光を渡した夜   作:Haruyama

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(三者鉢合わせ/事態悪化)


――引き金より先に、世界が動いた。


第8章 交差点は、すでに燃えている

――…

 

 最初に破られたのは、静寂だった。

 

 

――ドンッ。

 

 

 金属扉が内側に歪み、次の瞬間、爆音とともに吹き飛ぶ。

 

 

「皆見!」

 

 

 永瀬の声が、密室を切り裂いた。

 銃口は即座にセリを捉えている。

 呼吸は荒く、引き金にかけた指に一切の迷いがない。

 

 

「永瀬、撃つな!」

 

 

 皆見が叫ぶ。

 その声に、永瀬の眉がわずかに動いた。

 

 

「……無事か」

「今はそれどころじゃない。下ろせ、話は――」

「話す相手じゃない」

 

 

 永瀬は一歩前に出る。

 

 

「そいつが“タカザキ”だな」

 

 

 空気が凍る。

 セリは、銃を持たないまま、まっすぐ永瀬を見返した。

 

 

「そう呼ばれている」

「十分だ」

 

 

 永瀬の照準が、心臓に定まる。

 その瞬間。

 

 

――キィン。

 

 

 耳障りな電子音が、天井から降ってきた。

 赤いランプが、点灯する。

 

 

「……侵入者検知」

 

 

 皆見が、低く呟く。

 セリの表情が、初めてはっきりと変わった。

 

 

「来る」

「誰が」

 

 

 永瀬が問う。

 セリは、短く答えた。

 

 

「ヴェリア本隊」

 

 

 次の瞬間、建物全体が揺れた。

 

 

遠くで、重低音。

車両――複数。

 

 

「チッ……!」

 

 

 永瀬が無線を開こうとするが、ノイズしか入らない。

 

 

「妨害されてる」

「当然」

 

 

 セリは、歯を噛みしめる。

 

 

「ここは“捨て区画”だ。侵入が確認された時点で、全員まとめて消される」

「……お前も、か」

「私もだ」

 

 

 皆見が、永瀬を見る。

 

 

「撃つのは後だ。今は――脱出する」

 

 

 永瀬は、ほんの一瞬だけ迷った。

 だが、外で響く銃声が、その時間を奪った。

 

 

「……くそっ」

 

 

 銃口を下ろす。

 

 

「走るぞ」

 

 

 セリが、わずかに目を見開いた。

 

 

「信用するの?」

「信用はしてない」

 

 

 永瀬は吐き捨てる。

 

 

「だが、皆見が生きてる。それだけで十分だ」

 

 

 廊下に出た瞬間、状況は地獄だった。

 

 

 

黒装束。

統制の取れた動き。

 

 

「本隊だ……」

 

 

 皆見が息を呑む。

 セリは、迷わず走り出した。

 

 

「こっち!」

「待て!」

「ここで止まったら全滅!」

 

 

 三人は、銃弾をかいくぐりながら非常階段へ向かう。

 永瀬が振り返り、応戦する。

 

 

「数が多すぎる!」

「最初からそういう作戦だ!」

 

 

 セリが叫ぶ。

 

 

「“タカザキ”を餌にして、関係者ごと始末する!」

 

 

 その言葉に、皆見が理解する。

 

 

「……カナも、狙われている」

 

 

 セリは、答えなかった。

 だが、その沈黙が、答えだった。

 階段を駆け下りる最中、通信が一瞬だけ戻る。

 

 

「――永瀬!こちら公安、ヴェリアが一斉に動いた!」

 

 

雑音。

 

 

「カナの位置が――」

 

 

 通信が、切れた。

 永瀬は、歯を食いしばる。

 

 

「最悪だ」

 

 

 セリが、立ち止まった。

 

 

「……なら、急がないと」

 

 

 二人が、同時に彼女を見る。

 

 

「私が、囮になる」

「却下だ」

 

 

 永瀬が即答する。

 

 

「それでも」

 

 

 セリは、皆見を見る。

 

 

「彼女を守るなら、私が“タカザキ”でいなきゃいけない」

 

 

 その目は、逃げ場を探していなかった。

 皆見は、静かに言う。

 

 

「……それは、選択じゃない」

 

 

 セリの唇が、震えた。

 

 

遠くで、さらに大きな爆音。

時間は、残されていない。

 

 

 

三人は、まだ同じ方向を向いている。

だが、進む先は、すでに分かれ始めていた。

 

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