高速道路をトライクで飛ばして東へとひた走る。すでに国境を越えて、カーシュハイン王国を長いこと走っていた。
今回は、途中で休憩を入れることなく、ひたすらに進んでいく予定だ。ご飯も車上で取る。
目指す、ベルンシュタットという町はラズラン沙漠の真ん中あたりに作られた街だ。
ラズラン沙漠はカーシュハイン王国と帝国に跨がっている。人が住めないような、乾燥した荒れ地を言う。
ラズラン沙漠を越えて交易を行うための中継地点として、商人なんかが休息を行う場所だったらしい。
高速道路が出来たから不要と言えば不要なのだが、今も、トラックドライバーなどが立ち寄る町として機能しているという。
一応、検問所が設けられていて、人や物資の流れを監視している。アッシェバーンやフルカヴントの事件があったから、そこで足止めされることも想定しておかなければならない。
到着時は夜になる予定だが、交通の要衝だけあって、ホテルは二十四時間何時でも使えるそうだ。モーテルのような仕組みで運営されているらしい。寝る場所は十分確保出来そうだ。
最悪、荒野にテントを張って泊まってもいいんだけどな…
昔の人間はそうやっていたらしいし…
軽く食べ物をつまみながら走行していくと、だんだん木がまばらになってきた。生えている木も背が低く、幹も細くなっているようだ。
ラズラン沙漠が近づいて来ているからだろう。
日もだいぶ傾いてきていて、見えている土の地肌が赤く染まっている。あと一時間もしないうちに、夜のとばりが降りるだろう。
このペースなら予定よりも早く着く。それでも、日が沈むのは避けられない。
早めに、ヘッドライトを点灯させる。
やがて完全に日が落ちると、辺りは完全に闇に包まれる。高速道路とは言え魔物を誘引しないように、ずっと灯すような明かりはついていない。
壁には反射板が埋め込まれているし、道路に引かれた白線も光を反射するようになっている。ヘッドライトの光で、道路状況ははっきりと見えていた。暗視強化もあるので問題はない。
他の車の明かりもあり、孤独感は薄い。だが、この荒野において
他の車があって良かった。この時間帯は他の道ならば、ほとんど車通りがないはずだ。しかし、帝国が近いこともあるのだろう。いくらか賑やかだった。
しばらく走っていると、スピードが落ちてきて車間が詰まってくる。検問所が近づいて来ているのだろう。
検問所に入る前に高速を降りる。検問所は帝国側にあり、俺から見て、その手前にベルンシュタットの町が存在している。検問所を通ってからも降りることが出来るそうだが、手前で降りた方が町に入りやすいと思った。
高速から降りて少し道を行くと町の外壁にぶち当たり、壁沿いに進んで門へと到着する。ここは二十四時間通行が可能だ。身分証を見せて中に入りホテルへと向かう。
《ここですね 》
ホテルまではエンジュの案内に従う。
一体、どうやって情報を仕入れてくるんだろうな? まあ、いいか…
駐車場にトライクを止めると、受付で料金を払い鍵をもらう。二十四時間の受付で先払い形式だ。外に面した部屋の扉を開き、部屋に入る。
ドアを開けたら、壁にあるスイッチを入れて明かりを付けた。この町には、外から送電線が引かれていないそうだが、電気は一応使えるみたいだ。
町にも発電施設はないと言う。だとすれば、どこから電気が来ているのか?
《魔導具ですね。魔力によって回路に一定の電流が流れるように設計された魔道具が、このホテルに組み込まれています 》
へぇ… そうなのか
そこまでするならば、送電網を構築した方が安上がりな気がしないでもないが、今は魔道具も、そこまでの普及価格になっていると言うことなんだろうか?
あり得ないわけでもなさそう…
しかし、帝国はそこまで進んでいるというのか…
基盤を見てみたい。どこにあるんだろう?
《やめてください 》
エンジュに止められたし、部屋の中でも確認しよう。
中は外と同様に、簡素な作りになっていた。シングルサイズのベッドがひとつだけ。他にあるとしたら、壁で区切られているトイレぐらいだ。
水は地下水を
とりあえず、適当に荷物を置いてホテルを後にする。向かう先はレストランだ。飲食店も二十四時間やっているところがある。
なんだろう… アメリカンダイナーといった風情だ
到着してみると、木造の建物が、暗闇の中に堂々とした姿を見せている。木材は表面が少し風化したような荒さが見えて、ひなびた雰囲気を醸し出している。
しかし、建物と同じように古びた看板は、明かりに照らされ目立つ。店内からは窓ガラスを通して、光が煌々と漏れ出ていた。存在の主張が半端ない。
中にいる他の客の気配もあって、活気を感じさせてくれる。夕食には少々遅い時間だが、それなりに繁盛しているようだ。
入り口に向かう。
低い階段を上がりデッキに立つと、木製の床がギシギシと軋んだ。ドアの取っ手を持って開くと、ギュィッという
まさに、アメリカ映画で見るような荒野のダイナーといった趣だ。広めの店内には、テンガロンハットを被ったカウボーイ達…は、流石にいないが、トラックドライバーや商人と言う感じの人が何人もいた。
店員に案内されて、軋む床を踏みならしながら進む。席に着くとメニューを確認した。
なんだかシンプルな料理が多いな…
ステーキなど、肉を焼いただけの料理が多いようだ。こういう立地だから、食材をいろいろ用意するのが難しいのかも知れない。手の込んだ料理はここでは難しいということなのだろう。
あまり期待は出来ないか…
《どうでしょうか? 》
エンジュ…なんだか挑戦的だな…
しかし、そう言うからには期待していいってことか?
なんだか腹が減ってきたな…
今日は大したものを食べていない。思い切って、ここで奮発するとしよう。
そうと決めると、店員さんを呼んで注文を済ませる。パンとスープと牛肉のステーキを頼んだ。
シンプルな注文だが、ただのステーキではない。この店で一番デカいステーキだ。一キロぐらいあるやつ。
そんな量でも今の俺ならば、簡単に消化吸収が出来てしまう。食を楽しむ分にはこれほどに良いことはないんだろうが、油断をすれば食費が大変なことになる。
食道楽もほどほどにしないとな… まあ今日だけ、今日だけは…
《どうだか… 》
待っていると、最初にスープから運ばれてきた。透明に近い色合いで豆とか香味野菜を細かく刻んだものがたっぷりと入っている。
スプーンで、具とスープを一緒に掬い、口に運ぶ。よく煮込まれている野菜が、舌の上でほろりと崩れる。柔らかく煮込まれた豆は、歯で噛みつぶすとあっさりと砕けて、クリーミーな食感を返してくる。
味付けは控えめで優しい味だ。だが、十分な旨味が感じられる。
これは、メインのステーキにも期待が持てるな…
先にスープを飲み干して待っていると、程なくステーキが運ばれてきた。
ぶっ、分厚い…
五センチぐらいあるんじゃないかと思える厚さをしている。それが、暖められた石の板の上に乗せられて出てきた。石の板は木製の台座の上に乗っている。
肉の表面はほどよく焦がされていて食欲をそそる芳ばしい香りを放っていた。
これは美味そうだ…
しかし、懸念点もある。これだけ分厚い肉であれば、火を通すのが難しいのではないかと思う。外側はガチガチに焼き固められて、中心は冷たい生肉のままになっているのではないだろうか?
そう疑問に思っているのだが、エンジュは何も言ってこない。食えば分かるとでも言いたげだな… まあ、冷める前に食べるとしようか
端の方をフォークで刺し、ナイフで切っていく。
ほう、柔らかいな…
ガチガチでもなく生でもない、ほどよく火が通っている切り味が、最後まで均一に続いていく。切断面を見ると、表面だけ薄らとウェルダンに焼けた灰白色になっていて、それ以外は綺麗な薄桃色をしている。均等に焼けているように見える。
口に運ぶと、しっかりと温かい。中心まで、確かに火が通っているようだ。噛みしめたなら、中からジュワリと肉汁が溢れて、口の中を一杯にする。
歯ごたえは硬すぎず柔らかすぎず。適度な弾力とキレの良さを歯に返してきて心地よい。
なんでこんなに上手く焼けているんだ?
普通にフライパンで焼くのは、無理だとは言わないが、相当難しいだろう。弱火でじっくり焼くにしても、もっと時間がかかるはずだ。俺は店に来る前に予約をしていたわけでもない。あらかじめ準備をしていた、なんてことはないだろう。
まさか… 魔術か…
属性は水… もしくは油… いや、蛋白質系なんかも考えられる。そして、おそらく、熱変換の技術を使っている。
シェフを呼んでくれ…などと口走りそうになったが抑える。話を聞きたいと思ったが聞いたところで教えてはくれないだろう。それにもしも、教えてくれて正解を知ってしまったら、なんだかつまらないような気がした。
どうせやるなら、自分でいろいろ試すのがいいだろう。
一口目は塩だけでいったが、次はソースにつけて食べてみることにした。ソースには刻んだタマネギと、白っぽい何かの欠片が入っている。
何だろうな?
香りを嗅いでみるとちょっと刺激のあるにおいが鼻粘膜を突いてくる。どうやらニンニクのようだ。
フォークの先に少し付けてみて、ソースだけを味わってみる。舌先にピリッとした刺激があり次に塩味と酸味、旨味とコクが感じられる。飲み込むとむわっとした刺激のある香りが広がる。
オニオンガーリックBBQソースと言った感じだ。パンチのある味が食欲をそそる。
肉を適度な大きさに切り取ってソースにつけて口に運ぶ。噛んでいくと、肉汁と混ざり合って得も言われぬ味となる。飲み込むと刺激的な香りが油のしつこさを消してくれる。舌と胃が次をよこせとせっついてくるようだ。
半分を塩で、もう半分をソースで食べるとしよう…
リズミカルにナイフとフォークで刻んでいき、口に運んでいく。あれだけの大きさがあった肉も、あっという間になくなってしまった。
ジュジュの方を見ると、とうに食べ終わったようで、毛繕いをしていた。塩もソースも使わずに、そのまま食べたようだ。ソースが全て残っている。
使わないなら、もらえば良かったと思いつつ、何もつけないで食べる選択もあったなとも思った。
まあ、でも満足だ…
ただ肉に熱を通すだけでも、いろいろやりようがあるのだと、新しい視点に気付けたような気がする。
会計を済ませると、モーテルに戻って、さっさと寝ることにした。床にジュジュのふとんを引いてやって眠りにつく。
肉体を寝かせながらコアの状態を確認することにした。
エンジュ… 回復具合はどんなもんだ?
《最大魔力量はウサギ指数で213,374です 》
それなりに回復しつつあるか…
このペースなら、半年かからずに元の魔力値まで戻りそうだが…
問題は、元に戻った上に、更に上がっていった場合、なにが起こるか分からないことだ。また、エンジュみたいな存在が生えてくるのは確実な気がする。
そうなった時、俺の精神は耐えられるのか…
ある程度で抑えておきたい…
しかし、またザナン・ドグルのようなヤツと戦う羽目になるかもしれない。直近でも、レーネみたいな厄介なやつに絡まれてもいるんだ。エストルも今後、どう動くかわからん。
その時、またあの力を使うことになったらどうしようか? 最後の切り札として使えるようにしておくのは、保険としてありかも知れない。だが、どうにもあの力は危険過ぎる。
制御を誤れば、自分が危険なだけじゃ済まないだろう。何が起きても、あの力を使わずに乗り切れるようにしなければならない。しかし、力をつけていけば、いつか制御出来なくなる。
ぬぅ… 二律背反だな… ジレンマってやつ
《何故言い換えたんですか? 》
難しい言葉を使いたかったんだ。その方が頭が良さそうに見える
《誰に対してですか? 理解に苦しみます 》
……そうだな。でも、人間はそう言うものだ。しかたがない。考えても無駄だ。なるようにしかならない
今日はこのぐらいにしておこうか…
あんまり深く考えると、脳が沸騰しそうだ。
脳はないけれど…
《お休みなさいませ 》
そこはスルーか…