光を渡した夜   作:Haruyama

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(因縁の影/警察・公安)


――敵は、姿より先に関係を残す。


第3章 雑音の中の真実

――…

 

 

 最初に違和感を覚えたのは、永瀬だった。

 銃声が止み、廊下に重たい沈黙が戻った直後。

 倒れた侵入者の一人を確保した瞬間、彼は眉をひそめた。

 

「……妙だな」

 

 皆見が顔を上げる。

 

「何が?」

「動きが雑すぎる。それに――」

 

 永瀬は、拘束した男の手首を見る。

 指の関節に、古い傷がいくつも残っている。

 

「撃ち方は素人じゃない。でも、連携がない。まるで“時間稼ぎ”だ」

 

 その言葉が終わる前に、無線が割り込んだ。

 

 

『警察だ! 建物は完全に包囲した!』

 

 

 遅い、と皆見は思った。

 あまりにも、遅すぎる。

 外ではサイレンが重なり合い、空気がざわめいている。

 施設の敷地に、次々と人が流れ込んできた。

 

 

 その中に、公安の腕章が混じっているのを、永瀬は見逃さなかった。

 

「……やっぱり来たか」

 

 公安捜査官の一人が、開口一番に言った。

 

「侵入者は“タカザキ”で間違いないな?」

 

 皆見は、即答しなかった。

 

「名乗ったのは、別の人間です」

「だが、このタイミングで、この規模だ。他に誰がいる?」

 

 そう言われると、反論は難しい。

 事実、現場に残された痕跡は、“タカザキ像”と一致しすぎていた。

 

国外製の銃。

即席の侵入ルート。

そして、カナ・イシカワを正確に把握していた情報網。

 

 

 公安は、すでに結論を出していた。

 

「タカザキは、日本にいる。狙いは、保護対象者だ」

 

 だが、そのとき。

 別室で拘束されていた男が、急に笑い出した。

 

「……違うな」

 

 皆見と永瀬が同時に振り向く。

 

「俺たちは、囮だよ」

 

 永瀬が一歩近づく。

 

「誰の?」

 

 男は、血の混じった唾を吐き、肩をすくめた。

 

「さあな。でも――」

 

 一瞬だけ、男の視線が、永瀬の顔を掠めた。

 

「“あいつ”なら、もう引いてる頃だ」

 

 その言い方が、妙に引っかかった。

 

 

“タカザキ”を恐れる口調じゃない。

どこか、慣れた――雑な言い方。

 

 

 永瀬の脳裏に、過去の記憶がよぎる。

 

 

乱暴な冗談。

無線越しの悪態。

そして、危険な仕事のあとに必ず残る、後味の悪さ。

 

「……チッ」

 

 舌打ちが、無意識に漏れた。

 

 

――

 その頃、施設から少し離れた場所。

 ワゴン車の中で、男は携帯電話を耳に当てていた。

 

「終わったぞ。予定通り、大騒ぎだ」

 

 返事は短い。

 

『……カナは?』

「無事。近づいてない」

 

 運転席の男は、軽く息を吐いた。

 

「相変わらず、妹には甘いな」

 

 一瞬の沈黙。

 

『――余計なことを言うな』

 

 

 その声は低く、苛立ちを隠していなかった。

 男――カジヤは、口元だけで笑う。

 

「はいはい。“タカザキ”さん」

 

 電話は切れた。

 

 

 カジヤはエンジンをかけながら、独り言のように呟く。

 

「……昔からそうだ。あんたは、守るために、全部壊す」

 

 車は静かに走り出し、闇に溶けていった。

 

 

 

――

 一方、警察と公安は、すでに次の一手を決めていた。

 

 

「タカザキを追う。国内潜伏は確実だ」

 

 

 

 

その判断が、

誰を追い詰め、

誰を救うことになるのか。

 

 

 

 

 

この時点では、

まだ誰も、知らなかった。

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