ルークくんには申し訳ないですがオフスクリーンです。
「……答えなさい。誰が貴方達を送り込んだのです?」
廊下に押さえつけられたヤンに対し、ウォルターが冷徹に問う。
だが、ヤンは血と脂にまみれた顔でニタニタと笑うだけだ。
「へッ、教えるわけねェだろジジイ。俺達ァお前らをブチ殺しに来た、それだけだ。さっさとオッ死んじまえよ!」
その時、廊下の奥からどよめきのような、低い唸り声が響いてきた。
ズズズ……と足を引きずる音。
「な……ッ!?」
セラスが息を呑む。
そこに現れたのは、先程ウォルターと狩人が倒した武装グールたちではない。
警備員の制服、ヘルシング機関の警備兵たち、その成れの果てだった。
「嘘……そんな……」
ウォルターの眉がピクリと動く。
「職員たちまで……!」
その一瞬の隙だった。
「ヒャハハハ! パーティはこれからだぜェ! 御サン方!!」
「うわっ!?」
セラスの拘束が緩んだ隙に、ヤンは抜け出し、全速力で駆けた。目指すは目の前にある重厚な扉、権力者が集う会議室だ。
「させんッ!!」
ウォルターの手首が返る。鋼線が生き物のように伸び、ヤンの右腕を捉えた。
スパァンッ!
鮮血と共に右腕が宙を舞う。
「ギ、アアアッ!? チクショウ!」
ヤンは止まらない。
狩人も反応し、持っていた「獣肉断ち」を鞭のように伸ばす。
ガギィッ!
石の刃がヤンの背中を掠め、肉を抉る。だが、致命傷には至らない。ヤンは転がるようにして会議室のドアノブに手を掛け、蹴り開けた。
「お邪魔するぜェェェッ!!」
扉が開かれた瞬間、ヤンが見たもの。
それは恐怖に震える老人たちではなかった。
円卓の権力者たちは全員こちらを見て、銃を構えていた。
その中心で、インテグラが長い葉巻を噛み締めながら、拳銃の撃鉄を起こす。
「……ようこそ、ヘルシングへ」
ドォォォォォンッ!!
一斉射撃。
12人の人物とインテグラが放った銃弾の嵐が、ヤンの体を蜂の巣にする。
「ガ、ハッ……!?」
ヤンは弾き飛ばされ、再び廊下へと転がり出た。
仰向けになった彼の視界に入ったのは、よろめきながら近づいてくる、かつての同僚たち、
インテグラが部屋から出てきて、その光景に絶句する。
「私の部下が……全員……!?」
「うわっ…!うわ、うわあッ!」
グールたちにもみくちゃにされ顔を歪めるが、直ぐにあの時のようなセラスが覚醒する。
セラスが飛び出し、素手で別のグールを引き裂き、蹴り飛ばす。
「そんな…ッなんてこと…ッ!部下達が…うちの職員たちまでもが…食屍鬼に……っ!」
返り血を浴びるたびに、彼女の瞳孔が開いていく。
「やめろ
インテグラが制止しようと叫ぶが、狂乱したセラスには届かない。
ドンッ。
鈍い音がして、セラスの動きが止まった。
狩人が背後から忍び寄り、彼女の首筋に手刀ではなく、鎮静のツボを突くような鋭い衝撃を与えたのだ。
「……ッ、は……?」
狩人はセラスの肩を掴み、強制的にこちらを向かせた。
その瞳は、深淵のように静かだった。
「……落ち着け、新米。獲物を見誤るな」
その静謐な声に、セラスの憑き物が落ちる。
我に返った彼女の目の前には、自分が破壊したかつての同僚たちの残骸があった。
「あ……あ、あ…わわわ……!」
セラスはその場にへたり込み、ガタガタと震え出した。
────────────────
「……チェックメイトだ、小僧」
ウォルターがヤンに歩み寄る。
右腕を失い、全身穴だらけになったヤンは、壁にもたれて荒い息を吐いていた。
「殺りなよご老体」
「殺さんよ、これだけの事をしたのだ。誰かの差し金か吐いてもらってからたっぷり殺してやる」
「フファッ…甘いよねェあんたら…つくづく」
するとインテグラがヤンの前に立ち、銃口を突きつける。
「よう、
ヤンは血の泡を吹きながら侮蔑の言葉を吐く。
バン! バン! バン!バンッ!
インテグラは表情一つ変えず、ヤンの四肢に銃弾を撃ち込んだ。
「軽口を叩くな、私は…怒っている」
「くッくふ…くふふは…ひははははッ!」
「お前らは一体なんなんだ!? なんのマネでこんな事を!? 後ろで誰が糸を引いている!? 答えろ!」
「ヒャハハハハッ! ハハハハハはぁッ!!」
「笑うな!! 答えろ!!」
ヤンは痙攣しながら、虚ろな目で天井を見上げた。
「……あんたらも知ってんだろうがよォ、俺の内に埋め込まれたバケモンと発信する機械は、今もこうしてヤツらに俺のザマを送り続けているんだぜ」
「作戦が失敗したことも、全部筒抜けなのさ!」
ヤンの皮膚の下で、何かがボコボコと脈打ち始めた。
「連中が作戦に失敗して、今もこうしてリンチされようとしてる俺を……このまま楽に死なせてくれると思うのかい?」
「なに……?」
インテグラが後ずさる。
ヤンの体が、内側から燃え上がるように赤熱し、膨張していく。
「ミレニ……アム」
その言葉が、引き金だった。
グシャァァァァッ!!
ヤンの全身の骨が砕け、再構築される。
皮膚が裂け、中から剛毛に覆われた筋肉が膨れ上がる。
吸血鬼の再生能力と、強制的な「進化」の暴走。
それは、狩人がよく知る姿──聖職者のなれの果てに似た姿の獣への変貌だった。
「グオォォォォォォッ!!」
もはや人間の面影はない。巨躯を持つ狼のような化け物が、インテグラに襲いかかった。
「お嬢様ッ!」
ズドンッ!!
鋭い爪がインテグラを引き裂く寸前、横合いから散弾の衝撃が獣を吹き飛ばした。
狩人が獣狩りの短銃から持ち替えた、散弾銃の一撃だ。
狩人が散弾銃を撃った直後、ウォルターが鋼線で獣を切り刻む。
しかし、剛毛と分厚い筋肉、そして異常な再生力が刃を阻む。
「チッ……なんと硬い!」
「代わる…!」
狩人は背中の獣肉断ちを捨て、両手で重厚な斧、「獣狩りの斧」を握りしめた。
柄を長く伸ばして変形し、両手で持つ。
「グルアァァッ!」
獣が狩人に飛びかかる。
狩人は逃げない。一歩踏み込み、強引に耐えながら、斧を振りかぶる。
「…狩りの時間だ」
ドガァァァンッ!!
横に力を溜め、一気に解放する。
回転しながらの二連撃が、獣の鎖骨を砕き、地面に叩きつける。
「ギャウンッ!?」
ダウンした獣に対し、ウォルターの鋼線が走る。
「そこだ!」
関節の隙間、肉の薄い部分を正確に切り裂き、動きを封じる。
「トドメだ」
狩人は斧を振り上げ、渾身の力で振り下ろした。
ザンッ!!
重い刃が獣の首を断ち切り、脊髄ごと切断した。
獣化したヤン・バレンタインの巨体が、痙攣し、やがて動かなくなった。
後に残ったのは、焦げ臭い獣の死臭だけだった。
静寂が戻った廊下。
残されたのは、うめき声を上げるグール化した職員たちだけだった。
もはや、彼らを救う手立てはない。
「……インテグラ卿」
アイランズ卿が、沈痛な面持ちでインテグラに声をかけた。
「彼らを……楽にしてやりたまえ。それが指揮官の仕事だ。君がやるべき義務がある」
「アイランズ卿それはあまりにも…」
「否、仕方がなかったは通用しない。なにかの準備や方法があったはずだ。総ての責任はお前にある。お前が指揮官なのだから、違うかね?」
アイランズ卿は指揮官の務めとして、自らの手で落としつけろと言う。
「彼が死んだのも死にぞこなっているのも総ておまえのせいだ」
「アイランズ卿…!!」「ウォルター!」
インテグラは震える手で拳銃を握り直した。
「……許してくれとは言わない。全部…私のせいだ」
一発、また一発。
インテグラは涙を見せず、かつての部下たちの頭を撃ち抜いていく。
その背中を、セラスはただ見つめることしかできなかった。狩人は帽子を目深にかぶり、死者への黙祷のように静かに佇んでいた。
「ウォルター…ミレニアムとやらを調べろ。速やかに、徹底的にだ」
「…はッ 無論です」
「……この落とし前は兆倍にして返すぞ」
アイランズ卿はウォルターに命じた。『ミレニアム』を必ず見つけ出し、必ず倍返しにすると。
一方、謎のモニター室。
「素晴らしい……」
小太りの男はヤンが獣化し、そして斧で叩き潰されるまでの映像を繰り返し再生していた。
「獣化……。ヤーナムの血と吸血鬼の融合。適合した者には、相応の力を宿すか」
男の眼鏡の奥で、狂気の瞳が輝く。
「だが、自我の崩壊が早すぎるな。理性なき兵士はただの肉塊だ」
そして彼は、別のモニターに目を向けた。
そこには、ルーク・バレンタインを喰らい尽くし、不敵に笑うアーカードの姿があった。
ルークを取り込んだアーカードの影からは、時折、獣のような爪や毛皮の幻影が揺らめいている。
「そして
男は愉快そうにニヤリと笑った。
「まあいい、諸君。貴重なデータは取れた」
「研究を再開しよう。……戦争の準備は、まだ始まったばかりだ」
to be continued…