生徒に色々する反応集(段階分け)   作:曇りのち晴れ男

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ケース13 ハスミと楽しいドライブ

 

『限界まで加速』

 

 深夜のキヴォトス郊外。街灯もまばらな峠道の入り口で、私は愛車のアクセルを深く踏み込んだ。

 乾いたエキゾーストノートが山に響き、背後に積まれたエンジンが猛烈なトルクを発揮する。スピードメーターの針はあっという間に『120km/h』を指した。

 

「ふふっ、夜のドライブというのも趣があって良いですね。……ん? えっと、先生?」

 

 助手席に優雅に座っていたハスミが、窓の外を猛スピードで流れていく木々を見て、戸惑ったように瞬きをした。

 

「え? あの、少し景色が流れるのが速すぎませんか……? それにエンジンの音が……えっ、メーター、120キロ!? おかしいですよね? ここ、高速道路じゃなくて曲がりくねった山道ですよね!?」

 

 ハスミはまだ事態を完全に把握しきれておらず、シートベルトを握りしめながら「えっ? えっ?」と首を傾げている。

 

 ■■■

 

『ヘアピンでのドリフト』

 

「先生、前! カーブ! 急カーブです!! ブレーキを!!」

 

 ハスミの悲鳴が響く中、私はコーナー進入の直前でフルブレーキング。強烈なノーズダイブで前輪に荷重を移し、ステアリングを鋭く切り込む。MR特有のピーキーな挙動をねじ伏せ、リアタイヤを意図的に横滑りさせた。

 

「ひゃああああっ!?」

 

 スキール音が山中に響き渡る。車体は完全に横を向きながら、完璧な『アウト・イン・アウト』のラインをトレースしてクリッピングポイントを掠めていく。

 横滑りしているにも関わらず、コーナー中の速度計は『時速90km』をキープしていた。

 

「な、なんで横を向いて進んでるんですかぁ!? それに速度が全然落ちてないっ!! ああっ、遠心力が!!」

 

 凄まじい横Gによって、ハスミの豊かな胸がシートベルトに深く食い込む。

 

 うーん絶景。

 

「きゃあっ!? せ、先生! 車体が左に傾いてるのって、ま、まさか私の体重が重いからですか!? 私のせいでバランスが崩れて……っ! ご、ごめんなさ……いやちがう! これ遠心力です!! 殺す気ですか!!」

 

 ■■■

 

『追走者現る』

 

 コーナーを抜け、ストレートで一息ついたハスミだったが、バックミラーに映る『二つの鋭いヘッドライト』に気づいて息を呑んだ。

 

「せ、先生……! 後ろから、ものすごいスピードで別の車が迫ってきています! 煽られているんじゃ……っ、道を譲りましょう! 早く左に寄せて!」

 

 私はルームミラーをチラリと一瞥した。

 低いシルエット。独特の重低音を響かせるエンジン。

 

 ジャガーか……音からして普通の車じゃない。チューニングされている。というかたぶん()()だ。

 

 私はハスミの懇願を完全に無視し、無言のままシフトダウン。アクセルを床までベタ踏みして『バトル』の意思表示をした。

 

「えええええ!? なんで加速するんですか!? 売られた喧嘩を買わないでください!! 私、正義実現委員会ですよ!? 公道での違法なレースなんて絶対にダメぇぇ!!」

 

 ■■■

 

『5連続ヘアピンカーブ』

 

 目の前に迫るのは、この峠最大の難所である『5連続ヘアピンカーブ』。

 私はステアリングを切り返し、イン側の側溝のフタが開いている「溝」に、内側のフロントタイヤを意図的に引っかけた。

 

「ひぃぃぃぃ!? 落ちる! タイヤが溝に落ち……えっ!? 引っかかってる!?」

 

 遠心力を溝の縁で打ち消すことで、通常ではあり得ないオーバースピードのまま、車体は弾丸のようにコーナーをクリアしていく。右へ、左へ、凄まじいGの連続がハスミの全身を容赦なく揺さぶる。

 

「ああっ! 羽が! 私の羽がドアに押し潰されるぅぅ!! っていうか後ろのジャガーも同じことやってついてきてますよ!? この山の走り屋たちは全員頭のネジが吹き飛んでるんですか!?」

 

 驚いた、まさか溝走りをコピーしてくるとは。

 彼女もなかなかやるな。普段からここを走り込んでるのか、スキルが飛びぬけているのか……。

 

 ■■■

 

『複合コーナーで差をつける』

 

 バトルの決着は、出口のRがきつくなる複雑な複合コーナーだった。

 

 後ろのジャガーは限界を超えた突っ込みを見せるが、重いフロントが外側に膨らむアンダーを生み出す。

 

 対して私の愛車は、エンジンを車体中央に積むMRのトラクション性能を極限まで活かし、リアタイヤを路面に押し付けながらロケットのようにコーナーを脱出した。

 

 圧倒的な立ち上がり加速で、ジャガーとの距離が一気に開く。

 バックミラーの向こうで、敗北を悟ったジャガーがハザードランプを点滅させ、スゥーッと減速していくのが見えた。

 

「はぁっ、はぁっ……! う、後ろの車、見えなくなりました……! か、勝った……?」

 

 息も絶え絶えのハスミが、無意識に勝利の安堵を漏らす。

 

「……ハッ!? い、いや、勝ったじゃありません! 私は何を喜んでいるんですか!」

 

 ■■■

 

『手放しドリフト』

 

 連続コーナー区間を抜け、山のふもとの街の明かりが見えてきた。

 速度も落ち着き、ストレートを流す車内で、ハスミはシートに深く背中を預けて心底ホッとしたような深いため息をついた。

 

「はぁぁぁ……死ぬかと思いました……。やっと、やっとふもとに……。先生、二度と、二度と私をこんな車に乗せな──……」

 

 最後の最後。ふもとの直前にある、見晴らしの良い緩やかなヘアピンカーブ。

 

 私はブレーキングと共に車体を横に向けると、突然ステアリングから『両手』を完全に離し、実は最初からずっと置いてあった紙コップの中の紅茶を啜る。

 

 正直私も最初なんでできたのか全く理解できない、究極の『手放しドリフト』。

 

 ハンドルは私の手を離れ、シュルルルルッ! と勝手に猛烈な勢いで逆回転を始めている。

 

「……えっ?」

 

 安心しきっていたハスミの視界に、優雅に紅茶を啜る私の姿と、勝手にグルグル回るハンドル、そして横を向いたまま迫り来るガードレールが飛び込んできた。

 

「せ……」

 

 ハスミの顔から、一瞬にして全ての血の気が引いた。

 

「先生ぇぇぇ!? なんで手ぇ離してるんですかぁぁぁ!!? ハンドル!! ハンドル握って!! ギャアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 静かなふもとの街に、清楚で冷静な正義実現委員会の副委員長とは思えない、絶望に満ちた絶叫がこだまするのだった。

 

 ■■■

 

「はぁ……先生の運転が荒すぎます」

 

「おや、ハスミ。どうしたんだい?」

 

「セイア様、いや……先生の運転が……」

 

「それは災難だったね。ぜひとも私の車に乗るといい。見たまえ、私の愛車だ」

 

「……ジャガー……?」

 

 

 終わり

 

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