【悲報】聖剣を引き抜いたヒキニートのワイ、魔王を討伐するまで家に帰れない   作:ハギワラ

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幼きヒキニートと、幼き御三家三人娘 ②

 

「支配者は、絶対的な存在でなければなりません」

 

 閑静な部屋の中で、母上は淡々と言葉を紡ぐ。

 その瞳は、膝をつく私の姿を捉えていた。

 何処までも冷ややかな視線が突き刺さる。

 息の仕方を忘れてしまいそうになりながらも、私は母上から目を離さなかった。

 

「民衆に軽んじられれば、そこで終わり。一度失った求心力は、元には戻りません」

 

「……承知しております」

 

「そうですか。では、貴方は理解している上で……他の御三家の人間や、ただの平民に遅れをとっているのですね?」

 

 底冷えするような声。

 皮肉めいた言い回し。

 母上の言葉には、確かな怒りがあった。

 シドやクーリャ、ミュルフ。

 同世代の有望株と比較して、明確に劣ってる私に対する侮蔑の感情が込められていたのだ。

 

「申し訳ありません。必ずや、挽回してみせます。エストワール家を継ぐ者として、相応しい結果を残してみせます」

 

「これ以上、私を失望させないで下さいね」

 

「……はい」

 

 焦燥感が、私の心を蝕んでいく。

 今のままでは、ダメだ。

 もっと、より一層、努力しなければ。

 支配者として相応しい人間にならなければ。

 そうしなければ、私には、価値なんてない。

 私に与えられた役割は、エストワール家を繁栄させる事なのだから。

 

「497……498……499……500」

 

 騎士養成学校の休憩時間。

 騎士候補生の自主訓練のために開放されている中庭で、剣の素振りをする。

 たった数十分であっても、積み重ねれば莫大な時間となる。

 こういったスキマ時間は、疎かにしがちな剣術の訓練に充てていた。

 国外の情勢の把握、エストワール家と縁深い王国騎士との交流、王族と親交を深めるパーティ。

 学校が終わっても、やるべき事は多いため、余暇時間は自己研鑽に充てたいのだ。

 

「喰らえっ、平民! 私の新技、大旋風〜!」

 

「いやん! とんでもないわ、この魔術! 竜巻の中に見えない風の刃があって、服が破けちゃう! みんなやめてっ、オレを見ないでぇん!」

 

「きゃははっ! みっともなーい! そのまま堕ちちゃえ、ダメダメになっちゃえー!」

 

 そんな私の隣で、シドとミュルフが決闘する。

 ミュルフが放った大規模な竜巻に巻き込まれて、シドの衣服がびりびりに破けていく。

 空中に、全裸の少年がぷかぷか浮かぶ。

 ……いったい、何を見せられているんだ、私は。

 

「…………」

 

 不意に物陰を見ると、見知った人物がいた。

 目を血走らせたクーリャが、スマホを片手にシドの写真を撮りまくっている。

 彼女も、何をしているのだろうか。

 薄々勘づいてはいたが、シドやミュルフと仲良くなりたいのだろうか。

 だとしたら、話しかければいいのに。

 クーリャは、シド達と目を合わせない。

 会話すらせず、ストーキングしているのだ。

 

「本当に下らないですね。マナ様、午後の授業が間も無く始まります。そろそろ、移動しましょう」

 

「……ああ」

 

 いつの間にか、すぐ側にいた取り巻きの少女に声をかけられる。

 本音を言うと、シドとミュルフの決闘を見届けたいが……そのような振る舞いは、許されない。

 エストワール家の次期当主は、興味本位で行動したりしない。

 常日頃から自分を厳しく律し、人々の模範であり続けなければならない。

 

「あいつらは、御三家に相応しくありません」

 

「そうだな」

 

「頂点に君臨するのは、マナ様であるべきです」

 

「その通りだ」

 

「我々は、マナ様の忠実な僕です。どうか、我らを導いてください」

 

「任せてくれ」

 

 取り巻き達に囲まれながら、歩みを始める。

 繰り出されるおべっかに、生返事する。

 それでも、彼らは止まらない。

 少しでも、私に気に入られるために、思ってもいない賞賛の言葉を述べていく。

 

 ……私は、知っている。

 取り巻き達は、妥協していることを。

 ミュルフやクーリャに袖にされたから、最後の御三家である私に媚を売っていることを。

 

 騎士養成学校に入学した当初、取り巻き達は私に見向きもしていなかった。

 それも、そうだろう。

 入学試験において、私は同じ御三家であるクーリャに完膚なきまでに叩きのめされた。

 ボコボコにされて、格付けされた。

 故に、取り巻き達はクーリャに群がった。

 御三家の力関係が覆る事を先読みして、彼女と親しくなろうとした。

 

「……私に、話しかけないで」

 

 けれども、あえなく撃沈した。

 クーリャは誰も寄せ付けようとしない。

 御三家の責務の一つである派閥作りを放棄して、一人で行動することを選んだのだ。

 そんな彼女を、私は愚かだと思った。

 人間に向き不向きがあるように、騎士にも己の領分がある。

 武勇に優れる者もいれば、諜報活動が得意な者もいて、顔が広い者もいる。

 そういった者達と密接な関係を築いておく事は、御三家の家名を背負う者として必要不可欠なのに。

 

「シド以外の雑魚が、近寄ってこないで〜」

 

 それは、ミュルフも同様だった。

 彼女もまた、取り巻きの擦り寄りを良しとせず、シドとの決闘に拘り続けた。

 あくまで、自分の感情を優先させたのだ。

 

 だが、そのお陰で、人脈を作れた。

 今や、御三家以外の騎士候補生の大半は、私に媚び諂い、忠誠を誓っている。

 王族とのパイプも形成済みで、現役の騎士との関係性も極めて良好。

 唯一の不安要素は、実力だけ。

 それ以外、不足などない。

 

 平民の出のシドは論ずるに値しない。

 奴の父親が騎士団長を拝命するかもしれないという噂はあるが、きっと眉唾だ。

 血統を何よりも重視する上層部が、平民に重要なポストを与えるはずがない。

 私のキャリアは約束されているようなモノだ。

 何も、問題はない。

 エストワール家を背負う者として、すべき事は不足なく行っている。

 それなのに、どうして。

 

(私の心は、満たされていないのだろうか)

 

 何にも縛られず、自由に振る舞う彼らを。

 シドや、ミュルフや、クーリャの姿を見て。

 ……羨ましいと、思ってしまうのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、腹減った。持ってきた軽食、もう食べちゃったから、誰か分けてくれよ」

 

「流石、脳みそスカスカだねー。お腹ぺこぺこのまま、頑張って歩いてね〜」

 

「…………………」

 

 そして、何故。

 私は、奴らと行動を共にしているのだろうか。

 後方でぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるシドとミュルフ、二人に話しかけてもらうのを待つクーリャに見向きもせず、着実に歩みを進めていく。

 もう、ツッコむ気力すら湧いてこない。

 

 因みに、今回は訓練ではない。

 私達だけに与えられた、特別な試験。

 その内容は、実際の騎士の任務と同じように、指定されたポイントの魔物を討伐するといったもの。

 普段の訓練とは異なり、命の危険がある討伐任務にも関わらず、三人の様子は変わらない。

 いつも通り、お気楽なままである。

 

「このキノコ喰えるかな? なんか、紫色で怪しげな雰囲気があるけど」

 

「ステータスオープンのスキルによると……すっごく美味しいらしいよ〜! 副作用も無いって!」

 

「……ぜったい、うそ」

 

「間違っても食べるなよ、シド。携帯食料で良いなら、私の物を分けてやるからっ!」

 

「マジで!? ありがとうな、マナ! 世界で一番、愛してるぜぃ!」

 

 私、引率の先生だったっけ?

 と、思ってしまうくらい、アホ三人組が自由奔放すぎて手がつけられない。

 ……もしかして、押し付けられたのだろうか。

 他の同級生や、騎士養成学校の先生では、馬鹿どもを抑えられないから。

 私をお目付役に選んだのではないだろうか。

 そんな考えが、脳裏をよぎる。

 

(流石に、ありえない……と思いたいなぁ)

 

 同世代の中でも突出した実力がある私達四人は、筆頭部隊と名付けられて一括りにされている。

 将来有望な若手として、期待を寄せられている。

 そうして、今回の試験のように。

 普通の騎士候補生には与えられないような、高難易度の任務を任せられているのだ。

 だから、奴らを統率するリーダーの役目を与えられたのは……面倒事を押し付けるためではない。

 御三家の頂点に立つエストワール家の次期当主である、私への期待の表れに違いないのだ。

 そう、自分に言い聞かせる。

 でないと、気が狂いそうだったから。

 

「貴様ら、任務の概要は頭に入ってるだろうな」

 

「……むー」

 

「…………」

 

 念の為、質問を投げかけると、ミュルフは不機嫌そうに頬を膨らませる。

 クーリャに至っては、私を睨みつけている。

 本当に、なんなんだ、こいつらは。

 何が、癇に障ったのだろうか。

 考えてみるが、心当たりはない。

 私、何も悪い事してないよねっ!?

 

「オレは、知ってるぜ。山奥の村でオーガが発見されたから、そいつをぶっ殺す……だろ?」

 

「……その通りだ。偉いぞ、シド」

 

「何だよ、急に。気持ち悪ぃな」

 

 この時ばかりは、シドが輝いて見えた。

 今の状況で前のように、分からないと言われたら、私の心が耐えきれない。

 目的地は、もうすぐだ。

 救援要請を出した村に到着次第、村長からオーガの情報を収集する。

 次いで、オーガの住処に向かって、人々の安寧を守るために討伐する。

 幸いにも、馬鹿三人は強い。

 たかが魔物一匹に遅れをとる事はない。

 

「安心しろ。貴様らは、私が導い、て……」

 

 カッコいい決め台詞を口にして指揮を高めようとした瞬間、私のスキルが反応する。

 フルオートで迎撃し、あらぬ方向に飛んで行ったソレは、勢い良く木に突き刺さった。

 確認するために、ゆっくりと首を動かす。

 単刀直入に言うと、ソレはナイフだった。

 もしも、警戒心が強い私が「全自動防衛」のスキルを発動していなければ。

 間違いなく、死んでいただろう。

 

「おいおい。最近のオーガは、器用にナイフを投げてくんのかぁ?」

 

「オーガにそこまでの知能はないでしょ。私か、クーリャを殺しに来た刺客だろうね〜」

 

「その可能性は、高い」

 

「いくら何でも、冷静すぎないか!?」

 

 しかし、馬鹿三人衆は平然としていた。

 イキがってる訳でもなく、見栄を張ってる訳でもなく、極めて自然体だったのだ。

 ミュルフやクーリャの巻き添えになる形で、無関係の私が死にそうになったのに。

 

「あはは、ごめんね〜。でも、マナちゃんは強いから、大丈夫かなって」

 

「……巻き込んで、ごめん」

 

「い、いや、別に……この程度、エストワール家を背負う私からすれば、造作もないが」

 

 どうにも、調子が狂う。

 馬鹿にしたり、素直に褒めたり。

 私の情緒はぐちゃぐちゃだ。

 しかし、何故、クーリャとミュルフの命を奪おうとする者がいるのだろうか。

 彼女達は、御三家の次期当主……と、そこまで考えて、ようやく理解する。

 

 御三家は、歴史ある一族。

 どの家も一枚岩という訳ではなく、同じ家名を持つ者同士で対立する事もある。

 私の記憶が正しければ、クーリャは分家出身で、ミュルフに至っては平民の血が混ざっている。

 御三家の中心に位置する本家の人間からしたら、目障りでしかない存在。

 でも、だからといって、血の繋がった家族を殺そうとするだなんて。

 

(……ありえない、とは言えないな)

 

 不意に、冷たい視線を向けてくる母上の姿が浮かぶ。

 王国御三家の人間に、親子の情など存在しない。

 あるのは、自身の家の繁栄のみ。

 所詮、私は運が良かっただけだ。

 本家の第一子として産まれて、同世代の子供達の中で、最も才能があった。

 だから、蝶よ花よと育てられた。

 エストワール家の人間に刺客を差し向けられる事もなく、平穏な生活を送れたのだ。

 

「刺客の人数は、10人。ステータスはそこそこって感じかな〜」

 

「シドとマナは下がってて」

 

 クーリャとミュルフは、武器を構える。

 刺客に襲われるのは日常茶飯事なのだろう。

 彼女達は、荒事に慣れていた。

 殺意を向けられても、全く怯まない。

 

 ……私は、二人が自由だと思っていた。

 けれども、それは大きな間違いだった。

 御三家の一員として産まれ落ちた以上、どんな人間であっても権力争いからは逃れられない。

 それは、才能がある者なら尚更。

 クーリャやミュルフも、御三家という血筋に囚われている人間だったのだ。

 

「水臭い事言うなよ。敵の数が多いんだから、味方が多い方がいいだろ?」

 

 きっと、シドだって同じだ。

 騎士養成学校内で唯一の平民というだけで、周囲の貴族からは目をつけられる。

 謂れのない言いがかりをつけられて、舐められて馬鹿にされて蔑まれる。

 それでも尚、明るさを失う事なく、自分のやりたい事をやっている。

 

(愚かなのは、私の方だったな……)

 

 私だけが、苦労している訳ではない。

 彼らにも、色々と事情がある。

 そんな中でも、自分らしく生きている。

 決して、他者に弱みを見せる事なく、自由を謳歌しているのだ。

 

「……フーハッハッハッ!!」

 

 私は、高笑いする。

 すると、全員の動きが止まった。

 こちらに襲い掛かろうとしていた刺客は、揃いも揃って足を止めて。

 

「どうした急に」

 

「……こわ〜」

 

「恐怖で、狂った?」

 

 アホ三人衆は、ドン引きする。

 だが、関係ない。

 そう、関係ないのだ。

 私は、偉大な祖先の血を引く者。

 他の御三家の人間や、平民にも出来ることが、出来ない筈がない。

 私だって、自由に振る舞える。

 エストワール家の当主として君臨しながらも、自分らしく生きる事が出来るのだっ!

 

「シドにだけ、いい格好はさせない。筆頭部隊のリーダーとして、私も戦おう」

 

 もう、馬鹿三人衆を羨ましいと思わない。

 妬んだり、僻んだりせず。

 奴らが持っていて、今の私には無い「強さ」を、手に入れてみせる。

 

「……ほんとに大丈夫? 威勢はいいけど、足がぶるぶる震えてるよ〜?」

 

「無理は、よくない」

 

「心配すんな。お前がビビって戦わなくたって、他の奴に言いふらしたりしねーよ」

 

「だ、だだ、黙れっ! 私の身を案じる前に、自分の心配をしろっ!」

 

 強制的に、話を終わらせる。

 下らない無駄話をしている間に、状況は悪化してしまった。

 知らず知らずのうちに増援が現れたのか、刺客の数は30人ほどに増えている。

 

「……そうか。なら、行くぞ、テメェら! 騎士候補生筆頭部隊、ファイヤー!!!」

 

「エストワール家、ファイヤー!」

 

「へー。マナちゃんって、シドのノリに乗っかるタイプなんだ〜」

 

「意外と、子供っぽいね」

 

「……っ! ミュルフ、クーリャ。貴様らは、後で、絶対に、ぶっ飛ばす……!」

 

 クーリャとミュルフに揶揄われた私は、顔を赤らめながら走り出す。

 三人衆と肩を並べて、剣を抜く。

 こいつらは、碌でもない連中だ。

 一緒にいるだけで頭が痛くなるし、問題を起こされると胃に穴が空きそうになる。

 

 けど、それでも。

 シドやミュルフやクーリャと一緒にいる時だけは、肩の力を抜く事ができた。

 ここが、自分の居場所だと思えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見習い騎士なんて大した事ないと思ってたけれど。想像以上に、骨がありそうねぇ」

 

 彼女は、遠巻きに見つめていた。

 自分が差し向けた肉人形達と戦う4人の騎士候補生の姿を見て、ベロリと舌なめずりをする。

 

「もしかしたら……本物が、いるかもしれない。しっかりと、お出迎えの準備をしておかないと」

 

 背中から、歪な形の翼を生やして飛び去った彼女は、全速力で帰路に着く。

 口元を歪ませて、喜色を滲ませながら。

 

「ああ、もう我慢できない。今すぐ、あの子達の真価を確かめたいわぁ……!」

 

 まだ見ぬ強者を求めている魔族の彼女は……粛々とおもてなしの準備を始めたのだった。





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