光を渡した夜   作:Haruyama

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(密室会話/皆見とセリ)


――真実は、閉じ込められた場所で語られる。


第7章 選ぶ者たち

――Ⅰ.永瀬

 

 

 違和感は、小さなことから始まった。

 

 

 皆見が、連絡に出ない。

 

 

一度、二度なら気にしない。

三度目で、嫌な予感に変わった。

 

 

「……まさか」

 

 

 位置情報は、途中で途切れている。

 

 

 それも、意図的に。

 永瀬は、無線を切った。

 上に報告すれば、判断は遅れる。

 

 

「独断専行か」

 

 

 誰にともなく呟き、車を走らせる。

 脳裏に浮かぶのは、路地裏の雨と、あの男の言葉。

 

 

――真実を知ってからにしろ。

 

 

「知る前に死なせる気かよ」

 

 

 舌打ちと同時に、アクセルを踏み込む。

 辿り着いたのは、港湾地区。

 

 人の気配が薄く、音が吸われる場所。

 永瀬は、銃を構えた。

 

 

「……来いよ」

 

 

 敵でも、味方でもいい。

――今は、皆見を返せ。

 

 

 

 

 

________________________________________

――Ⅱ.密室

 

 

 

 コンクリートの部屋は、無機質だった。

 皆見の前に立つ女は、銃を持っていない。

 それが、逆に緊張を高める。

 

 

「拘束を解け。話すなら、対等にやれ」

 

 

 皆見の言葉に、女は一瞬だけ考えた。

 そして、手錠を外した。

 

 

「逃げない?」

「逃げられると思ってるなら、最初から縛らないだろ」

 

 

 女の口元が、わずかに歪む。

 

 

「……合理的」

 

 

 椅子に腰を下ろし、女は名乗らないまま言った。

 

 

「君たちは、何を守っている?」

「少女だ。カナ・イシカワ」

 

 

 その名を聞いた瞬間、女の視線が揺れた。

 ほんの一瞬。

 だが、皆見は見逃さなかった。

 

 

「……やっぱり、知ってるな」

 

 

 女は、答えない。

 代わりに、低く言った。

 

 

「彼女は、ここにいるべきじゃない」

「それを決めるのは、あんたじゃない」

「私だ」

 

 

 即答だった。

 皆見は、静かに息を吸う。

 

 

「理由を聞こう」

 

 

 沈黙。

 やがて、女は言った。

 

 

「私は、彼女の“姉”だ」

 

 

 皆見は、驚かなかった。

 

 

 

 いや――

 驚かない自分に、驚いた。

 

 

「名前は?」

 

 

 女は、少しだけ間を置いた。

 

 

「……セリ」

 

 

 その瞬間、点と点が、つながった。

 

 

「タカザキ」

 

 

 女――セリは、はっきりと否定しなかった。

 

 

「それは、私につけられた名前だ」

「じゃあ、なぜ犯罪に手を染めた」

 

 

 皆見は、核心を突く。

 

 

「治療費のためだと聞いた」

「……嘘ではない」

 

 

 セリは、視線を落とす。

 

 

「でも、本当の理由は?」

 

 

 しばらく、沈黙が続いた。

 やがて、セリは静かに言った。

 

 

「――彼女を、生かすため」

 

 

 皆見の胸に、重たいものが落ちた。

 

 

「近づかないのは、危険だから?」

「違う」

「じゃあ、何だ」

 

 

 セリは、顔を上げた。

 その目は、強く、そして壊れそうだった。

 

 

「近づいたら、私は――姉でいられなくなる」

 

 

 その言葉は、祈りに近かった。

 皆見は、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

「カナは、あんたを感じてる」

 

 

 セリの肩が、ぴくりと動いた。

 

 

「夜、来ただろ」

 

 

 否定はなかった。

 

 

「彼女は言った。“悪い人じゃなかった”って」

 

 

 長い沈黙。

 そして、セリは、初めて弱音を吐いた。

 

 

「……なら、私は失敗だ」

「違う」

 

 

 皆見は、はっきりと言った。

 

 

「姉としては、あんたは、まだ生きてる」

 

 

 

その言葉が、

どれほど残酷で、どれほど救いだったか。

 

 

 

 セリは、目を閉じた。

 

 

 

 

 

外で、遠く銃声がした。

永瀬が、近づいている。

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