点と点の間のお話
人類防衛の拠点、カルデア。
人間よりもサーヴァントの方が多いというなんとも奇妙な組織を運用し、今日も今日とて人類の明るい未来のために努力する女傑。
その名もオルガマリー・アニムスフィア。
彼女は悩んでいた。
今日の夕食? 否。
化粧の仕上がり? 否。
度々発生する特異点? 否。
彼女が悩む最大の理由。それは…。
「ヘイヘイヘーイ、どしたの~所長さん。私ちゃんがこうして出て来たのに辛気くせーのなんの。ほれほれ~れ。ルックアット、ミー?」
「(……だ、誰?)」
夜会用の小さな仮面におしゃめなドレス。なんか腰をくねらせてうざったい動きで視界へ入り込んでくる奇術師っぽい女性。
美貌に、確かに感じられる魔力。こんなものは候補が絞られる。そう、サーヴァントである。
だがしかし、こんなやつはカルデアにはいなかったはず。
仕事を一段落して書類から顔を上げたら目の前からのぞき込んできてた。ちょっと漏らした。
トンチキの嵐のような旅路の果てに、藤丸立香の周りにはそれはもう多種多様な英霊が跋扈している。神霊から低級な存在。古代から近代まで何でも揃っているといえよう。
だが、如何なる記憶でもこんなものを見た記憶が無い。
本当に誰だよ(困惑)。
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい。…まず一つ確認したいのだけど。その、藤丸が最近召喚したサーヴァントよね?」
「いや? けっこう前からの付き合いですけど。周回から周回。さらに周回まで幅広く対応してるから、顔見知りどころじゃないかな?」
「えぇ…」
「でもまぁ、あなたもかなり周回の香りがする…。私達、友達になれるかもしれないじゃんねベイベー」
「そっとしておいてほしいわ」
(どどどどどどどどうしたらいいのこれ、落ち着くのよオルガマリー。こういうときはとりあえず助けを呼びましょう)
そっと通信機を後ろ手に鳴らそうとするオルガマリー。しかし、目の前のサーヴァントは手で制止してくる。
「待ちな、所長さん。私ちゃんを知らないってさっき言ったなぁ!? ならばレクリエーションの時間だオラァ! くらえ! 種無し手品!」
「えっ」
光に包まれる目の前の存在。
室内を覆い隠した光が収まると、自分が握っていたはずの通信端末がなんと手の中に握られている。
「…イリュ~ジョン! どうよ?」
「いや、どうって言われても……」
「フッ、この程度で驚かれちゃ困るぜ…。さぁ、お手々を開いて手の中に握っている物を拡げてみてちょ」
「ん?」
先ほどまで硬度のあるものを握っていた感覚のあった己の手の中。
光と目の前のインパクトの強い存在に気を取られていたが、何やら肌触りのいい感触が掌に収まっている。
右手を出してみれば畳まれた布地。恐る恐る開いてみるとそれは…。
「……パンツ? なんで? いやほんとになんで?」
「ハッハッハ!! すり替えておいたのさ!!」
なんとも反応に困る。しかし、なんとなく分かる。やたらエグいデザインのパンツではあるが、これは女物。
なぜこんなものがあるというのか。
「ちょっと待ってちょうだい! 理解が追いつかないわ! なんでパンツなのよ!? 下着の英霊だとでも言うの!?」
「そんなわけないでしょ。そのパンツはさっき通りがかりに倒した虞美人の勝負下着を剥ぎ取ってきたやつです。お収めください」
「(絶句)」
虞美人。即ちそれは芥ヒナコ。それが意味するのは元同僚とも元部下とも言える関係。
そんな彼女の勝負下着が我が手の中に。何この世の終わりみたいなシチュエーション? 自分が何したって言うのよ…。
「では続きましては…びっくり箱です」
「この空気感で普通に進行できるの空恐ろしいわ。分かる? 私の表情。多分この世の全てに絶望しかけてるから」
「血色は良いですね。お手元のパンツよろしく、情熱的かと」
耐えろオルガマリー。よく分からない『ファーストサーヴァントは譲れない』とかいう本で苦しみ、謎の存在にちょっかいをかけられはしたが、自分はここで折れてはいけない。まだ自分には希望があるはずなのだ。
把握している時系列通りならば、次に来るのは第二特異点。本当にあればの話だが。
「取り出したるはこちらの大きめの箱。そして小さめの箱。お好きな方をお選びください」
「………よ」
「ん? ちょっと聞こえなかったです。もう一回で」
「いやよ!! 絶対に碌でもないわ! 次はもっときついのが来るんでしょ! 答えは沈黙よ」
「またまたま~た。気になるくせに~、ほれほれ~、ほっぺつんつん~」
「やめなさいよ、人の頬を指でムニムニしてくるのは」
イスに腰掛ける自分に躊躇いも遠慮もなく、ウザ絡みしてきた挙げ句に肌まで触ってくる。
距離感どうなってるんだこいつ!?
「選ばないとそれこそホントに過激な奴いきますよ!? いいんですか!?」
「あぁぁもう! やれっていうんでしょ! 分かったわよ! やるから離れてよ!」
「やるんだな! 今! ここで!」
「はよ離れろ!」
わちゃわちゃしながら引き離し、設置された二つの箱を見比べる。
警戒が大切だ。魔術世界におけるびっくり箱など碌でもないに決まっている。俗世の爆発物の方がましなケースだって想像は容易い。
自身に出来る範囲の魔術をかけて、念入りに調べる。
表面、光の反射、継ぎ目、音の有無に感触。
あらゆるものを確かめていると妙な音が聞こえてくる。
「(大きい方からなんかめちゃくちゃカチカチ音が聞こえる! 嘘でしょ!? 爆破テロ!?)
ただ選ぶだけならこちらを開ける道理はない。
空けたらドカンであの世行きかも知れない。しかし、目の前の何を考えてるか分からないやつはどう仕掛けてくるのか?
カルデアで爆弾なんてそんな安直な真似をする奴がいるのか…?
あぁ、いたわ。レフがいたわ。
頭を振って過去の幻影を霧散させて、口を開く。
「ねぇ、質問は良いの?」
「もちろん」
「…火薬や毒物は使われているものは有る? 生命を害する危険性が有るものは?」
「いや、ないない。びっくり箱は驚かせるのが本業であって、危険な事態を引き起こす物じゃないんだよ? どぅーゆーあんだすたん?」
「もう流すわよ。カルデアに脅威となり得るものであるか?」
「いやいや、マスター《人類最期にして偉大なる我らが唯一無二の永久の絆結びしオンリーワンマイロード》に怒られるし。そんなのないない」
「なに? 圧縮言語の使い手なの?」
手汗がじっとりと滲み、呼吸が少し荒くなる。
落ち着け、場合によってはカルデアの命運が左右されるのだから、気を動転などさせてはいけない。
最悪、自分がなんとしてでもフォローをして彼らを…人類最後のマスター達を害させる真似はさせてはならない。
「……決めたわ。小さい方よ」
「はいはいどうぞ、オォープンセサミ!!」
「ちょっ待」
決意はしたが覚悟は出来てない。にもかかわらず、箱が開かれて思わず手でガードをする。
……が。
「……? 何も起きないじゃない」
「ここからがマグマなんです! さぁ、私ちゃんの友達! トランスフォーム!」
「変形! ヘンケイ! トランスフォーム!」
箱が分解されてどこからともなく声を伴い人型を取る何か。
サーヴァントは二人だったというのか!?
「なっ、何者よ!? 名を名乗りなさい!」
「あ、どうも~。パンドラです~」
「ホァァァァァァ!!!!」
あまりの衝撃に変な声が出るオルガマリー。
こいつってパンのへんな奴じゃないか。一気に風向きが悪くなったぞ。
「いくぞ私ちゃんの友達! 我らマスターの道具フレンズ!」
「人外魔境カルデアの人外コンビ~」
「周回担当のアルターエゴ!」
「高難度担当のアサシン!」
「「二人揃って!!」」
「名乗らせない! 名乗らせないわ!! それどころじゃないのよ!」
かっこよくポーズを決めていた二人が露骨に「え~」という不満げな顔を向けてくる。
それどこらじゃないから。
「な・ん・で! パンドラがいるのよ! あなたはフィクションでしょう!」
「英霊です~」
「いや、そうじゃなくて…。あの忌々しい本の中の存在でしょうが!」
「みっともないぞ、私ちゃんたちとマスターの絆が信じられないっていうノ? そういうのはノンノン、ナンセンス」
なんだこれ、もう意味分からない。
ちょっとSAN値すら削られたような気分のオルガマリーに追い打ちが迫る。
嬉しげにテンションが上がる二人がこちらへと迫ってくるではないか。
「な、何する気よ」
「お忘れですか~? これはびっくり箱開封チャレンジ。開けちゃったから。私を選んじゃったからにはもう、ネ…。」
「…うん?」
「なぜだかしらなけいど、マスターの気配を感じて出てこれたはずが、そろそろ魔力きつくて消えそうな私ちゃんたち! 決めて消えるぜ有終の美…」
「ちょっ、ちょっと待って!!」
「と言うわけでご開帳~、
展開される宝具。オルガマリーの私室を漂う不穏な気配。
仕上げた書類の束は奇跡的な軌道で卓上のコーヒーカップと共に床に墜落して台無しに。
びっくり箱(大)の中身にあったチェイテピラミッド姫路城型目覚ましが暴発して白煙が舞い上がり、スプリンクラーが作動して室内はびしょびしょに。ひるんで後ろへこけたオルガマリーが吸い込まれるようにしてゴミ箱にぴったりフィット。
消えゆく二つの英霊と、なんかもう酷い状態の室内が残された。
「うぅ……、なんで…。なんでこうなるのよ。というか、何が起こってるのよ…。なんでいるのよ!」
ゴミ箱から尻が抜けないまま、なんとか寝返りを打って手近な物を掴む。
妙に分厚く、どこかで見たことのあるデザインが視界の端に入る。
「全然濡れてないし、こんな本あったかしら?」
しんどい姿勢で本の表紙を見るとそこには。
『ファーストサーヴァントは譲れない -外典-』
スプリンクラー作動を聞きつけて、藤丸達がやってきたとき。
びしょ濡れのまま、ゴミ箱に尻を突っ込んだ奇怪な姿で部屋を片付けるオルガマリーの姿があったという。
事情は話して貰えなかったが、その表情はなんとも悲しげであったとか。
なんか新しい話が出来たらしいよ
気の向くままに書いてるからおかしいものしか書けないという確信犯
本編は真面目に。それいがいはハジける
そんな人間に私はなりたい