鋼鉄艦船のヒーローアカデミア   作:花咲 凛香

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前回私は迷いを見つけた

八木朱奈と
オールマイト

私は


後悔と希望しかしてそれは絶望

蒼奈「…………」

 

オールマイトの言葉が、頭から離れない。

 

――君は人間だ。

 

――自分で選ぶこともできる。

 

蒼奈「…………」

 

胸の奥に、今まで感じたことのない感覚があった。

 

ざわざわする。

 

不快なのに――なぜか、消したくない。

 

蒼奈「……私の、意思……」

 

小さく呟いた、その時だった。

 

地面に黒い霧が広がる。

 

その中から、次々とヴィランたちが現れた。

 

死柄木「……クソ……!」

 

スピナー「死柄木、無事か!?」

 

トガ「痛いですぅ……!」

 

トゥワイス「大丈夫だ!/大丈夫じゃねぇ!」

 

荼毘「……最悪だな」

 

そして――

 

死柄木「……先生」

 

オール・フォー・ワン「やあ、弔」

 

その直後。

 

「う……」

 

小さな声が響いた。

 

全員が振り向く。

 

地面に倒れていた朱奈の指が、わずかに動く。

 

朱奈「…………」

 

ゆっくりと瞼を開く。

 

朱奈「……ここは……」

 

視界に入ったのは――

 

蒼奈。

 

朱奈「…………!」

 

そして。

 

爆豪「ちっ……」

 

爆豪も意識を取り戻していた。

 

朱奈「爆豪……?」

 

爆豪「……クソが」

 

次の瞬間。

 

爆豪「ボサッとしてんじゃねぇ!」

 

朱奈「え?」

 

爆豪は朱奈の腕を掴む。

 

爆豪「こっちだ!」

 

朱奈「ちょ、爆豪!?」

 

二人は一気に駆け出した。

 

蒼奈「――!」

 

蒼奈が振り返る。

 

蒼奈「お姉様を返せ!」

 

艤装が展開し、砲塔が二人へ向く。

 

だが――

 

オール・フォー・ワン「蒼奈」

 

蒼奈「!」

 

オール・フォー・ワン「待ちなさい」

 

蒼奈「でも……!」

 

オール・フォー・ワン「今は彼女を追う必要はない」

 

蒼奈「…………」

 

オール・フォー・ワン「後はドクターに任せるとしよう」

 

そう言うと、オール・フォー・ワンはオールマイトへ向き直る。

 

オールマイト「オール・フォー・ワン!」

 

ドンッ!!

 

強烈な一撃。

 

オールマイトの巨体が吹き飛ばされる。

 

オールマイト「ぐっ……!」

 

その隙に、オール・フォー・ワンは黒霧へ手を向けた。

 

オール・フォー・ワン「黒霧」

 

黒霧「…………」

 

意識を失ったままの黒霧。

 

オール・フォー・ワン「個性を使わせてもらうよ」

 

バチッ――!

 

黒霧の個性が強制的に発動する。

 

黒い霧が、一気に周囲へ広がった。

 

死柄木「行くぞ!」

 

荼毘「逃がすな」

 

トガ「お姉さんを返してもらいましょう!」

 

トゥワイス「捕まえろ!/逃がすな!」

 

スピナー「二人を追え!」

 

朱奈「っ……!」

 

爆豪「右!」

 

朱奈「了解!」

 

飛んできた攻撃を、二人が同時に回避する。

 

爆豪「次、左!」

 

朱奈「分かってる!」

 

朱奈が身を翻す。

 

その直後、背後を攻撃が通り過ぎた。

 

朱奈「危な……!」

 

爆豪「止まんな!」

 

朱奈「はい!」

 

二人は互いの動きを読みながら、必死に走る。

 

戦うためではない。

 

生きて戻るために。

 

その一方――

 

オールマイト「朱奈君から離れろ!」

 

オール・フォー・ワン「それは無理な相談だね」

 

その横に蒼奈が立つ。

 

蒼奈「…………」

 

オールマイト「君も退きなさい!」

 

蒼奈「嫌です」

 

オールマイト「……!」

 

蒼奈「私は、お父様を守ります」

 

艤装が唸る。

 

オールマイト「……この出力」

 

蒼奈「Fire」

 

砲撃。

 

オールマイトは跳躍して回避する。

 

しかし――

 

蒼奈「そこ」

 

別の砲塔が旋回する。

 

オールマイト「!」

 

即座に拳で砲撃を逸らす。

 

その瞬間。

 

オール・フォー・ワンの攻撃が迫る。

 

オールマイト「ぐっ!」

 

蒼奈「…………」

 

その連携に迷いはない。

 

躊躇もない。

 

まるで――

 

高度な命令に従う、理性を持った脳無。

 

しかし、脳無とは違う。

 

蒼奈には明確な意思がある。

 

状況を理解し。

 

敵の動きを予測し。

 

最適な攻撃を選択している。

 

オールマイト「……君は」

 

蒼奈「?」

 

オールマイト「一体、どれだけの戦闘訓練を……」

 

蒼奈「分かりません」

 

淡々と答える。

 

蒼奈「お父様に教えてもらいましたから」

 

オールマイト「…………」

 

まただ。

 

この少女は、自分の力を誇っているわけではない。

 

ただ、与えられた役割を果たしている。

 

蒼奈「お父様」

 

オール・フォー・ワン「なんだい?」

 

蒼奈「私、ちゃんと役に立ってますか?」

 

オール・フォー・ワン「もちろんだよ」

 

蒼奈「…………」

 

その一言だけで、蒼奈は嬉しそうに微笑んだ。

 

蒼奈「……よかった♪」

 

オールマイト「…………」

 

その笑顔を見て、オールマイトの胸が痛む。

 

――この子は。

 

褒められることだけを、自分の価値だと思っている。

 

その頃。

 

爆豪「走れ、八木!」

 

朱奈「分かってます!」

 

朱奈が振り返る。

 

蒼奈の姿が見える。

 

朱奈「…………蒼奈」

 

蒼奈「お姉様……!」

 

二人の視線が交差する。

 

ほんの一瞬。

 

蒼奈の砲塔が止まった。

 

朱奈「…………」

 

蒼奈「…………」

 

そのわずかな停止を――

 

爆豪の爆破が割った。

 

ドォン!!

 

その瞬間。

 

壁が大きく崩れ、冷気が吹き抜ける。

 

朱奈「――!」

 

切島「来い、朱奈! 爆豪!」

 

朱奈「切島君!」

 

切島の姿が見えた。

 

その後ろには、緑谷と飯田もいる。

 

マグネ「ちょ、遠距離! そこの子、早く!」

 

緑谷「朱奈さん! こっちへ!」

 

朱奈「っ!」

 

爆豪「チッ……!」

 

朱奈は咄嗟に爆豪の手を掴んだ。

 

爆豪「……!」

 

爆豪が全力で飛び上がる。

 

緑谷「今だ!」

 

飯田「掴まれ!」

 

切島「任せろ!」

 

三人が二人を受け止め、そのまま戦闘区域から離脱しようとする。

 

だが――

 

蒼奈「……お姉様!」

 

艤装が再び動く。

 

蒼奈「返して……!」

 

砲塔が二人へ向く。

 

朱奈「――艦載機!」

 

残っていた艦載機が一斉に飛び出す。

 

ババババッ!!

 

数機が朱奈たちの前に割り込み、盾となる。

 

爆発が夜空を覆った。

 

朱奈「ぐっ……!」

 

艦載機が次々と撃墜されていく。

 

それでも――

 

最後の一機が、朱奈たちの前に残った。

 

蒼奈「…………」

 

蒼奈の砲塔が止まる。

 

その一瞬。

 

緑谷「今だ!」

 

飯田「行くぞ!」

 

切島「うおおおお!!」

 

爆豪「オラァァァッ!!」

 

四人の身体が、戦闘区域から一気に離れていく。

 

蒼奈「…………」

 

伸ばした手は――

 

届かなかった。

 

蒼奈「……お姉様」

 

小さく呟く。

 

オール・フォー・ワン「…………」

 

その様子を見ていた男は、静かに目を細める。

 

オール・フォー・ワン「……ああ」

 

「最悪だ」

 

蒼奈「お父様……?」

 

オール・フォー・ワン「ピースを二つも奪われるとはね」

 

爆豪。

 

そして――

 

朱奈。

 

オール・フォー・ワン「……まったく」

 

その声には、先ほどまでの余裕がなかった。

 

オール・フォー・ワン「蒼奈」

 

蒼奈「お父――」

 

パァンッ!

 

乾いた音が響いた。

 

蒼奈「――っ!」

 

頬を押さえ、その場で固まる。

 

オール・フォー・ワン「何をしているのかな?」

 

低い声。

 

先ほどまでの優しげな声音とは違う。

 

オール・フォー・ワン「……蒼奈」

 

一拍。

 

オール・フォー・ワン「いや――08」

 

蒼奈「っ!?」

 

その呼び方を聞いた瞬間。

 

蒼奈の顔から血の気が引いた。

 

蒼奈「ご、ごめんなさい……!」

 

オール・フォー・ワン「…………」

 

蒼奈「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 

声が震える。

 

蒼奈「その名前で……お願いします……」

 

両手を握り締める。

 

蒼奈「蒼奈と……蒼奈と呼んでください……!」

 

オール・フォー・ワン「…………」

 

蒼奈「私……ちゃんと役に立ちますから……」

 

「次は失敗しません」

 

「お姉様も……必ず取り戻しますから……」

 

オール・フォー・ワン「…………」

 

蒼奈「だから……」

 

俯く。

 

蒼奈「08って呼ばないで……」

 

オール・フォー・ワン「なら、今度から弔の刃となれ……蒼奈」

 

蒼奈「…………はい」

 

その直後。

 

オール・フォー・ワンが手を掲げる。

 

オール・フォー・ワン「――少し眠っていてもらおうか」

 

バチッ――!

 

遠くで倒れていたマグネの個性が、強制的に発動する。

 

黒い転移空間が、ヴィラン連合を次々と飲み込んでいく。

 

死柄木「先生……?」

 

トゥワイス「おい! 何して――!」

 

荼毘「……何を考えてる」

 

オール・フォー・ワン「君達にはまだ早い舞台だよ」

 

最後に死柄木が消える。

 

死柄木「……蒼奈」

 

蒼奈「…………」

 

そして。

 

その場に残ったのは、オール・フォー・ワンと蒼奈だけだった。

 

オール・フォー・ワン「さて」

 

蒼奈「?」

 

オール・フォー・ワン「その前に、一つ片付けておこう」

 

蒼奈「何をですか?」

 

オール・フォー・ワン「真実を、世間に公表する」

 

蒼奈「…………!」

 

オール・フォー・ワン「手伝ってくれるね?」

 

蒼奈「は、はい……お父様♪」

 

その直後。

 

バシャッ!

 

突然、水が降り注いだ。

 

蒼奈「えっ……?」

 

濡れた髪が頬に張り付く。

 

そして。

 

いつも入れていた青いメッシュが落ち、髪の赤い部分が露わになった。

 

蒼奈「…………」

 

そこに立っていたのは――

 

まるで朱奈そのものだった。

 

オール・フォー・ワン「これでいい」

 

蒼奈「…………」

 

蒼奈は自分の髪に触れる。

 

蒼奈「……お姉様と、本当に同じ」

 

オール・フォー・ワン「そうだね」

 

そして男は、周囲に強固なバリアを展開する。

 

オールマイト「オール・フォー・ワン!!」

 

オール・フォー・ワン「さて……」

 

周囲の大型モニター。

 

テレビ。

 

街頭ビジョン。

 

すべてが一斉に切り替わった。

 

日本中の画面に、オール・フォー・ワンの姿が映し出される。

 

オール・フォー・ワン「やあ、諸君」

 

「私は――そうだね」

 

不気味な笑み。

 

オール・フォー・ワン「悪の帝王、オール・フォー・ワンだ」

 

「もうここで退場する身ではあるが――」

 

蒼奈の肩に手を置く。

 

オール・フォー・ワン「一つ、君達に素晴らしい情報を伝えよう」

 

蒼奈「…………」

 

オール・フォー・ワン「この少女は――私の娘だ」

 

街中に衝撃が走る。

 

そして。

 

オール・フォー・ワン「そして、この娘と同じ顔を持つ少女」

 

「オールマイトの義理の娘――」

 

一拍。

 

オール・フォー・ワン「八木朱奈」

 

オールマイト「やめろ!!」

 

オール・フォー・ワン「彼女には、かつて別の名前があった」

 

蒼奈「…………」

 

オール・フォー・ワン「――07」

 

オールマイト「やめろォォォ!!」

 

オールマイトがバリアへ突進する。

 

拳が叩き込まれる。

 

ドォン!!

 

しかし――

 

ヒビ一つ入らない。

 

オール・フォー・ワン「無駄だよ」

 

オールマイト「彼女を……朱奈君を巻き込むな!」

 

オール・フォー・ワン「巻き込む?」

 

小さく笑う。

 

オール・フォー・ワン「違う」

 

「これは彼女自身の過去だ」

 

画面に、機密資料を思わせる映像が次々と映し出される。

 

オール・フォー・ワン「八木朱奈は、かつて海外の複数組織によって兵器として利用されていた」

 

「コードネーム――07」

 

「対艦・対地戦闘を目的として調整された、生体兵器」

 

オールマイト「…………!」

 

オール・フォー・ワン「彼女が活動していた期間は、およそ五年」

 

「軍事施設」

 

「研究施設」

 

「個性関連施設」

 

そして。

 

オール・フォー・ワン「その結果として、多数の犠牲者が生まれた」

 

オールマイト「…………」

 

オール・フォー・ワン「確認されている死者は――1500人以上」

 

オールマイト「違う……!」

 

オール・フォー・ワン「損害額は国家予算規模」

 

オールマイト「違うんだ!!」

 

オール・フォー・ワン「本来なら――」

 

一瞬、間を置く。

 

オール・フォー・ワン「彼女は生涯、タルタロスから出られない存在だった」

 

オールマイト「っ!!」

 

――そして。

 

場面は、朱奈へ移る。

 

朱奈Side――「これが、私」

 

オール・フォー・ワンの声が、街中に響き続けている。

 

オール・フォー・ワン「彼女は生涯、タルタロスから出られない存在だった」

 

その瞬間。

 

周囲の視線が、私に集まった。

 

緑谷「そんな……朱奈さんが……」

 

飯田「ヴィラン……?」

 

その言葉が、胸に突き刺さった。

 

朱奈「…………」

 

違う。

 

そう言いたかった。

 

私は雄英の生徒だ。

 

私はヒーローを目指している。

 

おじ様に救ってもらった。

 

相澤先生に叱られて。

 

八百万さん達と笑って。

 

緑谷君達と一緒に戦って。

 

……天喰先輩とも。

 

大切な時間を過ごしてきた。

 

だから。

 

私はもう――

 

朱奈「…………」

 

……いや。

 

違う。

 

全部、嘘だったのか?

 

あの頃の私は確かに――

 

07だった。

 

誰かに命令されれば戦った。

 

何も考えず。

 

何も疑わず。

 

ただ、与えられた任務を遂行するために。

 

それが私だった。

 

オール・フォー・ワン「彼女の罪は消えない」

 

朱奈「…………」

 

分かっている。

 

オール・フォー・ワン「彼女が何人を傷つけたのか。何を壊したのか。その全てを――」

 

朱奈「…………やめて」

 

小さな声。

 

誰にも届かない。

 

私は拳を握る。

 

その時だった。

 

ゴッ。

 

何かが額に当たった。

 

朱奈「…………」

 

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 

額に触れる。

 

指先に赤いものが付く。

 

血。

 

周囲を見る。

 

そこには、怯えた人。

 

怒った人。

 

そして――私を恐れる人。

 

「……化け物」

 

「ヴィランだ……」

 

「なんで雄英に……」

 

「オールマイトが育ててたって……」

 

声が遠くなる。

 

緑谷「朱奈さん……!」

 

飯田「待ってくれ! 彼女は――」

 

だけど。

 

もう聞こえない。

 

朱奈「…………」

 

ああ。

 

そうだ。

 

これが私だ。

 

忘れたつもりだった。

 

過去を捨てたつもりだった。

 

でも。

 

消したわけじゃない。

 

私の中にずっと残っていた。

 

07。

 

生体兵器。

 

破壊者。

 

ヴィラン。

 

朱奈「……そう、だった」

 

唇が震える。

 

朱奈「これが……私なんだ」

 

一歩。

 

後ろへ下がる。

 

緑谷「違う!」

 

朱奈「…………」

 

緑谷「違うよ、朱奈さん!」

 

彼が駆け寄ろうとする。

 

しかし――

 

朱奈「緑谷君……ごめんね」

 

そう呟くと、私は艤装を展開する。

 

航空機が私の身体を受け止める。

 

エンジンが唸る。

 

緑谷「朱奈さん!」

 

朱奈「…………」

 

私は振り返らなかった。

 

そのまま航空機を加速させ――

 

その場を去った。

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