「なぁ……」
「はい? どうかしましたか?」
ミフィの部屋から出てしばらく城内を歩く事になった訳なのだが、王様の所に行く途中で複数の仕事中のメイドさんとすれ違う事となる。
そして、その内何人かには体から俄かには信じられないものが生えていて、ひょこひょこと動いていたのだ。
「あの耳と尻尾は本物なのか? 装飾品とかじゃなくて」
「ええ、勿論本物です。それに装飾品だなんて彼らにとっては侮辱されたも同然ですよ?」」
「マジですか……知らなかったとは言えそいつは失言だったなぁ」
はにかみながらも俺の失言に注意してくれるミフィに俺は小さく頭を下げる。
……もう少し考えてから発言しないと駄目だな。俺の常識なんて通用しなさそうだし、何も考えないで話してるとどんどんボロが出てきちまいそうだ。
何はともあれ、この世界で猫耳や犬耳、各種動物の耳や尾が生えている人間?が普通にいるという事らしい。ますますもってファンタジー感が溢れ出て来やがる。
「……あっ! もしかしてヒカルの居た世界ではアニュー……所謂獣人族という種族はいなかったのですか?」
もしかしなくてもいないからな? 顔や体は人間その物なのに耳とか尻尾が生えてメイド服から出てるからビックリしたわ!!
「ああ、俺の居た世界には各種動物はいても獣人族なんて種族は存在しなかったからな。俺ら人間とはどう違うんだ? 見た所体の作りは同じようだし違いがあるとすれば耳や尻尾位なもんなんだけど」
「やはりそうだったのですか、ならば先程の思慮に欠けた発言にも納得が行きます」
納得がいったとばかりにミフィが頷くが、中々に手厳しい言葉は聞かなかった事にしておこう。
「そうですね、獣人族は根本的に私達人族と変わりがありません。あえて上げるとするならば私達よりも比較的身体能力に優れタフネス、五感が鋭敏。そして私達人族に比べると魔法の扱いが拙いという事位ですかね。元となっている動物によって能力や容姿にバラつきはありますが、大まかに上げて共通しているのは先の三点でしょう」
なるほど……。
ミフィが簡潔に纏めてくれた情報を、あまり優秀とは言えない俺の脳みそを頑張って稼働させてその意味をゆっくりと咀嚼する。
アニューは俺達とほぼ同じような人間……それでいて身体能力が俺らよりかは高く、魔法があまり得意では無い……っと。
元となった動物事の特性も引き継ぐ可能性もある……っと。
「なぁ、他に種族はいるのか?」
俺が聞いてみるとミフィは少しばかり表情を強張らせて足を止める。
それから一拍置いてから、ミフィは改めて俺の顔を見て喋り出した。
「後は……魔族ですね、主に異型の物や多種多様な生物が存在していますが大まかに程度の低い生物は魔獣と呼ばれ一括りにされていますね魔族の種族を細かく上げればそれこそキリがありません。因みにヒカルが倒さないといけない魔王はそれらの王に当たる者ですね」
なるほど……魔獣か、ほんとに夢やゲームの世界の話みたいだけど、紛れもない現実なんだよなコレ……。
「魔族は一般的に上位種になるに連れ魔法を扱い、人語を話すと伝えられています、そのような者と相対する時にはどうかお気をつけください……」
「ああ、分かったよ。大丈夫、簡単に死にはしないさ」
「ヒカル……」
自分で押し付けてしまった事の重大さをミフィはしっかりと理解している。
だからこそ、今ここにいる彼女はひたすらに俯き、無責任に情報や武器や道具を提供する事しか出来ない自分が許せないのだろう。
そんなミフィの様子を見て、少しばかり自分らしくはないと思いつつも俯く彼女の方をぽんぽんっと軽く叩く。
「顔を上げなミフィ、大丈夫。聖剣ってやつを使いこなせて魔法を覚えて特訓すりゃ簡単には死なないだろうさ」
そうして俺の口から出た言葉は根拠の無い酷く楽観的な考えとも言える物だったのだが、今はこれでもいいと思える。これだけははっきりと言えるしな。
……ミフィに悲しそうな表情をさせちゃ駄目だ。こんな可愛い子に辛そうな顔は似合わない、見ててこっちが辛くなってくるし……ってな。
「だからさ、今はまだ少しばかり頼りないかもしれないけどさ、俺に……任せてくれないか?」
ゆっくりと頭を上げたミフィの前に、俺は笑顔と共に右手を差し出す。
それは他人から見たらただの何の変哲もない握手に過ぎないのかもしれない……けど、俺にとっては密かな誓いにも当たる行為になる。
その差し出された手を見てミフィは微笑むとふんわりと両手で包み込むように俺の手を握り返してくれた。
「ヒカル……。私、任せっきりなんて嫌ですからね? 一緒に……一緒に精一杯頑張りましょう!」
手伝ってくれる? ははっ、こんな可愛い子が手伝ってくれるなんて百人力だよ。
「あぁ、がんばろうな!」
「はい!」
二人で笑いあった後、ミフィがゆっくりと手を解くと赤い絨毯が敷かれた通路を俺達二人はゆっくりと歩き始めた。
俺の右手を包み込んでくれていた温もりが無くなって、何とも寂しい気持ちになりながらも歩く事数十分。
気持ちも落ち着き、壁に掛かっている高そうな絵画や置いてある高級そうな壷等の置物や高級そうな装飾品に目を走らせていると、不意にミフィがぴたりと止まる。
「着きましたよヒカル。ここが目的地の謁見の間です」
目の前には今まで見た事もないほどの重厚感溢れる赤地に金の装飾が施された威厳のある扉。
まさにこの先が王の間だと告げているかのような威圧感を醸し出している。
「さあ、参りましょう」
俺は無言で頷きミフィが開けた扉からゆっくりと室内へと入室するのであった。
「来たか……」
部屋に入り、すぐに俺の耳へと聞こえたのは低いながらもどこか優しさを感じられる声だった。
「お父様、勇者様……カワシマ・ヒカルをお連れいたしました」
ミフィの横を共に歩き、件の人物の元へと歩み寄り、ミフィは赤地に金の刺繍が施されているいかにもなマントを羽織っている男性に頭を下げる。
この人がミフィのお父さん……一国の主。
「初めまして、川島光です。ミフィに呼ばれて召喚されました……」
震える声を何とか抑え込み、礼儀も作法もまるでまるで分からないまま俺は一国の王へと挨拶してしまうのであった。