光を渡した夜   作:Haruyama

19 / 19
エピローグ 同じ時間に、別の場所で

 

 

 

---------- エピローグ-------------

 

 

——数年後。

 

 

 

 セリは、朝の音で目を覚ます。

 

 

カーテンが揺れる気配。

鳥の声。

 

 

 見えない世界は、もう日常だった。

 白杖を手に、外へ出る。

 

 

 

誰にも追われない。

誰にも探されない。

 

 

ただの、通行人。

 

 

 

(……悪くない)

 

 

 

 心から、そう思えるようになっていた。

 

 

 

 

 

________________________________________

 

 

――同じ時間。

 

 

 カナは、大学のキャンパスを歩いている。

 

 

ノートを抱え、

人の流れを避ける。

 

 

 ふと、空を見る。

 

 

雲の形。

 

 

(……きれいだ)

 

 

 それを、誰にも共有しない。

 

 

 

 共有できない相手がいるから。

 

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 二人は、二度と会わない。

 

 

 

 声も、触れもしない。

 それでも。

 

 

 

同じ時間を、生きている。

同じ世界を、

 

 

 

 違う形で、受け取っている。

 

 

 

光を失った姉。

光を背負った妹。

 

 

 

 どちらも、

 誰かの犠牲の上に立つ存在だ。

 

 

 

 

 

 

だからこそ。

 

 

 

今日も、生きる。

 

 

 

それぞれの、見え方で。

 

 

 

 

 ——完―

 

 

 

 

 

 

()()() 残された者たち

 

 

〔皆見〕

 

 

 書類の束を閉じると、部屋が静かになった。

 事件番号は、すでに過去形だ。

 

 

山下埠頭。

国際テロ組織ヴェリア。

コードネーム「タカザキ」。

 

すべて、終結。

 

 

「……終わった、か」

 

 呟いても、実感はない。

 

 引き出しを開ける。

 中にあるのは、処分できなかったもの。

 

メモ帳。

録音データ。

そして、一枚の登録用紙の控え。

――——臓器提供意思表示。

 名前の欄は、黒塗りされている。

 

 

(……結局、名前は分からないまま)

 

 

知る必要が、なかった。

彼女が生き延びるためには。

 

 

 皆見は、窓の外を見る。

 街は、何も知らない顔で動いている。

 それが、救いでもあり、残酷でもあった。

 

 

________________________________________

 

永瀬

 

「……あいつらしいな」

 

 永瀬は、報告書を読み終え、短く笑った。

 

 

FBIとの共同作戦。

死亡確認不能。

関係者、行方不明。

——“タカザキ”、死亡。

 

 

「……死んだことにされるってのは」

 

 タバコに火を点けようとして、やめる。

 

「一番、重い生き残り方だ」

 

 彼は、机に肘をつく。

 カジヤの名前が、末尾にあった。

 

 

拘束。

その後、移送。

 

 

「……あいつも、逃げ切れなかったか」

 

 どこか、寂しそうに呟く。

 

 

最悪な再会。

最悪な別れ。

 

――それでも、永瀬は思う。

 

(……あの場で、引き金を引かなかった)

 

 それだけで、十分だ。

 

 

________________________________________

 

二人

 

夜。

 

 自販機の前で、皆見と永瀬は並ぶ。

 缶コーヒーの音が、やけに大きい。

 

「……後悔、してる?」

 

 皆見が、ぽつりと聞く。

 

「してないと言えば、嘘だ」

 

 永瀬は、即答する。

 

「でも、正しかったとも思ってる」

 

 皆見は、頷く。

 

「……私も」

 

 

沈黙。

風が、冷たい。

 

「……2人は」

 

 皆見が続ける。

 

「会わないまま、なんですよね」

「ああ」

 

 永瀬は、空を見上げる。

 

「それが、一番安全だ」

 

 そして、少しだけ声を落とす。

 

「一番、残酷でもあるが」

 

 皆見は、缶を握りしめる。

 

「……それでも、生きてる」

 

 永瀬は、短く笑う。

 

「生きてる奴が、勝ちだ」

 

 雑で、乱暴で、

 でも、この男なりの祈りだった。

 

 

________________________________________

 

 別れ際。

 皆見は、一度だけ、振り返る。

 

(……もう、追わない)

 

 それが、彼女にできる

 最後の保護だった。

 

 

 

街のどこかで、

光を背負う少女が歩いている。

 

 

別のどこかで、

闇に慣れた女が息をしている。

 

 

 

 

交わらない。

でも、断ち切られてもいない。

 

それを知っているのは、

この二人だけだ。

——それで、いい。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。