(別視点)
従魔の研究…確かに行っていたが、それは百年以上前のことだ。今も当時とは違う方向で研究をしてはいる。だが、それは公表していないし公表出来ない類いのものだった。
過去の研究について覚えている者など今ではほとんどいないはずだ。どこからか現れた狩人が知っているようなことではない。
猿兵と自ら名付けた魔物の集団を操るために従魔と交信できる魔術を使用してはいるが、通常のものとは相当に異なる。この男が従魔術を使えるとしても、そこから辿り着くことは出来ないはずだった。
(この男… 何を何処まで知っている…… )
オリバーは男に背中を向けていて良かったと思っていた。少なくとも指摘を受けた瞬間は表情に表れていただろう。
もはや、この男が何かを掴んでいることは明白。今までの話はすべてこちらを探るためのものであると理解して、はっきり敵だと認定する。
(こいつは……危険だ )
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おっ… ちょっと反応があったな…
どうやら何かしらの琴線に触れることに成功したらしい。あのじいさんに聞いておいて正解だった。もっとも、俺の方から聞いたわけじゃなくて勝手にしゃべっていただけだが…。
しかし、サハロフの話といい、いろんなことを知っている…何者なんだろうな?
まあ、それはさておき教授のことだ。
従魔について研究してたってことは従魔術が使えるだろう。今は連れていないようだが従魔はどこかにいるはずだ。当然、従魔のことが好きに違いない。
言ってくれればいいんだけどな…
それならば、ジュジュを撫でさせてやることもやぶさかではない…
しかし、なかなか教授の方からは切り出してこない。
俺の言わんとすることが通じていないんだろうか?
いや、そんなはずはないだろう…
大学教授という立場ゆえ、生徒達の手前、自分を素直に出しにくいところもあるということか…。
数拍の間を置いてオリバー教授は俺の方に向き直る。何やら言いたげな様子だが言葉はない。やはり、自分からは言いにくいんだろうな。
ここには俺達だけで他に人はいない。遠慮することはないと思うんだがまだ殻を破れないでいる。
過去に何かあったんですかね?
素直に吐いてくれていいんですよ? 先生ぇ…
とは言え何となく埒の明かなさを感じている。ここは俺の方から歩み寄るとしよう。
やれやれ… 手がかかるなぁ(ニコニコッ )
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相手の質問に対して早く答えなければと思うのだが迂闊なことは言えない。動揺を抑えて状態を整える時間も必要だ。
とりあえずゆっくりと振り返り得体の知れない怪人と眼を合わせる。相手もこちらを敵と断定しているなら下手に避けようとしない方がいいような気がした。
覚悟を決めて事に当たる。
男は笑っていた。こちらを見下すような薄ら笑いでもなく、してやったという破顔でもない。慈愛に満ちたような微笑みのように見える。
だが、オリバーにはわかる。これは勝負師が挑みかかってくるときの挑発的な笑みだ。それに乗るわけにはいかないが、逃げるわけにもいかない。
徹底的に去なしにかかる。方針を決めるとこちらも顔に笑みを浮かべて答える。もちろん作り笑いだ。
「はい、研究してましたよ。ずいぶんと昔の話です。納得のいく成果が出なかったのでやめてしまいました 」
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「やめる? おかしいですね…やめられるようなものではないと思いますが… 」
もふもふがやめられるわけないだろう。これは嘘だな…
なにが彼の心を閉ざしているんだろうか?
解き放ってやらないと…
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(何が言いたい? )
やはり何か掴んでいるようにも感じる。しかし、追求は回りくどい。推測の域を出ていないと言うことだろうか?
こちらからも相手に探りを入れておきたいと考え、慎重に言葉を選んでいく。
「確かに研究に終わりはありませんが区切りをつけることはできます。後はそれを受けた誰かが引き継いでいけばいいと考えています 」
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研究にかこつけて本音を言わない気なんだろうか? もう少し踏み込んだ話をしていった方が良さそうだが、あまり直接的な言葉を使うとそこで話が終わりそうな気がする。
さじ加減が大事だぞ…
「本当に引き継いだんですかね? 引き継げないものもあるでしょう、例えば情熱とか野心とか…他人に任せていたんじゃ満たされないものがありますよ 」
そこで少し区切ってから続ける。オリバー教授は表面的には変わらない態度だった。
「人に見えないところでやっていたりしていませんか? 」
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(人に見えないところで、だと… )
やはり、見抜かれているような気がする。しかし、あくまで疑問という形でこちらに振っているだけだ。挑発に乗ってはいけない。
「いえいえ…そこまでの野心は私にはありませんよ。すっぱりと諦めました。今は別のところに情熱を注いでいるんです 」
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なんでそこで諦めるんだっ!! もっと熱くなれよっ!!
……なんて言ったところでより
このままでは駄目だ…
世間の目を気にしないでもいいって方向で導いてやるとするか。
「一体誰に気を使っているんです? ここには私と先生しかいませんよ……もっと正直になってもいいじゃないですか… 」
ほらほら、もっと素直になってモフりたいって言いなよ
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(誰… だと… )
それが何を示唆していると言うのか…裏にエストル郷がいることまで掴んでいるということなのか?
いや、冷静になって考えてみると、そこまではこの男でもあり得ないだろう。エストルとはほとんど接触していない。
彼が率いる組織から援助を受けている関係上、その下にいる人間とは交流がある。しかし、それも最小限だ。
可能性があるとすれば、金や物資の流れにある多少の違和感に気付いたと言うことだろうか?
それも
しかし、組織と自分を結びつけるに至るにはまだまだ情報が足りていないはずだ。現にはっきりとした追求はない。
この男も核心を掴んでいるワケではないと見積もると多少の余裕が出てくる。
「私は
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オリバー教授は少しむっとしたような態度で答えを返してくる。
…あれ? 少し話がかみ合っていないような……
気のせいか…? そうだよな?
モフりへの情熱は確かに秘められているはずだ。
眠りから覚ましてやろうと思ったのだが強引すぎたか…
これぐらいが潮時のようだな…まだその時じゃなかったということだ。
引くことにしよう…
「証拠ならありますよ 」
あなたの心の中にね…
「…しかし、今はそれを出すべき時ではないようですね。強引にことを勧めるのは私の本意ではありません。別の機会があるとすれば、その時に腹を割って話し合うとしましょう…
今日はありがとうございました。これで帰ることにします 」
言葉を選びながら右手の手袋を脱ぐと握手を求めて差し出す。
「……ええ、はい 」
相手は戸惑ったような感じを見せるが、手袋を外してしっかりと握り返してきた。今回は俺の負けだがこれでノーサイドといこう。
「標本はこのままでいいですか。何でしたら戻しておきますよ 」
「いえ、お気遣いなく。私がやっておきますので 」
この手が再びモフることを祈っていますよ。先生ぇ…
◇
オリバー教授と別れて大学の校舎を外に向かって歩いていく。歩きながら自然と先ほどあったことについて考えが巡った。
それにしても妙な緊張感があったな…
従魔についての話を振ったあたりから、少し魔力に張り詰めたものが混じり始めた気がする。ほんのわずかな変化だがそこに違和感がある。
緊張するような内容だっただろうか? モフるかどうかの話だぞ?
……いや、それだけ教授にとって神聖な行為なのかもしれないな。何かしらの禁則を設けていたのだろうか?
イスラム教のラマダンのようにモフってはいけない期間を設けているとか…
そうだとしたら悪いことをしたな…断食中の人の前で焼き肉を焼いているようなものだ。
まあ、可能性の話でしかないけどな。単に他に仕事があったから俺にかまっている時間が惜しいとか、急にトイレに行きたくなったとかあるだろう。
向こうから何も言ってこない以上はわかりようがないからな。気にしてもしょうがない。こちらは好き勝手考えたっていい。
考えごとに区切りをつけて廊下を歩きながら外の風景なんかを見ていた。すると、不意に見知った人物が前から歩いてくるのが見えた。
見知った人物というと語弊がありそうだが印象深かったのは確かだ。
金髪碧眼の少年が大学構内を歩いている。カフェで相席をしたあの少年だ。
他の学生と比べてしまうと、その見た目から場違い感があるが、おそらく学生などよりよっぽど年上なんだろう。立場的にはこの大学の教授なのかも知れない。
特に声をかけることなくそのまますれ違っていく。別に知り合いでも何でもない。偶然に二回すれ違うことになっただけだ。印象に残る人物だったがもう会うことは無いかも知れない。
すぐに忘れて魔物について考える。
結局、あの魔物の遺体を調べたところで何がわかったと言うこともない。捜査は早くも行き詰まってきていた。
警察に任せて身を引くことも考えないといけないな…
この街にも長々と留まる予定はないからどこかで見切りをつける必要がある。結果の出ないことに固執するのは良くない。
あの農業区域で出会った女性警察官のことが頭に浮かんできた。
かなり強そうだったな。ああいった人材が何人もいるなら警察に任せておいて間違いないだろう。
あと二日ぐらい調べたら次に移動することにしよう。
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(おや、あれは… )
大学の廊下をオリバーのいる研究室に向かって歩いていたら前から見たことのある人物が歩いてきていた。
黒髪黒眼、身長はやや低めだが内包している魔力には目を見張るものがある。身のこなしから言って狩人だろう。猫系の強力な従魔を連れている。
一度会えば忘れないぐらいの特徴だ。そんな人物でも忘れてしまうのがエストルだが、何故かこの狩人のことは覚えていた。
(こんな所で会うなんてね… 気になるなぁ )
なんとなく自分にとって障害になるような気がして警戒心が刺激される。
今ここで殺しておこうかとも思ったが、この場でそれを行うと面倒なことになると考えた。祭りまであと少しの辛抱だ。その時までは、なるべく平穏を保たなければ破壊と混沌が際立たない。
それに今はここでやるべきことがある。この男に時間を割くのは無駄だ。そう思い、何事もなく通り過ぎる。
表面上、ただ普通にすれ違っただけだったが、内心では物騒な思いが渦巻いていた。
お互いが見えなくなるような位置までやってくると思う。
(こんな言葉があったね… 一度目偶然、二度目は運命 )