俺の異世界勇者デビュー   作:†バレット†

2 / 9
後悔先に立たず

「夢じゃない? じゃあここは何処? 私はだぁれ?」

 

ちょっとばかし信じられない言葉を聞かされた俺は、少し恍けたように言って誤魔化そうとして見せるが、目の前の少女は真剣な表情で淡々と言葉を紡ぐ。

 

 

「ここはトリエラ大陸の中でも良く栄えているグランセウム王国、王城内……私の自室です。勇者様のことは分かりませんが、夢の中で私と契約を交わしてくれましたよね?」

 

 

夢の中……? グランセウム……、それにこの声。

 

「もしかしてミフィリア……さん?」

 

「はい、覚えていて下さったんですね」

 

俺のその言葉を聞き、ようやく真剣その物だった表情が解れ、ミフィリアさんは嬉しそうにピンク色のセミロングの髪を揺らしてニッコリと微笑んだ。

 

やべぇ、こんな天使みたいな御仁見た事もねぇ。

 

今まで見た事もない美少女の姿に数秒見惚れてしまった俺に非は無いだろう、うん。

 

 

……じゃなくって!! これ……やばくね?

 

俺おもくそ夢だと思って安請け合いしちゃっんですけど! 確かかなり深刻な話だと思ったけど……。

 

確かこの国どころか世界がどうのこうのって……

 

 

ぶるりと寒気が背筋を走り、次いで試しに頬っぺたをつねってみたがしっかりと痛かったです、はい。

 

 

夢だったら腕切り落とされようがどんな致命傷を受けようが痛み所か刺激なんて感じなかったって言うのに……。

 

 

「あの……どうかなされたのですか?」

 

硬直したと思えば、いきなり自分の頬をギリギリと抓りだしたのだ、しかもその後に自分では全く気付かなかったが凄く絶望的な表情をしていたらしく、ミフィリアさんは心配そうに訊ねてきた。

 

 

これは正直に話して現状を理解してもらったほうがいいよな……。

 

心の中で今まで生きてきた中でも最大級の溜息を吐き捨てる。後悔先に立たずってのはこういうのを言うもんなのかもな……。

 

「えー、何回も聞いて後ろめたいんだけど、これって現実……だよね?」

 

「……仰る意味は今一つ理解できませんですが、今いるこの時、この瞬間は紛れもない現実ですよ」

 

一瞬思案を巡らせたミフィリアさんが俺のことを真剣に見てそう言った。

 

いや、こんな美少女と会話出来るなんてすっげぇ嬉しいよ? 嬉しいけど今は……はぁっ。

 

「実はですね、あの時の暗闇空間の事なんですが、夢と勘違いしていまして……あの、取り消しとか出来ないですかね?」

 

 

情けねぇー! 俺めちゃくちゃ情けねぇぇっ!!

 

 

身悶えするほどの羞恥心を必死の思いで押し殺し、ミフィリアさんの表情を静かに伺う。

 

だがしかし、彼女の表情は一向に優れる事は無かった。

明らかに俺が悪いというのに、申し訳なさや罪悪感を感じているのであろう暗い表情でポツポツと言葉を零す。

 

「取り消し……ですか、残念ですが不可能です。目的を達成しない限り勇者様は元の世界には戻れません……」

 

とても申し訳なさそうにこちらを見つめるミフィリアさんを見て俺は悟った。

 

 

あぁ、これは紛れも無い現実で逃れる事の出来ない運命のようなものだと。

 

 

そう思ってしまったら、何かが俺の中でカチリと嵌り、ゆっくりとだが今まで動いてなかった歯車が回りだしたような気さえしたのだ。

 

 

「あー……一応聞くけど目的って言うのは?」

 

「勇者様が魔王を討伐することです」

 

うわー、魔王とかいかにもな奴出てきちまったよ……、俺なんかが勝てる訳もねぇんですが。

 

「実は恐らく後一年以内に魔王軍が全面進行を仕掛けて来るという予知夢を見たのです」

 

「予知夢……?」

 

「ええ、私は幼い頃から偶発的にですが予知夢を見る事があるのですが……と、この話はまた今度でも大丈夫ですね」

 

 

気になる単語も出てきたが、そんな事よりも事態は相当切迫しているらしく想像以上に重い。ミフィリアさんの予想で一年らしいがそれに確たる保証はどこにもないのだ。

てかそれが本当ならば、俺どっちにしろ選択肢ないじゃん……。

 

このまま何も行動を起こさないでいれば座して死を待つばかり……。というよりも城から追い出されて路頭に迷い、魔王に殺されるよりも先に野垂れ死ぬ可能性の方が遥かに高い。

 

 

「わかった、協力するよ。でも俺常人よりは運動能力は高いと思うけど、幾ら修練を積んでも魔王なんかには到底及ばないと思うぜ?」

 

「そうですね、その為にも勇者様には我が国に伝わっている伝説の聖剣を与えます、それに……、ちょっとこっちまで来てくれますか?」

 

 

で、伝説の聖剣……、なんかよく分からないけど凄そうだ。

 

後ろ髪に備え付けられた赤いリボンを揺らしてミフィリアさんはとことこと移動し、部屋の一角にある白い清潔な壁付近に立つ。

 

俺もよく分からないけどその傍まで歩み寄った。

 

「この壁を全力で叩いてみて下さい」

 

にっこりと満面の笑みを浮かべて突拍子も無い事を言い始めたミフィリアさん、彼女は俺に、戦う前から拳を痛めて欲しいのだろうか?

 

 

「はぁ……」

 

いまいち事情は飲み込めないが、やれと言われればやりますよ。ええ、やりますとも!

 

 

この行き場の無い怒りを拳に乗せてぶちまけてやる!

 

「じゃ、行きます!」

 

 

右手を引いて溜めを作ってから力を解き放つ、俺の想いをありったけ上乗せして。

 

 

俺のばかやろおおおぉぉぉっ!!

 

「きゃっ!」

 

「はああああぁぁぁぁああっ!?」

 

まるでアニメでも見ているのではないかと錯覚しそうな爆発音のような爆音と共に、目の前の壁が俺のパンチで崩れ大きな穴を穿ってしまった。しかもこれだけの破壊力を生み出した割には右手の拳は痛くも痒くもないとか……。

 

 

え? ちょっ、まっ、なにこれぇぇぇぇえええ!?

 

俺知らない間に肉体改造施されてたのか!? もしかして勇者じゃなくてサイボーグデビューしちゃったのか!?

 

あまりの出来事に俺は呆然とし、穴の先……隣の部屋を掃除していたであろう若いメイドさんが目をまん丸に見開いて固まっていた。

 

俺とメイドさんの視線が交差してから数秒後、俺よりも先に正気に返ったらしいメイドさんは物凄い勢いで此方に突進してきた。

 

「ひ、姫様!? 大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!?」

 

「ええ、大丈夫よ。此処のお掃除はいいので、お父様にすぐに勇者様をお連れするとお伝えしてもらってもいいですか?」

 

「勇者様が……なるほど納得です。それでは失礼いたしますね」

 

ミフィリアさんの言葉に驚いたように俺の事をメイドさんは見てきたが、すぐに視線を逸らすと会釈をし、部屋を出てどこかへ消えてしまった。

 

「えっと……これ、俺肉体改造されちゃった?」

 

「ふふふふ」

 

うわ、笑われた! めっちゃ深刻な事なのに。

 

少しばかりショックを受ける反面、ミフィリアさんの天使のような笑顔で少なからず癒されている自分がいるのであった。

 

「あっ、ごめんなさい。改造なんてしていませんよ、勇者様の身体能力が元いた世界よりも遥かに上昇しているようなんです」

 

「なんでっ!?」

 

「くっ、詳しい事は分かりませんが、契約面でのメリットという事らしいですね、他には勇者様が元の世界では使えなかった魔法の素質に目覚めて扱えるようになっているはずです」

 

 

なるほどデメリット(魔王を倒さない限り戻れない)がある変わりにメリット(身体能力大幅増加)もあるって事か……。

 

「あー……身体能力の件は何とか無理やり納得したとしよう。で、魔法ってあの魔法?」

 

「はい。どの魔法かは分かりませんが一般的な攻撃魔法や自身の能力を上昇させることのできる補助魔法のことです」

 

 

 

 

 

 

 

……お母さん、お父さん。不肖の息子はとんでもなくファンタジーな世界に迷い込んでしまったようです。

 

しばらく帰れそうに無いけど、俺は……元気です。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。