成実・政直学園は科学技術の実験校として、また特殊な"清掃"をする事で世に名を知れ渡らせていた。

銃声が轟き、狂声がこだまし、ぶつかり合う"清掃"で少年少女はなにをどうするのかっ?


*この短編は小説家になろうにも投稿しました。

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銃声の響く清掃で生徒たちのなにがどうなるっ?

 

 

《キーン・コーン・カーン・コーン…》

「はいっ。これで今日の授業は終わり〜」

 

 

音、学校のチャイムが鳴り響くのは"成実・政直学園"という表札を正門に掲げる学園だ。

正門から続く道には夏の青葉が生い茂り、三棟の校舎のうち手前側と繋がっている。

 

 

「今日もお疲れ〜」

 

 

その四階建の校舎の三階、"関東三年"の札の下がる教室から一人の女性の声が、響く。

 

 

「はい、じゃあこれから"清掃"を始めま〜す」

 

 

教室の中、生徒たちは教卓の上の女を見ていた。

メガネをかけ、短めの髪を窓からの夏風に揺らす女性は胸に《教員 柴咲(しばさき) 織奈(おりな)》というネームプレートを付けている。

 

その眼前の生徒たちは皆朱色の制服に身を包み、個々の違いはありはするもの、決まって付けているものがある。

手甲にも似た機構の塊を右、もしくは左手に付けている。

これは機械甲といってこの学園で、特に"清掃"の時に役立つ最先端技術の結晶である。

 

教師は、和やかに笑い言った。

 

 

「今から五分後に関西軍と戦うからね〜。みんな頑張るのよ〜」

「了解」

「へ〜い」

「ういっす」

 

 

違いはあるけども全員が頷く。

それを見て一人の少年が前に出る。

少年は朱色の制服をラフに着こなし、サングラスをかけ、胸に《A.部隊 隊長 佐々木(ささき) 純也(じゅんや)》という黒字に白文字の名札を付けている。

彼は己の机をバン、と叩き言った。

 

 

「いいかテメェら!前回勝ったからと言って気ィ抜くんじゃねぇぞ⁉」

「じゃあ、今日の作戦を説明しよう」

 

 

そう言い右側の席から立ったのは胸に《作戦参謀 福島(ふくしま)幸明(ゆきあき)》という名札を付けているメガネの少年。

 

これを見て、と彼は右の機械甲から光を放ちそれを黒板へ投影する。

投影された画像には《七月第2回清掃、戦略図》と書いてある。

 

…つうかこの学園、絶対ぇおかしいよな、と純也は思う。

なんたってこの学園の清掃、清掃っつう名目のクラス対抗戦争だもんな。

 

この学校、成実・政直学園は学年は組ではなく"東北"、"関東"、"中部"、"関西"、"中国・四国"、"九州"の六種類の出身で分けられる。

そして"清掃"の時間になると月に幾度か、対決することになる。

基本ルールは単純明快。

"相手の陣のゴミをより多く掃除した方が勝ち"。

黒板の傍にあるプリントには詳しく規則が書いてある。

 

 

【成美・政直学園清掃規則】

 

1.清掃は月に2または3回行うこと。

 

2.各地方はそれぞれ"清掃長"、各"部隊長"、"作戦参謀"を選出すること。

 

3.清掃に関係ないものの使用は禁止する。

 

4.勝敗は"掃いた埃の総量"、"雑巾をかけた面積"の和で決める。

 

5.生徒はA.B.C.のいずれかの部隊か、もしくは無所属に必ず属する事。

 

 

2.の部隊とは突迎撃のA(attack)、防護のB(block)、援護工作のC(cover)の三つで無所属というのは臨機応変に役割が変わるもの、もしくは戦闘に参加しないものをさす。

 

 

そんな事を考えていると図に線と線が正面衝突する様が描かれる。

 

 

「ーー今日は真っ向勝負正面突破しようと思う」

「おいおい、コーメイ。それでも作戦参謀か?作戦らしいもの考えろよぅ」

『バカは黙ってろ』

 

 

誰かが言った。

 

 

「おいおい、ひでぇな」

 

 

苦笑しながら頭を掻くのは真ん中列の一番奥、《清掃長 真田(さなだ) ムサシ》という黒字に金文字で書かれた名札をしている長髪の少年だった。

 

 

「コーメイじゃない、幸明。これはこの前の戦いから学んだことだよ。関西軍はどちらかというと力押しに弱いことがわかったからこの作戦だよ。サボってないからね⁉……さて、あと一分で掃除開始。みんな準備はいい?」

 

 

メガネがポージングしながら聞くと生徒たちは各々の背や腰、あるいはカバンからあるものを取り出す。

あるものは箒を。

あるものは雑巾を。

あるものははたきを。

だがそれは金属製のパーツによって武器と化されたものだ。

 

 

 

****

 

 

 

この学園の廊下、及び教室内の壁天井は清掃の時間になると防護障壁が発生して破損が起こらないようにされている。

その廊下の中心付近で、

 

 

『突撃じゃあぁぁああ!』

『いけぇ、関東!』

『押し返すんや、関西!』

 

 

朱の制服の関東軍と蒼の制服の関西軍が激突する。

衝突面では雑巾を改造し2m四方程の大きさの盾が押しては押し返されを続けている。

 

 

「A.部隊、狙撃班、構え!」

 

 

そこから少し離れたところに純也を中心とした銃系狙撃型箒を構えた関東軍がいる。

 

 

「…てぇっ!」

 

 

バババン!

 

 

『ぐぁぁあ!』

『おいっ。大丈夫か⁉』

『俺は…もう……』

 

 

今撃ったのは麻酔弾。

清掃に使用する洗剤として解釈できるっつうから大抵は弾丸には麻酔弾を使う。

 

…さて…いつまでもつか…?

 

 

「あ、佐々木君。箒新調した?」

 

 

と、こちらの思考をぶった切るように隣から声をかけてくるのは《A.部隊 狙撃手 新堂(しんどう) 真奈美(まなみ)》という長めの茶髪の女子だ。

 

 

その問に俺は頷きで返答とした。

 

最近は箒もブランド物もできてまるで銃のように扱われている。

確かに俺は最近箒を新調したがそれを気づくとは…

 

 

「さすが、銃系箒専門店の看板娘、といったとこか?」

「お褒めの言葉、ありがと 。あ、それ」

『ぎゃぁああああ!』

『よ、吉川ぁ!』

「……なんで麻酔弾であんなに叫ぶかなぁ…」

「楽しんでだ、ろ!」

『みぎゃぁああ!』

 

 

 

****

 

 

 

「さて、前線は佐々木君に任せるとして…僕はどうしようかな」

 

 

…このまま引き分けにするには惜しいしな…

 

何と無く振り返って見ると《C.部隊 隊長 川瀬(かわせ) 丹羽(にわ)》という名札を胸にし、青い帽子を被ってる小柄な少女がいる。

 

 

「わっ⁉か、川瀬さん、で、どうだった?」

「やや、関西軍が押しています。デスがなんとか佐々木君達が食い止めている、いうところデス」

「う、うん、ありがとう」

 

 

礼をいうと川瀬さんは再び譲歩収集のため陰に消える。

…ホント、どーなってんだろう、あれ。

いつみても消えているようにしか見えないのは僕の目がおかしいんだろうか。

 

 

「コーメイ。俺の出番は?」

「コーメイじゃないから。幸明だから。君は待機してて、白澤君」

 

 

右横で身体を揺らしながら軽い苛立ちを見せる大きなモップを背負った《白澤(はくたく) 翔太(しょうた)》という長身が言う。

 

 

「あんなB.部隊、俺のモップで一掃すりゃいいだろ?」

「君のモップは今使うと仲間を巻き込む危険性があるからね」

「コーメイ」

「わっ!こ、コーメイじゃないから。幸明だから。で、なにかあったの川瀬さん」

 

 

白澤の説得を終え前に向き直るとこちらの眼前にいつの間にか川瀬さんがいた。

恐ろしい、と素直に思う。

なんたって目の前にいきなり現れるのだから。

 

 

「それがデスね?真田君がどーもいないみたいなんデスよ」

「くそっ。またか、あのバカッ!」

 

 

本来、清掃長とは地方で一番の綺麗好きや、全体の統括のできる人間の役職だが、真田ムサシという男は、「え?なになに?面白そうじゃね?俺やるよ!他にいねぇよな⁉じゃあ決定!」という勢いと独断で決まってしまったため、この学校史初の例外だ。

 

 

「…しょうがない。狩野さん、いるかい?」

「なにかしら?文系メガネ」

 

 

呼ぶと陣の奥からロングヘアーの少女がでてくる。

名札に《狩野(かのう)真紀(まき)》と書かれた女は気だるそうに歩み寄り、

 

 

「今から白澤君と一緒にムサシを引き戻してきて欲しいんだ」

「え?マジ?っしゃあ!戦場だ!」

「ただし五分以内。五分たったら全軍を一担下がらせるから」

「オレがドカンとやってわけか」

「そういうこと。ーー川瀬さんお願いがあるんだけど。えっと教室のーー」

「了解デス」

 

 

前を向くとそこには声の響きだけが残っていた。

…行動が早いのはいけど、たまには最後まで話を聞いにくれないかなぁ。

以前も大事な部分を聞かずに駆け回り大変なことになったっけ?

まぁ、今はいいか。

 

 

「じゃあ狩野さん、白澤君。バカをよろしく」

 

 

彼女は腕を組みながらため息交じりに、

 

 

「了解よ」

 

 

そう言って教室を出て行った。

 

 

 

****

 

 

 

戦場は中盤戦に入っていた。

盾の押し合いと共にはたきを加工したメイスで金属音が鳴り響くなかで一つの声が透くように響く。

 

 

「イヤッホォォオオオ!祭りだ、祭り!あ、ワッショイ、ワッショイ!」

「うるせえんだよバカ野郎!」

 

 

狙撃隊の横でムサシが踊り回っていた。

それを一瞥した純也はサングラスを上げ、

 

 

「大体、テメーがなんで此処にいるんだ!」

「いや、俺騒がしいのとか好きだし?」

 

 

ムサシは疑問系ウゼェ、と呟く純也は無視する。

そして後ろに控えるみんなに顔を向かわせながら背中の箒に手を伸ばす。

そして微笑んで、

 

 

「さて、俺も一丁いってくるわ」

「ちょっとまちなさい!」

「ぐのあっ!」

 

 

真紀にダッシュ殴りされて吹っ飛んだ。

…い、痛ぇ…全力で殴られた……。

 

 

「横座りしないの気持ち悪い…アンタはさっさと本陣戻りなさい」

「やだい!クフッ」

 

 

また殴られた。

しかも同じ場所……あれ?これかなり腫れてない?

 

 

「いいからいくわよ。それとグラサンとその他。今から白澤がここにくるから退避しないとマズイわよ?」

「え?マジ?やばくね?それやばくげるばはっ!」

 

 

今度は腹ぁ殴られた。

このマア…実は仲間の皮を被った暗殺者か?

 

 

「お待たせぇ!」

 

 

噂をすればなんとやらだろう。

カードリッジ付きの巨大モップを背負った細身の長身がくる。

 

 

「白澤、早くしなさいよ」

「はいはいっと」

 

 

長身歩く動きではモップを抜き、それを上段から一気に振り下ろして、

 

 

「高圧水掃除!」

 

 

すげー勢いでモップの先端からはカードリッジに蓄積された水が一気に溢れる。

溢れるってなんかエロくね?

まあいいか。

扇形に広がった水は瞬く間に廊下に広がりその水圧に敵の陣形が崩れる。

 

 

「あぁはぁぁああああ!流れるぅぅうう!」

 

 

そしてついでに俺の体も流れる……っておい!

 

 

「助けげぶぁあ!」

 

 

 

****

 

 

 

激流と化した廊下を朱色の雑巾掛け隊が滑走しそのうちの一人がムサシに突撃するのを純也は見た。

腹に肉弾を喰らったバカは空中で錐揉み回転しながら窓の外へ…って、

 

 

「お、おい!バカ長が窓から落ちたぞ⁉誰かとって来い!」

『は、はい!』

 

 

畜生…!

戦力が一人減った…!

どうしてくれる、あのバカ…!

 

 

「ここは……通さぬ…!」

『ぐわぁあ!』

 

 

敵の通り抜け用としたら雑巾掛け隊と共に前線に出ていた白澤は敵の増援部隊の1人、身長は二m程のゴツイ男に弾き飛ばされた。

 

 

「小生がいる限り此処は通させぬぞ、関東」

「やっぱでけえなぁ…関西軍、B.部隊 隊長 里郷(りごう) 弥彦(やひと)…」

「小生のチカラ…今一度知るがいい…!」

 

 

そういうと里郷は背に担いでいた大盾型雑巾を取り出しシールドアタックの構えを取る。

そこへ、

 

 

「ぬぉぉおおお⁉あっぶねぇ…」

 

 

どういう物理運動をしたのかわからないがバカが窓から入ってきた。

 

 

「ぬぅ…!」

「へ?うわっ!」

 

 

紙一重でシールドアタックを除けたバカは背中から剣系長剣型箒を抜き、構えて見せる。

それをみた武人は、

 

 

「…!お主…中々の使い手だな…⁉」

「違う!」

 

 

即否定され目を丸くする。

それを見たムサシは180°ターンを決め、全力で走り出す。

 

 

「じゃ、後はヨロシク、みんな!」

 

……………

…………

………

……

 

ドウン

 

 

『佐々木隊長⁉』

「どうした?」

『ど、どうしたって!今、清掃長を撃ちましたよね⁉』

「ゴム弾だ。それに俺は戦いの邪魔になる自立移動系人型能無し馬鹿障害物を撤去しただけだ…さて、時間がねぇ。総員構え!」

「無駄だ…!関西B.部隊、防御!」

「撃ーー」

《キーン・コーン・カーン・コーン…》

「は〜い、清掃終了」

 

 

引き金を引く指は疾風の如く現れた柴咲に止められた。

 

 

「今日の清掃は終わりよ。

じゃあ結果発表。今回の清掃の結果は…………………関東軍の勝ちよ」

『えっ?ちょ、先生!引き分けじゃないんですか⁉』

 

 

盾の向こう側からそんな声が聞こえる。

すると、天井から影が落ちて来て、口を開いた。

 

 

「ふっふっふっ…。それは私が天井から侵入して微量ではありますが水拭きをしたのデス」

 

 

あっはっはっは、と高笑いする青い帽子の少女、川瀬が身体中すすまみれになっているところを見るとかなり苦労したようだ。

 

 

「と、いうことで関西は関東のいうことを一ヶ月間、聞くこと」

「「「ちっくしょぉぉぉおおあああ!」」」

「「「ぃよっしゃぁああああああ!」」」

 

 

そう、この学校の清掃がこんなにも真剣に取り組まれるのにはそれなりの理由がある。

実はこの学園は何かを頑張った地方は頑張らなかった地方に命令できる特権を得られるのだ。

この権利を得られるのは体育祭などの行事を除くと清掃だけなのである。

 

 

「じゃ、これから各教室で帰学活するから。関西君は事後処理しっかりてね」

 

 

これにて今月二回目の清掃は幕を閉じた。

ちなみに事後処理とは負けた地方が清掃中に取れなかったゴミや塵を取るという一般的な"清掃"のことである。

 

 

 

****

 

 

 

朱色の制服が意気揚々と、蒼色の制服が意気消沈と日差しと青葉の影が差し込む教室へ武装をしまいながらを背負い、歩みを進めるなか、

 

 

「い、いてぇ…だ、誰か、助けてくれ……」

 

 

 

一人のバカは背中にゴム弾の痣を作りながら倒れているのには誰もか一瞥、その人混みのなかから狩野が腕を組み変えながら歩み寄り、

 

 

「ムサシ……起きなさい!」

「げぶふぅつ⁉」

 

 

つま先で腹を蹴った。

その様子をみていたものは、

 

 

「「「………」」」

 

 

再び一瞥してまた、歩き出す。

 

 

「お、おめえら。以外とひでえな…!」

「うるさいわね。帰るわよ」

「な、なあ真紀…手ェかしてくんね?」

「いやよ。さあ立ち上がってさっさと教室へ行きましょう。清掃終了したら清掃長が締めくくるんだから」

「今更だけど、俺、清掃長になったの少しだけ後悔してるわ…」

 

 



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