多分、それっぽい説明でこれから増えるであろう直哉の術式を考えてみた
特級呪術師、それは個人で国家を転覆することが可能なレベルの呪術師のことである。
そして、それは世界最速の男、禪院直哉の肩書きであった。
「直哉か」
「あぁ、ホンマに酷いことするわ。で、死んだん?真依ちゃん」
「どの口で……私達のこと裏切って」
「堪忍なぁ……よく裏切り者みたいな声ってイジられてんけど、今回の件は本当に関係ないねん」
そこにいるのは、天与呪縛の完全なるフィジカルギフテッド、かつて直哉の憧れた最強に至った双子の片割れ。
そこにいるのは、禪院真希だった。
「アンタ言ったよな、自分が当主になって禪院家を変えるって!なんで、なんで裏切った!」
「縛りでも結んどったら良かったなぁ、そしたら結果も違うたかもしれん。もう今更の話やけど」
「そうか、そうかよ……残るはお前だけだ。今日、私は禪院家をぶっ潰す」
「復讐は何も生まんて、知らんのかぁ?」
瞬間、互いの姿が消える。
否、それはお互いに高速で移動したが故に発生する、見えない攻防。
「ホンマ、強うなった。でも、君じゃ届かん」
「こんな力……グハッ!?」
「気付いたら殴られてたやろ、キングクリムゾンって奴や……」
「きんぐ……くりむぞん……」
地面に倒れ伏す真希の身体を足蹴にするのは特級呪術師の禪院直哉。
僅かな時間、刹那の攻防、肉弾戦の応酬、フィジカルギフテッドである真希が勝つはずだった。
だが、結果として倒れているのは真希の方である。
真希は、瞬きした瞬間に空を見上げていた。
それは意識を失ったような感覚に近い。
違和感……感覚のズレ、術式の効果が思い浮かぶ。
「投射呪法のフリーズか」
「有名なのも困りもんやなぁ、時を飛ばしたって方がカッコええのに」
投射呪法、それは自らの視界を画角として1秒を24分割し、動きを後追いする術式。
過度な物理法則を無視したり、あらかじめ物理法則を逸脱した分割イメージを描くと自らもフリーズする。
「よぉ、分からん術式やろ。相伝って言っても、歴史も浅くてな。ウチは影やら視界やら、光に関係する術式が多いから、元々は視界を影絵、つまりは見た物の静止画を現実に生み出す術式やと思うねん」
「術式、開示か……」
「おっと」
真希の身体が、まるで絵画のように平面となる。
半透明なガラスの板、プレパラートに絵が映ったような、写真のフィルムに似た物体だ。
フリーズした場合の現象、それを足で踏み砕く。
「ぐっ……」
「話は最後まで聞くもんやで。投射呪法は視界を画角に1秒間で複数の動きを刻むんや。正直、2分割でも3分割でもイメージはキツイし、視界を画角やで、一人称視点の自分の動きを正面に重ねてくなんざ、頭がこんがらがる、それに後追いも考えもんや。身体が勝手に動くし、その間の意識はない。身体感覚と時間感覚が常にズレ続けるんや。だから、こんな術式もろうても使いこなすは至難の業や」
「ハッ、使いこなせる自分は天才様って自慢かよ?」
「事実や。いきなり、術式使えるようになって自分の術式と向き合い続けたんや……でも届かんかった」
思い出すは、かつて自分が出会った本当の天与の呪縛、フィジカルギフテッド、禪院甚爾。
アチラ側の人間であり、酷く冷たく鋭い男だった。
あの時、話しかけて殴られたから今の自分がいる。
「憧れは理解から最も遠い感情やった……皮肉や、思い描いた理想を体現する術式の使い手が何も出来へんかったんやもん」
「オラァ!」
真希の拳が不意を狙い襲いかかる。
足を上げた瞬間、フリーズは使えない。
だが、確実にとらえる機動だった拳は何も当たっていなかった。
そして、視界の端に移る直哉の姿。
再びフリーズさせられた、そう気付いた。
触れられてなかったはず、いつの間にやられたんだろうか。
「またフリーズされたと思ったん?」
「なに……」
「錯覚や。僕は触れておらんよ」
「なん……だと……」
ならば、何故と疑問が湧く。
直哉は、ゆっくりと此方へと歩いてきた。
ゆっくりと、ゆらゆらと、酷く緩慢で、隙だらけで……身体がノロい?
「術式、反転、それは、分割時間の押し付け。真希ちゃん、今、トロくなってんねん」
「……ッ!?」
身体の動きが止まる。
何も動かせない、奴は術式反転と言ったか?
だが、呪力のないものは術式対象の対象外、よく考えれば何故フリーズなんてしたんだ。
「それだけや、ない、本来が、動きを、作れなきゃ、止まる。反転は、作らされた、動きを、強制される」
「そういう、ことかよ!元に、戻った!」
「因みに、僕の最大で分割できる時間がどのくらいか教えたる」
パンと禪院直哉が離れたところで手を叩く。
「60FPSや」
「何……だと……」
「今の1秒を60分割、逆なら触れた相手の1秒を1分に伸ばす。まぁ、ノロノロビームやな」
「だったら、使われる前にブッ殺す!」
背後に回る、死角からの一撃。
右手、直哉の手が目の前で空振る。
避けた、ならば後は殴るだけ。
だが、またしても直哉の姿が忽然と消える。
触れられた、否、そんなはずはない。
「だから、話は最後まで聞こうや。僕の術式反転はな、自分に掛けたら過去の動きを1秒だけ現実に再現するねん」
「動きを……再現……」
「イメージした動きをトレースする、逆は過去の軌跡を視界の現実に1秒だけ上書きする。つまりな」
直哉の姿が消える。
否、戻ったのだ。
そこには拍手する直哉が、瞬間移動していた。
過度な物理法則を無視した動き、投射呪法ではありえない光景。
「イザナギや」
「い、いざなぎ?」
「オールフィクションでもええで」
「な、何言って……何言ってんだよ!」
昔から、いつだって真希は訳の分からない言動に振り回されていた。
今も、禪院直哉は此方をからかって来る。
唯一、禪院家で優しかった人物が、裏切ったはずの人間が、今も昔と変わらない気がしてくる。
「頭は冷えたか?真希ちゃん程度、いつでも殺せたのに殺さんかった。ホントに僕は何も関わってないんよ」
「何もしなかったから、だから真依が死んだんだろうが!」
「怒んなや。真依ちゃんはな、聞き分けもよくて女だと分かってるいい女やった。僕も悲しいで、ほんま」
「ふざけんなよ……約束したじゃねぇか……」
真希の目に、涙が溢れてくる。
持ってかれたはずの人の心が、まだそこにはあった。
そんな何もかもが見えにくい状態で放たれた拳が当たるはずもないのに、手応えはあった。
いつの間にか近付いてきいた直哉の胸を、拳が叩いていたからだ。
「約束な、真希ちゃん達が泣かんくてもええように禪院家変えたるつもりやったのにな」
「もう、終わりだよ。私には、もう、何も残ってない……」
直哉の手が、無言で頭に置かれる。
いつか何処かで、泣いてる時に頭を撫でられた記憶が蘇る。
あぁ、そうだ、昔も泣いた時にこうして慰められた。
どうして忘れていたんだろうか。
「僕の術式、さっき伝えたよね。すんません、あれ嘘言いました」
「……嘘?」
「言うたほど低レートやありません。言うたほど上書きに制限もありません」
「何を……言って……」
そっと、直哉が離れていく。
嫌な予感がした。
天与呪縛だからか、敏感に感じ取れた、気配の違い。
いつもの糸目である禪院直哉の見たことない顔。
目を見開いた、覚悟した人間の顔がそこにあった。
「ただ、トレースする間は意識があります。ほんで、その間に術式を使うことも出来ます」
「何の話をしてるんだよ!」
「昔から不思議やと思わんかった?あんなに早く動いてるのに服は空気抵抗で破けんし、拳も壊れない。呪力のない水や空気、真希ちゃんもフリーズ出来るのは何故や?簡単や、自分の呪力で包んで空間を切り取ってるんや。切り取ったもんが変化する訳ないやろ」
「さっきから何を言ってんだよ……」
直哉が膝を着く。
それはまるで陸上競技の選手のような姿勢だ。
「つまりな、投射呪法は時間だけやなくて空間も関係する術式。僕の術式順転は現実の1秒という制限をなくし、体感時間1秒を現実として発動する。加速した身体、加速した意識、そんで自分の意識が生み出す空間での術式発動。亜音速なんざ余裕で超えれるねん」
「お前、何する気だ」
「五条悟はアキレスの亀の話、よくしとるやろ。今からやることは浦島太郎の話、ウラシマ効果や」
ウラシマ効果とは、宇宙船が地球から外に出て戻ってくると時間が進んでいる現象の事である。
より正確に言えば、光速に近い速度で移動する宇宙船の中の時間がゆっくりになり、相対的に外の時間が速くなってしまう現象だ。
アインシュタインの相対性理論、物理法則に則り、光速が不変で一定であると仮定した場合、時は伸び縮みするという考えから生まれた思考実験。
「例えば電車でリンゴを1mの高さから落とすとする。外で落とした奴も同じタイミングなら重力は一定やから同じタイミングで地面に着く。まぁ、空気抵抗とか色々な条件は置いといてや」
「そうなると、電車のリンゴは斜めに動いとるやろ。1mの高さ、10mの横の長さ、斜面の距離は10mや。おかしいなぁ、電車の中のりんごは10mの移動で外のりんごは1mや、まぁ横の移動は重力加速度には関係あらへんからやけど」
「ほな、電車が光速になったら、何時終わるか分からんくらい斜めに放物線を描くやろな。斜面めっちゃ長い、距離は長いのに落ちる時間、目に届く光の速度は同じや、時間の流れが遅くなるんや」
「まぁ、光速に限りなく近くに動いとる電車の中の人からしたら普通に落ちてるけどな。むしろ、早けりゃ早いほど窓の外は遅く見える。これが、投射呪法の世界や」
「順転はむっちゃ速い電車の中でも加速してるイメージやね。術式という電車が空気抵抗やらなんやらから守ってくれる。だから服は破けんし、ぶつかるのは電車だから乗ってるこっちは無傷や。まぁ、速すぎたら中で吹っ飛ぶやろけどな。ほんで、外から見たら、速いヤツが更に速い。こっちはゼロから少し加速したみたいなもんやけど。それに反転は、電車の中におらんのにそんときの景色を無理やり押しつける感じやね、相対時間を再現して周りが止まってまうねん」
話は終わりとばかりに、直哉は足を伸ばし、腰を上げた。
クラウチングスタート、これから飛び出す体勢。
「ほな、五条家みたいに順転と反転を同時に使うたら、どないなると思う?術式の重ねがけで0から5キロ、5キロから10キロって早くなる奴が、その早くなった思考の体感時間を現実の時間1秒に置き換える。呪力が現実時間1秒で回復する値が1だとして、現実の1秒が経過してる間に体感時間が無限に近くなれば回復する呪力は無限に近くなるんや。無限大のエネルギーを術式の保護と加速、僕がイメージ出来る限り加速して、光速に近付き、並び立つ」
「でもな、投射呪法は過度な物理法則を無視したイメージは再現できない。光は超えられない、僕の限界や」
「ただ、過度でなければ無視出来るねん。同じ速度で動く光なら、一歩後ろを歩くように世界ごと遅くしたらええねん」
呪力が立ち昇る。
真希は確信した。
今の話、こいつは光速へと至り、そして光速を超えようとしている。
それによって何が起きるか分かっていない、だが何かとてつもない事を起こそうとしているのは分かる。
「つまり、プルス・ウルトラや!」
「僕は超えるで、時間に囚われたこっち側から限界を超えたあっち側に」
「あっち側に立つんわ、僕や!」
光速を超えた先、それは因果律の崩壊を意味する。
光速に近づけば時間は遅くなり、光速と並び立てば時間は静止し、光速を超えれば時間は戻り始める。
六眼と星漿体、その因果を壊した伏黒甚爾のように、今、禪院直哉は時間と空間という因果を壊す。
「真希ちゃんや真依ちゃんが泣かない禪院家に変えたる!」
「僕は白い稲妻や!」
「最高速度でブチ抜いたる!」
これはあっち側へと至るハッピーエンドを目指す綺麗な禪院直哉の物語である。
気付いたのは、成人男性に殴られたのがきっかけやった。
瞬間、流れてくる自分を天才やと思って、落ちこぼれの顔でも見てやろうと思って、一目で強さに圧倒された、憧れてしまったドブカスの存在しない記憶。
存在しない記憶、否、それを漫画で見たことがある別世界の存在しない記憶を受け取った俺の勘違い。
存在していた記憶だ、ただ追加で別の記憶が入り込み、自分を自分と認識できてなかっただけだ。
「ハハッ、嘘やろ……」
「嘘やないで」
声がした。
その声に振り向くと、俺の前に俺がいた。
正確には成人男性の禪院直哉が子供に成り代わった禪院直哉の前にいた。
「ワイ、なのか……」
「そうや。20年後のお前や」
「20年、タイムスリップしたのか……」
「そうや、そしてお前を鍛える者や」
それが、ワイのオリジン。
未来から来た僕とワイはそこから禪院家を改革するために奔走した。
僕直哉の反転術式によって身体の動かし方を覚え、僕の出来る事を反転による動きの強制を応用して、記憶の共有、感覚の伝達、これにより反転術式を取得。
体感時間の操作による黒閃の連続発動、これにより呪術の核心を掴んだ。
トレースすることで、その時の動作や呪力の動きすら再現して、任意で何度でも黒閃を放てるようにもなった。
何があったかタイムリープしたかのように知ったワイは、僕と一緒に失敗すれば過去に戻って色々な事をやり直した。
何度も、何度も、何度も何度も、数え切れないほどに、何度もやり直した。
でも、ダメやった。
何もかも上手くいっても、どうしても禪院扇が真依ちゃんを殺す。
禪院扇を殺しても、別の誰かが殺してしまう。
禪院家の人間全てを殺しても、今度は総監部や呪術界の別の人間が嫌がらせで殺しに来る。
何をやっても、真依ちゃんの死を、運命を変えられない。
「まだや!ワイは諦めへん!もう1回や!」
「無理や。最初から変えられんかったんや」
「知るか!諦めんのなら勝手に諦めたらええ、ワイはやり直す!」
僕の静止を振り切って、もう一度やり直す。
禪院甚爾に殴られ、憑依し、禪院のクズども矯正、直せない奴らは粛清し、呪術界の刺客は皆殺しにする。
だが、そこまでしても、今度は真依ちゃんが自殺した。
刺客の中に、学友がいたらしい。
……もう一回や。
過去に戻る瞬間、静止した世界。
色んな時間の流れる不思議な空間、僕直哉がいる世界に戻った瞬間だった。
「来るなワイ!逃げろ!」
一人称が僕の、未来から来た僕直哉が、甲冑を纏った何者かと戦っている。
よう分からんが、アレは敵や!ならば、加勢する!
「誰やねん、去ねや!」
加速からの一撃はその甲冑の頭部に叩き込まれ、その身体を吹き飛ばす。
やったか!
「俺が誰か、それホンマに言うてんの?」
砂煙、その砂塵の向こうで人影が此方に歩いて来る。
チッ、効いていないか。
「何……だと……」
「はぁ?」
砂煙が晴れ、現れた甲冑のなくなった事で見えるようになった顔に驚愕する。
なぜなら、その顔は、僕とワイと同じ顔やったからだ。
「ワイ……やと……」
「そうだ。俺は未来のお前、何度もやり直し続けたお前自身だ!」
「な、なんでワイが僕直哉を殺そうとするんや……意味分からんで!」
甲冑のワイ、言うなれば俺直哉が目の前に現れた。
困惑する僕直哉とワイ、3人の直哉が時の交差路、静止した世界に存在する。
「疑問に思わなかったか!タイムスリップしたお前が何で過去の自分と出会えたか!ワイが過去に戻る時、精神だけが移動するのに、なぜ僕であるお前だけが肉体ごと時間旅行者となっているのか」
「ホンマやんけ、ワイのだけタイムリープやん」
「俺だ。俺がタイムパラドックスを起こして、僕が精神が過去に飛ぶ前に肉体ごと過去に飛ばした!」
「僕と会うのは二度目やね。確かに、君に殴られたわ」
は、話がついてけへん。
訳知り顔の僕、本当に分かってるのか?
中身はワイと同じ馬鹿やから、本当は分かっとらんとちゃうんか?
あと、俺の方の直哉は何でそんなテンションなの!
病んどらんか、ワイの未来闇落ちか何かなのか!
「お前が、お前こそが、不可避の交差なのだ!俺が世界を変えようとする度に、お前が真依ちゃんの死を運命として諦めようとする」
「せやかて、変えられない運命やったんや」
「お前が始めた物語だろうが!お前が、お前が諦めるなよ!ふざけるな、そんなのは禪院直哉やない!俺の憧れた、甚爾くんやない!お前は……俺は……甚爾くんやない」
それはそうやろ、何言うてんやコイツ?
やり直しすぎて、バカになっとるんか?
「だから、お前を殺す!過去の自分が、俺の足を引っ張るなんて許されない。さらばだ、俺の人生の汚点、俺はお前を殺して世界を変えたる!」
「なんでそうなるん!?頭、禪院家なんか!他責にもほどが、いや自責なのか?」
「僕を殺して、ワイと世界でも変えるんか?きっと、このやり方じゃダメなんや。真希ちゃんを置いてけぼりにするんやなくて、本当は支えるのが正解だったんじゃないかって思うんや」
「詭弁だ!それはこっち側の論理や!世界がどうあるべきか受け入れるのではなく、世界がどうあるべきか変えるのがアッチ側の人間や!」
僕直哉が構え、俺直哉が構える。
奇しくも同じ構え、いや自分自身なんだから、そらそうか。
どちらかが死ぬ、ワイはどちらにも味方したくない。
あんなに良くしてくれた自分を殺してでも真希ちゃんを救いたい訳でもないし、かと言ってトチ狂った方を殺して諦めるのも嫌や。
真希ちゃんを達を支えてハッピーエンド、世界を変えようとする俺をどうにかして止める。
どっちもしなきゃいけないのが、ワイの辛いところやね。
禪院甚爾くんなら運命だってぶっ壊せるのに、ワイは禪院甚爾になることが出来ない。
だから、世界を変えられない……いや、世界を変えられないなら自分を変えればええのか?
「逆転の発想やね!縛りや!ワイの全部を持ってけ、そん代わりワイを甚爾くんや真希ちゃんと同じフィジカルギフテッドにしてくれ!」
「何を言ってんねん!」
静止した世界で、願いは聞き届けられた。
俺直哉の身体が、ボロボロと砂のように崩れていく。
術式を持ってたワイが自分自身によって結んだ永久に術式と呪力を使えなくなるという縛り、天与呪縛の再現、その結果、術式を持っていたワイの未来である俺直哉は存在出来なくなったのだ。
「術式と呪力を捨てる、だと……」
「等価交換や、俺」
「そんなことが出来るのか、いや出来たというべきか……だが、それでは何も変えられないんじゃ」
「きっとそんなことはない。僕が無理だったのは、僕が術式を持ってたからや。その術式や呪力の研鑽は、真依ちゃんが死んだ世界が前提や」
その世界がなければ、そこまでの力は得られず、過去を変えようとしてもタイムパラドックスが起きてたんだと思う。
「せやけど、ワイと僕の絆でもある術式や呪力のあれこれ、全部なくしたら、今までの出来事は夢みたいなもんや。夢やないって証明しようにも、術式も呪力も使えなくなるからな」
「だが、それなら、こうして僕と今までの関わりも、その世界がある前提やないか」
「せやね、だからお別れや。これから今までの記憶も全部縛りで消してしまう。そしたら、覚えてない縛りのせいで、気付いたら術式も呪力もない、急に一般人が憑依したワイの誕生や」
そして、真依ちゃんの死が確定した世界との繋がりを完全に無くし、そして因果律を破壊できる力も手に入れて、元から術式も呪力も無いから最強のメンタルのワイの誕生である。
「綺麗さっぱり漂白された俺が、ハッピーエンドを目指したる」
「そうか、どうやら俺も消えるようだ。お前が記憶を消した瞬間、俺も存在しなくなるんだな」
そこにいた僕直哉の身体が半透明になっていく。
存在が薄れていると、直感的に理解した。
「まったく、僕を消すなんて人の心ないんかぁ?」
「ハッピーエンドの為や、ごめんちゃい♡」
ふざけ合って、互いに笑って、そんでそんな記憶を消してしまう。
これがハッピーエンドへの、必要な失敗だったんや。
「なぁなぁ、アンタ!甚爾くんやろ!」
「……失せろ」
気付いたら、拳が迫ってくるところやった。
瞬間、流れてくる自分を天才やと思って、落ちこぼれの顔でも見てやろうと思って、一目で強さに圧倒された、憧れてしまったドブカスの存在しない記憶。
あっ、一般人のワイが憑依したせいで原作にない会話が発生して、殴られそうになってるんだ。
コイツ、自分の立場悪くなるのに、いやそれでも構わんって感じのスタンスなんやろか。
てか、すごい考えるな、これ走馬灯って奴か?
ほぉ、そう考えたらすごい遅いな。
軽く避けれるで、こんなの。
「……何?」
「避けれた?」
「お前、呪力がない?いや、今まであったはず……感じ取れない?」
「あれ、術式と呪力が使えない」
おかしいな、言われてみて使おうとしたのに使えんぞ。
なんでや……今までと……あっ、一般人のワイが憑依してるやんけ。
ははーん、つまりそのせいで術式と呪力がないなった訳ね。
そりゃ、そんなもん持ってなかった魂だもんな。
魂に肉体が合わせちゃったかぁ……一般人レベルならワイ死ぬのでは?
「いや、避けれたってことはワイも甚爾くんと同じフィジギフかもしれへん」
「お前……まさか、術式と呪力を捨てたのか……そんなことが出来るのか……」
「オラァ!うおすげぇ、めっちゃ速い!」
公式チートや、そりゃ相伝の術式も天性の才能も呪力も地位も名声も将来性も全部捨てたら、それなりの恩恵が貰えるよな。
特に禪院家の人間がやるなんて、縛りとして重すぎるもんな。
「なぁなぁ、甚爾くん。一緒にムカつく奴ら殴りに行こうぜ」
「はぁ?何言ってんだ、お前」
「結局、強けりゃ何でもええねん。術式や呪力の有無に拘る奴らなんざ、分からせたろう!それとも、呪術界の御三家が猿に潰されんのは、腐っても禪院家の人間として嫌なんか?弱い奴しかおらん御三家なんか滅んだらええのに」
「安い挑発だな、だが、悪くねぇ。ざまぁねぇな、当主候補筆頭が猿にまで落ちて、どんな顔になるか見に行ってやるか」
「きっとパパなら大爆笑やで」