――狙われているのは、少女ではなかった。
――…
二度目の襲撃は、昼間だった。
それだけで、常識から外れている。
「時間帯を選ばない……?」
皆見は、倒れた男を見下ろしながら呟いた。
永瀬が周囲を警戒したまま応じる。
「しかも、逃走経路が雑だ。プロの動きじゃない」
施設の外壁には、無理やり開けられた痕跡。
だが、内部に侵入した形跡は、ほとんどない。
まるで――
「“来ました”って証拠だけ残して、引いた感じだな」
永瀬の言葉に、皆見は頷いた。
襲撃者は確かにカナのいる施設を狙った。
だが、彼らの行動には、決定的な欠落があった。
――捕まえる気がない。
カナは、別室で保護されている。
医師とカウンセラーに囲まれ、震えながらも、じっと耳を澄ましていた。
「……また、ですか」
皆見が入ってくると、カナは小さくそう言った。
「怖かったね」
そう言いながら、皆見は違和感を消せずにいた。
怖がらせることは、できている。
だが、それ以上は、何もしていない。
「カナさん。昨日の夜、何か変わったことはあった?」
カナは、少しだけ迷ってから答えた。
「……名前を、探しているみたいでした」
皆見と永瀬が、同時に顔を上げる。
「名前?」
「はい。誰かの……名前」
永瀬が、腕を組んで唸る。
「普通、標的を狙うなら、名前じゃなくて“場所”か“人”だ」
「なのに、あの連中は――」
皆見は、昨夜の無線を思い出していた。
『タカザキを出せ』
『ここにいるはずだ』
確かに、そう言っていた。
「……カナさんを、餌にしてる」
皆見の言葉に、永瀬の表情が険しくなる。
「タカザキを、おびき寄せるために?」
「そう考える方が、自然だ」
永瀬は、短く息を吐いた。
「つまり――」
「狙われているのは、カナさんじゃない」
沈黙が落ちる。
その空気を破ったのは、カナだった。
「……あの人」
二人の視線が向く。
「“タカザキ”って呼ばれてる人、わたしを、傷つけるつもりはないです」
断定だった。
皆見は、思わず聞き返す。
「どうして、そう思うんだい?」
カナは、膝の上で指を絡めながら言った。
「近くに、いました。でも……来なかった」
永瀬が、ゆっくりと息を吸う。
「……それ、いつだ」
「最初の夜です」
皆見の背中を、冷たいものが走った。
“来なかった”。
来られなかったのではなく、
来なかった。
選択だ。
永瀬は、低く呟く。
「……敵の目的は、誘い出しだ。しかも、タカザキ本人を」
皆見は、確信に近いものを感じていた。
これまで積み上げられてきた“タカザキ像”が、
少しずつ、崩れ始めている。
そのとき、公安からの連絡が入った。
『次の襲撃に備え、保護対象者を移送する』
皆見は、即座に返した。
「移送は危険です。相手の狙いは、動かすことだ」
『だが――』
「逆に、ここに留めた方が安全です」
通信が切れたあと、永瀬がぼそりと言った。
「……上、聞く気ないな」
「だからこそ、急ぐ」
皆見は、カナに向き直る。
「カナさん。君が感じたこと、全部教えてほしい」
カナは、小さく頷いた。
見えなくても、
聞こえなくても、
感じてしまったものがある。
それは、誰にも否定できない。
そして、皆見と永瀬は、ようやく同じ地点に立った。
“タカザキ”は、敵ではない。
少なくとも、
この少女にとっては。