俺は決着を付けるべくヴァン・フーのコアがある場所を探っていく。
結果として下腹部、いわゆる丹田の位置にあった。てっきり、心臓にあるのかと思っていたから意外に感じる。
指先に魔力を流し、鎧を鉤爪状に変形させる。そこへと突き刺してコアを掴んだ。抵抗はない。負けを認めているようだ。
「最後に言いたいことはないか? 」
「……少シ反則臭イガ、マアイイダロウ。俺ノ負ケダ。全力デ戦エタノハ、生マレテカラ初メテダッタ。楽シカッタゾ。概ネ満足ダ 」
「そうか……じゃあな 」
俺はそのまま手を引き抜く。コアを失った体は地面に倒れると、白煙を上げながら溶けていった。
手に持ったコアをしげしげと眺め、詳細を確認してみる。ルシウスに見せてもらった物とも、俺が持っている物とも、ぱっと見では区別がつかないぐらいに似ている。
二つを比べたら、何か解ることもあるんだろうか?
亜空間に仕舞う。エンジュに解析させて見るのもいいだろう。
戦いが完全に終わったなら、次は、着替えだ。黒竜仙甲を脱いで狩着姿に戻るとしよう。
こいつは体にぴっちりとフィットしているから、亜空間を使わないと着ることも脱ぐことも出来ない。物が物だし、おおっぴらに使うわけにも行かないな。
使いこなすのもそれなりに難しい。鎧の強度に対して俺の肉体がついていかない。全力で魔力を流せば相当な力を発揮出来るが、俺の体が損傷してしまうだろう。回復術を使いながらでも追いつかない。
加減しながら、徐々に上げていくしかないな…
俺の肉体をもっと強化出来れば、上限を上げることは出来る。だが、そこら辺の成長は限界を迎えつつあるのか、最近の伸びはいまいちだ。
魔術の腕は順調に進歩しているんだけどな…
体を大きくしていかないと無理なのか? ……ん?
考え事をしていたらレーネがこちらに気軽な調子で歩み寄って来た。敵とは思えない気安さだ。
なにを考えているんだろうな? この女は…
「返しなさぁい 」
こちらに手を差し出しながら、そんなことを
返せってのはヴァン・フーのコアのことだろうな…
正直返したくはない。俺が狩った俺の獲物だ……て言うか、返せってどういうことだよ! 戦いとはそう言うものだろうが!
しかし、返さなかった時のことが恐い。笑顔の圧が強いんだよ…
「仕方がないな… ほら… 」
掌にコアを載せてやる。レーネはそれをまじまじと見て…
……うおっ!
―バシッ!
俺に投げつけてきた、野球選手張りの綺麗なフォームで。
危ないな…至近距離から… 咄嗟に受け止めたが、普通の魔石と同じ硬度だ。不用意に直撃していたら、体を貫通していたかもしれん。
「これじゃないわぁ… さっさと本物を出しなさいな 」
チッ… やはりバレたか…
どうやって識別したんだ? なにか方法があるのか?
「ほらよ… 」
疑問はあったが本物を渡してやる。
「そうよ、これよぉ… 最初から出しなさい。冗談は嫌いよ 」
えぇ… 冗談の固まりみたいなやつに冗談をやめろだとか…
ハハッ… 笑えない冗談…
と思っていたら、物凄い目つきで睨まれた。やはり心が読まれている?
「それじゃあ、戻ってお茶にしましょう 」
えっ、なんで?
睨まれたと思ったら、次の瞬間には笑顔でそんなことを言う。
さっきまで殺し合いをしていたのに? 直接、戦ってはいないが、戦いを仕組んだのはお前だろうが…
ますます良くわからない。
「……話とやらはもういいのか? 」
「してたでしょ? お話。男の子っていいものだわぁ…単純で 」
「お前自身とだ。話があるって… 」
「わたしはもういいのよぉ、十分に楽しめたから。良い戦いだったわねぇ 」
なんだと… 俺達の戦いを上から見ていたかっただけなのか? 本当にただの暇つぶしだったと…
「満足してもらえたなら結構なことだ… もう、俺にちょっかいかけてくるなよ? 」
「嫌よ 」
ええ… まだやるの?
「そこまで暇じゃないだろう… 共和国だっけ? 国に帰ったらどうだ… 」
「まだまだ付き合ってもらうわよぉ。これからもよろしくねぇ 」
……ハァ、言っても無駄か……
諦めてジュジュとエイリスの待つ野営地へと戻ろう。もうすぐ日が暮れてしまう。なので、それなりの速度で走って行くのだが、何故かレーネは俺の隣を併走したがった。
「なんで隣に来るんだ? 」
「女性の口から言わせる気? 無粋だわぁ…でも、そこがスキ♡ 」
……
人間ではないとわかっていると言うのに…
話題を変えよう…
「ところでヴァン・フーの魔石をどうするんだ? まさか、復活させることが出来るのか? 」
「そのまさかよぉ… 」
やはりまだ生きている… 魔力を補填してやれば目覚めるんだろうか?
しかし、それだけなら、前に倒したヤツも俺の手で復活出来そうだ。なのに、解析すら出来ないのはどういうことだ? 意図的にロックがかけられている可能性がありそうだが、果たして…
「……復活させるところを見せてあげようかしら? 」
「いいのか? 」
それは見てみたいところだな。ついでにロックの解除方法についても聞いてみようか…
「『最後に言いたいことはないか?』ですって… 」
「ん? 」
突然なんだ…俺の口調を真似て言ってるのか?
「全然最後じゃなかったわねぇ。今すぐに、もう一度会わせてあげたら、どんな気持ちになるのかしらぁ。間抜けよねぇ 」
チッ…
しかし、言われてみればちょっとかっこつけ過ぎたか? そう思うと、なんだか少しこそばゆい感じもする。
「でも劇的だったわぁ。『そうか… じゃあな 』」
目の前でコアを引き抜くシーンを再現しながら、俺の
なんか恥ずかしいんですけどっ! やめてよねっ!
その後も、併走しながらイジられ続けていたが、野営地が近づくと流石にレーネも大人しくなる。
ホッ… ようやく解放された
まだ安心出来ないが、茶でも入れれば大人しくなるだろう…
「おおっ、ようやく戻ったな… 」
野営地に戻ったらジュジュとエイリスに出迎えられる。少し心配させてしまったかな? だいぶ距離を開けたとは言え、戦っていたことぐらいはなんとなく伝わってしまっただろう。
「ああ、とりあえず話は済んだ。お茶を煎れるとしよう。エイリスも飲むか? 」
「………うっ、うむ、頂こう 」
一瞬、どうして?って顔を浮かべたが、流れに乗ると決めたようだ。スルーしてくれるのは助かる。
三人分のお茶を煎れて、再びの休息時間となる。三人とも無言で、香りや味を楽しむ時間が流れていく。
《平和ですねぇ… 》
エッ、エンジュ… いたのか… すっかり存在を忘れていた。
今まで何処にいたんだ?
《戦闘中と会話中は邪魔にならないように控えておりました 》
ああ、なるほど… それは出来るAIの所作だな。マスターとして誇らしいよ
《お褒めにお預かり光栄です。しかし、私はAIではございません 》
それはスマンね… だがそれだったら一体なんなんだ?
《秘密です。いつか、ご自分で答えを見つけてください 》
秘密…か… 危険な香りがするな…
なんか…いつか乗っ取られそうな感じがする。杞憂に終わればいいんだけどな… 終わりがいつかわからないが…
「レイン殿… 落ち着いてきたところで少しいいか? 」
来たな…
お茶を半分ぐらい飲み終えたところで、エイリスが遠慮がちに聞いてきた。話をするにはちょうど良い頃合いだ。日も落ちかけて、辺りは薄暗くなっている。エイリスが起こしていた焚き火の光も相まって、雰囲気は話にもってこいな感じがする。
しかし、出来れば聞いてこないで欲しかった。詳しい説明が出来るほど俺も良くわからないんだ。言えないことも多い。誤解を与える説明しか出来ない気がする。
この女が俺のフォローをしてくれるとは思えないし… むしろ、嬉々として誤解を助長してきそう…
「ああ、かまわない 」
よくないよ…
《どっちですか? 》
#
無理かと思っていた飛竜討伐を、楽勝とは言えずとも余裕を持って終えることが出来た。エイリスはそのことを、騎士団長としても、領主の娘としても誰より喜んでいただろう。
後はここで一夜を明かして、輸送隊に引き渡せば終わりだと気を抜いていたところ、いきなり魔境の森の中に、人が湧いて出てきたように現れた。
自分にもレインにも気付かれずにそんなことが出来た事実に驚愕を覚える。しかも、よくよく見れば年若い女性である。更に、派手な格好をしていて、おおよそ魔境には似つかわしくない。
十五、六歳程度に見えるため、自分と同じ拡張者かとも思ったが、どうにも違うようだ。であるのに、ただならない気配を纏っている。見た目通りの年齢ではないように思う。
本能が警戒をすべきだと感じていたが、どうにもレインの知り合いであるようで、割と気安く話かけてくる。
どう扱えばいいのか、わからなくなった。
レインは敵と言っていたし、共和国の人間だとも言っていた。確かに緊張感もある。しかし、相手の方は、どうにも男女の関係をにおわせている節がある。
痴情のもつれでもあるのかとも思ったが、長い付き合いでもないらしい。
それにしては、随分と距離が近いようにも感じる。いきなり並んで茶を始めた時は、ずいぶん馴染んでいるなとも感じたものだ。
男女の仲は、真に難しきことであるな…と噛みしめていたところ、二人は話があると言って魔境の森を分け入ってしまった。
わざわざ、魔境くんだりに来てする話とは何だろうかと
レインには緊張感もある。ついてくるなと念を押す様子から、これから戦いをするようにも思えた。しかし、相手の女性には、そのような緊張感が見られない。
益々わけがわからなくなったが、もしかすると、ここに戻ってくるのは一人だけになるのかも知れないと思うと、妙な緊張が起こって仕方がない。
とりあえずは、二人が戻ってくるまでに焚き火を起こしておこうかと席を立つと、ジュジュもついてきた。おそらく、自分が二人の後を追わないように止める指示を受けているのだろう。
一緒に野営地の周辺を回って、枝などを集めていった。
普通ならつまらない作業であるが、ジュジュが一緒にいてくれて、思いのほか楽しい作業になったことは
なにせ、さっきから戦闘と思われる気配をひしひしと感じている。ジュジュが落ち着いているから、レインは大丈夫なのだろう。しかし、それでも不安はある。
焚き火を起こすと、とにかく二人を待つことにした。ただ待っているのも手持ち無沙汰なので、その間は、ジュジュの毛並みを楽しむことにする。
恐る恐る手を伸ばすと、嫌がらずに受け入れてくれたので、そのまま撫で続ける。馴れてくると徐々に、なでなでは大胆になっていった。
ジュジュの方も要求してくるので、顎下を掻いたりお顔をくしゅくしゅしたり、耳の付け根を掻いたりもした。嫌がるかと思ったが、お腹まで撫でさせてくれる。
徐々に熱が入ってきて、抱きついて上で寝てみようかと思った矢先、二人は戻ってきた。
冷静さを取り戻し、最後に頭をひと撫でして自分の席に戻る。
二人が無事に戻ってきたときは、ホッと胸を撫で下ろしたものだ。しかしながら、それはそれで、今度は別の疑念が頭をよぎる。
茶を啜って二人が落ち着いてきたところで話しかけてみた。
「レイン殿… 落ち着いてきたところで少しいいか? 」
「ああ… かまわない 」
何でも聞いてくれと言わんばかりの堂々とした態度に、信頼感が増してくる。それに甘えて、少し踏み込んだことを聞いてもいいような気がした。
「その前に自己紹介がまだだったな……申し訳ない。私はエイリスという。そちらの女性は? 」
「レーネよぉ。よろしくねぇ 」
レインに向かって聞いたのだが、その前に本人から答えが返ってくる。レインは敵と言っているが、どうにも気さくな印象だ。共和国の人間というのは本当だろう。しかし、とても敵には見えない。
「よろしく頼む。それで、二人はどんな話をしていたのだろうか? 」
#
「話…か… そこまで大したことは話していないな 」
ヴァン・フーと殴り合っていただけだし…
多少は話したかも知れないが、もう覚えていない。記憶の彼方だ。
「他人には話せない濃ゆ~いお話よぉ… もちろん、愛についてのねぇ……聞きたいかしらぁ? わたしは教えてもいいけど… 」
レーネがチラッとこちらをうかがってくる。まさか、再生したヴァン・フーをこの場に出すんじゃないだろうな?
「やめておけ… 楽しい話ではない 」
牽制するように睨み付けて言う。エイリスは誤解をするかも知れないが、巻き込むよりはましだ。兎に角、こいつは止めなければならない。
「オハナシ出来なくて残念ねぇ 」
「気にしないでくれ…私も無理に聞くつもりはないのだ 」
気苦労が絶えないね…