スペードとダークアイ、恋愛手前のなんということはない日常。


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第1話

 チーズケーキをテーブルに置くとスペードさまは「ありがとう」と手を伸ばす。毎日お茶や食事を運んでもその度にお礼は欠かさない。

 フォークを持つ指は細く長く、手袋をしていてもその美しさを感じられる。いえ、むしろ手袋がそれを引き立てていた。

 続いてティーカップを持ち上げ口をつける。紅茶の湯気がスペードさまの長いまつ毛にかかる。

 整った横顔。見た目だけが魅力ではないけど、その姿形につい目を奪われてしまう。

 スペードさまの視線とぶつかって心臓が跳ねた。

「……ケーキに添えてあるのはレモンのママレードです」

 動揺をマスクの下に隠し、なんでもないようにほほ笑む。

「レモンもママレードになるのかい?」

「はい、この辺はレモンの産地だそうです。酸味も強くなくてそのままでも食べられそうでした」

 その涼しげな瞳に何度見つめられても慣れることはなく、鼓動は高まる。

「2杯目はレモンティーにしましょうか。新鮮なのでひと味違うと思います」

 他愛ない会話を続けて心を落ち着ける。

 

 わたしは何者でもない、ただの助手。

 こんなやましい気持ちはそっと心の奥にしまい込む。

 

  ***

 

 ワゴンで紅茶のおかわりを淹れるダークアイを見つめる。

 長身ですらりと伸びた手足、スーツで体の線を隠していてもそのしなやかな所作に本当の姿を思い出させる。

 動作を止め顔を上げようとしたので慌てて視線をケーキに戻した。

「どうぞ」

「ありがとう」

 立ち上る湯気を見つめ、呼吸を整える。レモンが浮かんだ紅茶を軽くかき混ぜると色は薄い琥珀色になる。レモンを取り出してカップに口を付ける。ダークアイが淹れた紅茶はいつも落ち着きをくれた。

「うん、たしかに香りもいいし美味しいね」

「よかったです」

「もちろん、ダークアイの葉のチョイスと淹れ方がいいからだけど」

「あ、ありがとうございます」

 不意打ちになってしまったせいか、少し動揺したように返事する。

 何度ほめても初々しい態度に笑みがこぼれそうになる。マスクをしていても表情まで見えるようで心が温かくなった。

 

「失礼します」

 空になった皿を下げ、ダークアイはワゴンと共に部屋を去る。

 それを見送ってカップに口を付ける、3杯目は紅茶ではなくホットレモネード。爽やかな酸味と甘さを味わい目を閉じる。まぶたの裏にはダークアイの姿が浮かんだ。

 素顔を隠して仕えてくれるダークアイ、その中身が誰でどんな人物であるかを知っている。けれどあくまで接するのは怪盗と助手、その立場を間違えてはいけない。

 

 今はまだ気付かない振りをする。彼女がそれを望む限りは。




 131スペアイの日用のネタ。

 始めの雑談は「ハチさんからもらったみかんママレード」だったけど
この時点でそこまで仲良くなってないな、と気づいたのでレモンに変更。
 なので雑談は特に意味ないけど、レモンの花言葉が「誠実な愛」「思慮分別」だそうで、妙に意図がありそうになってしまった。
まあ花じゃないし、レモンの実は「熱情」

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