ヤムチャになったってどうしたらいい   作:茉莉

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第26話

太陽拳の光が薄れ、視界を取り戻したザーボンは、誰もいなくなった村で、屈辱に震え上がった。

「お、おのれ……! この俺を、あんな猿同然の地球人どもが!!」

一方、浮遊椅子に座るフリーザは、不快そうに目を細めたまま、ゆっくりと指先をザーボンへ向けた。

「ザーボンさん。……私の『パーティー』を、随分とつまらないものにしてくれましたね。不意を突かれたとはいえ、あんなゴミのような目眩ましに、人質を奪われるとは……」

フリーザの声は、これまでになく低く、冷たかった。周囲の空気が一瞬で凍りつき、傍らの兵士たちは呼吸することさえ忘れて立ち尽くす。

「はっ……! 申し訳ございません、フリーザ様! 直ちに奴らを追い、全員の首を刎ねてまいります!!」

ザーボンが血相を変えて飛び立つ。彼の怒りは、俺たちへの殺意と、フリーザへの恐怖によって極限まで高まっていた。

数キロ先、迷路のような渓谷の奥深く。

俺と悟空は、デンデをクリリンに託し、岩陰に身を潜めていた。

「……ヤムチャ。ザーボンって奴、来るぞ。ひでぇ気だ」

悟空が唇を噛む。界王様から聞いた通り、フリーザ一味の戦闘力は、地球に来たベジータの比ではない。だが、今の俺たちの戦闘力もまた、修行でその限界を超えていた。

「ああ、悟空。あいつは俺がやる。……お前はクリリンとデンデを守りながら、隙を見て他のドラゴンボールの気配を探ってくれ」

「ヤムチャ! ひとりじゃねぇ、オラも……」

「ダメだ。あいつはフリーザの側近だ。俺の『剛気纏』と『界王拳』の融合、その真価を試すには絶好の相手だ」

俺は白銀のオーラを静かに立ち昇らせた。300倍の重力で練り上げた肉体が、戦闘を求めて微かに震える。

ドドォォォォォォン!!

ザーボンが、岩山を粉砕しながら渓谷へと降り立った。彼の美しい容姿は怒りに歪み、その周囲には禍々しい紫色のオーラが渦巻いている。

「見つけたぞ、地球のゴミ虫ども! よくも俺に、これほどの屈辱を……!!」

ザーボンの戦闘力は2万を超えている。だが、今の俺は、その気を正確に「視(み)」ていた。

「ザーボン、お前の実力はその程度か? ……なら、死ぬのはお前だ」

俺の挑発に、ザーボンの顔が引きつる。

「貴様……! この俺が、貴様のような下等生物に……!! ぐおおおおおおっ!!」

ザーボンの体が急速に膨れ上がり、その美しい容姿が爬虫類のような醜悪な姿へと変貌していく。変身。真の力を解放した彼の戦闘力は、3万を優に超えた。

「死ねぇーーーーっ!!」

変身したザーボンの猛攻が始まる。だが、俺は「剛気纏・零式」を展開し、その重い拳を最小限の動きで受け流す。ズォォン! と衝撃波が走り、足元の岩が粉々に砕け散る。

「……遅いぜ、ザーボン」

俺はザーボンの死角へ潜り込み、界王拳を爆発させた。

「界王拳……五倍だぁーーーーっ!!」

白銀に赤い光が混ざり、俺の肉体が神速の閃光となる。

ザーボンの醜悪な顔面へ、俺の拳が「狼牙瞬光衝」と共に炸裂した。

「がはっ……!? 馬鹿な、この俺が……!!」

絶叫と共に、ザーボンの巨体が渓谷の壁へと叩きつけられ、粉砕された岩と共に生き埋めになった。戦闘不能。

「……ヤムチャ、すげぇぞ!! あんなバケモンを、一撃で!!」

悟空が駆け寄ってくる。クリリンもまた、デンデと共に岩陰から現れ、目を丸くして俺を見つめていた。

その頃、フリーザの巨大な宇宙船。

「……ザーボンさんの気が消えましたか。ドドリアさんに続き、ザーボンさんまで……」

フリーザは、ワイングラスを傾けながら、静かに呟いた。その声には、怒りよりも、むしろ深い「不快感」が滲んでいた。

「……ククク、地球人。……案外、面白い存在のようですね。私の側近を、こうも容易く屠るとは。……どうやら、私が直々にお相手をする必要があるようですが……その前に、少々『掃除』をしておく必要がありそうです」

フリーザはリモコンを操作し、宇宙の彼方へと通信を繋いだ。

「……ギニュー特戦隊。……ええ、私です。フリーザです。……少しばかり、ナメック星という場所で、厄介な野良犬が暴れておりましてね。……ええ、彼らの『首』と、私の『ドラゴンボール』を、直ちに回収なさい」

フリーザの唇が、薄く、冷たく歪んだ。

「……楽しみですねぇ。宇宙一の精鋭部隊が、地球人というゴミ虫を、どのように『料理』してくださるのか……。ククク、精一杯のおもてなしを、期待していますよ」

 

 

ナメック星の空に、五つの巨大な火の玉が飛来した。それは大気を切り裂く轟音と共に、フリーザの宇宙船のすぐそばへと着弾する。

岩陰に身を潜めていたクリリンと悟飯、そしてデンデは、その瞬間に押し寄せてきた絶望的な「気」の奔流に、文字通り金縛りにあった。

「な、なんだよ……この気は……! ザーボンやドドリアとは比較にならない……! それが、五つも一気に……!!」

クリリンの顔からは血の気が引き、歯の根が合わないほどにガタガタと震え始めた。悟飯もまた、額に脂汗を浮かべながら、その圧倒的な暴力の気配に圧倒されている。

「……信じられない。こんなバケモノたちが、まだ宇宙にはいたなんて……」

だが、その隣で静かに空を見上げていた俺と悟空は、違った。

悟空は口角をわずかに上げ、強者との出会いを予感した戦士の顔で、着弾地点を凝視している。

「へへっ、さすがは宇宙の帝王が呼び寄せた連中だ。とんでもねぇ気だな、ヤムチャ」

「ああ、そうだな。期待通り……いや、期待以上だ」

俺は白銀のオーラをあえて表に出さず、体内で静かに「剛気纏」を循環させていた。クリリンたちが感じているのは、特戦隊が隠そうともせず撒き散らしている気だ。だが、重力300倍の修行を経て、更にパワーアップした俺たちに取って、単なる敵に過ぎない。

「悟空、あいつら相当な自信家だぜ。自分の気がどれだけ目立ってるかも気にしちゃいない」

俺は肩の力を抜き、リラックスした状態で拳を握り込んだ。

「ヤムチャさん、悟空! 余裕ぶってる場合じゃないですよ! あんな奴らとまともにやり合ったら、一瞬で……!」

悲鳴に近いクリリンの言葉に、俺は軽く手を振った。

「落ち着けよ、クリリン。あいつらが凄まじいのは確かだ。だが、俺と悟空がこの数週間、どんな修行をしてきたか忘れたのか?」

俺のその静かな、だが確信に満ちた声に、クリリンは一瞬だけ呆然と目を見開いた。

「……あ、あんたたち、本気なのか……? あのバケモノ共を相手に、勝てると思ってるのか?」

「勝てるかどうかじゃねぇ、クリリン。……ぶっ倒すんだよ。あいつらがフリーザの最高戦力だってんなら、ここで叩き潰しておくのが一番効率がいい」

悟空もまた、道着の紐をキツく締め直し、力強く頷いた。

「ヤムチャの言う通りだ。オラもワクワクしてきたぞ。……行こうぜ、ヤムチャ!」

 

 

 

特戦隊の着弾地点からは、奇妙なポージングと共に、名乗りを上げる五人の影が見えた。ギニュー特戦隊。宇宙最強の精鋭部隊だ。

俺は空を飛び出す直前、ニヤリと笑って言い放った。

「ギニュー特戦隊か。……あんたたちの派手なショータイムを、俺たちが幕引きにしてやるぜ」

 

 

 

ナメック星の荒野に、五つの影が奇妙な、しかし洗練された陣形を組んで降り立った。

「ギニュー特戦隊! 参上!!」

大気を震わせる名乗りと共に、彼らは派手なポージングをキメる。その中心に立つギニューは、不敵な笑みを浮かべながらフリーザの元へドラゴンボールを届け終え、残ったメンバーに俺たちへの処刑を命じた。

「……ふん。汚いネズミが一匹、二匹、三匹……。リクーム、バータ、ジースグルド。遊んでやれ。ただし、スカウターの故障か知らんが、そこの二人の数値には気をつけろよ」

「イエス・サー! ギニュー隊長!」

特戦隊の中で最も巨躯を誇るリクームが、岩山を砕きながら一歩前に出た。

「よーし、お前ら! 誰から『リクーム・ウルトラ・ファイティング・ミラクル・アタック』を喰らいたいか選ばせてやるぜ!」

クリリンと悟飯は、その一挙手一投足から漏れ出る圧倒的な威圧感に、一歩も動けずに立ち尽くしていた。だが、俺は肩の力を抜き、悟空と顔を見合わせて笑った。

「悟空。あのデカブツは俺がやる。……あとのスピード自慢の二人は任せていいか?」

「おう、分かった。ヤムチャ、あんまり派手にやりすぎて、星を壊すんじゃねぇぞ」

俺は一歩、ゆっくりと歩み出た。

「なんだぁ? お前、ヤムチャとか言ったか。俺様とタイマンを張ろうってのか。笑わせるな!」

リクームが猛烈な勢いで拳を振り下ろす。大地が陥没し、爆風が荒野を包み込む。だが、俺はその拳が触れる寸前、最小限の動きで紙一重にかわしていた。

「……? 消えた!?」

「ここだぜ、デカブツ」

俺はリクームの視界の端、死角へと一瞬で転移していた。「剛気纏」により肉体の抵抗を極限まで減らした超高速移動。リクームが慌てて振り向き、口から巨大なエネルギー波を放とうとした。

「リクーム・イレイザー……」

「……撃たせないぜ」

俺は「界王拳・五倍」を一瞬だけ、打撃の瞬間のみに解放した。

俺の拳がリクームの顎を捉えた刹那、周囲の空気が内側に吸い込まれ、直後に凄まじい衝撃波が背後へと突き抜けた。

ドォォォォォォン!!

「があぁぁぁっ……!?」

リクームの巨体が、まるでピンボールのように岩山を何層も貫通し、遥か彼方まで吹き飛んでいった。特戦隊のスカウターが、計測不能の警告音を鳴らしながら火花を噴く。

「な、なんだと……!? リクームを一撃だと!?」

赤い肌のジースと、青い肌のバータが驚愕に目を見開く。

「……驚くのはまだ早いぜ、宇宙一のスピード自慢さん」

悟空が、バータの背後にいつの間にか立っていた。

「なっ……いつの間に!!」

「速ぇな、おめぇ。……でも、オラの方がもっと速ぇぞ」

悟空は界王拳を使うまでもなく、修行で培った圧倒的な基礎戦闘力だけで、バータとジースを翻弄し始める。二人が放つ「パープル・コメット・クラッシュ」さえも、悟空はまるでダンスでも踊るかのように軽やかにかわし、カウンターの掌底を叩き込んだ。

俺たちの背後で、クリリンが呆然と呟く。

「……信じられない。あの特戦隊が……赤子扱いされてる……」

俺は、這いつくばって絶叫を上げるリクームを見下ろしながら、拳を解いた。

 

 

 

 

 

リクームが岩山を貫通して沈黙したその瞬間、戦場に異様な静寂が訪れた。

「り、リクームが……一撃だと……!? スカウターの数値は、一瞬だけ六万……いや、十万を超えていたぞ!!」

ジースが顔を真っ青にしてスカウターを投げ捨てた。宇宙一のスピードを自慢していたバータも、額から流れる冷や汗を止めることができない。

「悟空、一気に片付けるぞ。フリーザが来る前に、掃除を終わらせなきゃならん」

「おう! 待たせたな、ヤムチャ!」

悟空が動いた。一瞬、空気が爆ぜたかと思うと、バータの背後に紅い閃光が走る。

「界王拳!」

「ぐふっ……!!」

バータは自分が何に撃たれたのかも理解できぬまま、首筋に手刀を受け、そのまま地面にめり込んだ。

「き、貴様らぁぁ!!」

ジースが逆上し、両手からクラッシャー・ボールを放とうとしたが、俺の「繰気弾」がそれより早く彼の両腕を絡め取った。

「悪いな、ジース。あんたの芸を見てる時間はもうないんだ」

「剛気纏・瞬」

繰気弾を爆破させ、その目眩ましの間に懐へ潜り込む。俺の掌がジースの胸元に触れた瞬間、高密度の気が心臓を貫いた。

「があああああああっ!!」

ジースは激しい火柱と共に吹き飛び、特戦隊の主力はわずか数分で壊滅した。

一方、少し離れた場所では、時間停止の超能力を駆使するグルドが、クリリンと悟飯を追い詰めていた。

「ひっひっひ! 動けないお前たちの首を、一本ずつへし折ってやるわい!」

だが、グルドの慢心が命取りとなった。修行によって五感と「気」の感知能力を極限まで高めていたクリリンは、グルドが息を止めて時間を止めるという弱点を完全に理解していた。

「……今だ、悟飯!」

「はいっ!!」

グルドが息を吐いた刹那、クリリンの「気円斬」が唸りを上げてその巨躯をかすめ、バランスを崩したところへ、悟飯の「魔閃光」が容赦なく炸裂した。

「そんな……この私が……ゴミ虫どもに……!!」

爆炎の中に消えていくグルド。これでギニュー特戦隊は、残すところ隊長一人……と思われたが、ギニューはリクームたちが敗れるのを見るや否や、屈辱に震えながらフリーザの宇宙船へと撤退していった。

「……終わったな」

俺は拳を解き、深く息を吐いた。だが、本当の地獄はここからだ。

ナメック星の緑色の空が、突如として赤黒い雲に覆われ始めた。

星全体が悲鳴を上げている。大地が激しく震動し、遠方の地平線から、それまで感じていた誰の「気」とも違う、圧倒的で冷酷な「絶望の塊」がこちらに向かって移動してくる。

「……来たか」

悟空の表情から余裕が消え、全身の細胞が戦慄しているのがわかる。

音もなく、上空に「それ」は現れた。

小型の浮遊椅子に座り、優雅にワイングラスを揺らす、宇宙の帝王フリーザ。

「ザーボンさんにドドリアさん……そして、自慢の特戦隊まで。……ククク、あなた方は本当に、私の想像を絶するお掃除屋さんですね」

フリーザの声は、これまでになく丁寧だった。しかし、その声が発せられるたびに、大気がミシミシと圧迫され、クリリンたちは膝をついて呼吸を乱している。

「特戦隊を倒した実力、認めざるを得ません。……ですが、一つだけ教えてあげましょう。私は、あまりに強すぎる自分の力を制御するために、普段はその姿を抑えているのです」

フリーザがゆっくりと椅子から降り、大地に着地した。彼が触れた地面が、その存在自体を拒むかのように黒く変色し、ひび割れていく。

「……私が変身をするたびに、私の戦闘力は爆発的に上昇します。……さあ、どうしましょうか。まずは、どなたから消されたいですか? 遠慮はいりませんよ」

「……悟空。界王拳十倍を維持する準備はいいか?」

俺は「剛気纏」を全開にし、白銀のオーラでクリリンたちを守る障壁を作った。

「おう。……ヤムチャ、こればっかりは修行の成果を全部出さねぇと、一瞬で消されるな」

俺と悟空。地球の運命を背負った二人の戦士が、ついに宇宙最強の怪物、フリーザと真っ向から対峙した。

「始めましょうか、下等生物の皆さん。……絶望の先にある、死という名の救済を味合わせてあげますよ」

フリーザの指先が、死の予感を纏って俺たちに向けられた。

 

 

 

 

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