りを見渡せば、1人で座っているのは自分だけの様で大学生デビューに乗り遅れたことを自覚させる。しかしながらそこまでの悔いもなかった、そこに心を割くエネルギーすら湧いて来ない。全てが無感動だった。

 

その週の日曜日、拓海は下宿先から歩いて着くほどの距離にある浜辺に居た。都市部には特急電車で1時間ほどかかる所謂田舎町である場所ではあるが夏になると浜辺にビーチパラソルが並び海の家にはテラス席が設置されるほど盛況になる。しかし今は季節が春と早いせいか潮干狩りに精を出す親子連れやカップルが何組がいる程度で盛況とは言えずどことなく寂れた雰囲気を醸し出していたが今の拓海にはそれが心地よさすら感じた。拓海は何となく近くにいた親子に目をやった。

 

「お父さん〜貝取れた〜」

 

「おっ、見せてごらん…スゴいじゃないか〜これは大物だぞ!」

 

黒いキャップを被った男の子が父親に貝を見せて屈託のない笑顔を浮かべている。ごくありふれた家族の瞬間ではあったが拓海には心地よい海風を少し冷たく感じさせた。一緒にご飯を食べたこと、デパートで迷子になった拓海を迷子センターまで迎えにきてくれた祖父の姿、悩みを穏やかに受け止めてくれた優しげな瞳…心豊かで戻って来ない瞬間が頭をよぎって消えてゆく。この思い出もやがては消えてしまう。

 

ーーーーーーがんばれ

 

どうしてあの時笑顔を…いや一言でも言葉を返せなかったのだろう。綺麗な思い出はいつかは消えてゆくがこの後悔だけは一生消えない。

 

その時、ビュッと強い風が吹いたかと思うと拓海の足元に帽子が転がってくる。件の男の子がそばに寄ってきた。父親も砂浜に足を取られながら後を追いかける。きっと日頃から男の子のわんぱくさに手を焼いているのだろうか、拓海にすいませんと頭を下げながら父親はどこかばつの悪そうな顔をしている。拓海は努めて笑顔で元気なお子さんですねと返し男の子の頭に帽子を被せる。この時間をどうか大切にして欲しいと心で語りかけながら。

 

ーーーーーーワシの声に応えよ、危機が迫っておる。力を求めるのじゃ。

 

不意に頭に声が響く。驚いて辺りを見回すが件の親子連れが不思議そうな顔をして拓海を見ているだけだ。ついに幻聴まで聞こえてくるなんてどうかしてきている。拓海はすいません、何でもないですと取り繕う様にその場を離れようとしたその時だった。

 

グゴゴゴゴゴッ!!

 

うねる様に地面が波打つ。地震かと思ったがそれは即座に否定された。巨大な水柱が拓海の眼前の海で立ち上がったかと思うと『何か』がその姿を表した。それは肉食恐竜の様な見た目でありながら背鰭を有しイルカの鰭の様な前足がダラリと下がっている。そしてその大きさは都会の高層ビルよりも高く大きい…怪獣と呼んで差し支えない異形。

 

ギャーーーアアアア!!

 

挨拶がわりの咆哮に浜辺にいた人々は我先へと駐車場へと走り出す者もいれば泣き叫ぶ取り乱しながら何処かへ電話をかける者がいたりと阿鼻叫喚の様相を呈した。拓海ももちろんその中の1人で情けない声をあげていた。その時子どもとはぐれたのか半ば悲鳴のような声で名前を呼ぶ母親とすれ違う。拓海はその母親を呼び止め自分も探すことを伝え人混みと反対方向に駆け出した。何故そうしたのかは分からない。ただ祖父がもし居たならばそうしただろう。

 

名前を叫びながらしばらく走っていると半袖ハーフパンツの女の子がママと泣きじゃくりながら立ち尽くしているのを見つけた。きっとあの子だ。拓海は目線を女の子に合わせるとお母さんに頼まれて来たんだ、一緒に逃げようと手を差し伸べる。女の子は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている顔を袖で乱雑に拭くと拓海の手を取って一緒に走し始める。思っている以上に素直で冷静な子だと思いつつ女の子に歩を合わせた。

 

母親とは幸いすぐに合流出来、拓海は胸を撫で下ろし子どもを引き渡す。母親はありがとうございますと御礼を言うとすぐに娘を連れて雑踏に消えていった。淡白な反応であるがこの事態だ仕方ないだろうし、自分も一刻も早く離れなければ。幸いなことに異形は自衛隊機の爆撃を受けているせいかこちらに気を向ける余裕もない様だ。

 

(よし!じゃあオレも逃げないと!)

 

拓海が雑踏の中に身を入れようとしたその時、首に下げたペンダントが一瞬淡く青色に光ったかと思うと頭の中に声が響く。

 

ーーーーーーワシの力を使うのじゃ、それが契約者であるお主の勤めぞ

 

(この声、さっきと同じ!?)

 

すると白く眩い光が拓海を包み込んでいく。

眩しさから拓海は思わず目を瞑り、そして意識を失った。

 

ーーーーーー

 

全く何をしているんじゃお前は。

そんな遠くから声が聞こえるが、水の中にいるかの様にその音はぼやけて聞こえる。

もしかしたらあの大騒ぎの最中自分は三途の川を流れているのかもしれない、静かに時が経つのを待てば良いのかもしれないと声に応えず静寂に身を投げる。

 

「ワシが話しかけておるのに無視を決め込むとは何事か!人間!お前に話しているのじゃぞ!」

 

先ほどの声とは違い、ハッキリとした声に驚き目を開けると自身は何故か直立して立っている。周りを見渡すと海の中の様なターコイズブルーの空間が360度広がる不可解が光景が広がっていた。そして幼げな美少女が憮然とした表情で見つめている。拓海は何が何だか分からず閉口していると、腰まであろう程の水色の長髪をなびかせながらあやめ色の瞳を持つその少女は何やら捲し立て始めた。

 

「そもそもワシという者がありながら、むざむざと逃げようなど弱腰を通り越してバカ者じゃ!バカ者!バカ者!バカ者!」

 

「ちょっと!いきなり現れて好き放題悪口を吐き散らかしてあなた一体なんなんだ!?そもそもここはどこであなたは誰で何がどうなってるんだ?」

 

すると水色の少女は呆気に取られたのか透き通るほどの白い肌に人形の様な瞳がパチパチと瞬きを繰り返した後にこう続けた。

 

「なんじゃシゲミツから何も聴いておらんのか?」

 

より意味が分からなくなった。この少女は何故か祖父の名を知っている。そもそも何故ここで祖父の名が出てくるのだろう。

 

「全くシゲミツもしっかり伝えずに石を託すとは…大味な奴め。まぁ良い。」

 

「ワシはヴァルナ。海の女神じゃ。」 

 

「は?」

 

今度は拓海が呆気に取られる番だった。重光が言っていた与太話が本当だとでも言うのか。いや、これは夢だ。死を前にして見ている夢に違いないと目を閉じて逃避を試みる。

それを見た少女は溜息を深く吐くと拓海の顔に手を構え

 

ギュムッ

 

「ガアッッ、目が目がっ!」

 

「なに、この悪さする目を閉じぬ様にすこーし開いてやっているだけじゃ。女神の話を2度も無視しようとは…悪い奴め。」

 

目を細め意地悪そうに微笑む姿は女神どころか悪魔そのものだ。

 

「わかった!分かりました!ちゃんと聞きます!信じられないけど、あなたは女神なのは把握しましたっ!」

 

答えに満足したのかヴァルナは拓海の目にかけていた指を離した。

 

「よろしい。ワシはお前が首に下げているその石を依代にして存在しているのじゃ。」

 

「だから持ち主であるオレの前に現れたってことですか。じゃあ今いるこの部屋みたいなのはなんなんですか。」

 

「ここは現実世界と異なり、ありとあらゆる事象から隔絶されておる。つまりワシと持ち主…つまりはお前だけの空間ということじゃな♪」

 

凛とすました顔が急に崩し微笑みながら近づいてくる。どうしてか大学にいる肉食系ギャルが頭にチラついた。

 

「つまり時間も流れておらん。即ちワシはいつまでたっても可憐で麗しい姿のままということじゃ!ホレホレー♪」

 

そう言ってヴァルナは身につけている白いワンピースの裾を摘みヒラヒラさせたり、前屈みになり上目遣いで扇情的なポージングを見せた。拓海にはませた子どもが背伸びをしている様にしか見えなかった。

 

「……次会う機会が万一あれば鏡をプレゼントしますね。」

 

「何を言っているかは分からぬが侮辱されたことだけは分かるぞ!覚えておれっ!」

 

ヴァルナは舌を出して拓海に悪態を吐くが、その後そんな事よりと話を戻し凛とした顔で告げた。時間が流れていないということはこのまま現実世界に戻れば大波が一帯を包み拓海はおろか、周囲の人間も死ぬ。

あの怪物を倒さなければ地球自体の危機になり得ると。

 

突然の告白に拓海は酸欠の金魚の様に口を開いたまましばらく呆然としていることしか出来なかった。

 

ーーーーーー

 

 

「オレに戦えって言うのかよ?バカ言うな。そんな力あるわけが…」

 

「誰がお前1人で戦えと言うたかバカ者。ワシも力を貸してやる。神の力を使うのじゃ戦えないはずもないじゃろう?」

 

「ならオレが戦う必要もないだろう」

 

ヴァルナは半ば呆れた様子で溜息を吐き気怠げにオレに視線を向ける。その瞳には失望の色がハッキリと浮かんでいる。そんなこといきなり言われてやりますと即答する奴の方がどうかしてるだろう。

 

「ワシの話を聞いていなかったのか?ワシは石を依代にしている身だと。そんな状態のワシが1人戦える訳など無かろう。実体を保てるかも怪しいわ。」

 

「…そんなの拒否権がないのと同じじゃないか!?いきなりそんなこと言われてもオレにはどうしようもない!」

 

「じいちゃんが死んでどうしたら良いかも分からないのに、誰が死ぬとか地球の危機だとか考えられるわけないだろ!?どうだって良いんだよそんなこと!オレはもうどうなって良いんだよ!」

 

すべてがどうでも良かった。無くなってしまえば良いんだ何もかも。大学の講義も生活も今の社会も未来の世界も。そしてそんなことを考えて生きている自分自身でさえも。じいちゃんを喪ってからそんな口触りの悪い感情が心のどこかに引っかり今も燻り続けている。

 

「…イヤならここから出ていけばそれも叶う。じゃが、それで良いのか?」

 

「お前には力がある、この危機を脱し救える力が。その力を持つお前の諦めにはそれ相応以上の痛みや責任が伴うのじゃぞ。」

 

「そんなことっ…!」

 

分かってるさ。じゃあどうすればいいんだ。

そう言いかけるが何故か上手く言葉が出てこない。

 

「何故お前は幼子を助けようとした?他の者に本当に悪辣な思いを持っていたのか?」

 

「…シゲミツは言っておったぞ。俺の孫はなんでも悩んで迷ってすぐ泣く。だがきっとそれは誰よりも優しいからなんだと。きっと…お前のことじゃろう?」

 

「ワシが死んだ時は孫に石を託す。アイツは絶対自分だけの為にも悪事の為にも使わん。必ず誰かの為に石を使う。人に寄り添える優しさという名の強さを持っているとワシは信じとる…そうシゲミツは言っておった。」

 

「……!!」

 

今オレがやらなきゃいけないことはこの気持ちに応えることなんじゃないか?

分かったよ…オレ『がんばる』からさ…見ててくれ。オレはゆっくりと何度か息を吐いた。その度に胸の燻りが治まっていく。

 

「…お主先程よりよほど良い目をする様になったの〜。どうやら迷いは無くなったようじゃな。」

 

「お主じゃない。オレの名前はタクミ、水瀬拓海だ。」

 

「タクミよ、我が依代に手を添え我が名を呼べ。ワシとお主であの化け物を退治してやろうではないか。」

 

オレはもう一度深呼吸をすると右手でペンダントの石を握りしめた。

胸の燻りはもう消えていた。

 

「ああ、貸してくれ!あの化け物を倒す力をっ!皆んなを守る為の力をっ!ヴァルナァァァァ!!」

 

その瞬間白く温かい光がオレを包んだ。

 

ーーーーーー

 

浜辺は混乱をきたしていた。緊急事態として出撃した自衛隊戦闘機の空中爆撃やミサイルが何発か命中したものの、怪物を怯ませる程度の威力しかなく決定打に欠けていた。人的被害が無い現状が奇跡に等しくいつ人的被害が出てもおかしく無かった。誰もが最悪の想像がよぎり始めた時、海面が眩い光を放ったかと思うとそれは水面に滴る雨粒の様な静けさで姿を現した。

 

研ぎ澄まされたダイアモンドの様な丸いながら僅かに凹凸がある目に、頭部には鋭利なトサカ状の刃。ダークブルーのボディーに足から胴の側面にかけて白波の様な紋様。胸部にはアメジストにも似た水晶が埋め込まれている。

 

「青い巨人…14年前の再来だ…!!」

 

逃げ惑う大衆の誰からとなく声が漏れる。砂漠の中にオアシスを見つけたかの様な安堵感、この巨人ならばこの困難を打ち砕いてくれるのではないかという滲み出た期待感。

 

今、水瀬拓海は大衆の希望をその双肩に背負い立っている。誰かを守る為に立っている。

 

ーーーーーー

 

イルカと恐竜を足し合わせた異形がけたたましい咆哮をあげて拓海と一体化した青の巨人を目がけて突進して来る。両手でそれを押さえつけはするが、鰭のような前足で顔面を殴打され真横に吹っ飛ばさへ海に倒れ込む。何とか立ち上がるも異形のワニの様な大口から放たれた赤色の連弾を浴びせかけられ海面に膝から崩れ落ちた。

 

「真正面から攻撃を受けすぎじゃ!これでは身体が持たんぞ!」

 

「躱したら街や人に被害が出る、どうしたらいい?」

 

「次に攻撃が飛んできたら両手で円をつくるのじゃ。」

 

「どういうこと?」

 

「やれば分かる、難しい説明は出来ぬのじゃ!」

 

ヴァルナからの苦言にも拓海は先ほどまで変身して戦うことを感情的になり拒絶していたのが嘘の様に冷静に教えを乞う。決意を固めたら逃げない、固めるまでが長く後ろ向き。

それが水瀬拓海の長所であり短所である。

 

異形が激しい咆哮をあげながら再び大口を開けて光弾を放った。それは正確に青の巨人を捉えるかと思われたが、その刹那青の巨人は両の手で円を作るとその光弾は異形目がけ跳ね返り派手な爆発を起こし苦悶の声と共にたじろいだ。

 

(今だっ!)

 

青の巨人は素早く異形との距離を詰め顔面目がけ右ストレート、左フックのワンツーパンチを打ち込む。グギャと声を上げて後ろによろめいた異形を休ませまいとするかの様に右手でアッパーパンチで追撃を加えるとガラ空きになった胴体に渾身の飛び蹴りを叩き込む。異形は大波と派手な水音を立てて海に倒れ込んだ。

海辺には避難が行き届いている様で幸い人はいないがこのままここで戦えば街は間違いなく壊滅するだろう。

 

「ヴァルナ、ここだと街や人に被害が大き過ぎる。場所を移さないと!」

 

「ならば海底に奴を引きずり込めば良い。そこならば此奴を叩き潰しても人に影響は少なかろう。」

 

「……この身体って泳げるの?」

 

「はーーーーーーーーぁ!?ワシ女神ぞ!?海の女神ぞ!?不敬ぞーーーーーータクミィィィ!!」

 

拓海にとっては些細な疑問ではあったが女神の自尊心をいたく踏みつけてしまったらしい。慌てて謝りながら神の気性難に内心頭を痛めた。起きあがろうとする異形の身体を抱えるとそのまま海中深く潜っていく。

 

(まだだ、もっと深くもっと遠くに)

 

光も届かなくなるほどの深さに辿り着くと青の巨人は異形を投げ飛ばした。両者の瞳が暗闇を照らす灯りの様な海底で異形は青の巨人に再び突進を敢行する。水中であるせいかその勢いは前に増して早く獲物を捉えんとする捕食者を思わせる獰猛さと攻撃性を併せていた。青の巨人はそれを真正面から受けることはせずその身を交わして背後に回り、長く伸びた尻尾を掴むとハンマー投げの要領で異形を放り投げた。人里離れたからこそできる荒技で青の巨人は異形を追い詰めて行く。

ただ決定打がない。ヴァルナは倒せる力があるとは説明したが倒せる方法については伝えていなかった。拓海がヴァルナにその術を聞くととっておきがあるらしい。

 

「何でそれを早く教えてくれなかっただよ!?それ使えば簡単だったろうに」

 

「すぐ使えたら苦労せんわ!力を溜めるのに時間がかかるのじゃ!全く近頃の若者は…!!まぁ良い、教えてやろう。」

 

近頃の女神様は質問するともれなくお小言がついて来るらしいとヴァルナの人間臭さに苦笑しながら言われた通りの弓をひく姿勢に酷似したポーズを取る。すると青白い光が両腕に集まって来たかと思うと異形向けて一直線に飛んで行きその腹に大きな風穴を空けた。

 

イクニ!イクニ!イクニ!イクニガンゲンニ。ナスガケヲミウ。ナスゴヨヲミウ。

ダャシンゲイタノリカイノミウハシタワ!

 

異形はそう叫ぶと赤い閃光が身体からほとばしったかと思うと爆散した。その光の中拓海は意識を失った。

 

ーーーーーー

 

目覚めたタクミが目にしたのは音も光もない暗闇だった。タクミは自身が海底に沈んだことを悟る。息苦しさも皮膚に刺す水の冷たさも無かった。きっと女神の力なのだろうと思ったがヴァルナに問いかける事はしなかった。もう良い、もう終わったことだ。

 

(オレ…がんばれたかな、じいちゃん。)

 

タクミは自身の右手に目をやり自問した。その答えは返ってこない。分かっていた。それでもそう問わずにはいられなかった。

 

その時その右手に確かな温もりを感じた。人と人が掌を合わせ心を通わせる時に生まれる独特の温かみ。その温もりにタクミは覚えがあった。俺も死んだら海に帰るだけだでと言っていた事を思い出し不意に胸が熱くなり、目頭に涙が溜まる。何回も何年も貰ってきた温もり。これからも貰えると思っていた温もり。そして、もう返ってこない温もり。

 

「じいちゃん…」

 

「拓海、よく頑張っただわ。じいちゃんとして嬉しいぞ。これからも頑張んだぞ。いつでもここで見とるでな。」

 

「ありがとう…ありがとう…オレ頑張るから!オレらしく頑張るから!」

 

実体が見えなくてもよかった。心がそこにあると思えたから。涙と鼻水で顔は醜かったかもしれない、それでもあの時言えなかった言葉を伝えられた。それだけで充分だった。

沈んでいた身体が浮かび上がって行く。

海の色が少しずつ少しずつ明るさを取り戻してゆく。そうだ、少しずつだ。少しずつ頑張ればいい。目的が分からなくても今出来ることを少しずつ。迷ったり悩んだりしたら海に来れば良い。そうすればもう1度、いや何度だって立ち上がれるはずだ。再び薄れゆく意識の中でタクミは言葉を聞いた。説法後に決まって言っていたあの言葉を。

 

「拓海は拓海の生き方をすれば良いだわ、俺は応援してるでな。」

 

その言葉は今まで聞いたどの言葉よりも優しかった。

 

ーーーーーー  

 

謎の怪獣と人型の巨人の大捕物。日本の田舎町で起きたこの出来事は14年前の再来としてセンセーショナルに世界中のマスコミを賑わせた。青の巨人の人ならざる力で人を守るその姿から人を超える者「ウルトラマン」と呼び名がつけられ後世に名を残していくこととなる。

またそれと時同じくして、件の町の浜辺でゴミ拾いをしながら穏やかな顔をして海で過ごす青年が時折目撃される様になったのはまた別の話である。




1人の男の子が不思議な力をキッカケに再起する、そんなお話でした。
この話はウルトラマンとしてアリなのかは自信ありません。
もしダメでも許してください、何でもはしません。
誤字脱字ありましたらホントすいません…。
感想をくださる方がもしいらしたら飛んで喜びます!
読んでいただいてありがとうございました♪

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