全身をじっくり見ているとその外観に何か引っかかるものを感じる。
…こいつは極彩鳥ってやつじゃないのか?
ギルドの書庫にそういった記録があったように思う。目撃情報がいくつかと狩猟の記録もあったが色が変化するという記録はなかった。
地味な見た目だったから最初はそう思わなかったがこれほどあからさまに変化すれば嫌でも気がつく。
この虹色の羽根は相当な高値が付くという話。目の前のコイツが金塊に見えてきたな。
だが実際のコイツは金塊じゃなくて強力な魔物だ。欲を掻いて攻撃をためらっていては狩られるのはこちらになりかねない。
金銭欲を頭の隅に追いやって目の前の相手に集中する。
弱体化したなんて事はないだろう。先ほどより過酷な戦いになるはず。綺麗に狩ろうなんて甘い見通しは捨てよう。
極彩鳥は再び威嚇のポーズを取ってこちらに警告の魔力波を放ってくる。こちらも威嚇を返すがキラキラと虹色の光彩を放つ威容が目に映るとどうにも戦う気が萎えてきてしまう。
美しさに魅了されているのか金に目が眩んでいるのか…?
そんな俺のことは知ったこっちゃないとばかりにすでに相手は魔力を高めていて、いつでも魔術を打てる体勢を整えている。
…空術か、それも規模が大きい
魔力の大きさから警戒が高まる。魔力視を強化して観察を始めるが違和感に襲われた。
兆候が無いだと?
魔力視で魔力の流れがほとんど捉えられない。だが、魔術の準備はもう整っているはず。
空術じゃない!?
魔力視を切って全身の魔力感覚を研ぎ澄まして全体の流れを捉えようとする。
これは…土か!
気づいたときには周囲の土が俺を覆うように盛り上がっていく。正面だけを除いて上まで覆うように洞窟状に形成されていった。その土の中では木の根が蠢いて壁を作るように絡み合いながら俺を囲う。
木との複合!?
それを認識したときには極彩鳥は俺の眼前に迫りつつあった。先ほどより速い動きで接近してきている。
―操土術式、
囲まれて動けない俺にスピードの乗った蹴りが放たれる。鋭い足爪が胸元めがけ唸りを上げて迫ってくる。
それを刀を交差させて受け止めるその瞬間…
―土耕陥凹
刀が蹴りを受け止めると同時に相手の軸足周辺の土を陥没させた。コイツの魔術支配を避けて周辺の土を大きく抉ってやるとバランスが崩壊して足場が崩れる。
ぐっ…
最後の一押しを失った蹴りは精彩を欠く。それでもなかなかの威力だった。
ガードしたものの背中を壁に叩きつけられて衝撃に襲われる。だが、押しつけられながらも負けじと押し返す。この場を覆す魔術を練り上げていく。
―圧縮解放・弾空術式、
…ググッ…
足を踏ん張ると背中側に空間を作り出して魔術を実行する準備を整える。相手に隙を与えないように即、発動させた。
―空撃砲
ドンッと爆発音が響き渡る。
極彩鳥が作り出した土と木のドームを爆散させながら砲弾のように飛び出していく。
姿勢を崩した相手をそのままの形で押しながら飛ぶ。
極彩鳥は俺の刀に足の裏を、爆風に全身を押されて後ろ向きに飛ばされていく。
飛ぶ勢いが落ちてきたとき、相手は空中で羽ばたくように翼を動かしつつ俺を足でけり飛ばそうとしてくる。体勢を整え足から着地をしようとするつもりだろう。
させねぇよ!
中途半端な体勢になった瞬間に空射加速で逆に蹴りをお見舞いしてやると地面に背中から叩きつける事に成功する。
その好機にたたみかけるように馬乗りになる形で刀を逆手に持ち、胸元目掛けて突き出した。
絶好のタイミングだ。致命的な攻撃になると思っていた。しかし…
切っ先が刺さる直前、極彩鳥の身体に旋風が纏わり付いていき俺の身体がふわっと浮かされていく。
引き続き空術も使えることは予想していたが性能が上がっている。色の変化と共にフィジカルも魔術もパワーアップしているようだ。
―空射加速
前進してなおも攻撃を仕掛けるという考えもあった。だが、危険を感じて後退する方向に加速して距離を取る。
なんだ…
魔力視で確認すると周囲に空術を展開しているのが見える。かなり密度の濃い術式だ。ずいぶんと構成が速い。色の変化による結果なのか?
変化前では使えないような術式かも知れない。
警戒してこちらからは仕掛けられないでいる。向こうもカウンターを狙って発動させたいのか待ちの姿勢を貫いている。
じりじりとした時間が流れていく。
動かねぇなら遠距離から仕掛けるか…?
ファジル・ガルゼファの使っていた伸びる空気剣。あれを真似て開発した魔術を試してみよう。
―空刃術式、遠空牙
振り下ろした刀の切っ先から刃状の空気の固まりが複雑な軌道を描いて飛んでいく。それが極彩鳥の張る旋風の壁にぶち当たるとパンッと空気が爆ぜるような音が鳴る。
……パンッ……パンッ……パンッ……
小気味のいい音がリズム良く鳴っていく。特にダメージはないだろうがかわまずに刀を振って風刃を叩きつけていった。
おらおらぁ! どうしたどうしたぁ! なんとかやってみろよっ!
挑発も込めていろいろな角度から叩き込む。だが、じっと耐えて動き出す様子はなかった。
そろそろ次の手を考えようかと思ったその時、後ろから落ち葉が相手に向かって飛んでいくのが視界の端に捉えられる。
引き寄せられている!?
いつの間にか立ち位置がわずかだが相手側に引き寄せられていた。
マズいっ…
危険感に突き動かされ術を解除し距離を取ろうとする。だが、直前に極彩鳥を中心に空気が渦巻いて行って竜巻が発生する。
竜巻に風刃が巻き取られて刀が飛ばされそうになる。それを防ぐためにぐっと握りを強めると足下が引きずられた。
直ぐさま術を解除してその場に留まるが竜巻はその範囲を広げ、俺はすでに効果範囲に捉えられている。
強力な風に息が詰まりそうになるがずっと息は止めていられる。魔力で足場を固めていれば飛ばされることもない。いくつもの小石や木の枝が高速で打ち付けられるが防御を固めていれば逆に粉砕してやってダメージはなかった。
この程度なのか?
消費される魔力の割に効果が薄いような気がする。
まだ何かある…
警戒して出方をうかがっていると風の中にキラッと光るものをいくつも捉える。
何だ?
そう思ったのも束の間、身体の表面を何かが撫でるように通り過ぎる。
―ザシュッ…
鎖帷子すら切り裂いて薄く体表を切られた。血が流れ出す。
―ザシュッ…、ザンッ…、ザッ…、ザシュッ…
それを皮切りに次々と斬撃が飛んできて身体を切り刻んできた。防御を固めた魔鉄すら切り裂かれる。鋭い切れ味だ。
痛っ…
顔が切られる。けっこう深い。
しかし、俺の目は攻撃を捉えていた。
斬撃がくる前、風の中に煌めきを見た。なにか鋭く硬い物体が飛んできている。そう看破し刀を鞘に仕舞う。
精神を集中し―
―そこっ!
飛来する気配を人差し指と中指で挟み込むように捉える。そこには虹色に光る羽根があった。
非常に硬くて重い。未だに魔力の供給を受けて制御されているのだろう、押さえていても動き出そうとしている。
このままでは切られ続けるだけだ…
捉えている羽根を風の中に流しつつ竜巻の中から脱出を試みる。
―闘気術、兎脚
ゴァッ!
旋風を切り裂くように飛び出す。脱出は成功した。そして、反撃の魔術を構築しようとする。だが…
むっ…
俺は傷口を逆に広げてブシュッと出血をさせた。
あの羽根には毒が含まれていたらしい。身体を痺れさせるような毒だった。コアで身体の状態を常時モニターしていたから気づくことが出来た。
血を失ってしまったな…
だが相手も魔力を消耗して羽根をいくらか失った。痛み分けか。
範囲外に逃れた俺に極彩鳥は魔術の構成を変えるつもりのようだ。魔力の流れに変化があった。
俺の方も竜巻が終わる瞬間を狙って攻撃しようと魔術の用意を行っていく。
その時、竜巻の中から煌めくものが高速で飛来してきた。
―電熱術式、
“絶雷”を抜いていくつか打ち落として行くが打ち落としきれないと判断して横に跳んで躱す。
それを狙っていたのか今度は本体が飛び出してきた。大規模魔術を放った後だというのに疲労を感じさせない動き。
攻撃をもらう覚悟を決めて相打ち上等の攻撃を画策する。手首の下からワイヤーを出すと刀の柄に巻き付かせていく。
極楽鳥の渾身の蹴りが放たれる瞬間に後ろに跳ぶ。その後を追うように腹部に向けて足爪が突き刺さった。
―電華熱閃
その瞬間、極彩鳥の右側の翼が根元から切断されて宙を舞う。
後ろに吹き飛ばされる瞬間、ワイヤーを伸ばして刀を飛ばしていた。鉄術と遠心力を利用して振り抜き、切り裂いてやった。
キィィィィアァァァァァ・・・!!
切断面から血しぶきを上げ苦悶の叫びを上げている。
はっ…やってやった
ようやく食らわせた一撃に自然と笑みがこぼれる。
だが、こちらも腹部の鎖帷子が切り裂かれて腹筋を深く切られていた。血がだらだらと流れ出るが内臓まではいかれていないようだ。
左手で傷を押さえながら回復術で修復すると同時に起き上がる。ワイヤーを引いて刀を手前に寄せると飛んできた柄を握ってワイヤーを外した。
こちらの方がダメージは少ないはず。ここからたたみかける…
そう思い魔術を新たに構築し始める。
しかし、極彩鳥は妙な行動を取り始めた。止血していた傷口から血を噴き出させる。
なんだ?
警戒して見ていると流れた血が紐状になって自在に動き出し、切り飛ばされた翼に伸びていく。
まさか!?
逆再生を見ているかのように落とし物を回収して元の位置にくっつけると再生をし出す。
俺は最後までそれを確認することなく走り出している。
やらせるかっ!
回復中で上手く動かせないであろう右側に回り込み、弱っている左翼に斬撃を振るう。
しかし、相手は素早く身体を旋回させて右刃翼を振るってくる。
ギィンッ……
刃と刃が金属音を立ててぶつかるとつばぜり合いのような形になった。ダメージの影響か力は幾分衰えている。
このまま押し切ろうと思った瞬間、嘴による突きが飛んできた。
ゴウッ・・・!
頭をひねって躱すと耳元を掠める。
その隙に距離を取られると相手は左翼をかばうように半身になってこちらに刃翼を構えた。
隙がねぇな…
うかうかしていると振り出しに戻ってしまう。ここは魔術でこじ開けるしかないか…
刀から左手を離すとガススプレッダーを握る。
爆破術は獲物を痛めるからあまり使いたくなかった。目の前にいる極上の獲物ならばなおさらだ。しかし、そうも言ってられない。
自分自身の中にある
相手は空術を使えるからメタンなどの瘴気術も感知出来るはずだがどこまで読んでくるだろうか? 隠しながら徐々に構築していくか…
―大規模火瘴術式、
悟られないよう、同時に攻撃も加えて行こう。
今度は逆に左側に回り込んで切りつけていく。
相手が左に回転すると今度は逆に右に移動して負傷箇所を狙う。
相手はそれをカバーするように動き出すと、こっちは左から後ろに回り込むように動いて牽制していく。
フェイントを混ぜつつ翻弄して、折を見て切りつけていく。
―キンッ…
片手での斬撃は刃翼に軽く受け止められる。身体や尾羽に当てることもあるが羽根にすら弾かれる。
だがあくまで牽制。威力は求めていない。
しかし、それでもガススプレッダーで片手が埋まるのはもったいないな。シグンがやっていたように魔力開閉式にするか。
今度改良しておこう…
そうこうしているうちに術の準備が整う。
吹っ飛ばしてやる…
横薙ぎの斬撃を避けると滑り込むように足下に移動していく。相手の身体を爆風避けに出来る位置だ。
起爆しようとする。だがその瞬間、極彩鳥は何かを察知したのか地面を蹴って俺を飛び越えようとした。
読まれていたか…
このままでは自分も爆発に巻き込む。
ヤツは羽ばたくように空中に躍り出た。このまま範囲外に移動されれば術式は無駄になる。
しかし、突如としてその動きが止まった。蜘蛛の巣に絡め取られた蝶のように羽を広げた状態で何かに引っかかる。
強度は足りたか…
混合ガスを網のような形状にして空中にドーム状に張っていた。
猛禽類のような目の付き方だから視野はそんなに広くないと考えている。こちらが何かを仕掛けていたのは勘づいていたようだがそこまでは気がつかなかったようだ。
薄く張っていたから破られないか心配だったが不意の接触ならば止めるのも容易か。
込める魔力を上げ、網を絞って集約させると相手が状況を理解する前に起爆させる。
―燎火《りょうか》爆索網《ばくさくもう》
耳をつんざくような爆音と共に羽根をまき散らせ治りかけていた翼腕を吹き飛ばす。
爆風が極楽鳥の身体を地面に向けて吹き飛ばすと地面にいる俺目掛けて降って来た。バックパックに取り付けた刺突剣を抜き放ち、左手で
落下してくる胸元めがけて切っ先を突き出した。
―ドシュッ
血が流れだし俺の頬を伝う。だが…
…チッ、まだか
剣は相手の分厚い足の裏を貫いて止まっている。胸を貫く前に足を間に入れられて防がれた。
ここからどうする?
一瞬迷うと背中に衝撃が走った。
グッ…
背中の水槽ごと嘴で貫かれる。隙間から魔水がこぼれていく。
背中から全身に痛みが走っていく。傷口が熱い。そこまで深く刺さっていないようだがデカい嘴の先が異物感をもたらしてくる。
クソがっっ!
怒りを以て痛みを打ち消すと魔術を練り上げる。
―操鉄硬化術式、
腰と足に取り付けたワイヤーを伸ばして極彩鳥の全身に巻き付けていき嘴が背中に刺さったまま動きを封じていく。
さらに…
―電熱術式、
左手で“守継”を逆手に抜くと背中越しに相手の首に押し当てる。
これで終わりだ…
―電華熱閃
赤熱した刃を振り抜いて羽毛や皮膚、筋肉、血管、気道を断ち切っていく。
切断面から血液が噴き出し俺の後頭部や背中を濡らす。
暖かかった血が冷めても体勢は崩さない。じっくりと死んだことを確認しつつ回復をはかる。
やがて納得がいくとワイヤーを元に戻して背中に刺さった嘴を抜き、獲物を地面に横たえた。
足から刺突剣を抜いて鞘に収めると刀を二本とも仕舞う。
魔力を流して獲物を亜空間に引き込むと次はいろいろと飛び散ってしまった破片を拾い集めにかかる。
爆発で吹き飛ばした左刃翼から回収し飛び散らせた羽根を拾っていく。
質があまり良くないな…
当然、爆発によりほとんどの羽根は痛んでいる。何処かしら欠けているものが大半だ。
覚悟したとはいえ気分が萎えるのは仕方がないな…
辺り一帯を羽根を求めて探っていくときれいな状態の羽根をいくつか見つけることが出来た。
竜巻の中で飛ばしてきた羽根だろう。麻痺毒も相まって厄介なものだったがこうして利益になるとわかったならば嬉しさが勝ってくる。
人間の業の深さよ…
あらかた拾い終わると拠点に向けて引き返していく。
行きよりは速いペースで移動出来ているが途中で一泊入れて二日ほど掛けて戻ってくる。
服や装備を修繕して身体をキレイにすると拠点で一晩、身体を休めて翌日の朝に獲物を梱包して村の解体場に持って行った。
解体場の床に下ろして広げると解体士達は絶句するぐらい驚いていた。腕の振るい甲斐がある状況にさぞや喜んでいるのかと思いきや困惑している様子。
どうしてかと聞いてみると極彩鳥を解体出来るような職人はこの地方にはいないという話だった。もっと大きなギルド支部に搬送して他から職人を呼んでくるそうだ。
すでにボロボロになっているからとりあえずの勢いで解体してしまっていいような気もするが腐っても極彩鳥、貴重な資源と言うことか。
解体師の誇りもあるのだろう。羽根に毒があるしな…
後の処理はまかせて王都に戻る。
自宅に戻るとポストに手紙が入っていた。セリアからだ。読んでみると近いうちに呼びに行くからなるべく家にいて欲しいということだった。