「……大丈夫ですか勇者様?」
無理は無い事なのかもしれないが、どうやら俺は長い間呆けていたみたいで、俺よりも身長の低いミフィリアさんは心配そうな上目使いでこちらを見上げてきていた。
ちょっ、それ反則ですって……。
愛らしい顔を心配げにさせながらの上目使いは中々な破壊力を内包している。女性にそれほど耐性の無い俺からしてみれば強すぎる刺激とも言えた。
「……っと、ごめん。ちょとばかり考え込んじゃってた。それと色々あって名乗り遅れちゃったけど俺の名前は川島光。勇者様なんて大層な呼び方しないでくれよ、なんかこそばゆい」
「分かりました……えっとカワシマ・ヒカル……様?」
コクコクとミフィリアさんが頷いてから何処かぎこちなく俺の名前を口にして見せた。
……なんか少しばかりイントネーションが違う気がするんだけど……まあいっか。
この世界じゃあまり呼び慣れてない言葉なのかな?
「そっ! 光って呼び捨てでいいよ、歳も近そうだし」
「そんな! 勇……ヒカル様を呼び捨てにするなんて」
顔を真っ赤にしてぶつぶつと呟くミフィリアさんは見ていてとても可愛らしかったが、突然降って湧いたようなこの提案は真面目そうな彼女からしてみれば中々ハードな要求だったのかもしれない。
俺はならばと助け舟を差し向ける事を決断した。
「あー……ごめん。初対面なのに少し馴れ馴れしすぎたかな? ミフィリアさんの呼びやすい呼び方で構わないからさ」
俺の次いで告げられた言葉に少しばかり目をぱちくりさせたミフィリアさんは上品に少しだけ小さく笑う。その頃には顔の赤みも引いており、薄らとピンク色の射した頬が彼女の魅力を引き立てる。
そして彼女は何か決意したのか、息を小さく吐いてから笑みを崩さずに喋り出す。
「分かりました。それでは私がヒカル様の事を呼び捨てで呼ぶ変わりに、私のこともミフィと呼んでください……親しい者は皆そう呼びます」
少しばかり恥ずかしそうにしてはいたが、この可憐そうな少女は中々どうして肝が太いのかもしれないな。
だけど名前で呼び合うのは此方の望む所である。こんな初期から変な壁を作ってしまったらこれから先苦労するかもしれないからな。
「わかったよミフィ、これからよろしくな!」
「はいヒカル、此方こそこれからよろしくお願いしますね」
それに打算抜きでこんな可愛い子とお近づきになれるなんて正に夢のようだ。
しかし、どこかミフィの話し方に固さがある感じがするんだけど、たぶんミフィってお姫様っぽいんだよな、メイドさんも姫様って言ってたし……、まぁ硬い口調はしょうがないか。これから解れる事を期待するとしよう。
「あの、ゆ……ヒカル? これからお父様とお母様に召喚したヒカルのことを紹介したいのですが付いて来てくれますか?」
ミフィの両親かぁ、それってやっぱり……王様って事なのかな?
「ああ、勿論いいよ。それとミフィの両親って……」
「私の両親ですか? 常に多忙の身ですが、優しくっていい両親ですよ?」
いや、そうじゃなくってさ……
純粋そうな笑顔を浮かべているミフィはもしかして少しばかり天然の血が混じっているのだろうか……
「えっと、ミフィのお父さんって……この国の王様だったりする?」
「すごい! どうして分かったのですか? もしかして未来が見えるのですか!?」
びくりと身を震わせたミフィはとことこと俺の傍まで歩み寄り、俺の服の裾を掴むと、アメジストのように輝く綺麗な目をまん丸に見開いてそう問いただす。
ミフィは稀に予知夢を見る事が出来るとちらりと言っていたから、もしかしたら俺が同じような能力の持ち主だと勘違いしてしまったのかもしれないな。
「いやいやいや。今までの話の流れとミフィの名前で単に予想してただけだよ。メイドさんだってミフィの事を姫様って呼んでたし。未来予知なんてできないって」
てか近いっ! 近いよミフィ!!
「なぁんだ、そうだったんですね。びっくりしちゃいました」
えへへと笑ったミフィはくるりと身を翻しピンク色の髪とリボンを揺らして部屋にある唯一のドアの元へと歩んでいく。
「話が逸れましたね、では行きましょう」
「あいよ」
ドアを開け、笑顔で待っているミフィに続いて俺はかみ締めながら部屋を出た。
もう後戻りは出来ない……と。