「そう……ですね、確かに名前の違和感でばれるのも馬鹿らしい話ですし」
そう言って少し自嘲気味にほくそ笑む。
親から貰った大切な名前の筈なのに、一時的にとは言え捨てる事に一切躊躇していない自分がいる事に気付いてしまったからだ。
……馬鹿みたいな話だけど、俺も状況に感化されてきてるのかもな。
「すまぬなヒカル、お主には無理を言ってばかりで。このアドルフ、出来うる限りのサポートはするとお主に誓おう。……で、何かいい名前はあるか?」
申し訳無さそうに軽く頭を下げるアドルフさん。
一国の王にこれ程頭を下げさせてるなんて俺位のものなんじゃないだろうか?いや、俺は別段何かをやったていう訳でもないんだけどね?
それはそうと名前……か。
この手のネーミングセンスって俺皆無なんだよな。ゲームとかでも何かのアニメかゲームキャラの名前から取るか超適当に考えた名前を付けるだけだし……
しばし目を瞑り黙考した後、俺は小さく頷いた。いやまぁ、そんな大層な名前を思い浮かんだ訳では無いのだけど。
「ライト……ライト・バウンディってのはどうですか?」
ライトってのは単純に俺の光って名前から取っただけで、バウンディってのは適当だ。
兎にも角にも外国人っぽく聞こえるような名前を考えたつもりである。
「ライト・バウンディか……ふむ、なるほどな。それならばカワシマ・ヒカルよりは大分自然な風に聞こえる。ならばその名で編入手続きをしておこうか」
俺の考案した名前を小さく繰り返して呟いたアドルフさんは、やがて満足そうに頷いてくれる。
つーか大分ってそこまで変だったのか俺の名前は……。
「明日から色々と慌ただしくなってき来て大変だとは思いますけど頑張りましょうね、ライト!」
「あ、ああ……」
さっそく俺の新しい名前で呼んでくれたミフィはにっこりと笑って応援してくれた。
ふぅ……まずはこの新しい名前に慣れないとな……。
「ふむ……もうこんな時間か大分長話をしてしまったようだな」
そう言ったアドルフさんの視線の先には大きな壁掛け時計が掛かっており、既にその時刻は深夜の11時を回る頃になっていた。
時計の数字から察するに、この世界の文字は俺の世界と同じ物が使用されている可能性が高い事が判明した。
そういえば今更だけど、普通にミフィ達とも話せてるし言語も同じっぽいな。
「そうだな……今日はもう遅いから休むとして、明日はミフィと一緒に町を見学してきなさい。これから拠点として行動する国なのだからおおよその地理は把握しておいた方が良いだろう。それに勇者様としてのライトの出番は夕方の四時からだからそれまに戻れば問題は無い」
町の下見か……確かにこの国の事を知るのは重要な事だし、純粋にこの世界の社会ってのも気になるし所だしな。学園までの道のりも覚えとか無きゃいけないし。
アドルフさんの提案に否とする要素はどこにも見当たらないな。うん。
「はい、分かりました。明日はよろしくな、ミフィ」
「ええ、お任せくださいライト。この国の良い所をいっぱいお見せして上げますよ」
俺達は互いに笑顔を作って、そう明日の約束を取り決めたのだった。
「それじゃあミフィリア、ライトを用意していた部屋に連れて行ってくれるかい?」
「はい、任せて下さいお父様」
「それでは失礼しますねアドルフさん、今日は色々とありがとうございました」
「礼を言わなければならないのは此方の方だよライト。今日の所はゆっくりと休みなさい」
一礼した俺に向かって真剣な表情でそう言ってくれたアドルフさん。
改めて自分の使命を認識出来たような気がして、俺とミフィは静かにこの部屋を出るのであった。
――――――――
夜遅い時間のせいか、殆ど人通りの少ない静かな通路を俺とミフィはアドルフさんが居た謁見の間をを出てからゆっくりと歩いていた。
「なあミフィ、俺の為に用意してくれた部屋があるのか?」
「はい、勇者様の召喚が成功した時に使う予定だったお部屋ですよ。ライトが不自由しないように色々と準備していたんです」」
少し得意げに笑ってみせるミフィはどこか楽しそうだ。
「私自身もライトの力になれるように頑張ります!だからどんどん頼って下さいね」
右手で握り拳を作って意気込む様は、どうにもミフィには似合ってなくって、俺は自然と笑みを浮かべていた。
「あっ、ここですね」
立ち止まったのは一つの部屋の前。
これまた華美な装飾の目立つ俺には到底似つかわしくなさそうな部屋の扉だ。
どうやらミフィと話している間にいつの間にか目的地に到着したらしい。
ほんと楽しい時間ってすぐ過ぎるよなぁ……。
「今日はありがとな、色々と助かったよ」
「いえ、助けてもらったのはこちらの方ですから……あの……ッ、お休みなさいっ!」
「あっ、ああ?お休み……」
なんだ?なんかミフィの様子がおかしかったような……?
ドレスのスカートの端を持って走り去って行くミフィを見送りながる違和感の正体を探ってみた……が。
……わからん。そもそも今まで彼女も出来たことのない俺が女の子の気持ちなんて分かる訳がないのだ……。
「はぁ……」
自分で言って落ち込んでりゃ世話ないよな……。
なんとなくブルーな気持ちになりながら、俺はドアを開けて部屋の中に入るのだった。
「寝よ……」
部屋の中に入った俺は、普段なら目を引くような美しい装飾品や家具等は一切気にせずにベッドに一直線へと進む。
それ程までに今日は色々あり過ぎて精神的にも肉体的にも疲れてしまったのだ。
風呂は……明日の朝入ればいいや……。つーか……この部屋に風呂あるのか?
明日確認して、なかったらこの事もミフィに聞かなくちゃな……ほんと、知らなきゃいけないことだらけで頭パンクしそうだわ。
まったく……今日は色々ありすぎたよ、正直夢みたいな話だ。
というより、親友でもあるアイツに言った所で全く信じてくれないような内容だけどもさ……。
「うぉ、すっげぇふかふか……」
倒れ込んだベッドの弾力感に驚きつつも、のそのそと布団の中に潜り込む。
普段道理に帰って寝たら、まさかの異世界に来てしまった……。
目覚めたら元の世界ではお目に掛かる事の無いような美少女が出迎えてくれたけど、どうやらとんでもない事に巻き込まれてしまい、王様と知り合いになって聖剣をもらって、しかも魔法学園とかいう正体不明な魔境に半ば無理やり編入されてしまって、さらには想像すら出来ない魔王とかいう奴を倒さないとで……だぁぁもう本当に頭パンクしそうだわ!!
……あぁくそ!もう寝る!!
考えるのも疲れてきた俺は目を閉じると簡単に意識を手放し眠りに落ちてしまうのであった……。
…………