新卒で経営コンサルタントの会社に入った俺。
晴れて会社のコンサルタントを任される事になり不安がっている俺に、先輩が言う。
「汝、経営者の太鼓持ちたれ」

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とある経営コンサルタントの幇間録

大学を卒業して経営コンサルタントの会社に就職した俺は、1ヶ月のOJTの後、早速1社、会社の担当を任される事になった。

学校で勉強しただけで社会人1ヶ月の自分が、一企業のトップと対等に仕事をする事が本当に出来るだろうか?

不安がる俺に先輩は

「対等になる必要なんてないんだよ。経営コンサルタントってのは、社長さんの精神カウンセラーになれば良いんだよ」

と言って励ましてくれる。

「精神カウンセラー?それはあの病院にいる?」

キョトンとして先輩に聞く。

「そうそう。お前だって精神病院通ってる社長の所に仕事回したいと思うか?思わないだろ?だから経営者ってのはそう言う所に頼れないんだよ。取引先にバレたらマズいから。でも、会社の経営って取引先の期待や従業員の生活とか色んなものを背負うからプレッシャーは物凄い。市場は日々求められるものが変わるし正解なんてものはない。こんな環境下で心に不安抱えてるけど、病院には外聞もあっていけない。そういう経営者の拠り所になってあげるのも我々コンサルタントの仕事って訳だよ。」

なるほどと納得するものの、なおさら難易度が高い気がする。

「いやいや、でもですよ。俺、カウンセラーなんてやった事はもちろん、何やるのかも知らないですよ。」

最早、経営の知識や経験以前の問題だ。

「そう難しく考えるなよ。簡単だって。経営者は悪く無いって負担を取ってあげる。社長は指示する人であって、責任は現場に有るってね。そして成功したら褒める。流石は社長!今回の企画は社長のご慧眼の賜物ですって。それだけで良いんだよ。そうやって経営者さんをヨイショしてあげる。それだけで、経営者さんは元々持っているパフォーマンスを発揮できる様になるから。」

1ヶ月間のOJTの中でもそういった場面をいくつか見てきたのを思い出す。

「なるほど…」

少し出来そうな気がしてきた。

「一言で言えば「汝、経営者の太鼓持ちたれ」だ。」

俺の顔から不安の影が薄らいだのを見て、満足気な先輩。

「太鼓持ち…ですか。」

俺は太鼓持ちという言葉を何度も頭の中で繰り返した。

 

そこから俺の太鼓持ちライフが始まった。

ひたすら経営者を持ち上げる。

ただひたすらに。

経営者のチャレンジを素晴らしいアイディアだと褒める。

業績が上がらない時は実行役の現場の問題点を見つけ出し、責任転嫁をする。簡単だ。基本的な事が出来ていないならそこを指摘し、基本的なことが出来ているなら「なぜ基本的なレベルで満足するのか?」と指摘するのだ。

業績が上がったら、経営者の英断のおかげと称える。アイデアを褒める、人選を褒める、タイミングを褒める。褒めようと思えばいくらでもネタはある。

ぶっちゃけ、社長以外の従業員からのヘイトは凄まじかったが、それすらも経営者の代わりになれると甘んじて受けた。どうせコンサルタント料は経営者から出ているのだ。それ以外の人間に陰でなんと言われようとノーダメージだ。

事実、担当していた会社の業績は順調に上がっていった。失敗を気にしなくなった経営者は強かった。今の時代、攻めの姿勢が大事なのだ。

担当企業の業績を上げた私は会社からの覚えも目出度くなり、順調に担当する企業も増えていった。

 

しかし、担当する企業の中に、既に手がつけられない状態になっている経営者がいた。プレッシャーに精神がやられてしまったのだろう。最早、ネガティブな発言しか出てこなかった。その会社の幹部が改善のきっかけにでもなればとうちの会社にコンサルタントを依頼したのだが、少し遅かった。

底なし沼に落ちた人も早い段階なら引きずり出せるが、首まで浸かってしまっては引き摺り出す術が無い。

先輩に相談すると、しばらく考えた後、

「危ない橋を渡ることになっても良いか?」

と声を潜めて囁かれる。

俺は藁にもすがる思いで、その「危ない橋」を渡った。

危ない橋とはいわゆる非合法な薬だった。

その経営者にその薬を与えたところ、それまで何事にも関心を示さなかったのに、常に興奮状態となり、気持ちもポジティブになった。

一応麻薬ではないとの事だったが、その様子を見るにそれに準ずるものである事は分かった。

確かに、これは危ない橋だった。

自分は良い。それが仕事だから。

しかし、担当する企業にとってもリスクとなってしまう。これでは本末転倒だ。

だが、薬の効果は絶大である。

彼の会社も業績を持ち直していった。

その効果を目の当たりにして心底驚いた。

これまで自分があの手この手を使って維持してきた経営者のモチベーションが、たった一錠の薬で可能になるのだから驚くのも当たり前だ。

これがあれば、日本の経営者達は皆、最高の状態で仕事に臨める様になるだろう。

しかし、その薬は非合法なものだという。

なんとか合法的にこれを作り出す方法は無いだろうか?

そう考えた俺は、会社を休職し、薬剤師になるべく、大学の薬学部に通うことにした。

 

5年後…、

薬学部を卒業し、薬剤師となった俺は合法的な方法で精神を向上させる薬の生成に成功する。

これにより、手遅れなまでに精神が追い込まれた経営者も、積極的にチャレンジするイケイケな経営者に生まれ変わった。俺はそんな経営者をひたすらヨイショしまくった。生まれ変わったかの様に働く経営者をその会社の従業員達も快くサポートしてくれた。一致団結して新しい販路の開拓や新商品の開発などトライしていった。

もちろん、チャレンジの結果、失敗する企業もあったし、最悪、会社を畳む経営者もいた。しかし、企業コンサルタントは元々落ち目だったり、停滞している企業が泣きつく駆け込み寺の様な側面を持つ。失敗して元々なのだ。一コンサルタントの助言など問題にならない。それに、そもそも市場から消えた企業に人々は興味を持たないのだ。目に映るのは市場で燦然と輝く成長企業だけだ。そこだけが脚光を浴びる。

コンサルタントに復帰してから数年で数十社を担当し、見事そのうち10社近くの企業を成功に導いた俺は、一躍コンサルタント界で有名になっていた。

「倒産寸前のあの老舗企業の復活に貢献した陰の立役者」

「実は流行語大賞にも選ばれたあの商品の開発にもあのコンサルタントの活躍が!」

「落ちこぼれ経営者と二人三脚で歩んだ感動のサクセスストーリー!」

雑誌やテレビで事あるごとに取り上げられら様になり、「企業の救世主」として持て囃される様になった。

 

そんな中でも、俺は先輩の言った

「汝、経営者の太鼓持ちたれ」

という基本を忠実に守っていた。

しかし、最近は薬に頼り過ぎて、ちゃんと経営者をヨイショ出来ていないのではないかと悩んでいた。

そんな時、ふと新人だった頃に言った、

「カウンセラーなんてやった事が無いのはもちろん何をするのかも知らない」

という言葉を思い出した。

「そうだ、俺はまだ知らない。知らないなら学べば良い」

俺はそう決意すると、再度、会社に休職願いを出し、大学の医学部に入学した。

 

6年後…、

医学部を卒業し、見事精神科医の免許を獲得する。

さあ、これでもっと日本の経営者達を元気にしてあげられる!と意気込んでコンサルタント会社に復職する。

しかし…、

全く依頼が来ないのである。会社に掛け合ってどこでも良いから担当させてくれと頼むが、先方の企業から断られる。

何故だ…、と考えた時、新人の頃に先輩が言った言葉を思い出す。

「精神病院に通ってる社長の所に仕事回したいと思うか?思わないだろ?」

そうだった。カウンセラーにすがれないから経営者はコンサルタントに頼るのだ。なのに俺は精神科医の資格をとってカウンセラーになってしまった。そこそこ有名な俺が精神カウンセラーとなった事は皆んな知っている。そんな俺に、経営者が頼ってくれる訳がないじゃ無いか!

俺はコンサルタントでありながら、自らの売り込み方を間違えてしまったのだ。

「コンサルタント失格だな…」

その場に膝から崩れ落ち項垂れるのだった。


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