申し訳ございません。
■
パチン。
プラモ専用ニッパーを抱えるように持ちつつ、ランナーからパーツを切り離す。
「ああ……!」
ニッパーから手、手から腕へと伝わり、体全体で感じる「工程」の感触に、思わず感嘆の吐息が漏れる。
これだよ! この感触を待ち望んでいたんだよ!
今までは完成したガンプラを「データ上の存在」としてでしか触れることができなかった。正確に言えばモノリス型なボディだったので物理的に触れることはできなかったのだが、それは兎も角。
私がガンプラと関係性を持つのは、いつだって「実物ではない完成品」だけだったのだ。
前世の知識として「組み立て前の、箱に入った状態のガンプラ」「未完成品のガンプラ」等を『
パチン。
私の意思でニッパーが動く。
私の意志でランナーからパーツが生まれ落ちる。
諦めていた挙動を、ひとつひとつ体全体で噛み締める。
──そうなのである。
いま、私はガンプラを作っているのである!
作っているのであるっ!(5秒ぶり2回目)
「ああ~、この感触……この音……この匂い……!
これこそが『
「いま変なルビ振らんかった?」
傍で
プラモの箱を開けた瞬間から闘いは始まっているのですよ……!
「まあ私の金で買った
「まあウチとしては積みプラを消化できるから、ありがたいんやけどな」
「積みプラというか、もうアレは『壁』では?」
15畳ほどはあろうかというクインさんのプライベートルーム、その壁一面を埋め尽くす無数のガンプラを思い出す。
チラホラとガンプラ以外のプラモも混じってた(史実の軍艦や戦闘機、他アニメ作品のプラモ等)けど、クインさん
わかるマーン(例のメロディ)。
前世でも「あ、これ何かに使えるかも?」とプラの容器や廃材をストックしたはいいけど結局その「何か」の機会が訪れずに捨てる羽目になるという経験があった気がするし。
パチン。
プラモの壁を思い出したついでに、感じていた疑問をぶつけてみるか。
「アレだけの量のプラモを買えてる時点で薄々わかってたけどさ……
喋ってく内に段々と精神が
無一文の債務持ちという我が身の事実が、ほぼ確定カチグミ・レディーを前に見えない荷重となって三下ムーブを光り輝かせるのだ!
でもガンプラ作り楽しいからニッパー動かすの止まらない!
パチンパチン!
「そんな
プラモを作る私を見守っているクインさんは、パタパタと手を振りながら苦笑する。
「まあ、スキマ時間にチョイチョイやる程度の趣味レベルやけどな」
学生時代にはプロを目指しとった時期もあったけどなー、とクインさんは笑みから苦味を取った。ただ、その代わりと言わんばかりに自嘲めいた──皮肉気なものが滲んでいたが。
「ウチにはな、ビルダーとしての才能が無かったんよ」
その言葉に、ニッパーを動かしていた私の腕が止まる。
「親の会社も継がなアカンかったし、まあ最初からプロの道は無理やってんけど……そん代わり神様はウチに経営の才能は与えてくれとったみたいでな?」
マーキュリー・インダストリアルといえば昔からの大手企業ではあったけど、特に今代の社長になってからの成長が著しい……という話は、株取引の際に収集していた情報の中にもあった。
ガンプラ関連産業への参入は、当時の投資家界隈を騒然とさせたらしい。
もしも参入していなかったら、GBNはシステム面で今より脆弱な環境下で運営されていたに違いない。というか最初のエルダイバーが誕生した瞬間にオーバーフロー起こして、システム全体がクラッシュしていたかもしれないのだ。
クインさんの犠牲の上に私や他のダイバー達は立っているわけか。
そう考えると複雑な気分になる。
そこに感謝して良いのか、申し訳なさを感じるべきなのか、それとも──
「……趣味でGBNに潜るんも、組みもせんのにプラモを山ほど買うんも──ガンプラ産業に手ぇ出したんも、もしかしたらタラタラの『未練』やったのかもしれんなぁ」
クインさんの視線が私へ、そしてすぐ横にあるガンプラの箱へと移る。私が製作中のガンプラ、HGUC 1/144 リック・ドム
いや、おそらく箱やプラモを見ているのではなく、もっと何か別な──投影された自分自身、か?
うーん……
出会って間もない私に、いきなり弱音とも取れる心情を吐露するというのは……
信用されている、というよりも「人間ではないモノ」だからこそ心のセーフティが軽くなってると見るべきかな。
アレだよ、所謂「相手がいる独り言」的な。
ぬいぐるみに恋愛相談する乙女的な。
今回は乙女的というより若き女社長的なサムシングというだけで、本質的には同じというか。
前世の記憶と併せて自我持ちな私としては、立ち位置がぬいぐるみと同格っぽいの若干モニョるけども。まあ外見を限りなく人に近付けてるとはいえ、ボディはプラスチックだし大きさも手の平サイズだからなあ……
「でも」
パチン。
私はニッパーを動かして、ランナーからパーツを断ち切る。
クインさんから投影されてるっぽい何かしらを一緒に切り落とすように。
「そのタラタラな未練のお陰で、私は──ネオンはココに
こうして大好きなドムを……作りたくて作りたくて仕方なかったガンプラを
だから──」
腕と脚のパーツを切り終えたので、ひとまずニッパーを足元に置く。
各パーツごとに並べ直しながら、私はクインさんを見上げた。
「ありがとね」
「っ」
真っ正面から感謝されるのに慣れてないのか、ビン底メガネ社長の顔に赤みが射す。
グヘヘヘ、
「……(メンタルの)出張ヘルス代、なんぼ包んだらええの?」
「照れ隠しにしても言葉は選ぼう?」
慣れなさ過ぎて切り返し方が不正解すぎる!
前世の人生経験は25年程度な上に、後半10年ぐらいは病室のベッドの上だったから、会社経営で人生の荒波を
もう少し別角度に照れ隠さ選択肢あっただろ!
まあコッチも少し気恥ずかしかったから丁度いいけどさ。
そういう反応されちゃうと、心の中の「お姉さんスイッチ」入っちゃうよ。立場的にはクインさん「お母さん」ポジだけども。
……まあ感謝ついでに伝えとこうか。
「そういう訳だからさ。
恩返しの意味も込めて──例の件、協力するよ」
「え?」
「世界を救うって壮大な話」
そうなのだ。
世界を救う。
正確に言うと「GBN世界を救うことが現実世界を救うことに繋がる」って話らしいのだが。
「……ホンマに?」
我ながら突拍子も無い話やで?と、少し自信なさげに窺ってくるクインさんに私は脚パーツを仮組みしながら大きく頷いて見せた。
「ホンマやでー。
……なんだっけ? ケモナー星人?が住んでる別惑星?とデータ的に接続した影響?で、GBNのサーバー中枢に歪み?が発生したんだっけ?」
「細かいこと言うなら第2次有志連合戦で、
この辺の説明を聞かされたとき「マジで異世界転移したダイバーちたのかよ!?」と驚いたもんだ。
なんか特別ミッションのイベントがあったとはG-Tuberをの配信を通じて伝え聞いていたけど、まさか30光年先にある惑星とGBNがつながってたとは思わないじゃんよ!
判定AIの演算領域って、その辺とは完全に別区画だから運営側の情報とか上がってこないんだよなあ。
「その歪みに、エルダイバーと似たプロセスでGBNの特定情報──ネオンちゃんもよぅ知っとる『ダイバー達の想い』とかやな──が短期集中的に蓄積し続け……形を得た」
得てしもうた、とクインさんは表情を歪めた。
そう、別システムによる人工知能の干渉による歪みに『想い』が重なった結果、その『想い』も歪んだ。歪んだままエルダイバーの様な形を得てしまったそうなのだ。
「エルダイバーとは似て非なるプロセスを経とるから、人の形をしては生まれず……様々な『異形』として生み落とされてまうねん」
その多くは明確な自我を持たず、破壊衝動に従う怪物の様な振る舞いを見せるという。
エルダイバーと区別するため、上記の経緯で生まれた存在を『
……不謹慎だけど、若干の厨二病めいたサムシングを感じるなあ。
「ネオンちゃんが受けた初心者用ミッションに中級者向けのボスが乱入したんも、その影響による副産物のひとつやな」
というか、と彼女は眉間にシワを寄せて言葉を続ける。
「ネオンちゃんと
黒い亡霊。
エル・ホロゥには明確な自我が無いと説明したばかりだけど、アイツには何かしらの『意志』めいたものを感じたのだけど……
アイツがエル・ホロゥとして特別な存在なのか、私の勘違いなのか──まあクインさんの要請を受けたからには再び邂逅することもあるだろう。
その時に確かめてやるさ。
「これを放置しとくとGBNの世界がメチャメチャにされる危険性が高い……だっけ?」
「せやで。しかも問題はそれだけやない」
ちょっと前にされた説明を、私は思い起こしながら言語化する。
いつの間にかパーツを組む手が止まっていた。
「
玩具が世界を滅ぼす手段になる。
ホビーアニメとしては王道な展開だが──現実の可能性としてポップアップしてこられると、全く笑えないなあ……
元々がノープランだったから、思ったよりも話が進まないなあ。
一応それっぽい展開をこねくりまわして大まかな筋道は立ててみましたが、はてさて。