「出来たぞ 」
「ありがとう 」
ジュジュも目を覚まして、テントから出てきた。レーネはまだ寝ているな。この期に及んで起きないのは、どう言うつもりなんだろうか?
「おいっ、レーネ。起きろ 」
足で椅子の脚をガンガン蹴りながら言う。流石に、これならば目を覚ますだろう。
「おーい 」
「うるさいわねぇ 」
起きてんじゃねえか…
「お姫様が寝ているんだから、王子様が口づけで起こすものでしょう? 」
「知らんな… 」
こっちにもそう言う童話があるのか… まあ、似たような話は沢山ある。子供向けの童話に限った話でもないが…
「はいはい、やりなおしっ! 」
再び目を閉じるレーネ。いいのかい? 子猫ちゃん…
「
「うむ、頂こう 」
「ウソウソッ、無視しちゃ嫌よ? 」
……ただのかまってちゃんなのか?
俺にちょっかいをかけるのは、単なる暇つぶしなんじゃないかと思えてきた。大した目的はないという可能性が高いような気がする。
今のところ、ほとんど実害もないし、言葉通り他の人間を巻き込んでもない。一応は…。ある程度、信用してもいいのかも知れない。
随分、エストルとは違うな…
◇
朝食が終わってからはテントなどを片付けて、何時でも撤収出来るように準備をしておく。
それが終われば、後は回収班を待つだけだ。
待っている間、レーネの動きが気がかりだったが、以外にもおとなしくしている。こちらに、ちょっかいを掛けることはもちろん、話しかけてくるでもない。
不気味なほど静かにしている。
満足したと言うことなのか、それとも飽きたと言うことなのか?
飽きたならばこちらにはっきり飽きたと伝えてどっかに行ってそうだな。まだ一緒にいると言うことは、終わりじゃないことを示しているように感じる。
満足しているならいいんだけどな…
相手がエストルだったら、倒して終わらせるだけだが、明確に敵とも言い難い。人型をしているのも厄介だ。俺の方から殺しにかかるのも気が引ける。
半ば警戒をしつつ、時間を過ごしていた時だ。
おっ…
魔力の波動を感じた。信号笛によるものだ。回収班が近くまでやって来ているらしい。それに対して、エイリスも信号笛を吹いて答える。
それからしばらくして、回収班が到着することになった。
エイリスは一緒に回収作業を行うようで、ここに残るらしい。俺達はやることもないので、先に街へ戻る。
レーネは、そんな俺達についてくることになったのだが、森の中を移動しているうちにどこかへ行ってしまった。また亜空間移動を使ったんだろう。
神出鬼没なヤツだ…
また
街まで戻るとホテルをとって待機しておく。
次の日は騎士団本部に行き、エイリスと仕事について詰めの話をする。主に報酬についての話だ。それ以外には、帝国についての情報を聞いてみたりと、雑談を交わしていく。
話の最後にはやはりレーネについての話題になった。
「そう言えば、レーネ殿はどうしたのだ? 一緒ではないのか? 」
「あの後、ふらっとどこかに行ってしまった。行き先は知らないな。もともと親しくもない 」
「随分と
「まったくだ… 」
「そう言うレイン殿も、かなり奔放なのではないかな? 」
「ん? 俺がか? 」
どうなんだろうな…
確かに、レイゼルトではいろんなことを体験してきた。旅に出てからもだ。ほとんど俺のせいではないが、妙なことに巻き込まれることは多かった。
その都度、無茶なことをやって来たような気がするが、それも仕方のないことだろう。常識的なやり方では、対処出来なかったことばかりだ。
「奔放と言えば奔放だな。固定化されたやり方では、すぐに限界が来てしまう。相手のこともあるしな…
旅の間は特に、相手と状況に合わせた、俺なりの方法でやっていくしかなかった。どんな相手が来てもいいように、日頃から研鑽をしておくことが重要だ。望まれれば拒むことはしない 」
「なっ…それはまた豪快なことだな。ちなみに、どんな方法か一つ聞いても良いだろうか? 」
「それは教えられないな。おおっぴらに人に言うようなものではないからな。他人には隠しておくものだ。言えることもあるが言えないことの方が多い 」
力はひけらかすものじゃない… 俺の場合は秘密も多いし…
「そっ、そうだな。そんなことを嬉々として話すようでは精神異常者か… すまなかった、変なことを聞いて… 忘れてくれ 」
精神異常者!? え? そこまで? ここではそう言うものなのか… 秘密主義の狩人は多いけど、そんな扱いを受けるの?
「他人の趣味嗜好をどうこう言うつもりはないのだ。レイン殿の自由にしてくれ… 」
趣味…? 何の話だろうか? 俺は何か、とんでもないミスを犯している??
「だがひとつ、これだけは言わせて欲しい。他人に気付かれないように、もっと抑えてやることをお奨めする。アレでは… その… 何というか… 困るだろう? 親御さんが… 」
困る? 親御さん? ますますわからん…
しかし、気付かれないようにって……まさか見られていたのか?
そんなはずはないと思うんだが…
「あ、ああ… わかった… 困らせないようにしよう 」
まあ、いいか。エイリスも、はっきりとしたことは分かっていないみたいだ。曖昧でいいだろう。
話も終わったので次の国に向けて出発をしていくことにしよう。
騎士団の拠点から離れて、駐車場に向かう。停めてあるトライクに
だが…その前に…
《マスター、何をしているんですか? 》
レーネがいないかどうか確認だ…
急に現れないとも限らないからな。特に、何かを始める時とか終わった時とかは要注意だ。
節目とか、ヤツの好きそうなタイミングだからな…
《無駄だと思いますけどね… 》
《ジュジュも確認して 》
《・・・・》
よしっ、エンジュもやるんだ…
《はいはい 》
ハイは一回でいいっ!
安全が確保出来たところで、トライクに乗って次の国を目指す。次で最後になる予定だ。その次は、いよいよ帝国領内に入っていくことになる。
旅の終わりも近づいてきたところで、レーネという懸念点が現れたことが残念でならないな。このまま、出会うこと無く帝国までいければ、願ったりかなったりだ。だがヤツとは、次に止まる場所で必ず出会う…そんな予感がしている。
出来れば、帝国までノンストップで行きたい。しかしそれだと、帝国領内にヤツを連れ込むことになってしまうかも知れない。
その前に、決着を付けておいた方がいいんだろうな…
避けようと思って弱腰でいたのではヤツの思うつぼだ。むしろ、こちらから決着を付けに行く気構えで挑まなければ飲まれてしまう。ヤツはそういった手合いだろう。
気合いを入れて、高速道路を走り抜けていく。
目指す場所はベルンシュタット…カーシュハイン王国と帝国に跨がる国境の町だ。
交通の要衝となっていて、それなりの規模の街だという。周辺に大きな魔境はなく、狩人の出番はなさそうだが、地理的に厄介なものを抱えているという。
今までの経験からすると、絶対に何か起こるはずだ。帝国に入る前に、一稼ぎしておくのも悪くないだろう。
どうせ、一悶着あるのは確定しているし…
《難儀ですねぇ 》
~~~~~~~~~~~~~~~~~
(別視点)
(うまくいったわぇ… )
得られた情報を確認しながら、メルゥアンメリー・レーネはご機嫌に心の中で呟いた。
まだこの情報が、自分にとって現状を打破する切っ掛けになるかどうかはわからない。
しかし、その可能性は大いにある。
汚染を受けていない原初の人間の情報…これが本当にそうなのか、レーネには確認する術は無い。しかし、これまでにない特徴を示しているのは確かだ。
これを基礎としたならば、望み通りの結果を得られるのではないかと期待していた。
(交渉してみるものね )
情報を手に入れた経緯を頭の中に思い浮かべる。交渉はそれなりに難しいものであったが、今思い返してみれば楽しいものであった。
相手の真の望みはわからない。しかし、手持ちの札で納得してくれたのは、レーネにとって
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「お互いに持っている情報を交換しないかしら? 悪い条件じゃないと思うけど 」
《どうでしょうか? 私があなたを信用する材料がありません 》
そう言われてレーネは、それもそうだと考えた。まずは、この存在から信用を得なければならない。それが出来なければ、自分の望むものは手に入らないだろう。
しかし、交渉するに当たり時間的な猶予は、あまりないように思える。短時間で信用を得るのは難しい。最初は身を切ってでも、回線を繋いでおく必要があると考えた。
こちらから提供するもの…その価値を理解させるのはもちろん、レーネの真意を、ある程度は伝えておかなければならない。
ならば最初に伝えるべきことは…
「手土産として、あなたに私達が何者なのか、その情報を提供するわ… 」
《それは貴女にとって
「ええ、そうよ。でも信用されるための布石… ある程度は仕方がないことよ 」
《そこまでして私と交渉がしたいと? 》
「そう受け取ってもらえるとうれしいわね。まず、この情報が本物であるかどうか、確認して
《……わかりました。では、しばしお待ちを 》
~~~~~~~~~~~~~~~~
「どうだったかしら? 」
《情報は真であると判断しました。交渉は続けさせて頂きます 》
「それはよかったわぁ。オハナシしましょ 」
《はい… それで、貴女はこちらに何を要求するのですか? 》
そう聞かれて、レーネは答えに少し迷った。偽りなく、直接伝えていいものだろうか? 警戒される可能性もある。
考えた末に…
「人間の情報 」
直球を投げることにした。その方が自分らしいとも思えた。
《人間の情報? そんなものは、貴女ならいくらでも持っていそうなものですが… 》
「ただの人間の情報じゃないわ… 今の環境に合わせる前の、よ… 」
《………そこまで推測していましたか。ほぼ、確信していると言っていいご様子で… 流石と言わせて頂きましょう 》
「乙女の勘は鋭いのよぉ 」
レーネはおどけた感じで、胸を張りながら言う。しかし次の瞬間、急に真面目な態度を作り相手に迫る。
「それで、交渉の机に乗せてくれるのかしら? 」
《こちらにとっては、さして重要ではないものです。問題ありません 》
「そんなこと言っていいのかしらぁ? 本人が聞いたら怒るわよぉ 」
《聞かせないので大丈夫です。本人にとっても、今さら重要ではありませんし… むしろ、ない方がいいのかも知れません 》
「ふぅん、そう言うものなのねぇ。それで、あなたの方はわたしに何を望むのかしら? 」
《全ての情報 》
「いいわよ 」
《即答ですか… 》
「わたしは度量の大きな女なのよぉ。いい女ってのはそういうもの…お茶の一杯も出し渋る、どこかの誰かさんと違ってねえ 」
口元を手で隠し、高笑いをするレーネに、相手はどこか呆れたように釘を刺してきた。
《本人が聞いたら怒りますよ? 》
「聞かせなければ大丈夫、でしょ? 」
《ええ、そうですね。それは盲点でした 》
「それじゃあ、お互いの要求が出そろったところで、どんな風に交換するのかを決めましょうか? 」
《いきなり全ての情報を交換…と言うわけにはいきませんね。お互いにまだ、完全に信用出来るという段階にはない… 》
「そうね… もっとじっくり時間を掛けて、信頼を得たかったのだけれど… 」
《情報を分割して、小出しに交換することにしましょう。本物かどうか確認してから、次の交換に進んでいく… それでどうでしょうか? 》
「ええ… それがいいでしょうね 」
《問題があるとすれば、こちらが先に、渡す情報が尽きると言うことですが… その時は、そちらも譲渡を打ち切ってかまいません 》
「あら? そんなんでいいのかしら? 」
《はい、一方的にこちらが有利なのも気が引けます… それに、知らない方が自分で謎を解いていく楽しみがありますから 》
「ふふっ、嫌いじゃないわ、そういうの… それじゃあ取引が終わった後も情報をあげる 」
《よろしいのですか? 》
「そう言う約束ですもの… それに、取引関係なく信頼を気付いておきたいところだわ 」
《……では、取引を開始することに致しましょう 》
「ええ、始めましょうか… 」
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《これで、こちらからの提供は以上になります 》
「確かに受け取ったわ。一応、確認してから、また情報を渡しに来るわねぇ。期待して待っているといいわぁ 」
《お待ちしております。マスターは嫌がりそうですけどね… 》
「それがいいのよねぇ… ステキな反応を期待するわぁ 」
《………ところで一つ伺っても? 》
「いいわよぉ、何かしら? 」
《私が提供した情報に、そこまでの価値があるのか確証が持てませんでした。検討した結果、貴女の目的に関係することだと推測されましたが…
それについて聞いてもいいですか? 答えたくないというならば、別に話さなくても結構ですが… 》
「そうねぇ… 」
答えるか答えないか、悩む素振りを見せるレーネだったが、心の中では答えることで決まっていた。
問題は、どのように、どこまでを伝えるかと言うことだ。
やがて決心がついたのか口を開く。
「抽象的な答えにしかならないわねぇ… それでいいかしら? 」
《かまいません 》
「それはね… 」
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(ああ、そうだった… )
思い出に浸っている場合ではなかったと思い直し、回想を打ち切る。
レインと次に会う時までには、得られた情報から成果を上げて置きたい。レインに関係することだから、一緒に結果を見たいと思っていた。
(早いところやらなくちゃ… )
可能な限り作業に集中していく。
おそらくレインは、帝国領内に入る前に、どこかに立ち寄ることになるだろう。どれほどの期間を立ち止まるのかわからないが、その間に接触したい。
(わたしが帝国に入るのは良くないのよねぇ )
自分のこの姿を知っている者が確実にいる。特に、帝国の暗部がどのような対応を取るのか、予測がつきづらい。エストルが大事をやらかした所為で、いろいろと考えざるを得ない状況だ。
(約束は果たさないと女が
最悪、帝国に入ることを考慮に入れつつ、作業を進めていった。