明日に迫る迎仙儀式に、いつも以上に賑やかな璃月の街。
そこから少し離れ、木目調の落ち着いた雰囲気の中、棚に納められた薬から独特の匂いが立ち上がる。
「なるほど…これは私に治せるものではありません」
「そうですか…」
「そりゃそうだよ、だって私は今が正常だからね〜♫」
「今のままで大丈夫のか...?」
璃月で最も医療に精通しているだろう緑髪の薬師、『不卜廬』の白朮の言葉にパイモンや旅人も反応を返した。
彼は私の方を向いて言葉を続ける。
「ストレス障害と言われる症状です。ストレスの原因が消えない限りは薬を増やしても改善はしないでしょう」
「別に私は今のままで大丈夫だよ♫だから、この薬だけ頂戴?」
白朮の前に出て雷蛍術師から奪い取った分の余りを差し出す。
「やはり霧虚ろの草を服用していましたか。その様子では一般的な服用量を大きく超えていますね」
「さすがお医者様♫それで、薬の在庫はあるのかな?」
「ええ、「ダメだよ、バーテ」
旅人の白朮の言葉を遮って放たれるが、白朮は動じた様子もなく再び言葉を紡いだ。
「ストレス障害の対処法にはさまざまなものがあります。手軽なものだと、セルフモニタリングと呼ばれる自らのことを客観的に実況するものもありますし、単純に好きなものに打ち込むことや、薬物の利用も方法の一つでしょう」
「ははっ♫それら援助なく「ですが」
「自分自身と…過去と向き合うこと無しには根治には至らないでしょう」
「っ...」
細められた目の隙間から除く蛇のような瞳は私の奥底まで覗き込んでいるように感じる。
視界が凍る。
だが瞬きの後にその目は再び細められ、こちらはお返しします、と言われ薬を受け取る。
「…ありがたい諫言だね♫それじゃあ、お暇しちゃお〜」
その視線を振り払うように私は蛍の手を掴んで店を出ていった。
────
「おぉ!すっごく盛り上がってるな!」
「岩神を見れる貴重な機会だからね、バーテはどう?」
「...ここでは岩王帝君と呼んだ方が良いですよ。熱心な信者が多いですから」
「そうなの?ありがとうね」
こちらに笑いかけてくる蛍。
「...」
問いかけを無視したのに気分を害した様子もない。
その善良さが、気遣いが私は嫌い。うざったいんだ。
「早く行かないと近づけなくなっちゃうぞ!」
「それじゃあ、いこうか」
私に手が差し伸ばされる。
そのくせこういう無遠慮なとこるが苛立つ。癪に障るんだ。
神に合うのは彼女の旅の目的の一つで、私なんかにかまわないほうが良いのに。
無駄なことだ。
「......私の心の中に入ってこないで」
───
「そろそろ始まるぞ!」
パイモンの声が弾む。
儀式の場は興奮と緊張が充満していた。
凄い人混みだ。
ふと、繋がれた手を見つめて考える。
きっと、ここで逸れれば探すのは困難だろう。今なら、逃げれるのかもしれない。
「大丈夫?」
蛍が私の方を見ていた。
人混みが苦手な私を心配しているのだろう。その瞳は優しく私を見つめていた。
「…」
私は、繋がれた手を握りしめた。
地面が揺れ響く。
「!?」
儀式場の中央を見ると、そこには落ちてきたのだろう巨大な龍が横たわっていた。
「岩王帝君様!?」「い。一体何が起きたんだ!?」「帝君は無事なのか!?」
人々が混乱に陥り入り混じる音の中、一つの声が場を制した。
「帝君が殺害された!この場を封鎖しろ!」
その言葉を聞いて、握られた手が引っ張られる。
「ん?どこへ行くんだ?」
「神の信者に捕まるわけにはいかない。この場で私たちは素性のしれない輩だしね」
「それって...」
「バーテのことじゃないからね?何にせよ捕まったら面倒なことになる」
「...」
嘘ではない。捕まったら面倒なのか変わらないだろう。けど、調べて出てくる情報が栄誉騎士の蛍だけの場合と、ファデュイの私と一緒の場合じゃその面倒さは天と地の差だ。
頭で考えながらも蛍に手を引かれて岩に隠れながら儀式の場の外へと進んでいく。
「しまった...」
しかし、今私たちを隠す岩のすぐそばには兵士がいて、こちらを覗こうとしている。
ここから動こうにも別の兵士がこちらを見ている。
「はっ、はっ...」
心臓がばくばくと飛び跳ねる。
息が浅い。
服の中に隠した邪眼の存在を確認する。
「すぅ...」
大きく息を吸って、決断する。
「蛍」
「何?」
こんな状況でも苛つき一つ見せない。けれど、確かに焦りを含んだ顔の蛍から手を離した。
「逃げてね」
言うと同時に岩を覗こうとした兵士を痺れさせれる。
そして、不自然に倒れた兵士を見て寄ってくる兵士たちの前に躍り出た。
から稲妻を迸らせて声を上げる。
「私が、悪人です」
待たせといて強欲ですが、感想高評価あるとモチベが爆上がりします