光を渡した夜   作:Haruyama

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(目的の違和感)


――狙われているのは、少女ではなかった。


第5章 狙われているのは誰か

――…

 

 二度目の襲撃は、昼間だった。

 それだけで、常識から外れている。

 

「時間帯を選ばない……?」

 

 皆見は、倒れた男を見下ろしながら呟いた。

 永瀬が周囲を警戒したまま応じる。

 

「しかも、逃走経路が雑だ。プロの動きじゃない」

 

 施設の外壁には、無理やり開けられた痕跡。

 だが、内部に侵入した形跡は、ほとんどない。

 まるで――

 

「“来ました”って証拠だけ残して、引いた感じだな」

 

 永瀬の言葉に、皆見は頷いた。

 襲撃者は確かにカナのいる施設を狙った。

 

 

 だが、彼らの行動には、決定的な欠落があった。

――捕まえる気がない。

 

 

 カナは、別室で保護されている。

 医師とカウンセラーに囲まれ、震えながらも、じっと耳を澄ましていた。

 

「……また、ですか」

 

 皆見が入ってくると、カナは小さくそう言った。

 

「怖かったね」

 

 そう言いながら、皆見は違和感を消せずにいた。

 

 

怖がらせることは、できている。

だが、それ以上は、何もしていない。

 

 「カナさん。昨日の夜、何か変わったことはあった?」

 

 カナは、少しだけ迷ってから答えた。

 

「……名前を、探しているみたいでした」

 

 皆見と永瀬が、同時に顔を上げる。

 

「名前?」

「はい。誰かの……名前」

 

 永瀬が、腕を組んで唸る。

 

「普通、標的を狙うなら、名前じゃなくて“場所”か“人”だ」

「なのに、あの連中は――」

 

 皆見は、昨夜の無線を思い出していた。

 

『タカザキを出せ』

『ここにいるはずだ』

 

 確かに、そう言っていた。

 

「……カナさんを、餌にしてる」

 

 皆見の言葉に、永瀬の表情が険しくなる。

 

「タカザキを、おびき寄せるために?」

「そう考える方が、自然だ」

 

 永瀬は、短く息を吐いた。

 

「つまり――」

「狙われているのは、カナさんじゃない」

 

 

 沈黙が落ちる。

 その空気を破ったのは、カナだった。

 

「……あの人」

 

 二人の視線が向く。

 

「“タカザキ”って呼ばれてる人、わたしを、傷つけるつもりはないです」

 

 

 断定だった。

 皆見は、思わず聞き返す。

 

「どうして、そう思うんだい?」

 

 カナは、膝の上で指を絡めながら言った。

 

「近くに、いました。でも……来なかった」

 

 永瀬が、ゆっくりと息を吸う。

 

「……それ、いつだ」

「最初の夜です」

 

 皆見の背中を、冷たいものが走った。

 

 

“来なかった”。

 

 

来られなかったのではなく、

来なかった。

 

 

選択だ。

 

永瀬は、低く呟く。

 

 

「……敵の目的は、誘い出しだ。しかも、タカザキ本人を」

 

 皆見は、確信に近いものを感じていた。

 

 

これまで積み上げられてきた“タカザキ像”が、

少しずつ、崩れ始めている。

 

 

 そのとき、公安からの連絡が入った。

 

『次の襲撃に備え、保護対象者を移送する』

 

 皆見は、即座に返した。

 

 

「移送は危険です。相手の狙いは、動かすことだ」

『だが――』

「逆に、ここに留めた方が安全です」

 

 通信が切れたあと、永瀬がぼそりと言った。

 

「……上、聞く気ないな」

「だからこそ、急ぐ」

 

 皆見は、カナに向き直る。

 

 

「カナさん。君が感じたこと、全部教えてほしい」

 

 カナは、小さく頷いた。

 

 

見えなくても、

聞こえなくても、

感じてしまったものがある。

 

それは、誰にも否定できない。

 

 

 そして、皆見と永瀬は、ようやく同じ地点に立った。

 

 

 

“タカザキ”は、敵ではない。

 

 

 

少なくとも、

この少女にとっては。

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